日本・メキシコ経済連携協定の再協議に関する要望

2009年7月22日
(社)日本経済団体連合会
日本メキシコ経済委員会

はじめに

わが国とメキシコとの間で、2005年4月1日、日本・メキシコ経済連携協定(日墨EPA)が発効した。これにより、同国への輸出品に賦課されていた関税の大部分が10年以内に撤廃され、また政府調達の面では欧米諸国と同等の競争環境を得るなど、両国は新たな経済関係の構築に向けて動き出した。この間、日墨間の輸出入は大幅に増加し、これは特にメキシコから米国や中南米などへの輸出の増加、外貨の獲得にも貢献している。加えて、自動車・同部品、電気・電子分野での日本企業の対メキシコ投資が相次いで発表されるなど、両国間の経済関係は順調な拡大傾向を示してきた。

他方、対メキシコ・ビジネスの現場では、日墨EPA締結後も、物品貿易のみならず、原産地規則、ビジネス環境、知的財産権などの課題の解消が求められている。

日墨EPAは、わが国が初の農業分野を含むEPAであるとともに、発効後5年目の再協議を迎える初のケースであり、今次の再協議は、他国との再協議に影響を及ぼす試金石ということができる。この機会に、過去数ヵ年の実施を通じて明らかになった問題を解消することにより、利用者の利便性向上につなげる必要がある。また、最近締結された他国とのEPAの内容を踏まえ、現行の日墨EPAを時代に即したより質の高いものとすることも重要である。

世界貿易機関(WTO)ならびにEPAの戦略的推進は、自由貿易体制の維持・強化の柱となるものであり、日墨両国は、世界経済の持続的発展に向けて自由貿易ネットワークの構築に貢献すべきである。このような観点から、政府は、本年度の再協議を迅速かつ着実に進めることにより、日墨間の貿易自由化の促進ならびに経済関係の一層の強化を実現すべきである。具体的には、以下の諸点の推進を求める。

1.物品貿易の自由化促進

(1)関税撤廃スケジュールの短縮

日墨EPAの締結により、それまで同国への輸出品に賦課されていた関税の大部分が10年以内に撤廃されることとなった。この結果、関税が即時撤廃される品目については、欧米企業とのイコールフッティングの競争環境が実現した。

他方、関税が段階的に削減される一部の品目では、先んじてメキシコとFTAを締結した北米や欧州連合(EU)の関税率引き下げが先行していることから、引き続き欧米企業との競争において不利な立場にある。市場アクセス分野は協定上で再協議が規定されており、別添アンケートの回答番号01〜04に記載された品目を中心に、関税撤廃スケジュールの短縮を強く求める。

(2)MFN税率との逆転現象への対応

メキシコの最恵国待遇税率(MFN税率)の引き下げにより、上記の段階的引き下げが行われる品目の一部では、一時的に税率の逆転現象が発生している、もしくは、そのおそれがある。そこで、EPAの効果を最大限享受するという観点から、政府においてEPA税率とMFN税率を容易に比較できるデータベースを整備し、一般に公開すべきである。

さらに、逆転現象が発生した場合には、例えば、MFN税率を引き下げた際に相手国に通報する、自動的に有利な税率が選択される、MFN税率が下がる都度自動的にEPA税率をそれ以下に改訂し、譲許表を再発行するなどの対応規定を盛り込むことを検討すべきである。

2.利便性の高い原産地証明制度の導入

(1)原産地証明制度の簡素化、円滑化

EPAが有効に機能し、その貿易促進効果が最大限に発揮されるためには、ユーザーの視点に立った利便性の高い原産地証明制度が不可欠である。

現状の日墨EPAの原産地規則はわかりにくく煩雑であり、また、年度末の申請手続きに空白期間が生じているとの指摘もあり、原産地証明書の発給手続きの一層の簡素化、円滑化が図られるような制度改善が求められる。このほか一部の品目で、付加価値基準と関税番号変更基準の両方を満たすことが求められたり、さらに付加価値基準が高く設定され、証明に追加的な費用を求められたりする場合がある。これらの例を含め、今般の再協議にあたり、他のEPAの原産地規則との平仄をとるべきである。

(2)認定輸出者自己証明制度の採用

原産地証明の方法については、証明書の発給時間の短縮および手続きの単純化のため、日墨EPAにおける現行の第三者証明に加えて、日・スイスEPAで採用されたような認定輸出者による自己証明制度をニーズに応じて選択可能にすべきである。なお、自己証明制度の導入にあたっては、認定輸出者の責任範囲を明確にし、利用企業にとって過剰な責任負担が生じないよう配慮することも重要である。

(3)HSコードの改訂

HSコードは、関税額の決定および関税分類変更基準のベースとなり、5年ごとに改訂されているため、日墨EPAがHS2002を採用している一方、輸出入申告などの国内法上の手続きは、2007年1月1日からHS2007が適用されている。このため、輸出者、輸入者のみならず発給機関、税関当局においても、二重の基準による商品分類を余儀なくされ、管理を複雑なものにしている。日墨EPAについて、速やかにHS2007への移行を完了すべきである。

3.政府調達への新基準の導入

日墨EPAにより、メキシコの政府調達に対し、日本企業には内国民待遇および透明性が確保され、欧米企業と同等の条件で政府および政府系企業の調達市場に参加できることとなり、大型案件への参入も実現している。

今後は、環境面への配慮から、納入時の価格のみでなく、エネルギー効率が良く、ライフサイクルコストの観点で低コストとなる製品の導入を促進する基準をメキシコ側に設けることを求めるべきである。

4.投資・ビジネス環境の改善

日墨EPAにより設置されたビジネス環境整備委員会の成果として、メキシコ市国際空港における日本人被害の減少や、日本人出張者や駐在員の入国管理の円滑化などが報告されているが、他国と比較した場合に充分とはいえない。商品の盗難などが多発しており、とりわけ治安の改善に向けた早急な対策が必要である。さらに、知的財産権の保護、通関、安全規格の見直し、物流インフラの整備などについて、一層の改善が必要であるとの要望が強い。

知的財産権に関しては、模倣品・海賊版の蔓延が問題とされており、ビジネス環境整備委員会の機能を、例えばPDCAサイクルを導入することなどによりさらに強化し、税関での水際措置の強化、国内市場での取り締まり強化を働きかけるべきである。また、通関に関しては、その業務の所要日数が長く、コスト高につながっているうえ、製品の質にも影響を及ぼすようになっていることから、一層の改善が求められる。さらに、2008年度より導入された企業単一税(IETU)は、人件費の一部や支払利息などが控除項目とされておらず、また為替変動の影響を受けることから、投資企業の負担増につながっており、抜本的な改善が必要である。

以上

日本・メキシコ経済連携協定の再協議に関するアンケート(2009年5月)結果概要 <PDF>


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