平成21年度税制改正に関する提言

2008年9月16日
(社)日本経済団体連合会

はじめに

わが国経済は、これまで戦後最長の景気回復を続けてきたが、原燃料価格の上昇や世界経済の減速により内外需が大きなマイナスの影響を受け、足もとで停滞の度合いを強めている。
一方、本格的な人口減少社会が到来する中で、社会保障制度はいたるところで綻びが発生し、財政状況は著しく悪化、また、中長期的な経済活力にも懸念がもたれるなど、将来への明確な展望が失われ、国民の間には閉塞感が漂っている。
一刻も早く景気を回復軌道にのせるとともに、安心できる社会保障制度の確立、財政の健全化、経済成長力の強化を図ることで、国民の将来不安を解消しなければならない。
そのためには、税・財政・社会保障制度の全体を見通して、一体的な改革を進めていかなければならない。そこで、日本経団連では、平成21年度から3年間にわたる消費税を含むパッケージとして、税・財政・社会保障制度の一体改革の具体的な道筋について、検討を進めている。
平成21年度税制改正は、このような一連の改革の第一歩として位置づけられるものであり、まずは、現下の経済情勢を打開するために重点的な税制措置を講じ、抜本改革への基盤を整備すべきである。特に、内需拡大策としての住宅取得促進税制の拡充や低炭素社会の実現に向けた省エネ・環境関連税制の強化、少子化対策の一環としての子育て世帯を中心とする所得税減税、企業活動のグローバルな展開に対応した国際租税制度の見直しなどが重要課題となる。

I.法人課税

法人課税の最重要課題は、グローバルな競争環境に税制を合致させていくことにある。とりわけ法人税率の引き下げ競争が進む諸外国に比べて高止まりしている法人実効税率を、国際的な整合性がとれる水準まで引き下げていくことが最大の課題である。わが国企業の国際競争力強化のみならず、対内直接投資の促進を図り、雇用の確保や所得の増大を通じた持続的な経済成長を図るよう、税制抜本改革の中で法人実効税率を引き下げていくべきである。
法人課税に関し、平成21年度改正では以下のような見直しを行うべきである。

1.国際課税

企業の積極的なグローバル展開は一層拡大しており、海外市場で獲得される利益は年々増加し、わが国の経済成長の大きな原動力になっている。しかしながら、急速度で変化する経済活動の実態に比し、わが国の国際租税制度が、機動的、充分に対応しているとは言い難い。人口減少社会に突入したわが国の発展は、国内需要のみならず、世界各国の成長から得られた経営資源を如何に効率的かつ合理的に活用し、国内成長に結び付けていくかという点に懸かっている。このような観点から、わが国経済の活性化を支える国際租税制度の整備が急務となっている。

(1)外国税額控除制度の抜本的見直し

企業は資金需要や為替・金利水準等を考慮し、海外子会社が獲得した利益や海外に留保された資金を国内に還流する時期や額について判断を行っており、その際、税制がその動きを阻害することがないよう、手当てする必要がある。
現在、海外子会社からの配当に係る二重課税排除のために、外国税額控除制度における間接税額控除が存在するが、配当を行った場合、国際的にみて高税率の法人課税が行われるうえ、制度が複雑であり、煩雑な事務手続きを要するなど、企業の機動的な資金活用の障害となっている。現行制度を抜本的に見直し、海外子会社の留保資金を日本国内に還流させ易くするように、海外子会社からの受取配当金に関して、国税、地方税ともに全額益金不算入とする、簡素な制度に改めるべきである。
また、直接外国税額控除については、繰越期間経過により国際的な二重課税が排除されない可能性が企業の海外活動の制約とならぬよう、繰越限度超過額・控除余裕額の繰越期間を延長するなど、適正な措置を講じる必要がある。

