サブサハラ・アフリカの開発に関する意見

2007年12月18日
(社)日本経済団体連合会

来年はわが国でTICAD IV(アフリカ開発会議)とG8サミット(主要国首脳会議)が開催され、アフリカ開発をめぐって活発な議論が行われることになり、わが国に対しても国際社会の責任ある一員としてアフリカ開発へのさらなる貢献が期待されている。また、昨今、資源・エネルギー需給が逼迫する中、石油・鉱物資源の供給源としてのアフリカに対する注目が内外ともに高まっている。

こうした中、日本経団連はSADC(南部アフリカ開発共同体)が今後のアフリカ発展のために重要な位置を占めるとの観点も踏まえ、10月11日〜18日、南アフリカとアンゴラに企業の実務担当者を中心とする経済調査ミッションを派遣した。調査団は、両国において主要閣僚と懇談したほか、アンゴラでは石油・LNG基地や国立地雷除去機関の訓練センターも視察した。

調査団は一連の懇談や視察等を通じ、アフリカにおいて一部安定成長路線に乗りつつある国が見られるものの、わが国がサブサハラ諸国の経済社会の安定と繁栄に向け、官民がそれぞれの役割を発揮しながら連携して取り組む意義と可能性があることを再確認した。

今回の調査団の成果を踏まえ、われわれはサブサハラ・アフリカの開発に関し、以下のとおり考える。

1.アフリカにおける円借款対象国の拡大と迅速な供与

わが国ODAはこれまで主にアジアを対象に、途上国の開発に寄与してきたが、中でも経済社会インフラの整備については、円借款が大きな成果をあげてきた。その意味で、本年6月に公表された「円借款迅速化について」の方針は、円借款の魅力を高めるものであり、大いに評価される。今後は、同措置が着実に実施されるよう期待する。

わが国政府においては、相手国政府の開発効果の早期発現のためにも、同方針に従い、円借款の迅速化を着実に進めるとともに、サブサハラ・アフリカ地域における供与対象国については、当面、わが国企業の進出が期待されるアンゴラ、ガーナ、赤道ギニア、マダガスカル、ケニア、ザンビアなどに早期に開始または拡充することを求めたい。

2.民間主導プロジェクトに対する円借款等による補完

わが国の援助は円借款で開発途上国の投資環境を整えた後、民間投資を呼び込む手法がこれまで一般的であったが、今後わが国企業のアフリカ進出を促進し、わが国のアフリカ支援の効果を高めるためには、民間主導のプロジェクトを円借款や技術協力・無償資金協力で補完、支援する仕組みを構築すべきである。特に、エネルギー・資源の安定確保につながるようなプロジェクトに民間企業が取り組む際には、制度・組織の改善、関連インフラの整備、人材養成等において、わが国政府の後押しを期待する。また、プロジェクト形成の初期の段階から、PPP(官民パートナーシップ)等を用いて官民連携プロジェクトを積極的に推進すべきである。

民間が推進する事業が地域経済の活性化に資するケースは少なくない。民間事業の周辺分野である道路・電気・通信等のインフラ開発、教育・医療・環境等の公共サービスの改善をODAによって実施すれば、経済の波及効果はさらに大きく、地域住民の雇用の拡大や生活向上に資することが期待される。とりわけアフリカ支援については上記の観点を考慮すべきであり、ODA予算についても拡充すべきである。

3.無償資金協力の弾力化

現行の無償資金協力は、資機材の高騰、為替の大幅な変動といった不測の事態をはじめ、入札後の諸要因による見積もりの見直しや設計変更が原則認められない。異常気象や治安の悪化などがあった場合でも、一旦契約した工事費および工期内での完成が厳格に求められる。このように受注企業に過度のリスクを負わせる可能性のある片務契約となっていることから、わが国企業の中には無償案件を敬遠する動きがある。アフリカ案件については、特にその傾向が顕著に見られる。政府がアフリカ支援を真剣に考えるのであればなおのこと、円借款では認められている予備費の計上を無償資金協力でも認めるとともに、設計変更の簡素化、実施期限の柔軟化など制度の抜本的な見直しを行い、民間企業が無償案件に参加しやすくなるようにすべきである。

