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欧州統合と日欧経済関係についての基本的考え方

2006年4月18日
(社)日本経済団体連合会

欧州統合と日欧経済関係についての基本的考え方(概要)
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1.はじめに

2004年5月に中東欧諸国を中心とする10カ国を新たに加え、25カ国、4億5千万人の単一市場となる一方で、この歴史的な変化に対応するため、機構改革を進めつつあるEUは、単一通貨ユーロ導入の成功もあり、国際社会における存在感を高めている。サミット(主要国首脳会議)、WTO、OECDにおける欧州の発言力と影響力は、米国のそれに匹敵するほどの重みがあり、しばしば国際秩序や制度形成のみならず、グローバルな事業活動を左右するルール・メイキングの方向性を大きく左右する。

他方、長期的低迷からようやく抜け出し、経済が回復基調にあるわが国には、世界経済の安定と発展の一翼を担いつつ、一層の国際貢献を果たすことが求められている。まさに日欧が新たな関係を構築し、手を携えて世界の繁栄のために貢献することが必要となっている。

日欧経済関係は、かつての厳しい貿易摩擦の時代から大きく変貌を遂げ、現在では協調と連携を基調とする良好な関係を維持している。フロー・ベースでみると、日本の対EU投資は対米投資に匹敵する規模で推移している #1。また、日欧はそれぞれが高度に発達した経済主体であり、両者のGDPを合わせると世界の4割を占める。もとより日欧は、民主主義、法の支配、人権、市場経済、循環型社会などの概念、基本理念について価値観を共有している。

中長期的な視点から見ても欧州は、わが国の最も重要な経済パートナーのひとつとして位置づけられるべきである。特にEUの拡大と深化が転換期を迎え新たな段階に進みつつある今日、日本の経済界として、欧州統合の経済的影響についての考え方を整理するとともに、日欧経済関係強化の方途を探ることは重要である。そこで今般、新たな局面を迎えつつある日欧経済関係を種々の観点より考察し、わが国経済界の「欧州統合と日欧経済関係についての基本的考え方」を取りまとめることとした。

2.欧州統合に関する基本認識

(1)EUの拡大

EUの東方拡大

2004年5月、EUは中東欧諸国を中心とする10カ国を新たなメンバーに加え、人口4億5千万人、GDP10兆ユーロ #2 の単一市場が誕生した。欧州における事業環境の変化は、新たなビジネス機会をもたらすものであり、日本企業の間にもEU拡大を視野に入れた事業再編の動きが広がっている。「EUの拡大自体は初めてのことではないが、今回の拡大の規模はEU(EC)史上、前例のないものであり、これは戦略的な決定事項である #3。」との発言に代表される通り、2004年の拡大は、強い政治的意思とその実現に向けた改革意欲を存分に感じさせるものであった。同時に、戦後の東西冷戦による欧州分断の歴史に終止符を打つものとして象徴的であるだけでなく、「EUに新たな風を吹き込む #4 」新規加盟国の「EU加盟がわが国の可能性をさらに広げた #5 」「EU加盟はさらなる経済発展のチャンスである #6 」とする並々ならぬ改革努力も手伝い、新たなヨーロッパの誕生を世界に強く印象付けた。

拡大の意義とビジネス機会の創出

長年にわたりさまざまな形態による欧州ビジネスを展開してきたわが国企業は、東西ヨーロッパの境界線が実質的に消滅したことに伴い、全欧をひとつの市場として捉えた包括的な欧州ビジネス戦略の再構築を迫られている。

例えば、わが国企業が中東欧に設置している生産に関わる拠点の数は94年の15から、2004年には160にまで増えている #7。EU新規加盟諸国は、製造拠点としての役割にとどまらず、部品調達、販売、研究開発などさまざまな面で日本企業の欧州ビジネスを支えており、ビジネスにおける新規加盟国の比重は飛躍的に高まっている。

