[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

国家の競争力強化を目指した「攻めの行政改革」の実現を求める

2006年2月14日
(社)日本経済団体連合会

国家の競争力強化を目指した「攻めの行政改革」の実現を求める(概要)<PDF>

I.基本的な考え方

グローバル化が一層加速し、中国、インドなどの台頭が顕著になっている中、わが国は戦後初の人口減少という時代の大きな転換点を迎えている。世界的な大競争の中で、わが国が諸外国の中に埋没することなく、今後とも発展し続けるためには、活力と多様性に富んだ、世界に際立つ国家を目指す必要がある。
そのためには、従来型の経済社会システムから脱却し、民主導の新たな成長基盤の確立に向けて、官民を問わずあらゆる分野における生産性の向上を図ることが不可欠である。

II.行政改革推進法案に対する期待

政府は、昨年末に閣議決定した「行政改革の重要方針」の着実な実施のため、2006年3月を目途に「行政改革推進法案(仮称)」を通常国会に提出する予定である。
現在進められている諸改革は、時代に合わなくなった行政機能の無駄を排除し、行政のスリム化、効率化を進めるための思い切った改革であり、その着実な実行が、政権交代の如何を問わず、担保される意義は極めて大きい。政府は、法案の策定を急ぐとともに、早期成立を目指すべきである。その際、重要なことは、スピード感のある改革の実施であり、法案に規定される個別法の改正や、改革のスケジュールを可能な限り前倒しで実行できるよう努めるべきである。具体的には、行政改革の重要方針に掲げられた「改革の着実な推進とフォローアップを行い、改革を加速する」旨を法案に盛り込む必要がある。
推進法案は構造改革路線を担保する極めて重要な法案となるが、行政改革の目的と必要性を国民に明示し、政府が不退転の決意で取り組むことを明らかにすることが求められる。その際、理念規定が重要となることから、法案の大きな柱として位置づけるべきである。
また、改革の着実な実施のためには、推進体制の基盤を固める必要があり、有識者の知見を活用していくことが求められる。さらに、行政運営の基盤である国家公務員制度の改革については、オープンな議論の場を設置して検討を進めることが求められる。

1.行政改革の理念

  1. (1) 絶えざる行政改革の推進
    時代の変化に応じた新たな行政需要に機動的に対応する必要性に加え、国・地方を通じた巨額の財政赤字、人口減少、高齢化に伴う現役世代の負担の問題等に対応していく観点から、政府の規模を大幅にスリム化する必要があり、行政改革を国政の最重要課題として恒久的に推進していく方針を明らかにすること。

  2. (2) 国の役割の見直しと行政の質の向上
    国は、国民に対し最低限保障すべき行政の水準を維持しつつ、戦略的な政策の企画・立案などに資源を集中し、地方にできることは地方に、民間でできることは民間に委ねること。
    縦割り行政の弊害を排除し、公務員の質の向上と行政運営の効率性を重視すること。また、政策の企画・立案等の事務・事業の執行と監督機能の分離など、行政に対するガバナンスの確立に努めること。

  3. (3) 国・地方を通じた一体的な行政改革の実施
    「小さくて効率的な政府」の実現には、地方公共団体を含めた改革が不可欠である。国・地方の関係について一体的な改革を図る観点から、規模のスリム化、質の向上、事務・事業の重複排除に努めること。

  4. (4) 官民双方の活性化を目指した行政改革
    官製経済の縮減などを通じて民の活性化を図る観点から、官民の役割分担を不断に見直すとともに、組織の柔軟な見直しや、事務・事業の廃止・縮減、行政代行機関の不断の見直し、市場化テストの活用等により、官民双方の活性化を目指すこと。

2.強力な推進体制の整備

構造改革の確実な実行のためには、行政に対するガバナンスの確立が不可欠である。推進法に基づく改革の実施状況をフォローアップし、必要に応じて勧告等を行う監視機関として、民間人主体の権威ある有識者会議を設けるとともに、専任の事務局を置くべきである。
また、この有識者会議については、官の構造改革推進のため、下記IIIに掲げる課題についても検討を行う機関として位置づける必要がある。

