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総務省 電波有効利用政策研究会 最終報告書(案)
「電波利用料制度の見直しのための基本的な考え方」に関する意見

2004年8月20日
(社)日本経済団体連合会
情報通信委員会
通信・放送政策部会

電波利用ニーズが高まり、電波政策が国民生活や産業活動に与える影響が大きくなる中、透明性、客観性、納得性の高い施策が求められている。今般、電波の有効利用の促進と電波利用料の負担の公平性いう観点から、総務省電波有効利用政策研究会が最終報告書(案)「電波利用料制度見直しのための基本的な考え方」(以下「最終報告書案」http://www.soumu.go.jp/s-news/2004/040722_1.htmlを参照)を公表し、広く意見を募集したことは、時宜を得ている。

電波利用料制度のあり方については、日本経団連情報通信委員会 通信・放送政策部会では、2002年12月の報告「電波の有効利用に向けて」、及び2004年1月のパブリックコメント『総務省電波有効利用政策研究会「電波利用料制度見直しの論点整理」に関する意見』で、その時点での考え方を公表しているが、今回、最終報告書案に沿って、以下、意見を申し述べる。

なお、今回の電波利用料制度見直しについては、使途拡大を前提として徴収ありきの議論がなされていることは問題であり、「電波の有効利用の促進」、「現在の免許人の間の負担のアンバランスの解消」、「電波利用社会の発展を図る制度設計」という本来の大所高所の視点から電波利用料制度見直しを論じるべきである。従って、最終報告書においては、まず、提案されている新たな電波利用料制度がこのような視点を十分に満たしているか、国民に明確に示すことが重要である。使途拡大や免許不要局の扱いについては、今回の報告書の結論には含めず、より適切な場に於いて、時間をかけて幅広い議論を経た上で意見集約を行うべきである。


1.電波利用料制度見直しの背景について(第2章)

現在、電波利用料制度が抱える主な課題としては、(1) 電波利用料総額はこの10年間に約7倍に拡大し、通信事業者の負担が増大しており、この間に裁量的に使途拡大が行われてきたこと、(2)利用料総額の8割以上を携帯電話端末に依存するなど、受益と負担の関係が曖昧になっていること、(3) 無線局数を基に料額を算定するため、電波の有効利用を促進するような料金体系になっていないこと等、が挙げられる。

この点、最終報告案が「電波の有効利用の促進と電波利用料負担の公平性の確保を図る観点から、料額の算定方法について見直す」としている点は適切である。その前提として、現在の電波利用料の使途の効率化及び見直しに努めるとともに、電波利用料の総額を現在の水準以下に抑制し、免許局をはじめ利用者への負担総額を増やさないことを明記し、利用料全体の制度設計を行うべきである。「負担の公平性」を図る上で、負担額が高くなるような水準での調整や納付義務者を不必要に拡大するような対応は本来の見直しの目的に反するものである。

2.新たな電波利用料のあり方(第3章)

「第3節 新たな電波利用料制度の基本構造」において、電波利用共益費用の財源確保のための手数料という現行制度の性格を維持したモデル1を基本にしつつ、電波の経済的価値を反映した電波使用料としての性格を有するモデル2の要素を部分的に取り入れることは、電波の経済価値を十分に反映した利用料制度(無線局数按分を用いない制度)へ到る過程として、現状においては短中期的には妥当である。

なお、この新たな利用料制度により、「携帯電話事業者と放送局等の間の負担の不公平」や「逆インセンティブの問題」が、利用料総額を現状水準以下に抑制するという前提の下で、どのように解消されうるのか、最終報告書においても定量的に示す必要がある。その関連で、200億に及ぶアナアナ変換の作業費用が不要になった時点では、その分の共益費を圧縮し、電波利用料総額を減らすことも明記すべきである。

なお、既得権化している電波の非効率利用の排除と新規参入を促進するためには、電波利用料制度の見直しだけでは不十分であり、電波の利用状況の評価・公表制度や再配分のための給付金制度との補完によって達成を目指すのが現実的である。特に、周波数の逼迫や各周波数帯での利用効率の現状の把握に関しては、利用状況の公表については既に法律で義務付けられているものの、現在公表されている情報だけでは十分とはいえず、「使い勝手の良い帯域」のすべてにおいて公表する必要がある。

3.経済価値を勘案した電波利用料の料額算定のあり方(第4章)

新たな電波利用料の料額算定においては、使用帯域幅や空中線電力など電波の量的要素や人口密度や逼迫度など需要の程度を勘案することが適当である。また、具体的な料額の算定においても、免許人の間の負担の不公平性を改善し、結果的に携帯電話事業者の負担が実質的に下がることを担保すべきである。

但し、広い帯域幅が運用上不可欠といった技術的特性を有する無線システム、使用頻度の極めて低いモジュール型端末などについては、一定の配慮が必要と考える。

第4章第3節(2)(P53)に、「一定の区分の帯域幅ごとにその帯域特性を勘案した徴収総額を設定し」とあるが、帯域ごとの徴収総額を決める際には、電波の使用形態等の違いを勘案せず、公平な料金を算定する必要がある。従って、料額算定の公平性を確保するためにも、「類似の形態」や「同じ目的」といった限定的な表現を削除すべきである。

なお、第4章第3節(3)(P52)において、6GHz以下の帯域をすべて逼迫帯域と観念することが適当としているが、まず、利用状況の調査・評価・公表を、「公務用」を含めて例外なく実施し、実際の逼迫の状況を正確に把握するべきである。

4.電波利用社会発展のために戦略的に取り組むべき施策(電波利用料の使途拡大)(第5章)