(2)移転価格税制の見直し

移転価格税制については、昨年の事務運営要領改正にもかかわらず、本年に入ってからも、巨額の更正事例が相次いでいる。そもそも、国際租税制度の重要な存在意義は、国際的な二重課税の排除にあり、移転価格の更正も相手国との対応的調整による二重課税の排除が重要な前提である。しかし、昨今の更正事例の中には、相互協議を重ねたとしても、相手国で納付済みの税金を取り戻せる見通しが低いものも多く、結果として企業側の二重課税が解消されないのではないかと危惧され、事業のグローバル展開の大きなリスクとなっている。
二重課税を取り戻し、わが国企業の国際活動を保護することは、国の重要な責務の一つと言える。執行の現場と相互協議担当部局との事前の連携を強化して予め二重課税リスクを低減させるなど、企業が国際競争力を失うことのないよう、執行のあり方を点検する必要がある。また、無形資産や役務提供の取扱い、寄附と移転価格税制の関係などについて、企業の実態・実情を十分把握・配慮して納税者の理解・納得が得られるように慎重に執行すべきである。さらに、二重課税排除の有効な手段である事前確認制度の一層の迅速化、効率化が重要である。また、現在、実際には支配権が及ばない株式保有比率50%の場合についても制度の対象になっているが、これを50%超とするなど、実態に合わせた見直しを図る必要がある。
移転価格税制は、二国間の課税当局の共通認識が重要であり、OECDから公表されている国際的な二重課税の紛争解決手段である仲裁制度の検討を進めるとともに、OECDレベルでの議論をわが国としても積極的にリードすべきである。

(3)タックスヘイブン税制の見直し

近年、中国(法人実効税率25%)やオランダ(法人実効税率25.5%)など、多くの日本企業が進出する国々で法人実効税率が引き下げられる傾向がある。既に、中国については、懸念が生じているところであるが、今後も、各国において法人実効税率の引き下げが実施されることとなれば、多くの国がわが国のタックスヘイブン税制の基準(税率25%以下)に抵触する虞があり、海外に進出している日本企業の事業展開に影響が及びかねない。諸外国の法人実効税率の動向を踏まえ、現行のタックスヘイブン税制の基準を20%未満に引き下げることが必要である。さらに、租税回避行為に該当しない企業の自由な海外展開までが制度の対象となることのないよう、適用除外規定の見直し(例:卸売業における非関連者基準の緩和等)などが必要である。

(4)租税条約ネットワークの充実・拡大の加速

わが国企業が事業展開を行っている国々の中には、わが国との租税条約の整備が不十分又は未締結の国がある。二重課税を排除し、わが国企業の安心かつ確実な海外展開を確保するための国際租税制度整備の一環として、中国、ブラジル、アルゼンチン、インドネシア、中東諸国などの国々との租税条約の改定やネットワークの拡充が必要である。特に、前述の海外子会社からの受取配当金益金不算入制度創設との関係において、親子間配当に係る源泉徴収を免除していくことが重要である。また、技術交流促進の環境整備を図るうえで、使用料に係る源泉徴収の減免も必要である。

2.地方法人課税

日本の法人実効税率が国際的にみて高止まりしている原因の一つとして、実質的に法人税の付加税となっている地方法人二税(法人住民税、法人事業税)の存在が挙げられる。地方法人二税については、景気動向に左右され易く、又、地域偏在性も高いことから、地方の安定財源としては適当ではなく、抜本改革において、地方消費税の拡充などとともに、見直しを図っていくべきである。また、煩雑な事務手続きといった問題も抱えており、早急な改善が必要である。

(1)償却資産に係る固定資産税の見直し

償却資産に係る固定資産税は、収益を生み出す生産財の保有に対する課税であり、企業の設備投資意欲を低下させ、かつ国際的にも稀な制度である。また、設備を多数所有する製造業等の特定業界に負担が偏重しており、課税の公平性からも問題が大きく、廃止・縮減を図っていくべきである。
また、償却資産に係る固定資産税の課税標準については、法人税法において減価償却制度の抜本的な改革を行ったにもかかわらず、旧来の法人税法の方法に依っている点は合理的ではない。法人税法の減価償却の計算方法に合致させ、課税標準の計算方法の整合性を図るべきである。

(2)法人事業税の外形標準課税制度の簡素化

煩雑な法人事業税の外形標準課税の計算については、実務上多大な事務負担が生じており、制度を簡素化すべきである。とりわけ、付加価値割については、報酬給与額等の収益分配額の確定申告書への添付が必要となるため、多大な事務負担やデータの管理の負担が生じており簡素化が必要である。

