2009年度日本経団連規制改革要望

〜国民、企業の潜在能力を最大限発揮するために〜

2009年6月16日
(社)日本経済団体連合会

概要
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はじめに

わが国は現在、米国に端を発する金融危機と世界同時不況による経済の底割れのリスクという未曾有の危機に直面している。同時に、経済のグローバル化の急速な進展に伴う国際競争の激化や少子高齢化・人口減少社会の本格的到来など、中長期に及ぶ構造的な危機にも見まわれている。
政府は4月に発表した「経済危機対策」をはじめ、矢継早に様々な対策を講じている。今後も政府は、雇用対策や生活者支援などを通じた国民の安心の実現をはじめ、あらゆる政策手段を活用した対策を機動的に実施し、当面の未曾有の危機を乗り越えていくべきである。同時に、わが国が次の時代に向けて再び力強く歩み出すためには、国民、企業の持つ潜在能力や活力を最大限に引き出していくことが重要である。わが国企業は、イノベーションや事業の再構築等を通じて、常に付加価値の高い競争力のある製品・サービスの創出と、その効率的な提供が求められている。こうした民間の創意工夫の発揮と自由で円滑な事業活動を支える基盤整備となるのが規制改革である。
わが国が直面する危機を乗り越え、明日への成長を掴むため、今こそ政治は強力なリーダーシップを発揮し、政府・与党一体となって規制改革を大胆かつ集中的に推進すべきである。同時に、経済社会環境の変化に対応し、国民の選択や民間の事業活動の実態が常に変容・多様化する中で、規制の存在意義とあり方もまた不断に見直されるべきであり、政府はそのための制度整備にも積極的に取り組んでいくべきである。

I.潜在能力発揮のための規制改革の推進体制の強化

1.基本的考え方

政治のリーダーシップの発揮と内閣を挙げた取り組み

現在、政府においては、内閣に全ての国務大臣が参加する規制改革推進本部(本部長:内閣総理大臣)を設置するとともに、内閣府に民間有識者15名からなる規制改革会議(議長:草刈隆郎日本郵船相談役)を設置している。また、内閣府に設置された経済財政諮問会議(議長:内閣総理大臣)においても、経済財政に関する重要事項についての審議の一環として、規制・制度改革の推進のための方策等についての議論が行われている。
国民、企業の潜在能力を最大限発揮するための規制改革の実効を上げるためには、内閣総理大臣、規制改革担当大臣をはじめ政治の強力なリーダーシップのもと、各機関が適切に連携しつつ、内閣を挙げた強力な取り組みとして推進していくことが重要である。
また、わが国の議院内閣制の下で、政治のリーダーシップを最大限発揮するためには、政府・与党の連携が不可欠である。各党における取り組みが今後更に強化されていくことが期待される。

規制改革会議の後継機関

2007年1月に設置された規制改革会議は、2010年3月末で設置期限を迎える。同会議やその前身の機関は10年を超えるわが国における府省横断的な規制改革推進の中核であり、今後もその機能を維持・強化していくことが不可欠である。とりわけ、国民や企業の潜在能力を発揮させ、持続的な経済成長を実現していくためには、民間の視点に立って規制を不断に見直していくことが極めて重要である。このため、政府は、府省横断的な規制改革を推進するため、民間有識者を主体とする後継機関を設置すべきである。

2.具体的方策

規制改革要望集中受付月間の充実

政府では、環境変化に対応した迅速な規制改革推進のための仕組みとして、年2回、全国規模での規制改革要望を受付ける「集中受付月間制度」を実施している。日本経団連では、昨年度の規制改革要望において、同制度の充実による規制改革の実効性向上のため、6月に実施する集中受付月間に続く半年程度を「集中取組期間」とし、内閣府と規制所管省庁との協議や規制改革会議の関与を充実・強化すべきことを提案した。
これを受け、規制改革会議の運営方針(2009年4月2日改定)において、「規制改革推進本部が年2回実施する規制改革要望集中受付月間活動における検討・協議について、あじさい月間を重点としてタスクフォースによる協力を強化するなど、本部等との連携を図る」とされた。
日本経団連としては、こうした規制改革会議の運営方針を支持するものであり、規制改革推進本部や規制改革会議における今後の取り組みに強く期待している。日本経団連としても、同会議等との連携を一層緊密に行っていきたい。

