[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

新しい成長の基盤を創る

2005年度総会決議

2005年5月26日
(社)日本経済団体連合会

わが国では、構造改革が進展し、民主導による持続的な安定成長の基盤が整いつつある。一方、国際環境の変化は大きく、引き続き構造改革に取り組み、海外の経済・産業や為替、原油・天然資源の動向といった情勢変化に対応できる経済の骨組みをつくりあげることが重要である。

こうした観点から、日本経団連は下記を重要課題として位置付け、その実現のため総力をあげて取り組むとともに、政治への働きかけを強める決意である。また、政策本位の政治に向けて、政治と透明な関係を築きつつ、政策評価に基づく政治寄付を企業の社会貢献の一環として促進する。

会員企業は「企業行動憲章」を踏まえ、社内の行動を常に点検するとともに、経営トップのリーダーシップのもとに風通しの良い組織づくりを進め、企業倫理の確立に努める。同時に、企業を取り巻く環境の変化に配慮し、社会的責任への取り組みを積極的に進める。

1.企業の力を引き出す

経済のグローバル化が深化し、企業間の競争がますます激しさを増している。企業は、攻めの経営戦略を推進し、付加価値の創造と拡大、雇用の創出を通じて、国民に豊かなくらしをもたらす責務がある。そうした企業の力を引き出す観点から、政府は積極的に施策の展開を図るべきである。

(1) 法人税制、企業関連法制の見直し

企業の戦略的な事業展開を可能とするとともに、国際的な整合性を確保する観点から、法人課税、会社法、独占禁止法の抜本的見直しを図る。

(2) 税財政、社会保障制度の一体的改革

高齢化と少子化が急速に進むなか、財政の持続可能性を確保する観点から、経済の安定成長を実現しつつ、歳出の削減・合理化を徹底する。特に、社会保障関係費の増大を抑制するため、年金、医療、介護、雇用保険など社会保障制度の一体的改革を進める。その上で必要な歳入確保は、国民全体が広く負担する消費税の拡充により対応する。

(3) 行政改革の推進

「民でできるものは民へ」という方針のもと、さらなる規制改革、民間開放の推進に取り組み、官業の効率化と行政コストの低減を図る。そのため、官の事務・事業の廃止、民営化などを積極的に行うとともに、市場化テストの早期法制化を図る。また、国・地方を通じた公務員の定員削減、給与等の見直しを早急に進めるとともに、縦割り行政の弊害排除等を目指した、国家公務員制度の抜本的な改革を実現する。さらに、地方行財政改革の進展を踏まえつつ、州制の導入について検討を深める。

2.国を支える産業をつくる

科学技術創造立国、知財立国、通商立国、環境立国、観光立国などを目指し、将来にわたり産業の国際競争力を維持・強化する観点から、政府は、戦略的な取り組みを進めるべきである。加えて、地域活性化や中小企業振興の視点も踏まえ、国民に心の豊かさをもたらす産業の振興を図る必要がある。

(1) 研究開発の充実と新産業の創出

科学技術こそがイノベーションの鍵を握るという認識のもと、第3期科学技術基本計画において政府研究開発投資の一層の拡大を目指す。同時に、その成果を国民に還元するため、環境、モノづくり、宇宙、防衛など、国としての政策目標実現に不可欠な重要技術を設定し集中的投資を行うとともに、戦略的開発を推進する。併せて、知的財産の創造・活用の促進に向けた環境整備を行う。
引き続き、情報通信技術(ICT)の利活用を含め、国際標準に基づく世界最先端の高度情報化社会の構築を目指すとともに、健康サービス、エンターテイメント等の新産業の発展、拡大を図る。

