「イノベーションと知財政策に関する研究会」の政策提言(案)に対する意見

2008年6月26日
(社)日本経済団体連合会
知的財産委員会 企画部会

わが国が引き続き成長力を維持・強化してくためには、不断にイノベーションを創出していくことが不可欠であり、その手段である知財を、国際動向を踏まえた政策のもとで最大限に活用していくことが重要となる。
今般、「イノベーションと知財政策に関する研究会」のワーキンググループにおいて、広くユーザーのニーズを勘案し、政策提言および報告書(案)がとりまとめられ、グローバル化やオープンイノベーションの進展を踏まえた、わが国の知財政策の今後の方向性が示されたことを高く評価する。
提言の具体化に当たっては、ユーザーニーズへの一層の配慮はもとより、関係省庁の協力関係をより深め、産学官が従来にも増して密接に連携していくことが必要であり、産業界としても可能な限りの協力を行う所存である。

1.「仮想的な世界特許庁」の構築について

企業活動のグローバル化の進展に伴い、新しい発明について、より効率的な手続きを通じて世界規模で保護されることが求められており、一国で特許が認められれば、他国でも権利が認められる“世界特許制度”の実現が強く望まれる。
そのための段階的な取り組みとして、「仮想的な世界特許庁」の構築という考え方のもと、特許法、審査基準、特許審査の質、検索環境等の国際的な調和を図ることを目指す構想は、今後世界が進むべき方向であり、同構想の実現に向けて、わが国が各国間の調整役としての役割を果たしていくことを大いに期待する。

2.出願人の多様なニーズに応じた柔軟な審査体制の構築について

特許審査に対するユーザーのニーズが多様化する中、審査期間の更なる短縮化に向けた「スーパー早期審査制度」の創設が提言されたことを評価する。こうした取り組みを積み重ね、将来的にユーザーの求めるタイミングでの審査を可能とする多段階の審査体制が構築されれば、中長期的な研究開発等、様々な状況を見極めながら権利化を進める企業にとって利便性の大きな向上につながる。
今後、多段階の審査制度の実現に向けて、企業等の意見を十分聴取し、ユーザーにとって利用しやすい制度が整備されることを期待する。

3.国際的な制度調和の推進について

特許制度の国際的調和は、グローバルな知財保護のために不可欠であり、産業界としても、望ましい形での早期実現に向けて協力していく所存である。
特に、先願主義への統一に関しては、グレースピリオドのあり方が論点となっているが、出願制度のあり方は企業が知財戦略を展開する上で非常に重要な事項であり、企業の実態を踏まえた上で、調和に向けた取り組みが進められることを期待する。

4.透明で予見性の高い特許審査メカニズムの構築について

審査基準の変更による企業の知財戦略への影響は大きく、場合によってはリスク要因ともなりかねない。また、司法判決が特許庁の審査判断と異なる場合もあり、実務上、混乱を来たしかねない。その意味で、今回、審査基準の策定・見直しプロセスの透明化を図るべく、幅広い関係者からなる審査基準専門委員会(仮称)の設置が提言された意義は大きく、今後、同委員会が審査基準に対するチェック機関としての役割を果たし、審査基準の透明性、予見性が高まることを期待する。
なお、実際の審査基準の策定・見直しプロセスと、その結果の審査への影響については、産業界としても注視していく所存である。

5.パテントトロール問題への対応のためのガイドラインについて

パテントトロールは、特許権の行使との間で議論があり、一義的に定義することは難しいが、その弊害を懸念する意見は多い。また、特に、登録制度など権利変動に係るわが国独自の法制度との関係から、この問題を懸念する意見もある。
今回、特許権の適切な行使の在り方に関する検討委員会(仮称)を設置し、権利濫用法理の考え方に関するガイドラインの策定について検討することが提言されたことは有意義であり、ガイドラインの策定が実現した場合には、パテントトロールに対する抑止力の一つとして機能することが望まれる。
同委員会での検討にあたっては、知財立国の実現に向けたこれまでの政策方針を踏まえつつ、イノベーション促進の観点から、経済・社会の発展を阻害しない権利行使のあり方について、積極的な検討が進められることを期待する。

以上

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