建築確認審査の改善を求める要望

2007年12月11日
(社)日本経済団体連合会

  1. 耐震偽装事件を契機に、建築確認、審査の厳格化を内容とする改正建築基準法、改正建築士法が、本年6月に施行された。これにより、建築物に対する安全性と信頼性が大幅に高まることが期待される。

  2. しかし、改正法の施行に先立ち、確認審査手続きの運用基準の明確化やその周知徹底などが十分ではなかった。そのため、特定行政庁や指定確認検査機関では、些細な事項まで修正を指示したり、本来、構造計算書の提出が不要な案件まで提出を求めるなど、過度に慎重で厳格な対応がとられる結果となった。さらに、法改正により新設された構造計算適合性判定機関の判定員が不足し、構造計算の迅速なチェックに有効な「大臣認定プログラム」も完成していない。

  3. こうしたことから、建築確認申請前の事前相談や審査期間が長期化し、全建築物の着工床面積は、本年7〜10月の4カ月連続で前年同月の水準を大幅に割り込んでおり、収束の見通しも立っていない。

  4. 現在、個人消費の動きは鈍化し、設備投資も高水準ながらも増勢は一服するなど景気は減速している。
    言うまでもなく、住宅、不動産、建設関連産業は裾野が広く、改正法施行に伴う影響は、既に素材、建設機械、内外装といった業界にまで及んでいる。とりわけ、地方の中小工務店や設備業者については、資金繰りが厳しくなるなど、深刻な事態に直面している。
    こうした中にあって、今回の法改正に伴う混乱をきっかけに企業が新工場や業務施設といった設備投資の拡充を躊躇し、また個人も住宅投資、さらには耐久消費財の消費を手控えることになれば、景気の先行きは、さらに不透明感が増す。

  5. したがって、わが国経済の持続的かつ安定的な成長を確保するとともに、今回、導入された制度を確実に定着させ国民の居住環境を将来にわたって安心、安全なものにするとの観点から、国は、正常化に向けたスケジュールを明確化し、あらゆる対策を早急に講ずるべきである。
    具体的には、下記3点を要望する。

    1. (1) 建築物の安全を確保し、国民の信頼を得る観点から、構造計算に関する大臣認定プログラムを一刻も早く完成し普及させるとともに、法改正によって新設された構造計算適合性判定の仕組みを定着させるため、構造計算適合性判定員を早期に育成、増員すべきである。

    2. (2) これまで国は、建築基準法施行規則の改正や運用に関するマニュアルを作成し、特定行政庁、指定確認検査機関、建築士などに対する説明会や講習会などを開催してきたが、今後とも継続的に改正趣旨の浸透、徹底を図る努力を行うべきである。

    3. (3) また、国が打ち出している中小事業者への金融円滑化に向けた方策が、実効性あるものとなるよう、その周知徹底を図るべきである。

以上

【参考資料】

1.建築基準法、建築士法の改正概要

建築確認、審査の厳格化を内容とする改正建築基準法、改正建築士法が2006年6月14日可決、同年6月21日に公布、2007年6月20日に施行された。

  1. (1) 構造計算適合性判定制度の導入
    一定の高さ以上(木造:高さ13m超または軒高9m超、鉄筋コンクリート造:高さ20m超、鉄骨造:4階建て以上)の建築物を対象に、建築確認申請提出後、都道府県知事から指定を受けた構造計算適合性判定機関による構造審査(ピアチェック)を義務付け

  2. (2) 建築確認審査期間の延長
    (1)で対象とされた建築物については、建築確認期間を21→35日(最長で70日)に延長

  3. (3) 「確認審査などに関する指針」の制定とそれに基づく厳格な審査(全ての建築物が対象)

