[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

日豪経済連携協定の早期交渉開始を求める

2006年9月19日
(社)日本経済団体連合会
日本商工会議所
(社)日本貿易会

提言「日豪経済連携協定の早期交渉開始を求める」概要 <PDF>


1.日豪経済連携協定(EPA)の早期交渉開始の重要性

(1) 資源・エネルギー、食料の安定供給確保

日本と豪州は、自由と民主主義の価値観を共有する、アジア大洋州地域の二大先進国として、長年にわたり政治・経済・文化面で良好な関係を築いてきた。今後、わが国がアジア大洋州地域の経済統合を進めていく上でも、豪州との間に良好な二国間関係を維持、発展させていくことが重要である。
両国は、日本が豪州から主に天然資源、食料を輸入する一方、豪州は日本から自動車、機械等の工業製品を輸入するなど、相互補完的な関係にある。したがって、両国間の通商関係の発展は、各々の産業、消費者にメリットをもたらす。特に豪州は、石炭、天然ガス、鉄鉱石、牛肉等、わが国の産業、消費生活にとって欠かすことのできない、重要な資源・エネルギーおよび食料の生産国である。日本の資源・エネルギー安全保障、食料安全保障上も、将来にわたり同国との関係を強化していくことが必須である。

(2) 第三国に比べて不利でない条件の確保

既に豪州は、ニュージーランド、シンガポール、タイ、米国との間に自由貿易協定(FTA)を締結している。特に2005年1月に米豪FTAが発効したことにより、豪州でビジネスを行う日本企業は、米企業との競争上、関税や投資条件の面で不利な状況に置かれている。豪州が現在交渉を進めているASEAN、中国、マレーシア、アラブ首長国連邦とのFTAが締結されれば、この状況はさらに深刻化すると予想される。特に中国では今後、資源・エネルギー需要の急増が見込まれるが、豪中FTAに豪州からの安定供給に関する条項が盛り込まれれば、同様の協定を持たないわが国の資源・エネルギー安全保障に影響が及ぶことも懸念される。
わが国としては、単に貿易の自由化にとどまらない、包括的な日豪間のEPAの締結により、二国間の経済関係をより一層強化し、第三国に比べて不利な状況を解消することが望まれる。特に豪州が日本とのEPAの締結を熱望している好機を逸することなく、交渉を早期に開始することが重要である。

2.日豪EPAに期待される効果

(1) 資源・エネルギーの安定供給

豪州は、石炭、天然ガス、鉄鉱石、ウラン等、わが国にとって重要な資源・エネルギーの供給元である。インド、中国等の急成長に伴う将来の資源・エネルギーの需要増に備え、わが国としても安定供給を確保しておくことが肝要である。現在のところ、民間企業間の長年にわたる信頼関係に基づき、市場メカニズムのなかで円滑に取引が行なわれているが、日豪EPAにより、豪州による資源・エネルギーの輸出制限の禁止、日本企業が豪州の資源・エネルギー分野に投資する際の環境改善(投資許可が必要となる下限投資額の引き上げ、審査基準の透明化等)などを実現し、こうした円滑な取引関係が中長期にわたり制度的にも保障されることが期待される。

(2) 食料の安定供給

わが国の食料自給率を維持、向上させることは重要であるが、同時に、自給で賄いきれない分の、海外からの安定供給を確保することも重要な課題である。資源・エネルギーと同様、日豪EPAにより、食料に関する輸出制限の禁止、食料生産に投資する際の環境改善などを実現できれば、わが国の食料安全保障に寄与すると期待される。

(3) 関税

日本から豪州への主要輸出品のうち、自動車・自動車部品(乗用車10%、商用車5%)、エンジン(5%)、タイヤ(5〜10%)、テレビ(5%)等に関税が課されている。5〜10%という水準ではあるが、日豪EPAによりこれらの関税が撤廃されれば、それだけ日本製品の価格競争力が増し、日本からの輸出増も期待され得る*1。他方、米豪FTAにより、既に米国製品に対する関税はゼロ又は段階的に引き下げられており、米国企業との対等な競争条件を確保するためにも、関税引き下げは急務である。

*1 実際、豪タイFTAが2005年1月に発効した結果、日本のあるメーカーがタイで生産する自動車の豪州への輸出が伸びている。日豪EPAにより、同じ効果が日本からの輸出にも生じると予想される。

(4) 税制

移転価格税制の適用により、日豪間で二重課税が発生している。この場合、両国間の租税条約により、両国の当局による相互協議で解決が図られることになっているが、努力規定にすぎないため、実際には合意に至らないまま、企業の負担となるケースが多い。こうした企業へのしわ寄せを防ぐため、日豪EPAにより当局間の相互協議の円滑な実施を保障すべきである。

(5) 政府調達

豪州はWTO政府調達協定に加盟していないため、豪州政府の調達については、最恵国待遇、内国民待遇といった条件が、法的に約束されていない状況にある。日豪EPAにより、政府調達の自由化が約束されれば、これらの条件が法的に保障されるとともに、約5兆円とも言われる豪州の政府調達市場へのアクセスが改善される。

(6) その他

米豪FTAでは、サービス分野のうち、電気通信、音響映像等の分野で、豪州がWTOサービス協定(GATS)上、約束している水準以上の自由化が約束されている。これらは日本企業が競争力を有する分野でもあり、日豪EPAで同様の成果を得ることができれば、新たな事業機会の創出につながることが期待される。
また、米豪FTAでは、弁護士、会計士、エンジニアといった自由職業サービスについて、資格の相互承認を検討するための共同委員会が設置されている。日豪間でも同様に自由職業サービスの資格や基準の相互承認を検討することは有用であると考えられる。

3.日豪EPAを考える上で特に配慮すべき事項

(1) 農林水産品

日本の豪州からの輸入に占める有税農林水産品の割合は13%(2005年)であり、主な品目は牛肉(8%)、乳製品、小麦、大麦、砂糖等である。
豪州の農業は規模、効率性の面で日本とは桁違いであり、わが国農業が急激な自由化により豪州との競争にさらされると、現在、進めている農業構造改革も頓挫しかねない。したがって、日豪EPAの交渉に当たっては、農林水産品分野のセンシティビティには十分配慮する必要がある。

(2) 非鉄金属

日本は非鉄金属分野で銅、亜鉛、鉛、ニッケル等を生産しており、これらの製品には約3%の関税を課している。豪州はこれらの製品につき大きな輸出競争力を有する。他方、わが国の非鉄金属部門は、諸外国に比べても厳しい環境管理を求められるため、豪州より不利な競争条件を強いられている。日豪EPAの交渉に当たっては、この分野のセンシティビティにも配慮する必要がある。

4.結論

日本にとってセンシティブな品目の取り扱いについては適切な対応が必要であり、また農業構造改革の進捗状況等にも十分に配慮すべきであるが、日豪EPAは両国の産業、消費者にメリットを与え、日豪間の経済関係のより一層の強化に資するものである。したがって、現在実施されている政府間共同研究においてEPAのメリット、デメリットを早急に検討し、できるだけ早く日豪EPA交渉を開始することを強く求める。

以上

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