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日本経団連WTOミッション
ポジション・ペーパー

2004年5月28日
(社)日本経済団体連合会
国際経済本部

日本経団連WTOミッション・ポジションペーパー【要約】

〜WTO新ラウンド交渉の再活性化に向けて〜

新ラウンド交渉の成功は、先進国、途上国を問わず、貿易の活性化を通じて世界経済の発展に大きく寄与する。当初目標とされていた本年末までの包括合意は極めて困難な状況にあるが、各国は一括受諾方式による合意を目指し、カンクン閣僚会議の経験を生かしながら、柔軟性をもって交渉推進に向けた工夫と努力を継続する必要がある。その際、途上国問題への適切な配慮を忘れてはならない。
わが国経済界は、7月末までに農業および非農産品市場アクセスに関する交渉の枠組みが合意されることで交渉全体に弾みがつき、シンガポール・イシュー等その他の重要分野についても各国政府の強いリーダーシップと政治的決断により大きく進展することを期待している。
日本経団連は、今後も、今次ミッションの成果を充分に活用し、実質的な交渉の進展に向け、関係各方面への働きかけを積極的に進めるとともに、各国経済団体との連携をさらに強化していく所存である。

7月末に向けた重点分野に関する基本的考え方

(1) 農業貿易

農業分野での枠組みの合意は、新ラウンド交渉再活性化のための必須条件であり、そのために、わが国を含む各国政府が政治的決断を行うことを求める。また、自由化を推進する際には、輸出国と輸入国の権利義務バランスを確保することが重要である。

(2) 非農産品市場アクセス

高関税を是正するような関税削減フォーミュラを採用するとともに、家電・同部品、自動車・同部品、繊維についてゼロゼロやハーモナイゼーション等を求める。残存する非関税障壁についてはできる限り撤廃し、内外企業による自由なビジネス活動を保障すべきである。未譲許品目が多い途上国は、まず関税の譲許率を可能な限り100%近くにまで引き上げることを求める。

(3) シンガポール・イシュー

新ラウンド交渉全体の進展の重要性に鑑み、必要に応じて四分野を切り離して交渉開始を決定するとのアプローチをとることが求められる。但し、直ちに交渉開始には至らない分野についても、交渉課題として残し、WTOにおける検討対象からは外すべきではない。

  1. 貿易円滑化:
    ルール策定に向けた交渉が一般理事会において立ち上がり、シングルアンダーテイキングの不可欠な一部分として合意されることを強く求める。当該ルールは、全加盟国の参加の下、通関手続を含め、貿易に係る手続きを広く対象とし、ガット第5条、第8条、第10条の明確化および改善をすべきである。
  2. 投資:
    WTOにおける投資ルール構築を引き続き重視している。新ラウンド交渉全体の進展に配慮し、一括受託方式から外れる場合には、現実的アプローチをとることが必要である。

(4) 途上国問題

貿易・投資の自由化、貿易円滑化が、外国資本流入の活発化をもたらし、当該国における経済発展、雇用拡大ならびに技術移転等につながることから、途上国も、交渉に積極的に参加していくことを求める。先進国は、途上国の交渉参加へのインセンティブを高めるべく、途上国の関心分野に一層努力するとともに、キャパシティビルディングやS&Dの確保を検討すべきである。

その他の重要関心分野

(5) サービス貿易

サービス貿易における各セクターの自由化は、統合的なサプライチェーン構築のためにも重要である。途上国を中心としたイニシャル・リクエスト及びオファー未提出国は早期にそれらを提出するとともに、先進国を中心とした既提出国もイニシャル・オファーの改善を検討し、引き続き自由化レベルの引き上げに努めることが重要である。また、専門的・技術的な分野の自然人が自由に世界中を移動できるよう各国が自由化約束を行うとともに、サービス貿易の約束表を超えた入国・滞在関連規制の透明性の確保、手続きの簡素化・迅速化も求める。

(6) アンチダンピング

AD措置の恣意的かつ保護主義的な発動は、国際通商システムの安定を妨げる。ルール交渉グループにおけるこれまでの検討の成果をふまえ、具体的な協定の改訂案をめぐる交渉が本格化することを強く求める。

