あらゆる保護主義的措置の回避を求める

2009年3月9日
(社)日本経済団体連合会

国際的な金融危機から世界経済は同時不況に突入し、わが国の実体経済にも深刻な影響が及んでいる。未曾有の経済的苦境を脱するため、日本経団連は、わが国政府に対し、雇用の安定・創出や国民生活の安定化に資するあらゆる政策を総動員して早期に実施するとともに、中長期的な日本の成長力強化に資する国家プロジェクトを推進するよう求めている。

諸外国においても、米国が過去最大規模の景気刺激法を成立させた他、各国で景気対策が立案・実施されつつあることは、経済危機の克服に向けた歓迎すべき動きである。しかし、わが国を含む各国は、景気対策の実施において、自国内の雇用確保や産業保護を重視するあまり、意図せざる保護主義に陥ることは厳しく戒めなくてはならない。

昨年11月のG20金融サミットにおいて各国首脳は、「向こう12か月にわたって新たな保護主義的措置はとらない」ことを約束した。また民間レベルでも、昨年12月のG8ビジネス・サミットで、経団連を含むG8諸国の経済団体は、景気刺激のための財政措置を講ずる際は、WTOなど既存の国際ルールに基づいて実施し、自国優先主義や近隣窮乏化政策を取らないことに合意している。

しかし、これらの官民の国際的申合わせにも関わらず、その後、関税引上げや、特定産業への補助金、公共事業における国産品調達の義務付けなど、各国で保護主義的な効果を持つ措置が散見されることは、誠に由々しき事態である。
1930年代の教訓を引き合いに出すまでもなく、一国による保護主義的措置は、他国による報復を招き、保護主義の連鎖が経済危機を一層、深刻化させる。
戦後の世界経済の成長を支えたのは、GATT/WTOによる多角的自由貿易体制である。現在の世界同時不況から脱するためのいかなる政策手段も、ルールに基づく開かれた貿易体制の維持と市場への信頼回復を損なうことがあってはならない。WTOのラミー事務局長の言葉通り、我々は貿易を問題の一部ではなく、危機の解決策の一部にしなくてはならない。

こうした状況を踏まえ、経団連は、来る4月2日にロンドンで開催されるG20金融サミットにおいて、G20政府首脳が、以下に示すような多国間の協調行動に具体的内容を伴う形で合意することで、あらゆる保護主義的措置を回避するという強い決意を裏打ちすることが必要と考える。
その際、貿易に成長の多くを依存するわが国首脳をはじめ、G8各国首脳が主導的役割を果たすことが重要である。その観点から、米国景気刺激法の「バイ・アメリカン条項」が、オバマ大統領のイニシアティブにより、米国の国際的義務と矛盾しない形で適用されることが担保されたことは評価される。

1.WTO等の国際ルールに沿った景気刺激策等の実施

各国は金融・経済危機への対応として景気刺激策やAD関税などの貿易救済措置を実施する際には、その国際的影響に配慮し、WTO等の国際ルールに沿った形で実施する。特定産業への補助金や政府調達については、内国民待遇を原則とするとともに、透明性を確保する。

2.実行税率の据え置き

各国は物品の実行税率を現状で据え置き、引き上げないことにコミットする。WTOで譲許した税率の範囲内で実行税率を引上げることも、協定違反ではないが i、国際貿易に対して保護主義的影響を及ぼすものであることを確認する。また、WTO非加盟国についても、世界経済の状況に鑑み、現状より関税を引上げないことが望まれる。

3.新たな非関税障壁導入の回避

各国は、新たに貿易・投資制限的な効果を持つ国内措置・規制を導入しない。強制規格の導入なども、透明性と合理性が確保されない限り控える。また、サービス貿易の自由化レベルを現状より後退させないことを約束する。

4.WTOドーハ・ラウンド(DDA)の早期妥結

保護主義の台頭に対する最も効果的な保険は、WTOを中心とした多角的自由貿易体制の維持・強化である。G20首脳は、DDAの早期妥結に向けて、強力な政治的リーダーシップを発揮する。

5.貿易・投資政策の監視の強化

WTO、OECDによる各国の貿易・投資政策における保護主義的措置に対する監視の強化を支持し、各国はこれに協力する。またABAC ii などで提案されている民間による各国の貿易措置の相互監視(peer pressure)も歓迎する。

6.途上国向け貿易金融支援の拡充

国際金融危機の影響で、発展途上国向けの貿易金融が枯渇しつつある。経済成長の多くを貿易に依存する途上国の貿易活動に支障をきたさないよう、各国機関や民間銀行、国際金融機関、地域開発銀行等による途上国向けの貿易金融支援を拡充する。

以上

  1. WTO加盟国が各品目に対して国際的に約束した関税率の上限値(「譲許税率」)の範囲内で、加盟国が実際に適用する税率を「実行税率」と呼ぶ。譲許税率以下の実行税率を適用している国の中で、今回の金融・経済危機を受け、譲許税率の範囲内で実行税率を引き上げる国が出てきている。

  2. APEC Business Advisory Council (ABAC)。APEC唯一の公式民間諮問機関(1996年設立)。21カ国・地域首脳の任命による民間委員が参画し、APEC閣僚や首脳に対して民間を代表して助言・提言を行う。


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