[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

海洋開発推進のための重要課題について

2005年11月15日
(社)日本経済団体連合会

発展途上国経済の急速な成長を背景に、エネルギーや食料の需要は大幅な増加傾向にあり、資源価格の高騰、食糧の不足等が懸念されている。世界経済が今後とも安定した成長を続けていくためには、需要面における資源の効率的利用をはかるとともに、供給面における新たな資源や食料の供給先の開拓が大きな課題である。

このような状況のなかで、地球表面の約7割を占める海洋に目を向けると、そこには未開発のエネルギー、鉱物、生物などの資源が豊富に存在している。海洋資源の開発・利用は、わが国はもちろん、世界経済の発展や人類の繁栄にとって重要な鍵を握っている。

また、海洋は地球的規模の自然現象に深く関わっており、全地球的に海洋の観測や研究を行い、地震、津波、台風・ハリケーンなどの自然災害や地球温暖化などの環境問題のメカニズムの解明、温室効果ガスの削減、海洋環境の保全・回復、防災・減災等に活用することが、人類の安全、安心の確保のために必要である。

海洋国家であるわが国は、世界をリードして、海洋の研究開発と実用化を継続的に行い、その成果を国民や社会に還元していくとともに、世界最先端の技術を活用して、国際協力・国際貢献を推進することが重要である。また、自主技術力の育成・向上は、わが国の海洋産業の国際競争力強化、裾野の拡大にもつながる。さらに、世界第6位となるわが国の排他的経済水域や海底資源を巡る周辺諸国との関係を考えた場合、海洋の開発利用はわが国の安全保障、国家権益の確保に不可欠であるだけでなく、国際的プレゼンスの向上にも資する。

現在、政府は、2006年度から2010年度を対象とする第3期科学技術基本計画を策定中であり、その一環として、総合科学技術会議において、8分野の分野別推進戦略が策定され、戦略重点科学技術、国家基幹技術が選ばれる予定である。その際、基本計画が掲げる「環境と経済の両立」、「安全が誇りとなる国」等の政策目標の実現に重要な役割を担う海洋関連技術は、分野別戦略において重要かつ明確な位置付けがなされるべきである。そのうえで、わが国の力を結集して、海洋国家に相応しい世界最高レベルの技術力を確保・維持し、優れたインフラを整備することが重要である。

以上のような考え方を基本とし、下記のとおり提言する。

1.大陸棚調査の着実な実施

わが国が1996年に批准した「海洋法に関する国際連合条約」(国連海洋法条約)では、沿岸国の200海里までの海底等を大陸棚とするとともに、海底の地形・地質が一定条件を満たす場合、沿岸国は200海里を超えた海底について、大陸棚の外側の限界を最大350海里まで延伸することが認められる。この結果、日本の国土の約1.7倍の大陸棚の主権を新たに獲得し、その天然資源を開発する権利を主張することが可能となる。
そのためには、国連「大陸棚の限界に関する委員会」に対して、2009年5月までに、裏付けとなる科学的・技術的データをまとめて、大陸棚の限界についての報告を行い、委員会の勧告を受けなければならない。国益確保の観点から、政府が実施している大陸棚の調査が国連への報告期限までに完了するよう、必要かつ十分な政府予算を確保することが不可欠である。
また、国内外における同種の調査において、大陸棚調査で蓄積した様々な技術(OBSシステムなど)を活用することは、わが国の海洋調査技術を向上させるうえでも効果的である。

Ocean Bottom Seismograph : 海底地震計

2.自然災害等に対する安全・安心の確保

海洋は熱輸送や水循環等により大気と密接な相互作用を行っており、気候変動に大きな影響を及ぼしている。また、海洋はCO2の吸収・放出を行うことにより、炭素循環にも重要な役割を果たしている。一方、海溝型の大型地震によって発生する津波、台風・ハリケーンなどは、沿岸地域に大きな被害を及ぼし、人間の生命・財産を危険に陥れる。
このように、海洋は気候変動をはじめとする地球環境の変化や自然災害の発生に深く関係しており、海洋の諸現象の解明のために観測・探査を行うとともに、これを国民の安全・安心な生活の構築に活用していく必要がある。とりわけ、自然災害等に迅速に対応し、国民・国土・海域等への被害をできるだけ少なくする防災・減災、ならびに海洋の汚染・破壊に対する環境保全・回復が重要課題である。具体的には、以下の事項を推進すべきである。

[海洋観測・探査システムの開発・利用]
[防災・減災システムの開発]
[地球環境の保全に向けた研究開発]

3.海洋資源の開発

海洋は、石油・天然ガスはじめ豊富なエネルギー資源を有しており、たとえば、メタンハイドレートについては、日本近海にわが国の天然ガス使用量の100年分が埋蔵されているともいわれている。資源の多くを海外に依存しているわが国にとって、海底資源の調査・探査を継続的に実施するとともに、技術力を高め、エネルギー資源の開発に力を入れていくことは、エネルギー安全保障上、極めて重要である。
また、海洋は、微生物を含めた生物資源やマンガン団塊、コバルトリッチクラストなどの鉱物資源も有しており、こうした資源の探査・開発も重要である。具体的には、以下の事項を推進すべきである。

[海洋エネルギー等の開発]
[海洋生物資源等の開発]

4.海洋開発推進体制の整備

国連を中心とする国際的な海洋開発の法制・体制整備が進んでおり、これに合わせてわが国においても政府の総合的・一元的な海洋政策が強く求められる。大陸棚調査・海洋資源等に関する関係省庁連絡会議が設置されているが、関係省庁が縦割り行政を排除し、省庁を超え、中長期的視点に立って、無駄のない効果的・効率的な調査や研究開発、予算の運用等を実施していくことが必要である。
また、海洋開発において、産学官が連携して将来の産業化につながる優れた研究開発を行うとともに、国際レベルで活躍できる優れた研究者、技術者を育成することも重要である。そのためにも、小・中・高等学校段階における海洋教育や、国民への啓蒙を通じ、海洋に対する国全体の理解向上をはかるべきである。

以上

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