鳥由来の新型インフルエンザ対策の再開・強化を求める

2009年11月17日
(社)日本経済団体連合会

提言「鳥由来の新型インフルエンザ対策の再開・強化を求める」【概要】 <PDF>

鳥由来の新型インフルエンザ(H5N1型、強毒性)の出現に備え、政府は、2007年10月に「新型インフルエンザ対策に関する政府の対応について」を閣議決定し、その後、新型インフルエンザ対策行動計画、対策ガイドラインの策定等、各般の対策を加速させた。経団連においても、2008年6月「新型インフルエンザ対策に関する提言」を公表し、危機管理の観点から、政府の施策の充実・強化を求めてきたところである。

こうした中、本年4月、豚由来の新型インフルエンザ(H1N1型、弱毒性)がメキシコで発生。わが国においても若年層を中心に感染は広がりを見せ、日常生活に影響を及ぼす事態が出現した。政府・自治体は、検疫の強化、保育所・学校の閉鎖や、予防・感染拡大防止策の周知に努めるなど、さらなる対策を進め、足元における第二波の流行期に対処している。しかし、不確定要素の多い新型インフルエンザへの対処については試行錯誤を余儀なくされ、当面する事態に対し、医療や教育の現場を中心に少なからず混乱を招いている。

一方、鳥由来の新型インフルエンザ発生の蓋然性は依然として高く、その脅威については、医療関係者を中心に強い危惧が示されているにもかかわらず、こうした対策については、一部中断や遅れが生じている。国内で強毒性の新型インフルエンザが発生した場合には、人命や社会生活に甚大な被害を与えることが想定され、日々の暮らしの安心・安全が脅かされかねない。

そこで、今回の豚由来の新型インフルエンザ流行で得られた知見・教訓を踏まえ、政府が早期に講ずべき、鳥由来の新型インフルエンザ対策について、下記により改めて提言する。日常生活に不可欠な財やサービスを提供している社会的責任を果たす観点から、経団連としても政府の対処方針の周知に努めるなど対策の円滑な遂行に必要な協力を惜しまない。官民が連携した実効性ある対策の一層の充実・強化を図るため、速やかな政府の対応を望みたい。

1.ワクチンの早期接種のための環境整備

鳥由来の新型インフルエンザが発生した場合、国民の生命や社会・経済に与える影響は甚大となることが想定されている。全ての国民が新型インフルエンザ発生前、もしくは発生後早期にプレパンデミックワクチン #1 を接種できるよう、当面する豚由来の新型インフルエンザ対策とのバランスを図りながら、製造・供給・接種体制の早急な整備および最新の製造技術を確立しておくことが必要である。

生活基盤の維持を担う事業者(ライフライン事業者や関連するサプライチェーンの事業者)の事業継続計画は、従業員のプレパンデミックワクチンの接種を前提としている。従業員の人命にかかわるリスクをできる限り回避するためにも、政府は、プレパンデミックワクチンの有効性・安全性の評価を早急に進めるとともに、「ワクチン接種に関するガイドライン」を各業界の接種対象者数や接種手順なども含め策定すべきである。その上で、医療従事者や社会機能維持者をはじめとする全国民への事前接種に着手すべきである。

このことは、鳥由来の新型インフルエンザ発生後、遅延なく全国民に対しパンデミックワクチンを接種できる環境整備につながることから、可及的速やかな対応を望みたい。

2.パンデミック(新型インフルエンザの大流行)時の法令の弾力的運用

政府の想定では、鳥由来の新型インフルエンザが出現した場合、最大で従業員の40%程度の欠勤が見込まれており、社会的機能の維持を担う企業は、少人数による業務遂行を余儀なくされることが予想される。したがって、事業法令に基づく見回り・点検・検査や各種届出等については、パンデミック時の業務遂行に支障をきたさないよう、感染のピークが過ぎた後に繰り延べるなどの弾力的な措置を講じる必要がある。政府においても、昨年度末、社会機能維持者に対する法令の弾力的運用の検討に向けた調査を開始したところであるが、今般の豚由来の新型インフルエンザ発生に伴い、事実上、検討作業が停止している。政府は、パンデミック時の法令の弾力的運用の具体的な方針を早期に明らかにすべきである。また、労働基準法が規定する時間外労働と休日等の扱いや、安全配慮義務について、政府の考え方を明示するよう求めたい。

3.政府による適時・適切な情報の発信

新型インフルエンザの感染予防・感染拡大防止には、正確な情報に基づき国民一人ひとりが感染対策に協力することが不可欠である。とりわけ、鳥由来の新型インフルエンザが発生した場合には、人的被害や社会的なパニックを回避する上でも、迅速な対応が求められる。企業においても、正確な情報に基づいて、従業員の安全確保対策や事業縮小・回復の判断を迅速かつ適切に行わなければならない。

政府は、政府の対応方針や感染状況、ウイルス特性、社会インフラの稼働状況などに関する情報を、より迅速・正確に国民、事業者にわかりやすく、かつ一元的に公表すべきである。併せて、政府方針等を公表する際には、その判断基準や科学的根拠もあわせて情報提供することを求めたい。なお、これらの取り組みについては、海外の在留邦人との間で情報格差が生じないよう留意すべきである。

4.社会インフラの維持に関する政府想定の明確化

現在、企業・業界団体は、「事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン」を踏まえ、新型インフルエンザに対する事業継続計画(BCP #2)の策定ならびにサプライチェーン間の取引維持に向けた協議などに取り組んでいるところである。

鳥由来の新型インフルエンザの出現によって継続すべき事業を絞りこむ判断は、各社の自主性に委ねることが基本である。しかしながら、ヒトやモノの移動など社会への影響が大きい事業活動については、個社による判断には限界がある。また、サプライチェーンが重層構造化しているため、社会機能を維持するためには、業務縮小等の判断を行う場合の考え方や基準が、各社・各業界で整合することが必要である。

各社のBCPが実効あるものとなるためにも、政府は、流行規模・被害状況の段階毎に、社会インフラの稼働状況に関する想定を明示すべきである。

5.海外にいる在留邦人への配慮

政府は、海外にいる在留邦人の健康と安全確保のために、新型インフルエンザをめぐる状況把握に努め、早期に正確な情報提供と指示を出すことが求められる。また、医療提供体制が脆弱な国においては、抗インフルエンザウイルス薬の確保が困難な場合もあることから、大使館等で駐在員やその家族の分を含めて備蓄を拡充することが期待される。

以上

  1. パンデミックの発生前に用意するワクチン。トリ―ヒト感染の患者または鳥から分離された鳥インフルエンザ(H5N1)ウイルスを基に製造される。新型インフルエンザの発病を完全に防ぐことはできないが、重症化を防ぐことが期待される。
    なお、パンデミックワクチンは、ヒト―ヒト感染する新型インフルエンザウイルスを基に製造されるため、新型インフルエンザの発生後しか製造することができない。
  2. Business Continuity Plan

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