[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

郵政民営化の着実な実現を望む

2004年12月6日
(社)日本経済団体連合会

1.郵政民営化の意義

「官から民へ」の流れの中で、政府部門の再定義を通じ、小さな政府を実現する制度・規制の改革が進められている。郵政民営化は、一連の改革の中で最も規模が大きく、その帰趨に、構造改革全体の成否がかかっている。
日本経団連としては、郵政民営化の意義を以下の3点と考えており、その推進に全力を挙げて取り組んでいく。

(1) 公務員数の縮減

政府では、2001〜2010年度にかけて国家公務員定数を25%純減することとしている。郵政民営化により、これに加え常勤約27万人、非常勤約12万人、計約40万人が国家公務員の身分を離れる。この結果、簡素な政府が実現するとともに、労働条件に市場実勢が反映され、通常の労使関係により規律される雇用分野が拡大する。
ただし、準備期、移行期を通じ、雇用不安を生じさせてはならない。郵政公社、新事業会社ならびに政府が、配置転換などを含め、必要な対策を講じることが求められる。

(2) 財政負担の軽減と歳入増加

郵貯・簡保の新契約に係る政府保証の廃止により、国は偶発債務の重圧から徐々に解放される。他方、減免されてきた租税公課が課されることにより、国・地方の税収が増加する。また、将来的には持株会社の株式売却益も期待される。
なお、郵便についてはユニバーサルサービスの提供義務が課されるが、これに伴い追加的な財政支援が必要とならないよう経営効率化を推進する必要がある。

(3) 資金の流れの改革

郵貯・簡保は官業としての特典を背景に約350兆円に達する資金を集めている。また、経過的な財投債の引き受け義務、運用規制は別にしても、郵貯・簡保が政府部門にとどまる限り、資産運用対象が国債に偏る恐れがある。この結果、郵政公社が財政赤字の安易な膨張を助長している面があることは否めない。郵政民営化は、資産運用の面を含め、適切な制度設計の下で進められるならば、こうした問題の解消につながる。
ただし、公的部門に流れていた資金を民間部門に流すには、郵政民営化だけでは十分でない。同時に、歳入・歳出両面からの財政構造改革や金融資本市場の一層の機能強化を推進していく必要がある。

以上に挙げた意義に加えて、閣議決定された「郵政民営化の基本方針」では、国民にもたらす利益として、国民の利便性の向上が挙げられている。経済界としても、民間企業との対等な競争条件の下、公平・公正な競争の活性化を通じて、国民の利便性が向上することを切に望むものである。

2.「郵政民営化の基本方針」についての考え方

郵政民営化は、巨大な改革であり、関係者も多く、その具体化をめぐっては、さまざまに意見が分かれている。そうした中、経済財政諮問会議は、予め五つの基本原則(活性化、整合性、利便性、資源活用、配慮)を明らかにし、「基本方針」を取りまとめた。例えば、国民の関心の高い窓口の配置については、「過疎地の拠点維持に配慮する一方、人口稠密地域における配置を見直す」とし、住民のアクセス確保に目配りが行き届いた内容となっている。このように「基本方針」はそれぞれの原則のバランスに配慮したものとなっており、各原則の重要度に関する認識の差から、異論も聞かれる。しかし、「基本方針」を必要以上に批判し、あるいは部分的な修正を求めることは、早期かつ着実な民営化の実現を阻害しかねない。中央省庁等改革の経験を顧みても、郵政民営化に向けた「基本方針」が閣議決定され、総理が強いリーダーシップを発揮されているという事実を何よりもまず重く受けとめるべきである。
日本経団連としては以上の認識に立ち、「基本方針」の着実な具現化を求める。

3.制度設計、法案作成に向けた提案

政府は「基本方針」を踏まえ、三つの指針(忠実性、簡素・一貫性、透明性)に則って制度設計、法案作成を行うとしている。日本経団連はこの方針を支持する。その上で、名実ともに適切な民営化を望む観点から、下記の5点を提案する。

(1) 窓口ネットワーク会社に係る公正な競争条件の確保

窓口ネットワーク会社については、独禁法を適用する。また、他に例のない事業内容となることから、事業活動に関するルールなどを整備するとともに、適正な監視を行う。

(2) 適切なリスク遮断

郵便貯金会社、郵便保険会社について、金融情勢を見つつ、早期の民有民営化を目指す。また、旧契約に係るリスクが、新会社、預金保険機構、生命保険契約者保護機構に及ぶ恐れを縮減するため、契約分離に当たって公社勘定の損益計算などに関する明確なルールを整備するとともに、適切な開示を行っていく。

(3) 移行期における経営の自由度の段階的な拡大

移行期における各事業会社の経営の自由度は、民間企業とのイコールフッティングの確保状況、郵便貯金会社・郵便保険会社にあっては民有民営化の進展度にも対応して、監視組織の意見を聞いた上、段階的に拡大する。

(4) 監視組織によるチェック機能の発揮

許認可を含む経営上の重要事項に関する監視組織の意見について、政府は尊重義務を負うこととする。また、監視組織は、民間有識者で構成し、独自の事務局と強い調査権限を持つものとする。

(5) 民営化後の経営のあり方に関する検討の開始

追加的な国民負担に関する懸念や民間企業の不安を軽減するため、基本方針に定める経営委員会(仮称)を設置し、民営化後の経営のあり方に関する検討を開始する。

以上

日本語のトップページへ