2008年4月8日

米国証券取引委員会(SEC)御中

米国SEC公開草案 ファイルNo.S7-05-08に対するコメント

(外国企業の財務諸表提出期間の早期化について)

正本英文 <PDF>
(社)日本経済団体連合会
経済法規委員会企業会計部会
部会長 八木良樹

我々日本経団連は、日本の主要企業約1400社からなる総合経済団体である。日本経団連企業会計部会は、会計基準、開示、監査などに関する課題を検討し、日本企業の意見を取りまとめている。
本書簡は、貴SECにファイリングをする主要な日本企業の意見を集約し、前回「File No. 33-3318」への意見表明に引き続き、今回の標記の公開草案中のForm 20-Fファイリング早期化(Accelerated the Reporting Deadline for Form 20-F Annual Report)の提案に対し意見を表明するものである。

前回の公開草案中に議論として提示されたForm 20-Fのファイリング納期の早期化に対してわれわれは、以下を考慮するようにコメントした。

  1. 最初に、本議論は、英文で作成されるIFRSの財務諸表に限定されるべきものであり、その他一般の外国企業に広げられるべきものではない。特に、日本のSEC登録企業においては次に掲げる時間的な制約がある。

    1. 1) 日本のSEC登録企業は、日本国内法(金融商品取引法)に基づき決算日後3ヶ月で開示作業、監査手続きを終えた上で、Form 20-Fに伴う開示、監査手続きを行うという2重の作業を行っており、時間的な猶予を必要とする。
    2. 2) 日本のSEC登録企業は、Form 20-Fの作成にあたって、米国内の開示法制の動向を米国の弁護士等を通じて間接的に、確認、検討しているため、米国での情報理解に時間を要する。
    3. 3) 日本のSEC登録企業は、このForm 20-Fの作成上、英語への翻訳作業があるため、米国企業もしくは、英文にて作成される報告書を持つ国の企業より時間的な猶予が必要である。
  2. 現状、日本のSEC登録企業は、現行の制度で許容されている6ヶ月の期限の中でForm 20-Fの作成工程を設計している。上記 1.を勘案してもなお最終的に早期化が提案される場合には、作成工程の変更のため、適用までに十分な準備期間を設ける必要がある。

今回の貴提案が我々が提出した上記の意見を踏まえたうえで、あらためて項目を分けて意見を求めようとしていることは評価したい。ついては、貴コメント要望に沿って、以下意見を再提出する。

[コメント要望No.9]
「Form20-Fのファイリング納期早期化は投資家にとって有益か」

我々は、Form20-Fの早期化がそれほど投資家の利益に貢献するとは考えない。我々は本国での決算発表とともに決算データをForm6-Kという形でファイリングしている。この決算発表は決算日後概ね45日以内には行われており、おそらく投資家はForm6-Kによって速やかに情報入手し、しかるべく行動を起こし、Form20-Fにおいては整理された様式の中でその確認をおこなっているに過ぎないのではないか。従い、Form20-Fの納期短縮の投資家への利益に与える影響は限定的であると察する。

[コメント要望No.10]
「Form20-Fのファイリング納期早期化は外国登録企業(FPI)に不合理な負荷を課すことになるのか」
[コメント要望No.11]
「もともと外国語で作成し、それを英語に翻訳する必要がある会社には違った納期設定をすべきか」