(7) 電子商取引

ITおよび電子商取引の自由化は、世界経済の発展の基礎を提供する。まず、サービス貿易交渉におけるコンピュータ関連サービス、電気通信サービスの中の付加価値電気通信サービスに関する完全な自由化を求める。また、関税不賦課のモラトリアム恒久化の明示、電子商取引に関するワークプログラムのより一層の活性化が重要であり、さらに、ソフトウエアの取り扱いについてデジタル化された取引に代わってもGATTが適用されることを求める。

以上

《 目次 》
基本認識
7月に末に向けた重点分野に関する基本的考え方
(1) 農業貿易
(2) 非農産品の市場アクセス
(3) シンガポール・イシュー
(4) 途上国問題
その他の重要関心分野
(5) サービス貿易
(6) アンチダンピング
(7) 電子商取引
終わりに

日本経団連WTOミッション・ポジションペーパー

〜WTO新ラウンド交渉の再活性化に向けて〜

基本認識

WTOによる多角的アプローチは国際通商システムの根幹であるが、昨年9月のカンクン閣僚会議においては閣僚宣言の採択に至らず、その後の交渉もはかばかしい進展がない。
新ラウンド交渉の成功は、先進国、途上国を問わず、貿易の活性化を通じて世界経済の発展に大きく寄与する。当初目標とされていた本年末までの包括合意は極めて困難な状況にあるが、各国は一括受諾方式による合意を目指し、カンクン閣僚会議の経験を生かしながら、柔軟性をもって交渉推進に向けた工夫と努力を継続する必要がある。その際、途上国問題への適切な配慮を忘れてはならない。
現在、本年7月末の交渉の枠組合意を目指し、WTO加盟国間の精力的な折衝が続いている。わが国経済界は、7月末までに農業および非農産品市場アクセスに関する枠組が合意されることで交渉全体に弾みがつき、その他のシンガポール・イシュー、サービス貿易、アンチダンピング、IT・電子商取引等の重要分野についても各国政府の強いリーダーシップと政治的決断により大きく進展することを期待している。

7月末に向けた重点分野に関する基本的考え方

(1) 農業貿易

農業分野での枠組みの合意は、新ラウンド交渉再活性化のための必須条件であり、そのために、わが国を含む各国政府が政治的決断を行うことを求める。また、自由化を推進する際には、輸出国と輸入国の権利義務バランスに配慮することが重要と考える。
わが国は、消費者と生産者を含めた全国民の利益を考えた決断をすべきである。日本経団連は、わが国政府が、ウルグアイ・ラウンド合意を受けた自由化に取り組んできたことを評価する一方、国内農業構造改革を通じて競争力を強化するとともに、関税等の国境措置や国内支持のあり方について見直し、市場アクセスのさらなる改善に取り組むべきと考える。(農業構造改革に対する考え方については、日本経団連提言「経済連携の強化に向けた緊急提言」(2004年3月)を参照)
他方、米国は、輸出補助金のみならず輸出信用を大幅に削減するとともに、新農業法の改訂による不足払い制度の見直しも視野に入れ、国内支持のあり方についても、より貿易歪曲性の低い政策への移行をすべきである。EUも、期限を定めて輸出補助金の大幅な削減を実行すべきであり、その意味で、今般、EUの輸出補助金削減の提案に基づき米国も柔軟姿勢を示していることは歓迎できる。ケアンズ・グループの主要メンバーであるカナダやオーストラリアは、小麦等に関して独占による輸出国家貿易を行っているが、WTOにおいて、これに関する規律を策定する必要がある。また、G20諸国、特にブラジル、インド等には、農業の枠組みの合意に向けて主導的役割を発揮するよう期待する。先進国が貿易歪曲的な措置を是正すると同時に、途上国も中長期的な競争力強化、自由化の推進に取り組むべきである。
綿花問題については、途上国の関心が高いこともあり、農業交渉の枠内で早期に解決が図られることを期待する。