構造改革特区制度の活用

2002年に導入された構造改革特区制度は、当初、全国規模では規制改革を進めにくい課題について先行実験を行い、一定の効果が上がれば全国規模に展開する「規制の突破口」として導入され、地域の創意工夫による活性化策としても活用されてきた。同制度の下で、農地リース方式による株式会社等の農業参入など既に全国展開されている成功事例も生まれているが、現在では、提案件数、実現件数とも減少傾向にある。
構造改革特区制度における規制改革の先行事例の創出は、地域の活性化策とともに国民経済全体の発展にとっても、依然、極めて重要である。政府は、特区制度の更なる活用に向け、実現率の向上の取り組みとともに、地域再生法に基づく地域再生計画の認定申請との一本化、地方債の起債の特例措置、「頑張る地方応援プログラム」による交付税措置の活用などを通じた制度の魅力向上策を検討すべきである。

行政手続の簡素化・効率化・迅速化

我が国では、国民や企業が様々な活動を行う場合に、国等による多くの許可、認可、届出等(以下許認可等)の手続きが求められており、その総数は2007年3月31日時点で12,786件となっている。企業の自由で円滑な事業活動を支える基盤整備として、また、簡素で効率的な行政の実現と国民・企業の負担軽減の観点からも、規制の廃止・緩和とともに、これら許認可等の行政手続の簡素化・効率化・迅速化等の見直しも極めて重要である。
政府の「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)」では、2010年度までに国税の申告等を含む行政手続のオンライン利用率を50%以上とする目標を設定するとともに、「オンライン利用拡大行動計画」等を通じた行政手続の電子化を進めている。政府は、今後とも、利用者の利便性向上や行政業務の効率化・透明化等の観点から、引き続きこれらの取り組みを強力に推進すべきである。また、オンライン利用の妨げとなっている一因として、業務の見直しを行わないまま電子化した結果、紙の添付書類が残るなど完全な電子申請になっていないことなどがある。
農林水産省では、2008年9月に「補助事業申請手続簡素化等プロジェクトチーム」(チームリーダー:近藤基彦農林水産副大臣)を設置し、所管する72の補助事業に関する手続の簡素化・利便性の向上に取り組んだ結果、添付書類の約3割が削減できたことを公表している。現下の厳しい経済情勢の中、国民や企業の無用の負担を軽減するためにも、農林水産省の取り組みを参考にしつつ、規制行政の分野における申請手続の簡素化等について、政府一体となって取り組み、添付書類の削減や標準処理期間の短縮等を進めるべきである。

II.規制を不断に見直すための制度の充実

1.基本的考え方

既述の通り、わが国を取り巻く環境が加速度的に変化を続けている中で、国民の選択や企業の事業活動もまた変化し、多様化している。こうした中、今後の規制改革への取り組みに当たっては、直面する経済危機から脱却するために、規制改革を大胆かつ集中的に推進していくことに加えて、民間の経済活動の実態に合わせて規制の存在意義とあり方を不断に見直すとともに、行政手続の公正確保と透明性の向上に向けた各種制度を充実させていく必要がある。
そのためには、規制の制定・運用・改廃といった各段階において、規制の「見える化」を進め、国民の負担等の規制のコスト及び効果の分析・把握を踏まえた見直しを行うとともに、国民や企業にとっての予見可能性を高めていくことが重要であり、以下の諸点を含めた見直しを検討すべきである。

2.具体的方策

規制の事前評価(RIA)の活用

「行政機関が行う政策の評価に関する法律施行令」の一部改正により、2007年10月から各府省は、法律・政令による規制の制定・改廃の際には原則として、規制の事前評価(RIA)を実施することが義務づけられている。
日本経団連の昨年度の規制改革要望では、RIAの運用の現状について、行政コスト等の定量的な評価が十分行われていないことや、規制の新設・改廃のプロセスの中に効果的に位置づけられていない等の問題点を指摘し、その改善を提案したところである。
政府の「規制改革推進のための3か年計画(再改定)」(2009年3月閣議決定)でも、RIAについて各府省庁は「分析の質的向上に努める」とともに、「引き続き、意見公募手続において、義務付けの対象となっていない規制も含め可能な限り当該案に係るRIAを付し規制制定過程の客観性と透明性の向上に向けた取組を進める」ことを「逐次実施」するとともに、総務省において「(RIAの)実施状況や諸外国の制度の現状等を踏まえ、将来の義務付け対象範囲の拡大を視野に入れつつ、更なる規制制定過程の客観性と透明性の向上に向けた検討」を「継続的に実施」するとしている。RIAの実効を上げるためには、これらの実施時期を明確に定め、具体的な検討を進めて行くことが望ましい。

