産業構造審議会安全保障貿易管理小委員会制度改正ワーキンググループ
「最終取りまとめ(案)」等に対する意見

2008年2月25日
(社)日本経済団体連合会
貿易投資委員会
輸出管理タスクフォース

(注:原本における丸付き数字は <n> で表記)

企業活動にとって、国際的な平和と安全の確保は極めて重要であり、各企業が法令を遵守し安全保障貿易管理を着実に行う必要があることは言うまでもない。他方、企業活動のグローバル化や国際的な管理強化の流れの中で、安全保障貿易管理に関係する企業や管理すべき取引の裾野が拡大しており、制度のあり方如何では、企業の負担が過大となり、国際競争力が損なわれることが懸念される。このような問題意識に立って、日本経団連では、昨年3月、提言「実効ある安全保障貿易管理に向けて制度の再構築を求める」を取りまとめた。
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2007/021.html参照)

同提言では、安全保障のための貿易管理の重要性がかつてなく高まっていることを強調するとともに、制度の再構築にあたって、<1>簡素でわかりやすい制度とすること、<2>安全保障と貿易円滑化のバランスを確保すること、<3>国際条約や国際合意を基本に諸外国の制度やその運用との調和を図ること、に留意すべきであるとしている。

そこで、当タスクフォースでは、先般、パブリックコメントに付された産業構造審議会安全保障貿易管理小委員会制度改正ワーキンググループ「最終取りまとめ(案)」(以下、「最終取りまとめ(案)」と記述)および同ワーキンググループで提示された「『居住性により判断される規制のあり方』に係る2つのオプション」(以下、「2つのオプション」と記述)について(http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=595208001&OBJCD=&GROUP=)、下記のとおり改めて意見を取りまとめた。実効ある安全保障貿易管理制度の確立に向け、最終取りまとめ、ならびに具体的な制度設計にあたっては、下記意見を十分斟酌されたい。

(括弧内の頁数は「最終取りまとめ(案)」の数字)

1.「最終取りまとめ(案)」の「II.制度改正の基本的視点」中、「(2) 対応の基本方針」(2〜3頁)について

「最終取りまとめ(案)」が掲げた「時代の変化に対応した制度システムのアップグレード」、「規制の重点化」の2つの安全保障貿易管理政策の基本的な方針に異存はない。そのような考え方に基づき、予て日本経団連として主張している安全保障貿易管理法体系の整理・簡素化、管理業務のIT化・効率化を可能とするような規制品目リストの他国との整合性確保など制度の再構築を進められるよう、この際、改めて要望しておきたい。

2.「最終取りまとめ(案)」の「III.個別制度改正の方向性と具体化」中、「1.大量破壊兵器等関連技術の移転に係る対応」(3〜6頁)について

「(1)安全保障上特に重要な技術の管理」(4〜5頁)では、核兵器関連およびミサイル関連技術など「特に機微度の高い技術」について、企業等の組織に対して予防的・補完的な管理措置を法的に求めることが適当とした上で「取り組みの基本的な方向やベースとなる最低限の取り組みを明らかにするため、国による指針が検討されることが適当である」(5頁)とされているが、同指針については、各企業における現行の情報管理レベルを十分踏まえたものとすべきである。

また、「(2)居住性により判断される規制のあり方」(5〜6頁)については、<1>国外に転居した元居住者による技術提供取引を規制対象に加える、<2>技術を記録した媒体の輸出および技術情報の国外への電子的移転の一部を新たに規制する、という2つのアプローチが考えられるとしている。

まず上記<1>(「2つのオプション」ではA案)については、わが国の管轄権の及ぶ範囲が問題となることに加えて、「2つのオプション」の【評価】において「企業の役割」に言及しているように、元居住者個人を規制対象とするだけでなく、企業に何らかの管理が求められることが想定されること、さらに企業・大学等における外国人の研修・留学等にマイナスの影響を及ぼす恐れがあることなどから問題が多い。一方、上記<2>(「2つのオプション」ではB案)についても、具体的取引が未定の段階での規制となり、現行取引規制と異なる体系を導入することになるため、制度設計如何では日本経団連として主張している法体系の整理・簡素化に逆行する、あるいは事業活動に対する過剰規制につながる恐れなしとしない。

「(1)安全保障上特に重要な技術の管理」および「(2)居住性により判断される規制のあり方」を通じて、「技術移転への対応がより難しさを増す中で、いかにして現行規制を実効的にするかという点が重要である」(3頁)との問題意識は共有するが、実効性確保という理由から徒に企業の管理負担を求めることのないよう、国際的な平和と安全を脅かす技術、行為に限定して高いフェンスを設けることが肝要である。

3.「最終取りまとめ(案)」の「III.個別制度改正の方向性と具体化」中、「2.ワッセナー・アレンジメント合意による非リスト品目向け規制に係る対応」(6〜8頁)について

東西冷戦期のように西側陣営の軍事的優位を保つことが主要な目的であった時代と異なり、テロリスト等の非国家主体をも念頭に置いた対応が求められ、また、軍事技術と民生技術の境界線がますます曖昧になりつつある今日にあっては、企業など民間部門における安全保障貿易管理の適切な実施もさることながら、実効性という観点からは、規制当局によるインフォームが安全保障貿易管理の基軸に据えられるべきである。そのような管理のあり方こそ、2003年12月のワッセナー・アレンジメント合意が予定したものであると理解する。この点、「最終取りまとめ(案)」が規制の発動に関してインフォーム要件を原則とした点は評価できる。

この上は、非リスト品目については、基本的に国連武器禁輸国に対する輸出の用途確認に重点を置くことができるよう、法制面等の手当てを行うべきである。また、当局によるインフォームにあたっては、対象を広く指定するのではなく、「最終取りまとめ(案)」が指摘するとおり、「極力懸念ある輸出に的を絞って規制を行う」(7頁)よう、この機会に改めて要望しておきたい。

4.「最終取りまとめ(案)」の「III.個別制度改正の方向性と具体化」中、「3.3つの視点に立って進めるべきその他の課題への対応」(8〜9頁)について

「企業の海外展開に伴う手続きの簡素化」、「輸出管理先進国に対する規制の合理化」、「貨物等リストの記述のあり方の見直し」のいずれも「最終取りまとめ(案)」が指摘するように規制の重点化の観点から有意義な措置であり、できる限り早期に実行されることを要望する。

なお、「貨物等リストの記述のあり方の見直し」については、「官民双方が協力して対応の方向につき検討していくことが求められる」(8頁)とされているが、規制リストの記述のあり方にとどまらず、安全保障貿易管理業務のIT化・効率化につながるような見直しとすべく具体的な検討を進めるべきである。

以上

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