今後の拡大の動向

すでに加盟協定に調印しているブルガリア、ルーマニアにおいて加盟準備が進められており、EUの第6次拡大は時間の問題である。そのほか、トルコ、クロアチアとの加盟交渉も開始されている。特にトルコの加盟については、その賛否が大きく分かれているが、「EU加盟に向けてこれまで同様の努力を続けていく #8 」との固い決意が表明されている。加盟国の多様性を尊重しつつ全体の求心力を高めてきたEUにとって、トルコをメンバーとして迎え入れることは、ビジネス・パートナーとしてのEUの魅力を一層高めることから、日本の経済界としてもトルコの早期加盟を期待している。また、まだ加盟交渉に入っていない旧ユーゴスラヴィア諸国や、旧ソ連諸国の加盟に関する議論が行われることで、同地域の市場が透明性と予測可能性を一層増すことが期待できる。

他方、EFTA諸国は、緩やかな市場統合という形でEUとの経済関係を発展させている。日本はWTOにおいて協調関係を築くなどEFTA諸国と良好な関係を維持しており、高度な科学・産業技術を有し先取的な取り組みを行っているこれら国々との対話も忘れてはならない。

(2)EUの深化

歴史的な拡大を果たした今EUは、加盟国を効率的に束ね、国際競争力の維持・強化を図っていくため、その意思決定のルール、予算システムの抜本的改革を迫られている。現在、これらの改革は難航しているが、その一方で実現性が疑問視されていた通貨統合を成功させるなど、EUの改革が見事に結実している分野も見られ、現状を悲観論だけで片付けるのは妥当ではない。EUが今後どのような改革指針を提示していくのか大いに注目される。

欧州憲法条約

欧州憲法条約は、25カ国にまで拡大したEUを機能的に運営し、EUの国際的な役割を強化していくための基盤となることが期待されている。しかし、フランス、オランダの国民投票で否決され、その後相次いで国民投票を凍結する国々が出るなど、条約発効の見通しが立っておらず、EU統合が必ずしも一直線には進まないことを改めて認識させられる事態となっている。今後、憲法条約の取り扱いについて加盟国間で議論が再開される見通しであるが、憲法条約が速やかに発効されることを期待する。

EU中期予算(2007−13年)

EUが拡大を果たしたとは言え、各国の経済的格差は依然として残っている。EUはこれまでこうした格差を解消するため種々のプログラムを実施し、予算配分を行ってきたが、その予算制度のあり方は25カ国に拡大した現在、大きな岐路に立たされている。

一方で、加盟国はこれまで抜本的な財政改革を遂行し、削るべき予算は削り、研究開発などの経済的効果の高い分野へ予算配分を重点的に行うなどの措置を施してきた。中期予算の編成は、新規加盟国への補助金のあり方や投資戦略、事業環境整備に直結し、ひいてはEU統合の深化の道筋にも関わる重要な問題である。事業活動にも影響するものであり、その方向性が早急に示されることを期待する。

通貨統合

欧州単一通貨ユーロの貨幣流通が2002年に開始され、現在では国際通貨の地位を占めるに至っている。域外諸国におけるユーロの外貨準備ならびにユーロ建て債権発行は一般化され始めており、ユーロはドルと並ぶ国際機軸通貨としての地位を確立しつつある。また、ユーロは為替リスクの解消ならびにコスト削減の観点から、企業活動にとって望ましいものとなっている。こうしたことから、ユーロを導入していないEU加盟国に関しては、今後の導入が期待される。

3.日欧経済関係緊密化に向けた課題

(1)EU指令と加盟国法

EUは補完性 #9 (Subsidiality)の原則や比例性 #10 (Proportionality)の原則など、EU権限行使の条件に細心の配慮を払いつつ、EU統合の進展に伴い、EU法秩序の構築を進めてきた。EU法は、EU全域に均質な、政治に影響されない安定した法環境を提供し、加盟国における不必要な規制の緩和を促すことから、EU法秩序が発展することは、EU域内外の企業が事業活動を展開する上で、基本的に望ましい。しかし、EU法の影響がEU域内での事業活動にとって極めて大きい場合、法制化に至るまでの過程において、域内外の企業の声が十分に反映されることはもとより、経済的な影響が十分に考慮されることが重要である。この点で、後述の新化学品規制(REACH)は典型的な例であり、その実施状況を注意深く見守る必要がある。

