[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

M&A法制の一層の整備を求める

2006年12月12日
(社)日本経済団体連合会

M&A法制の一層の整備を求める(概要) <PDF>


I.M&A法制の見直しの必要性

経団連では、2004年11月に「企業買収に対する合理的な防衛策の整備に関する意見」をとりまとめ、企業価値を毀損する恐れのある買収に対し一定の歯止めを設けるという観点から、企業買収に対する合理的な防衛策を早急に整備するよう求めてきた。その後、法務部会、企業統治委員会をはじめとする自民党ならびに関係各省庁の多大な努力により、本年5月には会社法が施行され、また6月には証券取引法が改正され、段階的な適用を経て来夏には金融商品取引法として施行されることとなっている。
しかしながら、企業価値を毀損したり、技術流出等国益を損なうM&Aに対する全般的な法整備は欧米に比し依然として脆弱であり、株主保護の観点からも不十分な点がある。またわが国ではM&Aに対する理解と経験が欧米諸国に比し、成熟しているとはいえず、これに関する裁判例も充分積みあがってはいない。
とりわけ製造業においては、長年にわたり培われた技術力、研究開発能力の海外流出によって、わが国全体の国際競争力が失われ、ひいては国益を損なう事態になりかねない。
そのような中、来年5月には1年延期されていた会社法の合併等対価の柔軟化が施行される。合併等対価の柔軟化は、企業再編の円滑化につながるが、特に「三角合併」の場合、消滅会社の株主に交付される親会社の株式には、何ら制限がないため、合併に反対する株主に与えられる買取請求権のみでは、株主が損害をこうむる恐れがある。例えば、言語、準拠する会計制度、情報開示の範囲などがわが国のそれと異なるため、わが国の株主には理解が困難な状況が発生することが懸念される。今後、合併等対価の柔軟化が施行されれば、外国企業が現金を用いることなく日本企業を100%子会社化する道が開かれ、これを契機として敵対的買収を誘引し、これまで以上にM&Aが活発化し、不測の事態が生じることが予想される。
合併等対価の柔軟化については、会社法施行規則附則第9条において、来年5月の施行までに、「必要な見直し等の措置を講ずる」とされている。この機会に、会社法施行規則のみならず、幅広くM&A法制全般を見直し、総合的な法整備を早急に行うべきである。

II.欧米諸国におけるM&A法制の現状

M&Aに対する法制は欧米においても各国様々であり、国際標準は存在しない。
米国においては、いわゆるポイズン・ピルをはじめとする強力な買収防衛策を取締役会限りで導入・発動でき、これが広く普及している。加えて、制度的にも、敵対的買収の対象企業の少数株主やステークホルダーが不当な不利益を被ることのないよう、敵対的買収者による合併を制限する事業結合規制立法等、不適切なM&Aを規制するための措置が多くの州の法令で講じられている。また、株主保護の観点から、米国上場企業を外国企業が株式を対価として合併、買収する場合には、SOX法への対応を含め、米国に上場するのと同様の詳細かつ米国会計基準に準拠した届出・開示が求められる。その結果、合併・買収対価としてはSEC届出株が用いられるケースがほとんどである。さらには、国防上・経済上の安全保障の観点から外資による国内企業の買収を包括的に規制するエクソン・フロリオ条項も存在する。また、NYSEやNASDAQでは、グーグルやゴールドマンサックスに見られるように複数議決権株式の発行会社を上場させることも認められているなど、上場規則上、多様な種類株式の利用や買収防衛策の採用が柔軟に認められている。
一方、欧州においては、そもそも三角合併のような国際的組織再編法制が存在しないため、国境をまたぐM&Aには、TOBが利用される。その際には、厳格な全部買付義務が定められているため、TOB後に不当な対価による合併を求めるような強圧的な買収がなされる危険は原則として存在しない。また、あくまでTOBであるので、反対する少数株主が、自らの意思に反してその保有株式をEU域外の外国企業の株式と交換される事態が生じることは原則としてない。例外的に、少数株主の意思に反して100%子会社化するためには、買収者が対象会社の株式の90%ないし95%を取得していることが前提となっている。個々の国についてみると、従業員が経営陣と共同で経営上の意思を決定する制度を有する国や、ポイズン・ピルの適法性が立法により確認されている国などがあり、実質的に敵対的買収を困難にする制度が確立されている。

III.M&A法制の早急な整備

わが国においても、株主の保護、企業価値を損なうM&Aの防止、国家安全保障に係る技術流出の防止等の国益の保護といった観点から、下記のような法令整備を早急に行うべきである。
なお、経団連としては、対日直接投資の増加のためには、法人実効税率の引下げを含め、法人課税の抜本改革などにより、魅力ある事業環境を総合的に整備することが先決であると考える。

《株主の保護及び企業価値を損なうM&Aの防止の観点からの法令整備》

1.合併等対価の柔軟化に対する規律の強化

消滅会社が上場会社である場合、現金又は日本上場有価証券(あるいは日本の上場基準を満たす有価証券)以外を対価とする合併の決議要件は、たとえば特殊決議とするなど、厳格化すべきである。
また、現金又は日本上場有価証券(あるいは日本の上場基準を満たす有価証券)以外を対価とする合併については、ディスクロージャーを徹底するとともに、消滅会社の役員に対価に関する厳しい説明責任を負わせるべきである。

2.事業結合規制立法の整備

米国デラウェア州法では、敵対的買収者が15%以上の株式を取得した場合、以後3年間は、敵対的買収者以外の総議決権の3分の2の賛成等がなければ合併はできない。我が国でも、濫用的なM&Aを規制するため、このような制度的措置を設けるべきである。

3.TOB制度の見直し

TOBの対価が現金又は日本上場有価証券以外の場合、欧州のように、株主に現金との選択権を与えることを義務付けるべきである。

4.上場規則の見直し

上場規則における多様な種類株式や多彩な買収防衛策の利用の許容、上場企業を非上場企業が吸収合併する等の場合の厳格な行動規制の制定等を行うべきである。

《国家安全保障に係る技術流出の防止の観点からの法令整備》

5.外国為替及び外国貿易法(外為法)等の強化

外為法では、国の安全等に影響するおそれがある一定の投資に限り、事前の届出が必要とされているが、当該投資の態様によっては、技術の流出等により国内の経済基盤に深刻な影響を与え、あるいは国家安全保障を損なう事態を生じることが懸念される。特に最近では、欧米のみならず、経済成長の著しい国においても国家の資金力等を背景に巨大企業が出現しており、国際的なM&Aに乗り出している。
こうした観点から、米国のエクソン・フロリオ条項に準じ、安全保障の観点から規制対象とすべき生産・技術基盤の範囲等を早急に見直し、法改正の必要があれば、次期通常国会で行うべきである。

《企業組織再編成に係る税制の公正性の観点からの法令整備》

6.税制適格要件の維持

三角合併についても組織再編成税制の適格要件を厳格に適用し、とりわけ事業関連性要件は、合併法人と被合併法人との間でのみ判断する制度を維持し、事業を行っていない子会社(ペーパーカンパニー)を通じた三角合併については課税繰り延べを認めるべきではない。

以上

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