[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

生活習慣病予防に係る特定健康診査・特定保健指導#1のアウトソース推進に向けて

2006年4月18日
(社)日本経済団体連合会

生活習慣病予防に係る特定健康診査・特定保健指導のアウトソース推進に向けて(概要版)
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1.基本的な考え方

男女共に高い平均寿命を達成し、高齢化が急速に進むわが国では、「いかに健康を維持して長生きするか」ということが国民の大きな関心事となっている。一方、生活習慣病の有病者や予備群は年々増加しており #2、いまや国民医療費の約3割を生活習慣病が占めている。健康寿命を延ばすためには、日頃から健康状態をチェックし、運動習慣やバランスの取れた食生活、禁煙を心がける等、国民一人ひとりの生活習慣病予防の努力と政府による積極的な対策が不可欠である。それらの取組の結果、国民医療費の伸びの抑制だけでなく、21世紀の成長産業として期待されるヘルスケア産業の発展につながる。

今国会に提出された医療制度改革関連法案では、医療費抑制の方策の一つとして生活習慣病予防の徹底が位置づけられた。効率的・効果的な生活習慣病予防を図るためには、これまで民間企業が培ってきた技術・知識を最大限に活用することが望まれる。その観点から、特定健康診査・特定保健指導(以下「健診・事後指導」)の実施に際し、保険者によるアウトソースが一つの選択肢として法案に盛り込まれたことは高く評価できる。今後は保険者へのインセンティブ措置の拡大、アウトソース先に関する評価基準の整備など保険者によるアウトソースを促進していくための基盤整備が必要であり、政府は以下に掲げる5項目について早急に対応策を講じるべきである。

2.要望事項

(1) 生活習慣病対策に関する成果目標の設定

生活習慣病対策の導入により、2015年度の生活習慣病患者・予備群を2008年度と比べて25%減少させるとの政策目標が掲げられている。また、医療費の伸びについて、生活習慣病予防を含む中長期的対策により、現行制度ベースと比べて2025年度において6兆円抑制可能との見通しが示された #3
今般、保険者に健診・事後指導という形で生活習慣病対策を義務付けた以上、国には生活習慣病対策導入の効果を国民に分かりやすく説明するとともに、政策目標の達成あるいはその前倒しに向けて積極的な取組を行なうことが求められる。

【具体的要望】

厚生労働省は、医療費適正化計画において、生活習慣病患者・予備群の25%減少という政策目標に加えて、健診・事後指導の実施により抑制する医療費の額についても例えば5年毎に具体的な成果目標を掲げ、その進捗状況等を注視しつつ、目標達成に向けた必要な取組を強化すべきである。

(2) 健診・事後指導実施体制の整備

生活習慣病予防対策は今般の医療制度改革の柱の一つであり、医療費適正化を実現するためには、保険者が健診・事後指導を着実に実施し成果をあげることが不可欠である。そのためには、国による支援措置や、保険者へのインセンティブ措置の付与等、実施体制の整備が強く望まれる。
現段階では被扶養者に対する健診・事後指導への補助以外は、国による支援措置等は講じられていない。また、保険者へのインセンティブ措置としては、平成25年度より、健診・事後指導の実施状況等に応じて各保険者の後期高齢者支援金 #4 負担額の加算・減算が実施されることとなったが、十分なものとは言いがたい。

【具体的要望】
  1. 現在、保険者が集めた保険料の約4割は老人保健制度を支える拠出金になっており、保険者に本来求められる保険者機能の強化に向けた事業に十分な資金を使うことが出来ない。国はこうした状況を踏まえ、健診・事後指導の実施に際しては保険者による自助努力を前提としつつ、国による支援措置等を検討すべきである。
  2. 後期高齢者支援金負担額の加算・減算措置はインセンティブ措置の導入という点では評価できるが、その実効性を高めるために実施時期の前倒しや、実施後の状況を踏まえた上での加算・減算幅(±10%)の更なる拡充等が必要である。
  3. 後期高齢者支援金の加算・減算に際しては健診・事後指導の実施状況だけでなく、例えば内臓脂肪症候群 #5 関連疾病予備群の減少率などの結果に直結した指標を採用すべきである。また、法施行後インセンティブ措置実施までの期間が長いことから、その間の実績も加算・減算に加味すべきである。