逆に、EU法が加盟国法に十分に反映されていない、あるいは両者の関係が曖昧である場合、事業活動に余分のコスト支出が強いられる結果となり、日欧経済交流促進を阻害する要因となることが懸念される。一例をあげると、私的録音録画補償金制度 #11 (Levy制度)について、私的複製から生じる著作権の実損害や実際の利用をベースにした算定方法の導入と、著作権保護技術(TPM)の考慮を求めるEU著作権指令(EUCD)が出されたものの、加盟国の多くは同指令を国内の著作権法に反映させていない。EU指令を適切に反映した加盟各国の国内制度の整備が求められる。

また、EUレベルでの国境を超えた企業再編を促すため、「欧州会社(SE)」制度が2004年に施行された。SE制度の下では、EU域内において域外企業も同一ルールで事業体の設置を行えることから、大幅なコスト削減の効果が期待できる #12。日欧経済交流促進の観点からSE制度の導入を歓迎するとともに、今後、EUレベルで法人税制についても調和が図られることを期待する。

(2)環境政策

持続可能な経済成長を図ることは国際社会の重要な課題のひとつであり、わが国経済界は97年より「日本経団連環境自主行動計画 #13 」を着実に進め、温暖化対策などの面で大きな成果をあげている。日欧はともに高い技術力、循環型社会の重要性に関する基本認識を共有することから、グローバルな課題である環境問題の解決に向け、手を携えて主導的役割を果たすことが期待される。

EUでは、73年より始まった「第1次環境行動計画」を礎に、漸進的な環境保護策を施し、2002年には、気候変動をはじめとした4つの重点領域を掲げる「第6次環境行動計画」が採択された。EUレベルでの環境規制の調和が進展すれば、国ごとの複雑な規制との重複による事業コストの増加を回避できる。この点で、加盟国共通の環境政策を編み出していく欧州委員会の役割は今後ますます重要となっていく。

こうした中、欧州委員会が提案した新化学品規制 #14 (REACH)に関しては、その仕組みが産業界に過度な負担を課すものとなるとともに、輸入品に対して貿易制限的になりうる要素を含むものであるため、EU域内外の産業界からその実効性について強い懸念が表明されている。2006年中に一定の修正を経て法案が成立するものと予想されるが、いくつかの条項においては欧州委員会原案よりも厳しくなった点や、輸入品に含まれる化学物質の登録について貿易制限的となりうる条項も未だ含まれており、今後とも、現実的で域内外差別を生じない環境保護策となるよう見守っていく必要がある。

また、電気・電子機器の廃棄に関する指令(WEEE)は、家電製品などのリサイクル率を向上させることを目的としているが、指令対象の製品によってはその運用が不明確 #15 なものがあり、実行可能性に配慮した運用を認めていくことが必要である。加えて、リサイクルの回収コスト削減が進みにくい仕組みが検討されている国もあり、リサイクル事業に競争原理を導入するためにもリサイクル制度に柔軟性を持たせる必要がある。

なお、2006年7月より施行される特定有害物質使用禁止指令(RoHS)については、より安全な製品を供給できるよう各社が対策を進めており、その施行が混乱を招かないよう見守る必要がある。

(3)貿易障壁

WTOウルグアイ・ラウンド交渉の妥結以降、世界的に見ても関税率は削減傾向にあり、グローバルな企業活動の促進に大きく貢献している。こうした貿易の自由化は、すべての国・地域に恩恵をもたらすものであるとして、日欧はともに自由化を推進するリーダー的立場にある。

しかしながら、EUでは、家電 #16 (最高14%)、トラック(22%)、乗用車(10%)などといった主要な製品において、他の先進国では見られない高関税が依然として残っている。特にオーディオ・ビジュアル機器は、教育、文化、情報化の発展を促すものであり、IT機器の関税が撤廃されている現状を鑑みると、関税撤廃が妥当である。現在、WTO新ラウンド交渉において分野別の関税撤廃・調和の取り組みが行われており、わが国を含む各国経済界も支持している。これら分野別交渉などを通して関税障壁の削減が図られるべきである。