また、とりわけ無償資金協力についてはコスト縮減要請が強いが、企業努力にも限界があり、わが国として質の高い支援を行う必要性もあることから、コスト縮減要請を見直し、企業が適正利益の確保によって持続的に参画できるようにすべきである。その際、無償案件1件あたりの予算規模の拡大も検討すべきである。加えて、供与後の維持修繕費用の確保も重要である。

4.技術協力による人材育成の拡充

近年、サブサハラ・アフリカにおいては、資源・エネルギーを有する国は総じて高い成長を遂げている。しかしながら、そうした国であっても雇用の広がりは限定的であり、人材の層の厚みにも欠ける。とりわけ若年層の失業問題は、国の安定を損なう要因となり、ひいてはテロの温床にもなりうることから、解決・緩和に向けた取り組みが急がれる。

わが国の援助は、人づくりを重視してきており、産業人材の育成でも世界各国で実績が挙がっている。こうした経験を踏まえ、サブサハラ・アフリカ諸国への職業訓練学校の創設・運営への協力、交換留学生制度の導入、青年海外協力隊やシニア海外ボランティアの派遣増などを意識的に展開すべきである。

5.日本の先進技術や経験・ノウハウを活かした支援

アフリカにはポスト紛争国が少なくない。例えば無数の地雷が敷設されたままになっており、地域住民が地雷の恐怖と隣り合わせで生活している国もある。今回調査団が訪問したアンゴラも、国連によれば地雷埋設数が世界第2位と推定されている。こうした国が農業再開、学校建設、基礎インフラ建設等による復興を実現するためには、地雷除去が不可欠である。この点、わが国の官民一体で開発した世界最先端技術を装備した地雷除去機が各国で実績をあげていることに注目すべきである。

わが国政府は、企業の有するこうした先進技術を基礎として、地雷除去機の供与、地雷除去活動を行う人材の育成を、NGOとも連携しつつ推進すべきである。加えて、除去後の地域コミュニティの生活水準向上のため、企業のマーケティングのノウハウ等を動員し、流通網の構築や加工による生産物の付加価値増大に寄与することも重要である。こうした官民連携による人道支援から地域復興までのパッケージでの支援を「日本らしい」支援として積極的に実施し、その成果を世界に発信すべきである。

われわれは、今回訪問したアンゴラをこうした総合的地域復興支援のモデルケース国とすることを提案する。

その他にも、環境技術をはじめ、わが国民間企業が有する先進技術や経験・ノウハウが活かせる分野は多い。こうした民間の知見を大いに活用すべきである。

6.官官連携の強化と官民の協力

わが国はアジア諸国に対しては、これまで官民力を合わせてその経済開発に協力し、大きな成果を上げてきた。しかしながら、アフリカについては地理的条件や歴史的経緯もあり、双方の交流は必ずしも活発とはいえず、官民ともにアフリカに関する知見は限られている。

一方、アフリカ諸国が総じて困難に直面している工業化の問題等に対しては、わが国が官民で培ってきた自国の経済成長ならびにアジア支援の経験が有効である可能性も高く、アフリカ側からも期待が大きい。

わが国が官民をあげてアフリカ支援を行うためには、アフリカ向けODA予算の拡充のみならず、輸出・投資金融、事業開発等金融といった国際金融機能のさらなる活用、石油天然ガス・金属鉱物資源開発支援強化、貿易保険の弾力的運用など、政府側においてもより積極的に関与する覚悟が不可欠である。あわせて在外公館で収集している現地の経済・政治、資源・インフラ開発などの一般情報を、わが国企業が共有できる制度づくりも重要である。アフリカ支援においては、官民の率直な対話と連携が求められる。

以上

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