(2) 非農産品市場アクセス

非農産品市場アクセスは、農業と並び、新ラウンド交渉の進展に向けた重要な交渉課題であり、加盟国の決断が求められる。自由な貿易を通じた経済発展、効率的な資源配分を可能とするため、先進国・途上国ともに、未だ多く残されている高関税品目、多様な非関税障壁の削減・撤廃を進める必要がある。
合意される枠組みには、高関税を是正するような関税削減フォーミュラを採用すべきである。また、分野別関税撤廃・調和も重要視しており、家電・同部品に関するゼロゼロ、自動車・同部品に関するゼロゼロ及びハーモナイゼーション、繊維に関するハーモナイゼーション等を実施し、その上で各加盟国が追加的にゼロゼロ、ハーモナイゼーション、リクエスト・オファーによりその補完を行うことを求める。わが国の林水産物等、各国とも一部に関税引き下げが困難な産品を有することは認めるが、わが国を含む各国の適切な対応により交渉を進展させることが重要と考える。
さらに、残存する非関税障壁についてはリクエスト・オファー方式、セクター別方式、分野横断方式等によりできる限り撤廃し、内外企業による自由なビジネス活動を保障すべきである。
なお、未譲許品目が多い途上国は、加盟国に求められる姿勢として、まず関税の譲許率(HSコードのカバー率)を可能な限り100%近くにまで引き上げるとともに、各国の経済発展段階や社会政策に配慮しつつ、関税の削減・撤廃に努めるべきである。
また、IT関連の急速な技術の発展と融合を考慮し、情報技術協定(ITA)の対象品目及び参加国の拡大を推進することが重要である。

(3) シンガポール・イシュー

企業が直面する貿易・投資上の障害を取り除き、事業環境の安定を得るためには、貿易円滑化、投資、政府調達透明性、競争の四分野におけるルールの整備は意義があると考えるが、まずは新ラウンド交渉全体の進展が最も重要であることから、必要に応じて四分野を切り離し、7月の一般理事会において合意達成が可能な分野から先に交渉開始を決定するアプローチをとるべきと考える。
但し、直ちに交渉開始には至らない分野についても、今後の課題として残し、WTOにおける検討対象から外すべきではない。

  1. 貿易円滑化
    貿易手続の明確化、簡素化、調和化は、経済界の負担軽減だけでなく、各国政府の行政効率の向上につながる等、貿易に携る全ての関係者の利益となることから、多くの加盟国がその意義に理解を示している。そこで、今後、貿易円滑化ルール策定に向けて交渉のモダリティの検討が進み、7月の一般理事会において交渉が立ち上がり、シングルアンダーテイキングの不可欠な一部分として合意されることを強く求める。
    当該ルールは、全加盟国の参加の下、ガット第5条(通過の自由)、第8条(輸入および輸出に関する手数料および手続)、第10条(貿易規則の公表および施行)の明確化および改善を目的に、透明性、簡素化、標準化等の諸原則を基本としながら貿易に係る手続きを広く対象とすべきである。
    途上国も積極的にルールの策定に向けて尽力することが前提であるが、他方、途上国におけるインフラや人材の不足も考慮し、キャパシティビルディングを並行して進めるべきである。さらに、キャパシティ不足による義務の不履行に対する紛争解決手続への付託については柔軟性を持って対応することが必要である。
    なお、貿易円滑化についてはアジア太平洋経済協力(APEC)等においても取り組みが進められていることから、マルチラテラル、リージョナル、バイラテラル等、貿易円滑化に向けた取り組みを重層的に進め、それらを相互補完的かつ戦略的に活用することが重要である。また、WTO新ラウンド交渉の中で、わが国政府が貿易円滑化ルール策定において強いイニシアティブを発揮するためにも、わが国自身の貿易手続の改善を率先して推進するよう求めたい。
    (詳細は、日本経団連提言「WTO貿易円滑化ルールの早期策定を求める」(2004年4月)を参照)

  2. 投資
    貿易と投資が密接不可分な現状に鑑み、投資についても自由化およびルールの整備が必要である。WTOにおけるマルチラテラルの投資ルールの策定は、その後のラウンド交渉を通じて内容を深化させ得ることから、二国間協定と比して、より一層の投資環境の安定性、透明性、予見可能性の確保につながる。
    策定される投資ルールは、途上国の開発政策に十分配慮しつつ、途上国に受入れ可能な「自由化」および「透明性」に重点を置いた形にすべきである。
    (詳細は、日本経団連提言「国際投資ルールの構築と国内投資環境の整備を求める」(2002年7月)を参照)
    日本経団連は、WTOにおける投資ルール策定を引き続き重視している。新ラウンド交渉全体の進展に配慮し、最終的に今回一括受諾方式から外され先送りされるときも、現実的アプローチとして代替案を考えるべきである。同じように関心を有する主要な先進国、途上国が参加する複数国間協定(プルリ協定)も検討の余地があろう。
    他方、わが国は、WTOを根幹としつつ、重要な国・地域との間では、二国間投資協定(BIT)や経済連携協定(EPA)にも積極的に取り組み、投資保護、自由化及び紛争処理を含む制度的な枠組みを構築することが求められる。