また、デジタル複合機、多機能液晶ディスプレイ・モニターは、合理的とは言い難い関税分類によって高関税品目に分類されており、世界的な標準に則った関税分類が求められる。放送と通信の融合に代表されるとおり、技術革新が進み新たな機能を擁する製品が次々に生み出されている中、今後ますます関税の分類問題が生じていく可能性がある。EUは、恣意的な分類を廃し、貿易の自由化に資する運用を行っていくべきである。なお、EUはIT製品の関税撤廃を目的とする情報技術協定(ITA)に積極的に参画しているが、これらIT製品の複合機器に関税をかけることはITAの趣旨に反する。

(4)国際会計基準(IFRS)

EUが国際会計基準(IFRS)を導入することに伴い、2007年1月以降、EU市場に上場する外国企業の財務報告書もIFRSもしくは、IFRSと同等の基準に基づいて作成することが義務づけられており、EUにおけるわが国の会計基準の取り扱いについて現在、懸念の声が高まっている。

日本の会計基準については、すでに国際的整合性を図るべく新基準が策定、導入されており、IFRSと同等の会計基準となっている。しかしながら、昨年7月に欧州証券規制当局委員会(CESR)が提出した報告書に則れば、一部の基準については、一定の補完措置を要求している。これら追加的情報の作成には多大なコストが発生するため、多くの日本企業がEU市場からの撤退を表明している。資本市場活性化のためにも、EUにおいて日本基準が同等と認められる必要がある。

(5)競争政策

EU域内外において国境を超えた事業活動が活発化している中、EUの競争政策が与える欧州ビジネスへの影響は増大している。EUは、2004年5月に大幅に競争法を改正し、それを基にした委員会決定や判決も揃い始めている #17

欧州委員会は競争法の域外適用について、域外の行為の効果が域内にも及ぶ場合には域外行為を規制できるとしており、わが国企業によるEU域外の企業買収に対してもEUの合併規則が適用される。域外適用については、その適用の透明性および納得性が担保される必要がある。

(6)柔軟な労働市場

良好な労使関係を保つことは、健全な企業経営を行う上で必須であり、わが国企業も欧州を含む諸外国で活動を行う際には、労使関係の円滑化に最大限の努力を払っている。

現在のところ、労働・雇用政策は各国固有の慣習や歴史的経緯もあり、基本的に各加盟国の裁量に委ねられている。欧州では、国によっては労働・雇用政策に硬直的な面 #18 があり、より良好な投資環境を整備するためにも、労働市場に一層の柔軟性を持たせることが求められる。

4.新たなる日欧経済関係に向けて

(1)日欧市場のさらなる緊密化

日欧経済関係が70年代から90年代初頭に至るまでの摩擦と対立の時代を克服し、今日、協調と連携を基調とした関係が維持されていることは高く評価できる。他方で、こうした良好な関係が無風状態となり、相互の無関心に繋がらぬよう留意すべきである。そのためには、これまで以上に各種の交流の機会を拡充し、経済界としても「民間外交」を通じて相互理解の増進と国際ルール策定の場への民間経済界の参画を強化していく必要がある。そのためには、より緊密、強固で、世界全体の発展に大きく寄与する新たなる日欧経済関係の構築に向けて、種々の協力を行っていくべきである。

例えば、2001年、日EUは相互承認協定(MRA)を締結し、貿易拡大と企業のコスト削減の面で成果を上げている。日欧市場をより緊密化させるためのこうした施策は、規制改革を推進する立場にある日欧双方の経済界の利益に資するものである。将来的には、2001年のMRAが対象とする4分野 #19 に限定せず、各種の資格の承認も含め、より広範囲な領域における相互承認の実現を目指すべきである。

(2)グローバルな課題をめぐる連携・協力

高度に発達した社会・経済システムを持ち、民主的な経済社会を根底から支える価値観を共有する日欧は、グローバルな課題が山積する国際社会において、強力なパートナーとして協力関係を築くことが可能である。

例えば、WTO新ラウンドにおいて、日欧は農業貿易、サービス貿易、アンチ・ダンピングなど多くの交渉分野について同様の立場を取ることが多く、戦略的な連携が可能であり、「日欧が協力して新ラウンドの推進を図っていくべきである #20 」。

また、環境先進国である日欧は、温暖化防止の枠組みや環境汚染への取り組み、エネルギーの効率的活用の促進などにおいて今後一層の連携を取りながら、地球規模の環境問題に対応していくことが望まれる。