行政手続法における努力義務規定の見直しの検討

1994年に施行された行政手続法は、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図り、もって国民の権利利益の保護を図ることを目的としており、より一層の周知と積極的活用によりその目的が達成されることが期待されている。
同時に行政手続法自体の規定の充実についても、法目的の更なる達成に向けた検討が求められる。例えば、同法では、申請に対する処分に関する審査基準の公表(第5条)や申請に対する審査・応答(第7条)、不利益処分に関する意見陳述手続(第13条)を義務づける一方で、標準処理期間の設定(第6条)や審査の進行状況及び処分の時期の見通しや申請に必要な情報の提供(第9条)については、努力義務に止まっている。
これらは法制定時点での検討経緯や行政運営の実態を考慮したものと理解されるものの、行政手続の公正の確保と透明性の向上の一層の進展を図る観点から、その後の実施状況や諸外国の制度の現状等も踏まえて、努力義務規定については原則として義務規定へと見直す方向で、検討を行うべきである。

法令適用事前確認手続(ノーアクションレター制度)の充実

法令適用事前確認手続(ノーアクションレター制度)は、民間企業等が、将来行おうとする事業活動についての具体的な行為が特定の法令の規定の適用対象となるかを、その法令を所管する行政機関にあらかじめ書面で照会し、その行政機関が回答を行うとともに、当該回答等を公表する手続きである。
2001年3月の閣議決定「行政機関による法令適用事前確認手続の導入について」に基づき導入されたが、各府省の細則においては、対象となる法令(条項)の範囲、回答期限の設定、回答の方式において、閣議決定より手厚い対応を規定・実施している例も少なくない。同制度の一層の活用に向け、利用者の利便性向上の視点からも、これら先進的な府省の取組みを、全政府的に採り入れることなどを検討すべきである。

見直し条項による一定期間経過後の規制の見直し

経済社会環境や民間の事業活動の変化に対応した規制の見直しを進めるためには、規制の制定・改正から一定期間経過後に当該規制を廃止も含めた見直しを行う旨の条項(いわゆる「見直し条項」)を法令上に定めることが望ましい。
その際には、規制の目的や手法の合理性・妥当性・実効性が失われたものについては、当該規制を廃止するものとし、引き続き規制を存続させる場合には、所管官庁がその必要性につき、立証責任を果たすべきである。
「規制改革推進のための3か年計画(再改定)」(2009年3月閣議決定)では、各府省庁は、規制にかかわる法律の新設・改正にあたり、法律案を作成する際には、「一定期間経過後当該規制の見直しを行う旨の条項を盛り込む」こと、また、これらにより設定した見直し年度には、「関連する規制(法規命令、通知・通達等を含む)の見直しを行う」とされ、規制改革会議は「見直しの実施状況をフォローアップするとともに、適時報告の徴収、意見表明を行う」とされている。
規制改革会議は、この計画に従って、各府省から定期的に報告を徴収し、これらの取組みが閣議決定された見直しの基準に即して実施されているか、また、それらの内容が妥当であるかを検証し、必要な意見具申等を行うべきである。また、規制改革会議の取組みにより、現在、府省毎の「規制にかかわる法律ごとに設定する見直し年度等一覧」が各府省並びに規制改革会議のウェブサイト上にPDF形式で公表されているが、府省横断的に一覧表を作成して見直し時期等の参照・検索が容易に行えるようにすべきである。

規制情報の一覧性の確保

政府は、「規制改革推進のための3か年計画(再改定)」(2009年3月閣議決定)において、規制の把握と公開に関し、「個々の規制の適正性を担保するためには、当該規制を規制改革会議のみならず公衆の監視の下に置くことが重要であることから、規制改革会議が把握している規制の情報については、インターネット等により広く公開する」とともに、「分野横断的な比較が容易となるよう出来る限り一覧性を持たせる」ことなどにより、規制改革を促すようなものにすることが重要との考え方を示している。
規制情報については、かつては規制緩和白書や許認可等の現況表の作成・公表が行われていた。現在では、「電子政府の総合窓口」 (http://www.e-gov.go.jp/) において、個人向けと企業・事業者向けに分けて様々な行政手続に関する情報が提供されているものの、その範囲や内容については、一覧性が十分に確保されているとは言い難い。
規制情報の一覧性の確保に当たっては、国民や企業の利便性や予見可能性の向上という視点から、国民や企業の日々の活動において、どのような法令に基づき許認可等が必要になるか、審査基準の詳細な内容や標準処理期間が如何に設定されているか、これらの規制に係わりどのような通知・通達等が発出されているか、さらには規制の見直し時期が設定されているか等につき、容易に参照・検索できるのが望ましく、政府においては、これらの情報提供体制の充実に早急に取り組むべきである。

以上

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