これについては、前回提出の意見1-1)、2)、3)を再度考慮戴きたい。今回特に、Large Accelerated Filersに対して90日という納期提案があることについて、意見を付け加えたい。 前回意見中の1-1)に記述しているように、日本国内法上の公式開示書類である有価証券報告書の提出期限が3ヶ月であり、同じ納期は、適切な納期設定とはいえない。日本のSEC登録企業の多くは、最初に日本国内法上の公式開示書類である有価証券報告書を作成し、その後Form20-Fを作成している。両者は要求される開示項目が大きく異なるため、たとえ日本の有価証券報告書が作成され基礎となる財務計数が固まっていたとしても、そこから米国のForm20-Fで要求されている開示情報を充足させるに至るまでには、多大な追加的労力を要する。Form20-Fで要求するMD&Aやリーガルに関する部分は独自のものである。特にMD&Aについては近年記述の充実を要求されており、決算データ分析の精度向上を図る必要があり、追加的な時間を要する主要な部分である。
加えて、日本企業の場合、日本語で作成した財務諸表をForm20-F用に英語に翻訳する必要がある。日本語と英語は文法・表現の形式が大きく異なり、翻訳に要する時間は他の言語からの翻訳に比べ、多くの時間を要する。これらを勘案するに、設定納期は、少なくとも90日に加えて相当期間を追加すべきである。
なお、一部の日本企業では、日本基準で財務諸表を作成した後に、米国基準で財務計数を作成しなおし、更に米国基準の開示情報を作成するといった、財務諸表の再作成をしておりこのためにさらに多くの労力と時間を費していることも銘記戴きたい。

[コメント要望No.12]
「Form20-Fの納期は自国の法制とリンクして設定すべきか。もしそうなら、自国のファイリング納期と同様であるべきか、1・2ヶ月遅くすべきか。リンクすべきと考えるなら、自国の法制下での納期を示す書類をForm20-F提出時にSECへ提出する責任をFPIに課すべきか。これによって納期がまちまちになることは投資家に混乱をもたらさないか。」

Form20-Fの提出期限を自国の法制とリンクすることには賛成である。コメント要望No.10、11で主張したように日本企業がForm20-Fを作成するには、日本の法制で要求されている有価証券報告書をファイリングした後、Form20-Fで要求されている開示情報の作成と英語への翻訳という追加作業が必要となる。従って、Form20-Fの提出期限はこれらの追加作業に必要な時間を考慮して、自国の提出期限より一定期間遅く設定されるべきである。自国の法制下での納期を示す書類をForm20-F提出時にSECへ提出する責任をFPIに課すことも可能と考える。また、Form20-F上で自国の法定提出期限を表示すれば、投資家の混乱は発生しないと考える。

[コメント要望13]
「早期化の実行には違った猶予期間がより適切か。例えば、猶予期間は2年である代わりにより長くあるべきか短くあるべきか。」

前回2にて要望した施行までの準備期間が提案されていることは高く評価するが、猶予期間の設定にあたっては、現在、世界各国で進行中のIFRSとのコンバージェンスの趨勢も斟酌すべきであると考える。コンバージェンスの過程では、米国を含め各国の会計基準自体が変更されるので、その為の準備期間も必要となる。即ち、Form20-Fファイリング早期化のための準備作業に加え、コンバージェンスに伴う会計基準変更対応のための準備期間が必要となるので、猶予期間はその分追加で設定されるべき(2年+α)ではないか?

[総括]

ファイリング納期の早期化については時代の趨勢であり、また、財務情報をタイムリーに投資家に開示していくことは企業の重要な責務と認識している。しかしながら、日本の企業にとっては、日本の法制下での報告と貴ルール下での報告は二重作業であることは論を待たない。特にForm20-Fの開示情報の作成と英語への翻訳は日本企業にとって多大な労力を要する作業となるので、そのためには、90日に加えて相当のインターバルがあってしかるべきである。また、移行準備期間については、IFRSとのコンバージェンスの趨勢を見極めたうえで、会計基準変更のための準備期間を追加で設定すべきである。
今回の貴提案が、投資家に財務情報をタイムリーに開示し、米国資本市場をより一層魅力あるものにしていくことは理解できる。しかしながら同時に、財務諸表作成者のコスト、即ち、外国企業にとっての追加コストには格別の配慮を行うべきである。インターバルや猶予期間について実務的対応を考慮した措置がないまま早期化が実行されると、資金調達者としての外国企業にとって、米国資本市場の魅力は低下してしまう点、ご認識願いたい。

以上

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