CSR(企業の社会的責任)に関する議論の高まりを受け、ISOではSR #21 の国際規格化に向けた検討が始まっているが、EUはCSRを重要な政策項目のひとつとして取り上げ、CSR促進のための報告書 #22 を累次に作成するなど、わが国のCSRのあり方にも影響を及ぼしている。ISOの規格化は企業活動に大きな影響を与えるものであり、日欧が連携・協調して検討作業に取り組み、規格化をリードしていくことが肝要である。

近年深刻となっている知的財産権の侵害に対しては、多くの知的財産を有する日欧が協力し、被害実態の調査、改善に向けた取り組みを行い、知恵を出し合って有効な対策を講じていくことが必要である。

経済のグローバル化が進む中、BRICsをはじめとする新興経済国のダイナミズムを世界経済の発展に結び付けていくために、日欧が連携を強化することは重要である。

さらに、日欧は少子化・高齢化問題を抱えているが、日欧が工夫を凝らしながら、互いの制度の利点と経験を学び合うことは有用である。なお、「両国が直面している福祉分野の課題を共に解決していく #23 」ことを目指し、日欧の高い技術力とノウハウを生かした取り組み #24 もすでに一部で始まっている。

(3)関係強化に向けた多層的なアプローチ

政府間では、2001年からの10年間を「日欧協力の10年」として、日EU首脳会議、日EU経済閣僚会議などの定期的な政策対話が行われている。折り返し地点に到達したこの枠組みにおいて、今後いかなるイニシアティブの下、どのような取り組みがなされていくのかが注目される。特に、日EU規制改革対話は、日EUの間に横たわる貿易障壁などを改善する上で重要なプロセスであり、今後、より多くの具体的な成果に結びつくことが期待される。

日欧経済関係の強化については、シナジー効果も期待できることから、複数の道を同時に辿りつつ、より高みを目指すことが望ましい。第1のルートは、二国間ベースの交流強化である。日本経団連としても、政府レベルの活動と適宜連携を図りつつ、政策対話ミッションの派遣や欧州の要人との会合などを通じて、民間経済界の視点から事業環境の一層の改善を働きかけるとともに、日欧間の相互理解の促進と経済交流の拡大に努めていかなければならない。

わが国はこれまで、主にアジア・太平洋諸国とのEPA(経済連携協定)交渉を進めてきたが、今後は対象国・地域を拡大することも検討されており、先進各国との交渉開始も選択肢に入ってくる。こうした中、「二国間交渉は、言わばテイラーメイドの、機動的なフレームワークの構築に資する #25 」ことから、EFTA諸国の中には、日本とのEPAに関心を示している国もある。これらの国とのEPAは、日欧間の経済関係強化のための有効なツールのひとつとなることも期待できる。EPAはWTOを通ずる貿易・投資の自由化推進を補完するものとの観点から、EPAも視野に入れつつ、欧州各国との二国間の経済関係強化を図るべきである。

第2の道は、マルチの場面における日欧の連携強化である。WTO新ラウンド交渉の早期妥結について、日本経団連はこれまで欧州産業連盟(UNICE)との合同ミッションの派遣や共同声明の発出などにより、関係方面に働きかけを続けてきた。また、OECDの民間経済諮問機関(BIAC)においても、経団連は欧州各国の主要経済団体とともに、OECDへの民間経済界の意見反映に努めている。こうした活動を拡充し、知的財産権、イノベーションなど日欧の共通の重要関心事項を中心に、日欧の経済界がマルチの交渉の場におけるルールづくりの面で、主導的な役割を果たすことが求められる。

第3の方途は、日欧が核となって地域ベースでの連携強化を図ることである。アジア・欧州の28カ国の政府による多国間協議の場であるアジア欧州会合(ASEM)に対し、民間経済界の立場から政策提言を行い、その実現を図る場として、アジア欧州ビジネス・フォーラム(AEBF)が組織されている。日欧の経済界が手を携えて同フォーラムの活動を一層活性化させることにより、アジアと欧州の一層の関係強化を図ることができる。こうした観点から、今年10周年の節目を迎えるAEBFのヘルシンキ会議 #26 の成功に向けて日本経団連は協力していく。