第5章第4節(P72)の「効率化努力と官民分担及び一般財源との役割分担」で指摘されている内容は非常に重要であり、制度の透明性の確保が強く求められる。電波利用料の使途拡大を論ずる前に、現行の電波利用共益事務の技術試験事務の名のもとで実施されている研究開発については、必要性の見直し、業務効率化、透明性の向上等に取り組み、免許人等の理解を得ることが求められる。その際、これらについて費用に見合う効果が得られているのか、調査・検証し、その結果を公表すべきである。また、研究件名、予算等を行政の裁量で拡大することのないよう、計画を事前に公表し、免許人等の理解を得た上で必要となる経費について負担するなど、その研究や費用総額を明確にすることが必要である。

(1) 電波の有効利用技術の開発(第5章第2節)

研究開発の重要性は否定すべくもないが、電波利用社会の発展に寄与するという理由で、未利用周波数帯の開拓のための研究開発などへ電波利用料の使途を拡大するという考え方については、「まず使途拡大ありき」の議論につながることのないよう十分留意すべきであり、安易な使途拡大には反対である。その理由は、下記の通りであるが、使途拡大については、コンセンサスが得られないまま最終報告書で方向性を示すべきではなく、報告書より第5章を削除し、別途、時間をかけて検討すべきである

  1. 研究開発においては、まず官民の役割分担が論じられるべきである。特に、技術進歩の早い分野においては、国による研究開発よりも、市場原理の下での民間の研究開発の方がより効率的な場合が多い。
  2. 研究開発をはじめとする電波関係の諸課題に必要な財源は、本来は一般財源に求めるべきものである。総合科学技術会議をはじめ、国全体の研究開発の中で電波に関する研究を位置付け、他省庁との連携や調整を取りつつ推進すべきである。
  3. 電波有効利用の研究開発に電波利用料を充当することは、研究開発のための民間資本をクラウドアウトすることにより、かえって自由な技術革新や投資を遅らせることになりかねない。電波の経済価値を反映した利用料制度により、移動体事業者への不公平な負担の解消が進めば、民間の自主的な取組みと市場原理の中でも、格差是正や研究開発の問題への対応が進むという点も重視すべきである。
  4. 電波利用料の使途を研究開発に拡大すること、及び研究開発の具体的な実施項目については十分に議論がなされていない。「電波有効利用」という定義だけでは恣意的に広義に解釈される可能性もあり、具体的な研究テーマを利用料で賄う必要性が利用料負担者によって容認されない限り、使途拡大はすべきでない。

(2) デジタルディバイド解消(第5章第3節)

携帯電話サービスをユニバーサルサービスであるかのように位置付けることは適当ではなく、不感地域の解消に電波利用料を充当することには反対である。また、これは電波有効利用政策研究会で扱うべきテーマでもなく、従って、ユニバーサルサービスに関する記述は削除すべきである。携帯電話の不感地域の解消は、まずは、民間の自主的なカバーエリア拡大の中で取り扱うべき課題である。現在、国や地方公共団体の責任において、社会政策の一環として一般財源で実施されているものについては、使途拡大の名のもとで、電波利用料に付け替えるような対応はすべきではない。

5.納付義務者の範囲(第6章)

(1) 免許不要局の扱い(第6章第1節)

現在、電波利用料の徴収対象外となっている免許不要局は、基本的に低出力のものに限定されているため、電波秩序に混乱をもたらす恐れが小さく、また、周波数帯の品質が保証されず、周波数帯に対する排他的権利も有していない等、免許局とは全く異なる性質を有している。さらに、免許不要局が受ける利益は間接的なものに過ぎない。

免許不要局に負担を求めることについては、ユビキタス社会の発展を目指しているe-Japan戦略、新産業創造戦略など国の基本方針に逆行する面がある。ユビキタスネットワーク社会の実現に向けて、小電力無線システムに寄せられる期待は大きいだけに、今後、電波利用料の徴収対象範囲が拡大し、新しく発展する産業の競争力を削がないよう、政策的に配慮し、現時点では従来どおり非徴収とすべきである。

また、提案されている費用徴収方法についても問題点が多く、免許不要局からの現時点での徴収は、技術的にも困難である。

一方、非徴収とした結果、将来、免許不要局が飛躍的に発展し、免許不要局を利用して事業を行うような事例も出てくるなど、電波の利用状況が大きく変化することも考えられる。情報家電等のように、まだ概念も無線システム方式も定まっていないものを対象として、電波利用料の徴収を制度化することは拙速であり、今後、徴収の是非については、そのような変化を見極めて、その時点で改めて慎重に検討するのが適当である。

(2) 国、地方公共団体の扱いについて(第6章第2節)

国、地方公共団体が開設する無線局については、電波利用料の徴収免除等の特例措置が設けられているが、他の無線局免許人と同様に電波利用料を徴収すべきである。国庫間で資金が循環するに過ぎず、徴収の実益に乏しく、事務の複雑化を招くだけとの指摘があるが、行政運営コストを可視化することによって、行政の効率化と電波の有効利用を促すことが重要である。

6.電波利用者の負担額の歯止め(第7章第1節)

これ以上の電波利用者の負担増大を避けるため、徴収総額の上限については、現行の水準を越えないことを法律に明確に示すべきである。なお、アナアナ変換の作業費用が不要になった時点では、200億に及ぶ共益費を除いた額を徴収総額の上限とすべきである。

また、電波利用料の使途についても、現行法の規定以上の詳細な記述と運用の透明性が必要である。

さらに、個々の料額の規定については、下位法令に委ねることなく、すべて法律に規定すべきである。

7.包括免許におけるシステム切替え時の電話利用料の納付手続き(第7章第2節)

納付手続きの合理化については、負担の公平の観点から適当な措置である。

以上

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