[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

日本・インド経済連携協定の早期実現を求める

2006年7月18日
(社)日本経済団体連合会

インドは、いわゆるBRICsの一員として、ブラジル、ロシア、中国とともに今後の世界経済を牽引するものと国際的に注目されており、高度経済成長を続けるインドと日本との関係も、近年急速に緊密化しつつある。日本経団連では、2005年11月、奥田会長(当時)を団長とする訪インド・ミッションを派遣したが、その後も数多くの経済ミッションがインドを訪問している。また、政府間交流についても、2005年4月の小泉首相の訪印をはじめ、往来が活発化している。

若年層比率の高い10億人以上の人口を抱え、力強い成長を継続する可能性を持つインドは、市場として、また製造拠点として大きな潜在力を有しており、わが国が日印経済関係強化に努めることは重要である。そのための方策として、日印間で経済連携協定(EPA)を締結することは、極めて有効である。日本・インドEPAは、両国間の貿易並びに投資の拡大可能性を高めるのみならず、インド自身の生産・輸出拠点としての魅力や国際競争力も向上させるものであり、日印両国に利益をもたらす。

こうしたことから、日印間において互恵的で包括的かつ高いレベルのEPAを早期に実現し、これを契機に下記の課題を解決することを強く要望する。

1.物品の貿易

インドの関税率は、近年引下げ傾向にあるが、最高基本関税は12.5%、平均実効税率は29.1%と依然高水準に止まっており、自動車完成品(実行税率60%)、繊維・衣類(実行税率15〜30%)のような高関税品目も存在している。他国とのEPA交渉においては、インドは関税引下げに多くの除外品目を設けている。しかしながら、わが国とのEPAを締結するにあたっては、GATT24条に整合的であることが求められ、実質上全ての貿易について関税を撤廃しなければならない。また、相互の関税引下げは、インドの企業にとっても原材料・部品の調達先や製品の販路の選択肢が広がるなど利益をもたらす。とりわけ素材や部品の関税引下げについては、インド製造業の競争力強化に寄与するものである。こうしたことから、日本・インドEPAによる物品の貿易自由化は、広範囲かつ大幅に行われるべきである。

2.投資・サービス

インドの外資政策は、経済自由化路線への転換の中で、段階的に規制緩和がなされ、政府としても直接投資を積極的に受け入れる姿勢を示している。こうした方向性に基づき、更に以下を進めるべきである。

(1)投資ルール

日越投資協定や日韓投資協定に規定されている投資許可段階の内国民待遇や最恵国待遇、さらには投資を制約するようなパフォーマンス要求の禁止を含んだルールは、インドでは未だ確立されていない。ASEAN諸国の経済発展に貢献した実績のあるわが国からインドへの投資拡大を促すためには、わが国企業に安心感を与えるような先進的な投資ルールの締結を目指すべきである。こうしたルールの整備は、インドにおける雇用創出にも資するものである。

(2)既存提携先同意書(NOC〔Non Objection Certificate〕) 規制

既にインドに進出し、インド企業と合弁・技術提携関係にある企業が同一業種で新事業を立ち上げる際には、合弁・提携先からの同意書を取得する義務がある。同規制については、インドに新規進出する外資系企業には適用されなくなるなど規制改革が進展しつつあると承知しているが、めまぐるしい技術革新が進む今日において、産業の活性化を阻むおそれがあり、新たな雇用機会を奪いかねないことから、既進出企業における取得義務を全て撤廃すべきである。

(3)サービス分野の外資規制

現在、スーパーやコンビニエンス・ストア等の小売分野への海外からの投資は禁止されているが、インドの流通分野の近代化にも資する外資への開放を行うべきである。その他、不動産業への外資参入は、10ha以上の宅地開発といった規模に関する条件等が存在する。銀行業については、2009年3月までに外資100%出資を解禁する予定とのことであるが、現状の出資比率の上限は49%である。外貨調達においても、5,000万ドル以上の場合、期間は5年以上との規制があり、機動的な資金調達に支障をきたすおそれがある。保険業については、出資比率の上限は26%に止まる。通信サービス業においても、分野によって異なるが、出資比率に対する規制がある。こうした出資規制のある分野における外資規制の早期かつ着実な緩和・撤廃は、当該産業の活性化を促すとともにインドの国民や企業の利便性向上にもつながるものであり、引き続き積極的に取り組むことを強く期待する。

3.税制

インドにおいては、借入金を含む歳入に占める関税の比率が10%程度となっており、関税依存率が高い。EPAにより関税引下げが求められることもあり、税体系全般を見直し、過度に関税に依存しないバランスある税制に改革する必要がある。
その際、海外からの投資促進を念頭に、法人税率の内外格差(外国法人の実効税率は41.82%、内国法人の実効税率は33.66%)を解消するとともに、複雑 i かつ州によって異なる ii 税制を、外国企業が理解しやすい透明性の高いものとした上、適切に履行することが期待される。また、EPAでの関税引下げを相殺するかたちで新たな課税または既存の税率の引上げが行われないようにすべきことは言うまでもない。

4.良好な事業基盤確保のためのビジネス環境整備

(1)インフラ

電力、道路、工業用水、空港、港湾、通信等、ビジネスに不可欠なインフラが未整備な状況にあり、今後インドが経済成長を達成するためのボトルネックとなりうる。インフラは、海外からの投資を呼び込むために必要であるのみならず、インドの国民や企業にとっても生活水準の向上や事業活動の効率化に貢献する。わが国も引き続きODAや民間企業の技術、ノウハウ等を活用してインドのインフラ整備に進んで協力するとともに、インドも一層積極的にインフラ整備に取り組むべきである。

(2)労働法制

インドにおいては、従業員100人以上の企業が解雇を行う際には州政府の事前認可が必要となっているなど、国際的に見て硬直的な労働法制がとられているが、こうした制度は企業のスクラップ・アンド・ビルドを妨げ、新規分野への投資を妨げることとなる。内外企業にとってインドの投資環境の改善につながる労働法制の見直しを加速するよう求める。

以上

  1. 例えば実効関税は、基本関税〔原則として0%、5%、10%、12.5%〕に加え、追加(相殺)関税(Special Additional Duty)〔国内製造品が出荷段階で課される物品税(Excise Duty)と同率で、大半は8%か16%。乗用車等には更に特別物品税(Special Excise Duty)が上乗せ〕、相殺関税(Countervailing Duty)〔ほぼ全てに4%〕、教育目的税(Education Cess)〔関税額に2%上乗せ〕が課される。
  2. 例えば2005年4月に付加価値税を導入したものの一部の州は導入を拒否している。

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