3.税と会計のあり方

投資活動のグローバル化や企業行動の高度化・多様化に伴い、資本市場のインフラである会計基準の国際的な統一化の重要性が増している。特に、欧米を中心とした世界の潮流は速く、高品質で単一の会計基準策定に向けた活動が急ピッチで進められている。
このような中、わが国税制は、確定決算主義や損金経理要件など、企業会計と密接不可分な関係にあることから、会計基準の国際的な収斂(コンバージェンス)に際して、常に税制上の取扱いが大きな問題となっている。
現在、企業会計基準委員会では、「棚卸資産の評価に関する会計基準」において後入先出法の廃止を、また「企業結合に関する会計基準」において段階的に取得した子会社株式の評価方法の変更等を検討している。コンバージェンスに伴う会計基準の見直しは、企業の国際競争力強化や投資活動の促進に向けたインフラ整備の一環として加速させていくべきであるが、これが安易な課税ベースの拡大となり企業増税につながれば本末転倒である。企業の国際競争力強化の視点から、税制上の対応を図る必要がある。
さらに、世界的な動向を踏まえると、今後2011年までにわが国会計基準の改定が相当程度見込まれる。わが国企業の国際競争力強化に資するためにも、個別の会計基準ごとに税制との調整を図るのではなく、国際的な会計基準は、税制とは別に、金融商品取引法上の連結財務諸表に先行して適用していくなど、柔軟に会計基準のコンバージェンスを行えるよう、税制と会計の基本的なあり方を整理する必要がある。

4.連結納税制度、企業組織再編税制の見直し等

連結納税制度は、企業の連結経営の拡大・深化への対応として平成14年度税制改正において措置されたが、現行制度は、制度導入時の税収対応や過度な租税回避行為防止措置により、未だ充分に普及していない。グループ経営の拡大の実状に即した制度の見直しを行う時期に来ている。具体的には、連結加入時の子会社の繰越欠損金の持込み禁止規定や連結グループ内の寄附金の損金不算入、連結グループ加入時の子会社の時価評価規定の見直し、連結子会社の範囲の拡大、小規模子会社の連結グループへの強制加入除外などを検討すべきである。
また、企業組織再編税制については、組織再編の円滑な促進のために、適格組織再編に係る要件や時価算定方法の明確化などを図るとともに、会社分割の登録免許税の特例措置の適用期限の延長が不可欠である。

5.その他

(1)受取配当金益金不算入割合の見直し等

配当金は法人段階で既に課税されている利益から支払われており、二重課税排除の観点から、法人の受取配当金における益金不算入割合を引き上げるとともに、負債利子控除制度の廃止を含めた見直しを図るべきである。海外子会社の受取配当金益金不算入制度の創設に伴い、国内と国外の子会社の配当に対する税制上の取扱いについて整合性を図ることも欠かせない。また、公開買付けによる自己株式の取得における、個人株主に係るみなし配当課税の非課税措置の適用期限を延長すべきである。
配当政策に対する公平性・中立性を確保する観点からは、大企業に係る特定同族会社の留保金課税の見直しが必要である。

(2)特定の事業用資産の買換え特例(17号)の延長・拡充

長期保有土地等からの買換え特例は、企業の事業再編等に係るコストを低減させ、地域を含む経済活力の向上に寄与している。当該特例が廃止・縮小されるならば、国内における企業の事業再編、産業構造の転換等が停滞し日本の経済活力が損なわれる虞があり、2008年12月末に期限を迎える、特定の事業用資産の買換え特例については、現行80%となっている課税の繰延割合を100%とした上で、適用期限を延長すべきである。

(3)欠損金の繰戻還付の復活、繰越期間の延長

企業は、その時々の景気動向や事業リスク等によって事業年度単位ではやむを得ず損失を計上せざるを得ない場合も生ずるが、企業はゴーイングコンサーンを前提として利潤の追求を目指しており、損失の計上は一時的な現象に過ぎないと言える。現在、適用が停止されている欠損金の繰戻還付制度を復活させることにより、欠損法人の早期黒字化を促進させるべきである。経営が健全化すれば成長のエンジンとなり、税収の安定にもつながる。企業の早期再生の観点からは、企業再生税制における債務免除を行う者の対象範囲に地方公共団体を追加する等の拡充を図る必要がある。
また、欠損金の繰越(現行7年)については、無期限の繰越が可能な英独仏などの諸外国と比べて、不利な制度になっているので、イコール・フッティングを図るべく、繰越期間を延長すべきである。