2.建設投資への影響

7月8月9月10月
新築住宅着工戸数 (万戸) 8.2
(▲23%)
6.3
(▲43%)
6.3
(▲44%)
7.7
(▲35%)
非居住用建築物着工棟数
(棟、民間建築主の建築物のみ)
7,223
(▲22%)
5,032
(▲44%)
5,091
(▲44%)
5,932
(▲32%)
非居住用建築物着工面積 (万m2) 510
(▲21%)
385
▲43%)
297
(▲54%)
330
(▲39%)
全建築物着工床面積 (万m2) 1243
(▲23%)
982
(▲42%)
916
(▲45%)
1104
(▲32%)
カッコ内は前年同月比

3.構造計算適合性判定員について

  1. (1) 法改正によって義務付けられた構造計算適合性判定は、判定員によって行われるが、判定員になるためには国土交通省が関わる日本建築防災協会の講習会の受講が必要であり、その受講要件を国土交通省令で下記の通り定めている。

    1. 大学において建築構造を担当する教授もしくは准教授
    2. 試験研究機関において建築構造分野の試験研究の業務に従事し、高度の専門的知識を有する者
    3. 国土交通大臣が 1.、2. と同等の以上の知識及び経験を有すると認めた者
      3. については、一級建築士として一定期間の実務経験を有することが原則とされている。
  2. (2) 国土交通省では、本年4、5、9月に構造計算適合性判定に関する講習会及び演習を行った。このうち、4、5月の演習の結果、構造計算適合性判定員候補者名簿に登載されている数は、1,538人 (2007年9月現在)。
    さらに9月の演習の結果、審査能力があると認められた者は395人であり、今後、判定員候補者名簿への登載者数は増加する見込みである。しかし、その多くは建設会社や設計事務所などで実務を行う構造設計専門家であり、構造計算適合性判定機関と兼務で業務を行っているため、十分な時間が取れない状況にある。

4.構造計算に関する大臣認定プログラム

  1. (1) 構造計算とは、建物にかかる様々な荷重や力(地震、風、雪)に対して柱や梁、壁などの位置や寸法、鉄筋の量などが適正かどうかを確認する計算のことである。構造計算の際、手計算では時間を要するため、構造計算用のプログラムが使用される。

  2. (2) 大規模な建築物の場合、構造計算書は数百ページに及ぶケースもあるが、建築士が国土交通大臣の認定を受けたプログラムを使用して構造計算を行った場合、その計算過程の部分の書類の審査は省略することができる。
    したがって、大臣認定プログラムは、構造計算に関する迅速なチェックに資する。改正建築基準法の施行前には106種類の大臣認定プログラムが存在したが、改正により認定は無効となった。改正建築基準法に基づく大臣認定プログラムは2007年12月6日現在、存在しておらず、審査期間の長期化の一因となっている。

5.建築関連の中小企業への対策について

経済産業省と中小企業庁では、今回の改正建築基準法の施行に伴う建築確認審査の長期化によって建築関連の中小企業の業況が悪化していることを踏まえ、以下の措置を講じている。

  1. (1) 特別相談窓口やセーフティーネット貸付の適用等 (2007年10月9日)

    1. 政府系の中小企業金融機関(中小企業金融公庫等)、信用保証協会、主要商工会議所、各地域経済産業局等において、中小企業に対する経営上の相談窓口を設置した。
    2. 政府系の中小企業金融機関において、セーフティーネット貸付(経営環境変化対応資金)の利用を可能とした。
    3. 政府系の中小企業金融機関においては、建築関連の中小企業に対して、実情に応じて返済を猶予するなど、返済条件の変更に対応した。
  2. (2) セーフティーネット保証の対象業種の追加指定 (2007年11月27日)
    建築工事業、大工工事業、鉄鋼卸売業など15業種を、中小企業信用保険法に基づくセーフティーネット保証の対象業種に追加指定した(指定期間は2007年11月27日から2008年3月31日まで)。これにより、対象業者は、金融機関から信用保証協会の保証付融資(保証金は融資額の約1%程度)を受けることができる。

以上

(参考) 新しい建築確認手続き等の円滑化に向けた課題 <PDF形式>


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