(4) 途上国問題

加盟国は、貿易・投資の自由化、貿易円滑化が、外国資本流入の活発化をもたらし、当該国における経済発展、雇用拡大、ならびに技術移転等につながることを再認識する必要がある。
このような観点から、途上国も、新ラウンド交渉に積極的に参加していくべきである。同時に、先進国は、途上国の交渉参加へのインセンティブを高めるべく、人の移動の自由化、農産品市場の開放等、途上国の関心分野に一層努力するとともに、キャパシティビルディングや途上国の能力に応じたS&Dの確保を検討すべきである。
日本経団連としても、民間企業の知見や経験を活用し、積極的に協力していきたい。

その他の重要関心分野

(5) サービス貿易

金融、IT・電子商取引、流通等、サービス貿易における各セクターは、統合的なサプライチェーンを構築するためにも重要な役割を担っている。モノの貿易や投資の自由化から最大限の利益を得るためには、加盟国がサービス貿易の自由化に積極的に取り組む必要がある。
農業や非農産品市場アクセスといった交渉分野の進展を見ながらサービス貿易交渉に臨む加盟国もあるが、他の交渉の状況に拘わらずサービス貿易交渉が具体的に進展するよう各国はリーダーシップを発揮すべきである。

[ルール]
  1. 国内規制
    日本経団連は、各国において規制の透明性を向上させるとともに、不必要に貿易制限的となる規制が導入されないことを求める。

  2. セーフガード(ESM)
    セーフガード措置について、交渉を無期限延長とすることが決定されたことを歓迎する。

[リクエスト・オファー交渉]

イニシャル・オファー提出国が40カ国程度に止まっていること、当初設定されていた期日が遵守されていないこと等は極めて憂慮すべき事態である。
サービス貿易自由化のメリットならびに特定約束の手続きに関する途上国への理解を増進し、途上国を中心としたイニシャル・リクエストおよびオファー未提出国が早期に提出することを求めたい。また、先進国を中心とした既提出国も、イニシャル・オファーの改善を検討し、引き続き自由化レベルの引き上げに努める必要がある。こうした取り組みを、より実効的なものとするために、新たなマイルストーンを設定することも検討に値しよう。

  1. 分野横断的問題:人の移動
    財、サービス、人、資本、情報の経営資源が国境を越えて、自由で円滑に流れることにより、効率的な経済活動が実現すると考えるが、人の移動については、他の資源に比べて自由化が遅れている。
    日本経団連は、まず専門的・技術的な分野の自然人が自由に世界中を移動できるような制度の実現を求める。特に各国が、(a)経営者や管理職、教育訓練や能力開発目的を含む全ての企業内移動、(b)専門的・技術的な分野の自然人による個人契約に基づく移動、(c)一時的な滞在の自由化、について自由化約束することを望む。
    なお、自然人の移動は、サービス貿易の一つの形態として交渉が進んでいるが、こうした人材はサービス貿易に従事する分野に限定されるわけではなく、各国がサービスを含む全ての分野において門戸を開放することを求める。また途上国の関心が高い非熟練労働者の移動についても、先進国は漸進的自由化を検討するとともに、受入れのための国内制度の整備に努めるべきである。さらに、サービス貿易の約束表を超えた入国・滞在関連規制の透明性の確保、手続きの簡素化・迅速化も必要である。(詳細は、日本経団連提言「WTOサービス貿易自由化交渉 人の移動に関する提言」(2002年6月)を参照)
    また、日本経団連は、わが国における専門的・技術的分野の外国人の受入れ拡大に向けて、(a)在留資格の拡大、(b)在留年数の延長、(c)在留資格認定証明書の交付・不公布事例の公開、理由の提示、(d)在留資格審査手続に係る処分の簡素化・迅速化、(e)社会保障協定の早期締結、(f)高度人材の定住促進に向けた制度(日本版グリーンカード)の創設の検討を提案している。加盟国が、これら提案も参考にしつつ、受入れ円滑化に向けた国内措置をとることを期待する。
    (詳細は日本経団連提言「外国人受入れ問題に関する提言」(2004年4月)を参照)