(2) 国際連携の強化

WTOを中心とする多角的な自由貿易体制の維持・強化と、経済連携協定(EPA)による二国間・地域間の経済連携の強化を車の両輪とし、通商立国の実現を図る。WTO新ラウンド交渉の推進にリーダーシップを発揮するとともに、農業問題などの国内構造改革を急ぐ。また、ODAの拡充により、開発途上国のインフラ整備や人材育成を進める。加えて、対日直接投資促進の環境整備を行う。

(3) 環境・エネルギー政策の推進

京都議定書の約束達成に向け、「環境自主行動計画」の着実な実施に加え、民生・運輸部門の対策に積極的に貢献する。環境税や規制的な施策ではなく、企業の自主的な取り組みを信頼した対策、サマータイムの導入などを通じた国民のライフスタイルの変革、さらには物流の基盤整備・効率化を推進することで、環境と経済の両立を図る。
同時に、原子燃料サイクルの着実な推進など原子力を基幹に据えながら、新エネルギーの開発・普及などを通じて、エネルギー源の多様化を進める。併せて、省エネ技術の革新によるエネルギーの効率的活用を目指す。

(4) 観光戦略の展開

広域的な地域連携による多様な観光資源の活用、都市再生の推進、美しい街並みの形成等を目的とした、総合的な観光戦略を早急に打ち立て展開する。加えて、訪日外国人旅行者を増加させるため、観光・商用ビザの発給要件の緩和・手続きの簡素化、空港の容量拡大、国際線と国内線の乗継利便の向上を図る。

(5) 住環境の整備

国民の多様な価値観に配慮しつつ、豊かな生活が実現できるよう、「住宅・街づくり基本法」の制定に向けて取り組む。情報通信インフラの活用など民間の創意工夫を活かし、良質でゆとりある住宅、安心・安全で美しい街づくりを推進する。

3.人を活かす社会をつくる

高度経済成長を支えた「団塊の世代」の定年退職を控え、超高齢社会が間近に迫っている。また、未婚化・晩婚化が進んでいることに加え、夫婦が子どもを持ちたがらない、あるいは子どもを持ちたくても生み育てられない状況が生じていることなどにより、少子化の進行に歯止めがかからなくなっている。女性の社会進出が加速し、家庭のあり方が大きく変化している状況を踏まえ、官民が協力して実効ある対策を推進することが重要である。

(1) 若年者の就労促進など多様な労働力の活用

雇用の創出・安定を図りつつ、国民の多様な就労ニーズに対応するため、労働法制や労働市場規制を時代に合うものに改革するとともに、個人の能力開発を支援する制度の充実を図る。また、家庭、地域社会、学校、企業、行政が連携し、企業・行政等によるインターンシップの受入れなどを通じ、教育から職業への円滑な移行、職業への定着、職業能力の向上を図る。企業においては、若年者のみならず、女性や高齢者などの多様な人材を活かす、公正で納得性のある人事制度を整備する。

(2) 教育改革の断行

「多様性」「競争」「評価」を基本に、教育改革を断行する。基礎学力の向上を図る上でも、様々な主体が学校等の設立や運営に参画できるようにするとともに、教育予算制度の抜本的な改革を行う。

(3) 少子化対策の推進

急速な少子化の進行は、需要・供給の両面から経済活動を縮小させるとともに、社会保障制度にも影響を及ぼすことから、諸外国の施策も参考にしつつ、効果的な少子化対策を早期に打ち立て推進する。その際、社会全体で子どもを育てるという基本に立ち返り、幼児期の養育・教育の充実に取り組む。

(4) 外国人の受け入れ・活用

多文化共生社会をつくりあげるとともに、付加価値創造力を高める観点から、外国人の受け入れ・活用に向け、国、地方を通じた総合的な対策を展開する。

以上に加え、戦後のわが国の経済社会を支えてきた国の基本的枠組みを再構築していくことが求められる。国際社会から信頼・尊敬され、経済社会の繁栄と精神の豊かさを実現する、公正・公平で安心・安全な国家を目指し、新しい日本を創りあげていくべきである。

以上

日本語のトップページへ