III.攻めの行政改革の推進と行革基本法の策定

「小さくて効率的な政府」を目指した改革に加えて重要なことは、国家としての競争力の強化という観点に立った改革である。
そもそも行政改革の断行のためには、将来を見据えたあるべき国家像を確立することが基本となる。少子・高齢化の進行に伴う人口減少への対応、巨額の財政赤字の問題など山積する諸課題を抱えている中、経済が縮小均衡に陥ることを避けるためには、政治主導の下、内政・外政を含めた総合的、中長期的な国家戦略を描きつつ、その時々に応じた国家運営の選択と集中を図り、民の活性化を基本とする経済・社会の活力の維持・向上を目指すべきである。その際、ナショナルミニマムたる行政の水準を維持しつつ、国家の競争力強化に重点配分を行うことを官の構造改革の柱とすべきである。
また、総理の施政方針を内閣全体として共有するとともに、行政に対するガバナンスの確立に向けて、透明性の確保を図り、国民や納税者に対する説明責任を果たしていく必要がある。このような改革を目指すことによって、国家公務員が矜持を持って公共サービスに従事する基盤が確立され、官の質の向上が可能となる。さらに欧米諸国の取組みの功罪も踏まえながら、行政改革の取組みに緩みが生じないようにしていく必要もある。
今後は、日本経済の新たな成長に向けた「攻めの行政改革」の実現のため、行政改革に関する基本法の制定が必要であり、前記の有識者会議を中心に、早急に検討し、策定すべきである。その際、内閣機能の強化や、国・地方を通じた一体的な統治改革など、残された行政改革の課題について具体的検討を急ぐべきである。

○ 残された主な行政改革の課題

  1. (1) 抜本的な公務員制度改革
    当会提言「さらなる行政改革の推進に向けて」<PDF>(2005年4月)で求めた、(1)官民の労働条件のイコールフッティングの確立、(2)身分保障の在り方の見直し、(3)職員の人事・再就職管理の一元化等を目指した国家公務員法の改正を行う。

  2. (2) 内閣機能の強化と省庁再々編の検討
    2001年の中央省庁等改革の評価を踏まえ、縦割り行政の弊害を排除し、行政に対するガバナンスの強化を図る観点から、例えば、内閣府の機能強化に向けた特命担当大臣の在り方の見直しなどについて検討する。また、行政需要に応じた更なる省庁の再編について検討を行う。

  3. (3) 政府の活動に係わる情報公開の徹底
    政府活動の透明性向上や納税者に対する説明責任を果たしていく必要があり、例えば、公会計に基づく国の財務書類に関する分かりやすい分析の提供を行うなど、情報公開を徹底する。また、行政改革の進捗度合いを国民や納税者に分かりやすく開示する。

  4. (4) 政策評価のさらなる見直し
    行政におけるPDCAサイクルの適正化を図るためには、政策評価のさらなる見直しが必要であり、総務省、財務省、会計検査院などの連携を図りつつ、政府内部における政策評価にかかる体制や組織の抜本的な見直しを進める。

  5. (5) 独立行政法人の不断の見直し
    独立行政法人については、中期目標期間終了時のタイミングにかかわらず、組織の在り方の見直しや、事務・事業の廃止、縮減、市場化テストの実施など、不断の見直しを行うとともに、特定独立行政法人の非公務員化を強力に推進する。

  6. (6) 国・地方の行政体制の一体的な見直し
    行政のduplication(多層構造)の無駄を解消することは喫緊の課題であり、市町村合併の評価や、地方制度調査会における道州制に関する検討結果等を踏まえつつ、国・地方の関係や広域行政の在り方について抜本的な見直し策を早期に検討する。

以上

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