これまで述べてきた通り、日本と欧州は、二国間、多国間、地域間のいずれの枠組みにおいても連携を強化し、関係を深め、国際社会の安定と世界経済の繁栄に向けて、より重要な役割を担うことが可能である。EUの拡大と深化が新たな段階に入り、日欧を取り巻く経済情勢が変化しつつある今、日本と欧州には相互理解を一層深め、手を携えて、ビジネス上の困難を克服し、世界が直面する種々の課題に多層的に取り組んでいくことが求められている。

以上

  1. 日本の対EU投資額7,926億円、対米投資額8,146億円。またEUからの対日投資額6,014億円、米国からの対日投資額1,483億円 (いずれも2004年ネット・フロー)。
    出所:日本銀行
  2. 正式には人口4億5,690万人、GDP10兆2,690億ユーロ(いずれも2004年)
    出所:欧州委員会
  3. フェアホイゲン欧州委員の発言 (2002年9月の日本経団連訪中東欧ミッションでの会談)
  4. ズリンダ首相(スロヴァキア)の発言 (2005年5月の日本経団連における会談)
  5. ベルカ首相(ポーランド)の発言 (2005年1月の日本経団連における会談)
  6. ジュルチャーニ首相(ハンガリー)の発言 (2004年10月の日本経団連における会談)
  7. 出所:日本貿易振興機構
  8. エルドアン首相(トルコ)の発言 (2005年9月の日本経団連訪バルカン諸国・トルコミッションでの会談)
  9. 加盟国が単独で行うよりも効果を上げられる政策課題はEUにおいて排他的権限として取り扱われるが、それ以外の課題については加盟国の独自性が尊重されるという概念
  10. EUの政策は、その効果が同じであるならば、加盟国の権限侵害が最も少ない方法を取るべきであるとの概念
  11. 私的な録音・録画から生じる著作権の損失を補償するために録音・録画用機器やメディアに対して補償金が課される制度
  12. なお、二国間航空協定は二国間での締結を前提としており、EUという地域単位での締結を想定していないため、SEの存在が一部で混乱をきたしている
  13. http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/vape/index.html
  14. 化学物質のリスク評価義務を企業に移行させ、市場に存在する全ての化学品の登録評価を行うことがひとつの特徴として挙げられる
  15. 例えば、WEEE 指令該当全製品にマークを付ける必要があるとされているが、大きさや機能の観点でマークの添付が事実上困難な製品について、包装や取扱説明書にマークを付けることで対応するなど、実行可能な方法の明示が求められる
  16. 例 テレビ:14%、DVDプレーヤー:14%、カムコーダー(ビデオカメラレコーダー):最大14%、ステレオ・システム:12%など
  17. 今回の改正の結果、各加盟国の競争当局や裁判所によるEC条約第81条、同82条の直接適用が大幅に促進されることとなった。法執行の分権化が進むことで加盟国間での法解釈や判断に矛盾が生じることが懸念される
  18. 日・EU規制改革対話 日本側対EU提案書(2005年11月21日付)では、雇用、勤務時間、給与等の面で企業活動に障害をもたらしうるとの指摘がなされている
  19. 通信機器、電気製品、化学品、医薬品
  20. ラガルド貿易担当大臣(フランス)の発言 (2006年2月の日本経団連における会談)
  21. 社会的責任。対象が企業のみではないことから、ISOではSRの表記を使用している
  22. 2001年にグリーン・ペーパー、2002年にホワイト・ペーパーが作成され、これらを基にして2006年に "Making Europe a Pole of Excellence on Corporate Social Responsibility" が公表された
  23. ヴァンハネン首相(フィンランド)の発言 (2005年5月の日本経団連における会談)
    また、ハロネン大統領にも同趣旨の発言 (2004年10月の日本経団連における会談)
  24. その一例として、高齢者の自立した生活を実現するため、日本とフィンランドの産官学が、仙台を拠点に日・フィンランド型福祉を融合させた特別養護老人ホームを運営するとともに、高齢者向けサービス・機器の研究を進めている「仙台フィンランド健康福祉センター」が挙げられる
  25. ダイス大統領・経済大臣(スイス)の発言 (2004年10月の日本経団連における会談)
  26. 2006年9月10、11日開催予定

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