(3) アウトソース先の能力・信頼性等に関する評価基準の整備

保険者が健診・事後指導の実施に際し積極的にアウトソースを選択し、病院、診療所や民間企業等が蓄積してきた技術・知識を活用することは、保険者が自ら事業を行なう場合と比べてより効果的・効率的な事業実施が見込める等、大きなメリットがある。
しかし、現状ではアウトソース先の能力・信頼性に関する評価基準がなく、数あるアウトソース先の中から保険者が適切なものを選択することは難しい。

【具体的要望】

厚生労働省は保険者によるアウトソースを推進するために、アウトソース先の能力・信頼性等に関する評価基準を早急に整備し公表すべきである。策定に際しては、学者、医療関係者等に加え、民間企業からも意見を聴取すべきである。
なお、評価基準はあくまでも生活習慣病予防と直結した成果(内臓脂肪症候群関連疾病予備群の減少率など)に着目して設定すべきである。施設や有資格者に関する基準が過重になることは、アウトソース先の自主性・多様性の阻害につながり望ましくない。

(4) 40歳未満を対象とした生活習慣病対策における企業と健保組合の連携推進

今般、40歳以上の保険加入者については、保険者による健診・事後指導が義務付けられた。これに伴い企業と健保組合間における個人健診データの共有が可能となったことは、企業と健保組合の連携を促す措置として評価できる。
生活習慣病対策は長年の積み重ねが重要であることから、家族を含めた40歳未満の保険加入者についても、将来の生活習慣病予防の観点から、企業と健保組合が連携して効果的・効率的に健康管理を実施することが望ましい。

【具体的要望】

健保組合は、40歳未満の保険加入者について、例えば企業が労働安全衛生法等に基づき保存している個人健診データを活用して健康管理を行なう等、企業との連携を積極的に推進すべきである。

(5) 生活習慣病予防の重要性に関する国民・保険者への啓発

「今後の生活習慣病対策の推進について」 #6 には、内臓脂肪症候群の概念を導入した対策の推進が盛り込まれているが、ある調査によると内臓脂肪症候群という言葉を知っているのは調査対象者1300名の約3%に過ぎず、言葉の意味を正しく理解しているのは全体の1%にも満たない #7
生活習慣病予防には、運動習慣やバランスの取れた食生活、禁煙など、国民自身の日々の取組が何よりも重要である。国民が内臓脂肪症候群を正しく理解し、予防の重要性を認識するよう、国はより一層の啓発に努める必要がある。

【具体的要望】
  1. 国民が内臓脂肪症候群について正しく理解し予防の重要性を認識するよう、厚生労働省は内臓脂肪症候群に関する分かりやすい広報資料(「内臓脂肪症候群ガイド(仮称)」)を作成すべきである。
  2. 統一コンセプトに基づき国民・保険者への啓発を行なうために、「内臓脂肪症候群ガイド(仮称)」の企業広告等への引用を積極的に認めるべきである。
  3. 国は、内臓脂肪症候群予備群・患者減少の観点から生活習慣病予防など国民の健康増進に資するプログラムの開発・提供等に取り組み実績を挙げた民間事業者を対象とする優良事業者表彰制度を設けるべきである。
以上

  1. 特定健康診査とは:糖尿病など生活習慣病に関する健康診査
    特定保健指導とは:特定健康診査の結果により健康の保持に努める必要がある者に対し、保健指導に関する専門的知識及び技術を有する者が行なう保健指導
  2. 糖尿病:有病者740万人・予備群880万人、高血圧症:有病者3100万人・予備群2000万人、高脂血症:有病者3000万人 (厚生労働省資料より抜粋)
  3. 厚生労働省「医療制度構造改革試案」(2005年10月19日)
  4. 新たに創設される後期高齢者医療制度において、保険者は0歳から74歳までの加入者数に応じて後期高齢者(75歳以上)への支援金を負担する仕組みとなっている。負担割合は高齢者保険料1割、保険者からの支援金4割、公費5割。
  5. 内臓脂肪症候群(メタボリックシンドローム)とは:肥満に加えて、高血圧、糖尿病、高脂血症といった、動脈硬化を進め、心筋梗塞や脳梗塞などの疾患を発症させる危険因子を複数持った状態のこと。厚生労働省は内臓脂肪症候群の考え方を採り入れた生活習慣病の予防に重点を置くこととしている。
  6. 厚生労働省厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会(2005年9月15日)
  7. オムロンヘルスケア調べ http://www.healthcare.omron.co.jp/corp/news2005/0125.html

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