[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

法令の外国語訳の推進へのコメント

2005年11月11日
(社)日本経済団体連合会
経済法規委員会
企画部会

経済のグローバル化の進展に伴い、企業社会において、国際的な法務案件が急増している。わが国の法令については、信頼できる外国語訳が少ない。そのため、外国企業の日本法に関する理解が乏しく、国際取引において、残念ながら、日本法の利用が敬遠されがちなのが実情である。

経済界においては、(1)外国企業等との契約交渉や訴訟、(2)外国企業との共同事業、(3)外国への事業進出、(4)海外支社・営業所等からの照会、(5)外国人労働者と雇用契約締結時、社内の外国人社員への説明、(6)外資系企業への説明、外国企業の日本進出への支援、海外からの対日投資の支援、海外機関投資家等への説明など、わが国法令の外国語訳利用のニーズが大きい。

しかし、従来、利用者が必要な場合に、必要の都度、個別に業者等に法律の翻訳を委託するなど、膨大なコストを余儀なくされてきた。しかも、翻訳された成果物が共通利用されることも少なかった。

また、「債権」や「担保権」など、わが国と外国との間で概念の異なる用語や、「許可」「承認」「認可」等の基本用語について、統一的な訳語がないという問題もある。

海外においては、ヨーロッパ諸国のみならず、韓国、中国などのアジア諸国も、既に主要法令について、政府が英訳を行っており、インターネットなどで公表しているところが多い。

わが国においても、政府の強力なリーダーシップの下で、法令全般について、信頼性の高い外国語訳を体系的に整備し、広く国際社会に発信していくことが急務である。法令外国語訳化は、(1)わが国経済社会の透明性の飛躍的向上、(2)途上国への法整備支援の推進、(3)法制度の国際的なハーモナイゼーションへの主体的参加、(4)対日投資の促進、(5)国際取引の円滑化をはじめ、わが国の国益の増進にとって、大きな意義を有する。こうした公益性、公共性が高い作業は、国民生活、経済活動、国家活動などの基本インフラであり、政府がリーダーシップを発揮して主体的に取り組むべきものである。

そこで、日本経団連では、昨年6月に、「日本法令の外国語訳化の推進を求める」を取りまとめ、政府・与党等関係方面に提言を行った。

また、昨年12月には、日本経団連の主要会員企業を対象に、法令外国語訳へのニーズ等に関する「アンケート」を実施し、政府・与党等関係方面における検討材料として提供した。

今般取りまとめられた中間報告は、法令の外国語訳の推進に向けた具体的な取組みが始まることを明らかにしており、一歩前進と評価できる。しかしながら、残された課題も少なくなく、今後の本格的な整備への強い期待を込めて、下記の通りコメントを行う。

内閣官房「中間報告」
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/hourei/dai3/3siryou1.pdf

1.基本的考え方

(1) 外国語訳の主体の明確化

中間報告では、全体を通じて、今後の法令外国語訳整備を民間任せにしかねないような記載が少なくない。上記のような日本法令の外国語訳の整備の意義に鑑みれば、政府が責任を持って信頼性の高い外国語訳化に取り組むという基本姿勢を明確化すべきである。例えば、関係府省が質の高い翻訳を行うことや、新規立法、法令改正に際して外国語訳を早期に公表することを原則とする必要がある。また、政府の責任において既存法令に関する信頼できる翻訳を推進するのみならず、今後も継続的に責任を持って取組む方針も打ち出すべきである。
また、政府が3年間で翻訳する対象法令等を定める翻訳実施計画の内容についても、従来のように各府省の自主的な判断によって決めるのでは、省庁間で温度差が生じることは必至である。翻訳対象法令や翻訳時期等については、ユーザーの意見を十分に反映した形で、定期的に見直していくべきである。

(2) 適切な予算措置

翻訳実施計画では、「個々の翻訳の適否については、毎年度の予算編成過程において個別的検討を行うことも必要となる」と記載されており、単に各省庁の努力目標に止まっているかのような印象を受ける。翻訳実施計画は、政府の責任・義務の下で、確実に実施していく必要がある。そのために必要な体制的・財政的裏付けとなる十分な予算措置を講ずることを明確にすべきある。

(3) 利便性の高い仕組みの構築

翻訳は活発に利用されて初めて本来の意義を持つことから、利用者が翻訳を利用しやすい仕組みを築き上げる必要がある。第1に、政府の責任で、翻訳法令を容易に利用できるアクセスポイントを立ち上げる必要があり、具体的な目標(提供内容、提供開始時期等)を設定して作業を進めることが求められる。その際、キーワードによる検索機能、日本語の原典と翻訳を同時対照できる表示機能、翻訳ルール収録語の付加情報を瞬時に見られる参照機能など、利便性に十分配慮した機能的な仕組みとすべきである。また、外国語訳は基本インフラであり、無償提供を原則とすべきである。
第2に、法令の改正や新規立法等についても継続的に翻訳を進めていく必要がある。中間報告では、今後、継続的に法令の外国語訳を推進する体制について、明確な方向性が示されていないが、法令翻訳の公益性、公共性に鑑みて、当面、政府が責任をもって継続的な翻訳作業を行う方針を明確にすべきである。政府において、作業の司令塔役を担う専門の部署を速やかに設置することが強く求められる。

2.政府に翻訳を期待する法令分野例

当面、外国語訳の整備が期待される法令について、主要会員企業から寄せられた主な指摘を例示すると、次の通りであり、これらについては、政府による可能な限り早期の整備を求める声が強い。

  1. 民法、刑法、会社法・商法など、経済生活、社会活動の基本となる基本六法
  2. 国家行政組織法、地方自治法、行政不服審査法、行政手続法、国家公務員倫理法など、行政の基本を定めた法令
  3. 独占禁止法、証券取引法、特定商取引法、銀行法、貸金業の規制等に関する法律、保険業法、出資法、金融先物取引法、国税通則法、国税徴収法、法人税法、消費税法、原子力損害賠償保障契約に関する法律など、事業活動とかかわりの深い会社関係法、経済関係法
  4. 特許法、商標法、著作権法など、企業戦略に重大な影響を及ぼす知的財産関係法
  5. 労働基準法、労働組合法など、経営管理上不可欠な労働関係法
  6. 関税法、関税定率法など、国際取引に欠かせない国際取引関係法
  7. その他
    1. (イ) 施行令、施行規則、行政取扱基準などのような国内規制を理解する上で不可欠な下位規範(例えば、会社法施行規則、独占禁止法における、「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針」「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」、証券取引法における、会社情報開示、インサイダー取引規制、TOB規制、大量株式保有報告制度など)
    2. (ロ) 外交、通商、防衛関係の政府声明
以上

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