[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

「政府開発援助に関する中期政策(案)」に対するコメント

2005年1月7日
(社)日本経済団体連合会
国際協力委員会
政策部会

日本経団連では、予てよりODAをわが国の重要な外交手段の一つであると捉え、貧困削減、HIV/エイズ等の感染症、地球環境問題といったいわゆるグローバル・イシューの解決に貢献するのみならず、わが国の安全と繁栄を確保するという国益のために戦略的に活用すべきであると主張してきた。併せて、わが国の有する優れた技術、知見、人材等を活用しつつ、ソフト・ハード双方を含む経済社会インフラ、貿易・投資環境の整備等、経済成長に資する援助を行う重要性を強調している。とりわけ、近年、東アジアにおける経済連携強化が重要課題となっていることから、その実現に資するODAの戦略的な活用を提唱してきている。

こうした考え方は、昨年8月に改定された新しい政府開発援助大綱(以下「新大綱」)にも盛り込まれたところであるが、今般改定される新しい政府開発援助に関する中期政策(以下「新中期政策」)においても、われわれの考えが反映され、より具体的な取り組みが国内外に示されることを期待する。以下、新中期政策(案)の章立てに沿い、コメントを記す。

「政府開発援助に関する中期政策(案)に関する意見募集について」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/index.html

1.中期政策の位置付け:国益(「わが国の安全と繁栄の確保」)の重要性

新大綱では、わが国ODAの目的として、従来の大綱には記されていなかった国益の観点が「我が国の安全と繁栄の確保」との表現で盛り込まれた。新大綱の下に位置付けられる新中期政策においても、その趣旨を明確に記述すべきである。

その意味で、新中期政策(案)において「ODA大綱がODAの目的を『国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資すること』と位置付けていることを踏まえ、戦略的かつ効率的なODAの活用を通じて、我が国の地位にふさわしい役割を果たす考えである」と明記されていることは重要であり、評価する。

2.重点課題について:

(1) 貧困削減:経済成長の重要性

貧困削減は、MDGs(ミレニアム開発目標)にもうたわれている重要な国際開発目標であるが、草の根レベルでの直接的な支援のみではその達成は不可能であり、わが国に経験の蓄積のある成長を通じた貧困削減のための支援が不可欠である。

その意味で、新中期政策(案)において「持続的な経済成長は貧困削減のための必要条件である」としたうえ、「成長を通じた貧困削減のための支援」を一つの柱とし、雇用創出や基幹インフラ整備の重要性等に言及していることを評価する。わが国は、貧困削減に役立つ経済成長の重要性を内外に強調すべきである。

(2) 持続的成長:民間セクター、経済社会基盤整備、東アジア経済連携の重要性

  1. わが国の東アジアにおけるこれまでの開発援助の経験に鑑み、経済成長は、貧困等、途上国が有する諸課題の解決に極めて有効である。また、途上国の経済発展は、通商立国であり資源・エネルギー等を海外に大きく依存するわが国にとっても、その安全と繁栄を確保するために不可欠である。こうした観点から、新中期政策(案)の重点課題の一つとして「持続的成長」が盛り込まれたことを評価する。但し、これに関連して、途上国の「自助努力支援」の必要性が付記されることを期待する。

  2. 途上国の持続的成長を実現するためには、ODAによってソフト・ハード双方の経済社会インフラ等の貿易・投資環境の整備を行い、それを梃子として民間セクターの活動を促進することが重要であり、新中期政策(案)において、その旨が記されていることを評価する。但し、追記すべきは、STEP(本邦技術活用条件)の制度改善等を通じ、わが国の民間企業の持つ技術・知見・人材が、途上国支援にこれまで以上に貢献できるよう努める旨、強調することである。

  3. 「経済社会基盤の整備」を重視し、「民間セクターの活動を促進する上で、インフラは根本的な重要性を有する」とし、インフラの具体的な例示を詳細に行っていることを評価する。加えて、わが国の技術、知見、人材が、とりわけ本分野で大きな貢献ができる旨、言及されることを求めたい。

  4. 中期政策で念頭に置いている向こう3〜5年を考えると、東アジアにおける各国との経済連携の強化が、極めて重要な課題となる。その意味で、「経済連携強化のための支援」という項目を立て、その支援の具体的な内容が列挙されていることを評価する。わが国は、東アジア地域全体の持続的成長が、相手国はもちろんわが国の国益にかなうとの観点から、経済連携強化実現のためにODAを積極的に活用すべきであり、新中期政策においても、その旨を更に強調する必要がある。

(3) 地球的規模の問題への取組:わが国の技術・知見・人材活用の重要性

地球的規模の問題、いわゆるグローバル・イシューには数多くの分野がある中、わが国に技術・知見・人材の蓄積のある環境問題に焦点をあてていることを評価する。

環境問題への取り組みは、国際的な取り組みである、2005年2月に発効する京都議定書の目標(1990年比6%の温暖化ガス削減)達成のためにも重要である。わが国は、ODAを活用し、途上国における温暖化ガス削減プロジェクトを積極的に推進すべきである。

地球的規模の問題への取り組みとしてエネルギー・資源の安定供給に関する協力、省エネルギーに関する協力があり、資源を持たないわが国の安全と繁栄につながる重要課題であることも記述するよう求める。

3.効率的・効果的な援助の実施に向けた方策について:
迅速な援助の重要性とわが国援助理念発信の必要性

政策立案、実施体制の強化、とりわけ民間を含めた現地の援助関係者による情報交換は、当該国のニーズに合致した適切な援助案件の形成・制定に貢献する。但し、課題は、案件形成から実施に至るまでのスピードである。効率的・効果的との表現に加え、迅速な援助の重要性に言及するとともに、発掘、調査、決定、実施に至る各段階に標準処理期間を設ける等、具体的な仕組みを盛り込むとともに、現地サイドでも迅速化に努力する旨、記述することも肝要である。

なお、「情報公開と広報」にあたっては、国別援助計画、政策協議の内容を広く公開するのみならず、新大綱に盛り込まれたわが国ODAの理念についても、その趣旨につき内外の理解が十分に得られるよう発信すべきである。

以上

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