  2. セクター別

    (i) 金融サービス
    各国に対して、「金融サービスに係る約束に関する了解」に基づき、約束表を改善することを求める。特に各国は、多くの金融サービス分野において実質的な参入障壁となっている、外資出資比率制限、支店・子会社の設立制限、役員・従業員の国籍・居住要件、地理的制限、業務範囲の制限、経済需要テスト等に基づく内外差別的規制を撤廃すべきである。
    (ii) IT関連サービス・電子商取引
    各国に対して、(a)コンピュータ関連サービス、電気通信サービスの中の付加価値電気通信サービスに関する完全な自由化、(b)技術進歩による新たなビジネス形態の発展を促進する自由化約束の達成、(c)日本政府がリクエストで提示したITサービス事例に関して、当該サービス全般をコンピュータ関連サービスとして全面的な自由化を約束するオファーの提出、(d)IT関連サービスは約束表の様々なセクター分類の組み合わせにより達成されることに鑑み、約束表の枠組みを最大限に活用した包括的な自由化約束、を強く求める。
    電気通信サービスでは、基本電気通信交渉を踏まえた約束表の改善を求める。特に、外資出資制限の改善、免許付与条件の透明化、内外差別的な国内規制の撤廃等が重要である。また、参照文書は基本電気通信サービスにのみ適用され、付加価値電気通信サービスには適用されるべきではないと考える。
    コンピュータ関連サービスでは、全てのサブセクターとモードとを網羅した自由化を求める。コンピュータとネットワークを活用したITサービス、例えばホスティング、データセンター、アプリケーション・マネジメント、アウトソーシング・サービス等は、コンピュータ関連サービスと位置付けるよう求める。
    また既存の約束表上、複数のセクターにまたがる新たな形態のサービス、例えばウェブホスティングによるオンライン・バンキング・サービス等の自由化を実現するため、各国は、関連するセクター(例えばコンピュータ、電気通信、コンサルティング、金融等)全ての自由化約束を達成することを求める。
    (iii) 海上運送サービス
    海上運送サービスは、広範なビジネスに関わる重要な分野であるにもかかわらず、GATSの規律が及んでいない。こうした中、昨年3月には52カ国が共同で全ての加盟国が交渉に参加することを求めるペーパーを提出しており、日本経団連はこれを全面的に支持する。特に、各国は、国際海上運送サービスおよび海上運送の補助的サービスの自由化、ならびに港湾サービスへの無差別なアクセスおよび利用の確保を進めるべきである。
    (iv) 航空運送サービス
    いわゆるソフト・ライト3分野(価格設定を除く販売活動、コンピュータ予約サービス、航空機整備)については、各国における約束表の実施、ならびに自由化約束の推進を求める。なおハード・ライトについては現在の二国間体制を維持すべきである。
    (v) エネルギーサービス
    日本経団連は、エネルギーサービス貿易自由化の重要性を十分に認識しており、市場アクセスと内国民待遇に関する交渉が進むことを歓迎する。ただし交渉に当たっては、エネルギー・セキュリティや供給信頼度の確保、ユニバーサル・サービスの維持等の公益的課題と効率性の両立を図ることが不可欠である。各国のリクエスト・オファー交渉については、市場アクセスや内国民待遇の仕組みや分類の考え方等に関する途上国への理解増進に努めつつ、まず分類に関する議論を加盟国間で十分に行う必要がある。
    (vi) その他
    ア.流通サービス:
    各国に対して、外資参入制限、出店規制、用途規制等の改善を求める。
    イ.音響映像サービス:
    先進国においてもほとんど約束がなされていない国があり、約束表の大幅な改善を求める。特に、内外差別的な国内規制の改善が重要である。
    ウ.建設・エンジニアリングサービス:
    各国に対して、外資出資比率制限、事業形態の制限、内外差別的な国内規制等の改善を求める。
    エ.自由職業サービス:
    各国に対して、国籍や職務経験要件の緩和等を求める。

