「ユニバーサルサービス制度の将来像に関する研究会」報告書案への意見

2007年11月5日
(社)日本経済団体連合会
情報通信委員会
通信・放送政策部会

1.はじめに

ユニバーサルサービスについては、現在、加入電話アクセス、公衆電話、緊急通報等の全国均一サービスの提供を維持するため、各通信事業者が資金を拠出する基金制度が設けられている。そして、この拠出については、通信事業者の負担はほぼ100%最終的にユーザーに転嫁されている状況にある。
また、現行の基金制度は、通信の中心的担い手が固定電話のみであった状況を前提に設計された制度となっている。しかし、移動電話、衛星通信、ブロードバンドサービス、IP電話、無線LAN、Wi-Fi、WiMAXなど通信手段の多様化が一層進むなか、ユニバーサルサービスそのものの必要性の是非も含め、具体的なサービス確保のための最適な形について新たな方向性を検討すべき段階に差し掛かっている。
このような状況の下、総務省の標記研究会において、急速な技術革新による市場環境の変化を踏まえた上で、ユニバーサルサービス制度の見直しの検討がなされていることは有意義であるが、今後、現在の基金の最終的負担者であるユーザーの意見をより重視していく姿勢が求められる。
そこで、報告書案に対して、企業ユーザーの立場から意見を述べる。

2.「制度見直しに際しての基本的視点(P.3〜P.5)」について

今後のユニバーサルサービス制度のあり方を検討する際には、政府の政策によって、特定の事業者が特に有利または不利に取り扱われることのないよう「競争中立性」を確保する必要がある。また、急速な技術革新のなかで、新技術が円滑に市場に投入されるためには、特定の技術が政策上、特に有利または不利に取り扱われることのないよう「技術中立性」を確保することも重要となる。
この点、報告書案においても、ユニバーサルサービス制度の見直しを行う際の基本的視点として、「競争中立性の確保」、「技術中立性の確保」が挙げられており、妥当である。
また、報告書案においては、「PSTNからIP網への移行への配慮」についても制度見直しの基本的視点の一つとして示されているが、いつフェーズ2に移行することになるのか、PSTNの廃止時期を含むIP網への移行計画が明確に示されることは、今後のユニバーサルサービス制度を検討する上で重要である。また、PSTNが廃止されるのであれば、それはユーザーである企業にとっても大きな影響を及ぼす。したがって、移行計画が可能な限り早急に明らかにされ、その後速やかに開示されることが必要である。

3.「ユニバーサルサービス政策の目的(P.6〜P.10)」について

報告書案では、ユニバーサルサービス制度の従来からの構成要件として、不可欠性、低廉性、利用可能性の三つを指摘した上で、今後もこれを維持することが適当としている。さらに、「ユニバーサルサービスの目的は不可欠性、低廉性、利用可能性を確保することにあるとした場合、これらはいずれも地理的格差の解消を目的とするものであり、現行制度において、所得格差やリテラシー格差の解消を図る社会福祉政策とは一線を画するものである」、「所得格差やリテラシー格差に基づく通信サービスの利用格差の是正については、あくまでその政策目的に照らして、社会福祉政策等の観点から措置を講じることが適当である」と述べている。
しかし、地理的格差の解消を目的とするのであれば、それは社会政策の一部であり、国や地方公共団体が主体的に担うべき役割であるとも考えられる。現在のように、ユーザーおよび通信事業者の負担において地理的格差の解消を図ることが適当なのか等、制度自体のあり方についても根本的な検討を行うべきである。
昨今の急速な技術進展、市場環境の変化を踏まえれば、(特にフェーズ2における)ユニバーサルサービス制度のあり方を検討する際には、既存の基金制度を所与として検討するのではなく、ユニバーサルサービス制度自体の必要性等を含め、原点に立ち戻る形で議論するべきである。

4.「フェーズ1における制度見直しの方向性(P.13〜P.30)」について

報告書案では、2010年代初頭までとそれ以降をそれぞれフェーズ1とフェーズ2に分けた上で、ユニバーサルサービス制度のあり方について検討し、フェーズ1については、対象サービスの範囲等を含め、現行制度の枠組みを維持することを基本とするのが適当と結論付けている。
そして、フェーズ1においては、加入電話の加入者が音声電話の過半を占め、その利用者に対してサービスを維持することが重要であり、現時点では、光IP電話、携帯電話、WiMAX等モビリティのあるサービスをユニバーサルサービスとして位置づけることは時期尚早としている。
この点、フェーズ1においても技術中立性の確保が重要であり、加入電話をユニバーサルサービスと定めることを基本とした政策をとることにより、PSTNからIPネットワークへの移行が抑制されることがないように注意すべきである。

5.「フェーズ2における制度の在り方(P.31〜P.46)」について

報告書案では、フェーズ2の段階においては、ユニバーサルアクセスを視野に入れて、現行のユニバーサルサービス制度を維持することが妥当だという結論が最初にあるように見受けられる。しかし、IP化の更なる進展、新技術の登場等、現在の環境とは大きく異なる2010年代初頭以降のユニバーサルサービス制度のあり方を考えるにあたっては、既存の制度の延長線上で議論するだけでは不十分であり、根本に立ち返る必要がある。すなわち、フェーズ2におけるユニバーサルサービス制度のあり方を検討する際には、誰に対するどのようなサービスがユニバーサルサービスであるのか再定義し、範囲の確定、提供主体、受益者となる対象について再検討すべきである。その際、極力、自由競争的な市場の中で、ユニバーサルサービスが確保されていく方向性を原則とするべきである。
ユニバーサルアクセス概念については、導入によって基金が肥大化し、ひいてはユーザーの負担が増大しないように慎重に検討する必要がある。この点、現行の基金制度を最終的に通信サービスユーザーの負担において維持するのであれば、国会による審議を経るなど、基金の総額の増大に歯止めをかけるための方策が不可欠である。また、受益と負担の関係が理解しやすい簡素で透明性のある基金制度とし、負担の根拠、仕組み、規模など、積極的な情報開示を行い、ユーザーの同意を得る必要がある。
また、ユニバーサルアクセスは多様な手段によって提供可能であり、有線・無線を含む種々の組み合わせが考えられることから、具体的なユニバーサルアクセス確保の形態についても踏み込んだ検討をするべきである。

6.通信・放送融合との関係について

今後、通信と放送の融合がいっそう進むなか、「ユニバーサルサービス」の概念は変化していくと考えられることから、報告書取りまとめにあたっては、「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会」等における検討と整合性のとれたものとする必要がある。

以上

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