世界経済が同時不況に陥りつつある中で、わが国経済も極めて厳しい状況に直面している。
まずは、政策を総動員して景気の底割れを回避するとともに、雇用の維持・安定に官民を挙げて全力で取り組むべきである。経済界としては、あらゆる手を尽くして雇用の維持・安定に努力するとともに、国・地方の施策に全面的に協力する。政府は、雇用のセーフティネットを抜本的に拡充するとともに、成長産業への労働力のシフトや新たな産業構造への転換を円滑に行える基盤整備を急ぐべきである。
同時に、こうした経済状況にある時こそ、来るべき将来を見通し、新たな雇用の創出と中長期的な成長力強化につながる国家的プロジェクトを立ち上げ、「日本版ニューディール」として、官民一体となって強力に推進すべきである。これにより、わが国経済が現下の停滞のトンネルを速やかに抜け出し、21世紀の世界経済をリードしていくことを目指さなければならない。
過去に類を見ないほどの厳しい経営環境の中、企業は雇用の維持に向け、最大限の努力をしなければならない。すでに個別企業においては、労使の話し合いを踏まえた配置転換、休業、時間外労働の削減や時短、さらには副業の容認など、ワークシェアリングをはじめさまざまな形により雇用の維持・確保の取組みが進みつつある。雇用の安定は企業の社会的責任であることを十分認識し、今後も、企業はこうした取組みを継続的かつ積極的に推し進めることを通じて、社会の不安を払しょくしていかなければならない。
緊急避難的には、企業としても離職者等に対する住居提供などの生活支援に最大限の努力をしていく必要もある。
同時に、雇用のセーフティネット強化を官民一体となって実現することが求められる。例えば、「ふるさと雇用再生特別交付金」により各都道府県に基金が創設され、地域ブランド商品の開発など地域の実情や創意工夫に基づき、地域求職者などを雇い入れる事業を支援する施策が展開される予定である。その基金に企業が拠出を行う仕組みを設けるとともに、個々の事業支援に向けてアイデアや人材、施設等を提供していく方策などについても検討していくべきである。
また、政府は、企業の雇用維持努力を補完するべく、雇用保険制度の適用拡大や給付拡充を行う改正法案を国会に提出したほか、雇用調整助成金制度の要件緩和等を進めているが、今後の雇用失業情勢を見極めつつ、雇用調整助成金制度のさらなる拡充などを行うべきである。
さらに、就労機会の拡大を通じた国民生活の安定や経済活力の維持・向上のために、雇用の創出に向けた取組みを、国を挙げて推進していかなければならない。そのためには、雇用創出が見込まれる分野への円滑な労働移動と人材の定着に向け、必要とされる技能と技術を獲得・向上できる公的訓練プログラムの開発・実施を急ぐとともに、ワンストップで職業紹介までを行える拠点を整備し、労働力需給調整機能を強化すべきである。訓練プログラムの充実に当たっては、訓練施設の提供など、企業も積極的に貢献すべきである。
また、ジョブカード制度の活用促進に向け、ICカード化を行うべきである。
なお、雇用失業情勢が悪化していることから、セーフティネットからもれる離職者が増加している。そのため、まず、従業員の社会・労働保険の加入などの徹底を図るべきである。また、派遣先のコンプライアンスは当然のこと、派遣元等の取引先にもコンプライアンスの徹底を求めていくことが不可欠である。さらに、職業訓練の受講を条件に、一般財源を活用して生活保障のために暫定的に給付を行う仕組みを速やかに検討すべきである。
中長期的には、雇用の多様化に対応した雇用保険制度の見直しについて議論を行うべきである。
新しい雇用の創出と中長期的な成長力の強化に向けて、(1)産業競争力の強化、(2)国民生活の向上、(3)地域の活性化、(4)低炭素・循環型社会の実現を重点分野として、省庁横断的に取り組むとともに、官民の有する人材、資源、資金等を集中的に投入し、早期に国家プロジェクトを実施すべきである。
激化するグローバル競争を勝ち抜くためには、基盤となる技術力の抜本的強化、高度人材の育成を行うとともに、インフラを加速的に整備することで、産業競争力の強化を図る必要がある。
技術力の強化については、第三期科学技術基本計画の中で様々な施策が展開されているが、政府研究開発投資が当初計画を大きく下回るなど多くの問題を抱えている。基本計画の着実な実施を図るとともに、とりわけ基盤技術として他産業への波及効果の大きいICT分野の高度な研究開発、人材育成を加速する必要がある。インフラ面では、物流、交通網の整備の遅れが経済発展の大きなボトルネックとなっている地域があり、ハード・ソフト両面での重点的な投資が求められる。
以上を通じ、生産性のさらなる向上、新たな需要および雇用の創出を図ることが可能となる。
安心・安全で利便性の高い社会の構築は、国民にとって何より身近な問題であり、政府が省庁間や国・地方の壁を越えて取り組まなければならない重要課題である。
わが国は、世界最高水準のICT関連技術やインフラを持ちながら、公共システム等における活用は大きく遅れている。そこで電子行政の推進により、国民が様々な行政サービスを容易に享受できるようにするとともに、衛星を使った観測・測位システムの構築や、交通システム等のインフラの高度化により、快適で安全な社会の実現を目指すべきである。
同時に、十分な保育・介護人材の確保や地域のサービス供給体制の整備等を通じて、本格化する少子高齢化社会の中でも、安心・安全な生活を国民が享受できるようにすることも重要である。
地域の活性化には、その地域が有する資源を最大限に有効活用し、新産業、新事業を育成することが不可欠である。例えば、各地域においては、産学官連携や、既存の様々な制度を活用し、地域の中堅・中小企業を支援しながら、地域産業クラスターの形成等に引き続き努力していく必要がある。
こうした従来型の取組みに加え、農業や観光分野において、地域の持つ資源のさらなる有効活用や高度化を進めることにより、地域経済の活力の回復と、新規雇用の創出を図ることが可能である。とりわけ農業分野においては、耕作放棄地の再生活用や農商工連携の拡大などの分野で大きなポテンシャルがある。特区制度の活用も視野に入れつつ、政府の積極的な支援により、その顕在化を図るべきである。
同時に、「地域からの改革」を通じたわが国全体の成長を促すため、「道州制推進基本法(仮称)」を早期に成立させ、道州制の導入に向けた具体的な工程表を国民に示すとともに、その着実な推進を図るべきである。
産業部門で世界最高水準のエネルギー効率を実現しているわが国は、今後、更なる低炭素社会の実現に向け、とりわけ民生・運輸部門への取組みの強化が求められる。家庭における高効率の省エネ・新エネ機器の導入を促すとともに、次世代型自動車の開発・普及、交通インフラ、都市インフラの整備を行うことで、低炭素技術の普及を図る必要がある。同時に、循環型社会を確立する上で、リサイクル関連技術の高度化と関連する社会システムの変革も急務である。
また、資源小国であるわが国は、エネルギーの供給面では、国内、近海に賦存する未利用のエネルギー資源の積極活用を図るとともに、原子力発電を着実に推進していくことが不可欠である。
わが国が世界に誇る環境、エネルギー技術にさらに磨きをかけ、併せてその普及に向けた社会的取組みを進めることで、国際競争力の強化と新たな産業の創出を通じた内需拡大を実現するとともに、地球規模の課題解決にリーダーシップを発揮していくことが可能となる。
※具体的に推進すべきプロジェクトの詳細は、別添の「重点プロジェクト事例(参考資料2)」 <PDF> を参照。