(6) アンチダンピング

AD措置の恣意的かつ保護主義的な発動は、国際通商システムの安定を妨げ、輸出企業や輸入国のユーザー産業および消費者が被害を蒙ってきた。AD協定の規律強化は、AD措置の濫用を防ぐことにより、関税引き下げ等の市場アクセス改善の効果の減殺を防ぐとともに、途上国の輸出を促しその経済開発に資することにもつながる。
今後、ルール交渉グループにおけるこれまでの検討の成果をふまえ、具体的な協定の改訂案をめぐる交渉が本格化することを強く求める。
日本経団連は、日本を含む関心国(ADフレンズ)による共同ペーパーの項目の全てについて懸念を共有しており、具体的な協定の改訂が必要であると考える。この観点から、関心国によるサンセット、レビュー、ファクツ・アベイラブル、レッサー・デューティー、ゼロイング、価格約束、関連者取引、正常価格の計算等に関する詳細な共同ペーパーは具体的な改訂案の土台になると考える。その他の項目についても、こうした提案が出されていくことを期待したい。
原則としては、AD措置の発動に関して、合理性、公正性、適正手続及び予見可能性を確保することが不可欠である。具体的な項目としては、(1)ダンピング・マージンの計算、(2)損害の決定、(3)公共の利益調査、(4)サンセット、(5)レビューおよびその他のAD措置に係わる項目を中心として、広範な見直しが行われることを求める。加えて、関心国による共同ペーパーでは指摘されていない、(1)産業確立の遅延に関する詳細な規程、(2)暫定措置の行使タイミングの明確化、(3)セーフガード措置調査との関係に関するルールの明確化を求めたい。

(7) 電子商取引

ITおよび電子商取引関連分野では、(1)貿易上のソフトウェアの取り扱いの明確化、(2)今後の技術進歩に伴う新たなビジネス形態についてのマーケットアクセスや内国民待遇等の確保の方策、(3)先進国及び発展途上国がIT・電子商取引の発展の重要性について共通理解を醸成し、種々の重要課題についての国際的な枠組み合意の議論が進展することが当面の課題である。
まず、カンクン閣僚会議において閣僚宣言が採択されなかったことから取り扱いが不明確となっている電子商取引の関税不賦課のモラトリアムについて、早期にその恒久化が明示されることを求める。
また、主として分野横断的な課題についての検討を促進する役割を担う電子商取引に関するワークプログラムのより一層の活性化を目指した積極的なイニシアティブが求められる。さらに、ソフトウエアの取り扱いについては、物理的な媒体(例えばCD−ROM)による取引がネットワークを利用したデジタル化(ダウンロード)された取引に代わってもGATTが適用されることを求めるが、少なくとも従来と同等の自由化約束の取り扱いは確保されるべきと考える。
世界経済の発展の基礎を提供するものとして、ITおよび電子商取引の自由化とその国際的な発展が果たす役割の重要性を強調したい。加盟国は、情報社会の進展とデジタル化、グローバル化に伴うこれからの貿易のあり方をふまえ、将来の経済社会の発展を促すためにも、ITおよび電子商取引分野における自由化やルールの策定に尽力することが求められる。この分野は、サービス貿易交渉および電子商取引ワークプログラムにおいてそれぞれ検討されているが、関連分野を含めた自由化やルールの策定を包括的かつ具体的に進める努力を求める。

おわりに

日本経団連は、二国間および地域ベースのEPAの推進を含めた重層的通商政策を支持しており、わが国としても、EPAを戦略的に推進する必要があると認識している。他方、EPAはあくまでWTO整合的に、ガット第24条に基づき実質的に全ての品目を自由化する必要があり、国際通商システムの根幹はWTOにおける多角的交渉と考える。
多角的交渉の重要性に鑑み、日本経団連は、時機を捉えて提言をとりまとめるとともに、これまで4回に亘りジュネーブにミッションを派遣し、交渉の進展を働きかけてきた。
今後も、今次ミッションの成果を充分に活用し、実質的な交渉の進展に向け、国内の関係各方面との意見交換、WTO事務局、および先進国、途上国、移行国の交渉者への働きかけを積極的に進めていく。また、欧米諸国、途上国の経済団体との連携をさらに強化していく所存である。

以上

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