(4)研究開発促進税制等の拡充

わが国の国際競争力を維持・強化し安定的な経済発展を持続していくためには、わが国産業の強みである「科学技術」の優位性を保っていかなければならない。わが国は、研究費に対する政府負担割合が主要国と比較して最も低い水準に位置しているのに加え、諸外国では競い合って研究開発促進税制の拡充を行っている。わが国においても、平成20年度改正において研究開発促進税制の一部拡充が行われたが、企業の研究開発投資の更なる促進のために、恒久的措置部分の税額控除限度額(現行、法人税額の20%)の引き上げや控除限度超過額の繰越期間の延長等を検討すべきである。また、複数の企業が共同研究を行うオープンイノベーション促進の観点から、現行の鉱工業技術研究組合制度を見直すとともに、見直し後の組合に関する課税関係を維持する等の措置が必要である。

(5)産業活力再生特別措置法に基づく特例措置の延長・拡充

わが国企業の生産性向上を推進するため、産業活力再生特別措置法に基づく計画認定事業者に対して、事業革新設備の特別償却制度や事業再編等に係る登録免許税・不動産取得税の軽減措置の適用期限を延長すべきである。
また、わが国産業の活力の向上の観点から、国外からリスクマネーを呼び込むべきである。新たなリスクマネー供給主体として重要性が高まっているファンドを通じたリスクマネーの供給の促進に向けて、諸外国に比べて負担の重い、1号PEに係る課税や事業譲渡類似課税の見直しを図るべきである。具体的には、ファンドの投資計画が、わが国産業の活性化に資するものであること等の法律に規定する要件に合致する場合、当該計画に投資する海外投資家については、諸外国と遜色ない程度の課税に抑えるべきである。

II.土地・住宅税制

良質な住宅は、国民の財産形成における重要な資産であるとともに、省エネ住宅の普及による地球環境問題等への対応、バリアフリー住宅の普及による高齢化社会への対応、耐震住宅の普及による地震に強いまちづくりの形成など、社会的インフラとしての役割がきわめて大きい。さらに住宅投資は、関連産業も含めた内需主導型経済成長の柱であり、住宅取得を支援する税制の拡充が必要である。

1.住宅関連税制の拡充

2008年末で住宅ローン減税が期限を迎えるが、内需拡大の中核的な刺激策として、住宅取得促進税制のさらなる拡充が必要である。省エネ、バリアフリー、耐震等の一定の性能基準を全て満たす優良な住宅取得を対象に、自己資金・ローンを問わず、総費用を対象とする住宅投資減税制度の導入が必要である。
言うまでもなく、住宅取得に係る住宅ローン減税制度については、若年層も含めた国民の住宅取得を促進する上で果たしてきた役割の大きさを鑑み、適用期限の延長と同時に、現行の借入限度額2000万円の引き上げ、控除率1%の適用期限の延長、所得要件の撤廃等の拡充措置を講じるべきである。
さらに、既存住宅の改修に係る各種特例制度(省エネ改修促進税制、耐震改修促進税制、バリアフリー改修促進税制)についても、期限の延長とともに、拡充が必要である。

2.不動産流通に係る税制の見直し・延長

住宅の新規取得の負担を軽減するとともに、既存住宅の流通を促進するために、不動産流通課税のあり方についても見直す必要がある。不動産取得税については土地及び住宅用建物に係る軽減税率、宅地等の取得に係る課税標準の特例措置を、不動産売買契約書等に係る印紙税については廃止又は軽減措置の適用期限の延長を図るべきである。登録免許税については、本来の趣旨に鑑み、手数料化して取引にかかわらず定額とすべきである。
また、特定目的会社に対する不動産取得税の課税標準の特例措置の適用期限を延長すべきである。

3.法人の土地譲渡益重課制度の廃止

平成20年12月末に凍結措置の期限を迎える法人の土地譲渡益重課制度は、土地バブルの抑制のために導入された制度であるが、現在では政策目的が失われており、廃止すべきである。

4.土地に係る固定資産税の負担水準の均衡化

平成21年度は3年に1度の固定資産税の評価替えの年にあたる。負担水準の均衡化が10年以上の間、課題になっているが、負担水準の統一は未だ達成されていない。商業用地への過重な負担の解消のために、負担水準を60%に一本化すべきである。
また、市町村の判断により負担水準を60%まで一律減額できる条例減額制度は、国全体として負担水準が60%の水準で均衡するまでの経過的な措置という位置づけを明確にし、その適用期限を延長すべきである。

5.都市再生促進税制等の延長等

都市再開発促進による国際的な都市機能の競争力強化に向け、民間都市再生事業及び民間都市再生整備事業に係る税制上の特例措置の適用期限の延長に加え、都市環境改善事業(仮称)に係る特例措置の創設等を図るべきである。
また、地域の特性・強みを生かした産業集積の形成により、地域産業の活性化を促進させるために、企業立地促進税制の適用期限の延長、拡充を図るべきである。

III.環境関連税制、道路特定財源

1.環境関連税制

地球温暖化の防止は、人類の生存に関わる最重要課題の一つであり、その対策に真摯に取り組まなければならない。今年7月に開催された北海道洞爺湖サミットにおいて、G8は、2050年までに世界全体の排出量を半減させるというビジョンについて、気候変動に関する国際連合枠組条約の全ての締結国と共有し採択することを求めることで合意した。洞爺湖サミットの議長国を務めたわが国としては、今後も、すべての主要排出国が参加するポスト京都議定書における実効ある国際枠組の構築に向けてリーダーシップを発揮するとともに、わが国の京都議定書の目標の達成に万全を期すなど、責任ある行動が問われることになる。
わが国としては、環境と経済の両立を目指して、経済発展を維持しながらCO2排出量の削減に取り組むべきであり、そのような観点からの税制のグリーン化を推進すべきである。
産業・エネルギー転換部門の地球温暖化対策としては、大きな成果をあげている日本経団連環境自主行動計画をはじめとする自主的な取組みを柱に据えるべきであるが、企業の取組みを後押しするため、わが国が誇る省エネ技術の革新に対してインセンティブを引出す税制の拡充を講じるべきである。また、省エネ機器等の製造に係る設備投資やリサイクル技術の開発などの資源生産性向上に向けた取組みおよび省エネ設備への投資に対して、税制措置を講じるべきである。
CO2排出削減の対応が遅れている家庭・業務部門については、家電、自動車、住宅、オフィス機器・設備等に対して、省エネ機器への買換え促進をはじめとするエネルギー効率の優れた製品への優遇等の税制措置を講じるべきである。
環境目的に新たな負担を伴う新税を導入すること等については、エネルギー効率が相対的に低い他国への生産移転により地球全体では温暖化促進につながる懸念があるばかりか、国内産業の空洞化の懸念があること、技術革新のための研究開発費の原資を企業から奪うことになること等を理由に強く反対する。
また、京都議定書の第一約束期間に突入し、京都メカニズムに基づく排出権の取得が活発になりつつある。権利取得や政府口座への移転に伴う法人税法上の損金算入時期の明確化が必要である。

2.道路特定財源

政府は本年5月に、「道路特定財源制度は今年の抜本改革時に廃止し21年度から一般財源化する」、「暫定税率分も含めた税率は、(中略)今年の税制抜本改革時に検討する」ことなどを閣議決定している。
道路特定財源は、受益者負担の原則に基づき利用者たる自動車ユーザーに負担を求めてきた制度であり、一般財源化するのであれば、その課税根拠を失うことから、関係諸税の抜本的な見直しがなければ、納税者の理解は得られない。
自動車・燃料関係諸税は、極めて複雑かつ国際的に見ても過重な制度となっており、税目の廃止等を含め見直し、納税者の理解を得られる公平・簡素な税制とすべきである。

IV.所得税ほか

1.子育て世帯支援税制等

現下の経済情勢は停滞の度合いが強まっており、一刻も早く、景気を浮揚させ、安定的な成長に繋げていくべきである。とりわけ、中低所得者層の子育て世帯に減税となるような集中的な支援は、消費刺激策のみならず少子化対策としても有効である。
例えば、現行の扶養控除を税額控除に組み替え、多子家庭への支援として、子どもの数に応じて累進的に厚みの増す税額控除制度を創設し、大幅な減収を伴うことなく、子育て世帯を支援することが考えられる。少子化対策は地域活性化にも貢献し得るので、個人住民税においても同様の制度に組み替えるなど、国・地方を通じた子育て世帯への支援を行うべきである。
なお、現行の配偶者控除等については、人口減少社会における女性の社会での活躍を促進する観点から検討を進めるべきである。

2.年金税制

平成20年度改正において、企業年金の運用資産に課税する特別法人税について、課税停止措置の3年間の延長が図られたほか、与党大綱において「少子・長寿化が進展する中、年金制度の一環である確定拠出年金について、(中略)課税のあり方について必要な検討を行う」ことが記述されるなど、社会経済構造の変化に対応した、年金税制の抜本的な見直しを行うべき時期に来ている。
確定拠出年金は、公的年金給付の縮減に対応し、私的年金制度の中核として発展することが期待されている。制度の普及促進のために、加入者個人によるマッチング拠出の容認、拠出限度額のさらなる引き上げ、資産の引出し要件の緩和、加入対象者の拡大などを行うべきである。
年金税制の基本原則は、掛金の拠出・運用時非課税、給付時課税であるが、特別法人税はこの原則に反しており速やかに撤廃すべきである。
また、平成24年に廃止される適格退職年金制度について、企業年金制度への円滑な移行を行うための税制措置を講ずるべきである。

3.金融所得課税の一元化の推進等

企業の円滑な資金調達や高齢化社会における年金資産・個人金融資産の効率的な運用の場として資本市場のインフラ整備が重要である。利子、配当、譲渡損益などの金融所得について、一元的に課税する制度の一層の推進を図るべきである。
わが国の個人金融資産は、現預金の占める割合が半分以上を占め、先進諸外国に比し、株式・投資信託の保有が依然として少ない。「貯蓄から投資へ」の流れを促進させるよう、現在、特例措置が設けられているが、恒久措置でない上に確定申告を要することから、投資家にとって複雑で利便性に欠ける制度となっている。少なくとも申告不要とする手当てを早急に行うことが必要である。さらに、英国で見られる小口投資家向けの投資優遇措置を創設するなど、簡素で恒久的な制度を構築すべきである。

4.納税者番号制度の導入

所得税が抱える課題として、自営業者、農業従事者、給与所得者間の所得捕捉の問題が指摘されている。税制の公平性、透明性を高めるだけでなく、徴税事務の効率化、電子政府の実現を進める上からも、納税者番号制度を早急に導入すべきである。
また、政府が2011年度中に導入を目指す社会保障番号を納税者番号に活用すること等により、歳入面・歳出面で区々に行われてきた政策の幅が、限られた資源のなかで大きく広がることが期待される。利用促進に向けたインセンティブを含め、制度実現を図るべきである。

5.申告・届出手続きの簡素化

徴税側、納税側双方にメリットのある電子申告・納税の一層の促進のために、第三者作成書類の税務署への提出・提示を省略するなど、手続きの更なる簡素化に努めるべきである。
また、租税条約の規定に基づき利子・配当に対する所得税の軽減・免除を受ける際に提出する「租税条約に関する届出書」の手続きを簡素化すべきである。

6.非居住者等に対する利子等の非課税措置の恒久化

民間国外債の利子課税は実質的な利回りを低下させ、海外投資家の日系国外債に対する投資意欲を減退させる。企業のユーロ市場での円滑な資金調達を支援するために、現在時限措置となっている非居住者等の受け取る民間国外債の利子等の非課税措置を恒久化すべきである。

7.株券電子化に伴う手当

株券等の電子化に伴い、特定口座内の上場株式等を、担保設定のための銀行への差し入れや信託設定のための信託会社等への引渡しを行った場合、特定口座への再受入れを可能とすべきである。

8.印紙税の廃止

インターネット電子商取引が一般化し、経済取引のペーパーレス化が著しく進展するなか、紙を媒体とした文書のみに課税する印紙税は、公平性の観点から問題が大きく、廃止すべきである。

おわりに

社会保障制度の機能強化、持続可能性の確保を中心として、消費税を含む税制抜本改革が待ったなしの状況にある。一方で、景気の停滞に伴い、抜本改革を巡る周辺環境が良好とは言いがたい。まずは、平成21年度税制改正によって現下の経済情勢を打破するとともに、本格的な税制抜本改革を一体的・連続的に実現するよう、国民的な議論を深めていく必要がある。

以上

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