アジア経済の成長アクション・プランの実現に向けて

2009年11月17日
(社)日本経済団体連合会

アジア経済の成長アクション・プランの実現に向けて【概要】 <PDF>

日本経団連は、本年10月にタイで開催された東アジア首脳会議に向けて、提言「危機を乗り越え、アジアから世界経済の成長を切り開く」(2009年10月20日)を公表した。同提言では、地域経済統合の推進による市場拡大と貿易投資の活性化、ハードとソフトの各種インフラ整備を通じた成長のボトルネックの解消等を通じて、域内格差の縮小と成長基盤の確立を図ることにより、世界経済危機の克服とアジア内需の拡大による持続的な成長のビジョンを提示した。

東アジア首脳会議において、世界経済が不況から脱する上でアジア経済の成長が重要であること、外に開かれた経済統合を推進することについて参加国の間で共通認識が得られた。また、議長報告では、東アジア・ASEAN経済研究センター(以下ERIA)の地域協力への貢献を評価し、「アジア総合開発計画」完成の加速化に向け、ERIAがアジア開発銀行(以下ADB)、ASEAN事務局と協力することが要請された。同首脳会議で示されたこれらの方向性は、日本経団連提言の内容と概ね平仄のあったものであり、引き続き、今後の具体的な展開に注目をしていきたい。

わが国は、アジアの一員として地域の発展に積極的に貢献し、アジア全体の繁栄とともに成長していく姿勢が求められており、外に開かれた経済社会の構築に努めると共に、その経済力にふさわしい貢献を具体的かつ迅速に推進しなくてはならない。上記提言では、アジアが持続的で安定した成長を達成するための7つのアクション・プランとして、(1)地域経済統合推進のための経済連携協定(以下EPA)の面と質の拡充、(2)安定した中長期資金の供給、(3)広域インフラ開発、(4)ソフト・インフラ整備、(5)アジア内需の拡大、(6)環境と経済成長の両立等における貢献と、そのための(7)ODAならびにその他公的資金の抜本的改革を挙げた。

東アジア首脳会議での共通認識を具体的化する上で、我々が提示した7つのアクション・プランの推進が重要かつ有効である。本提言では、同アクション・プランを掘り下げ、アジア各国、わが国、国際機関、経済界等がそれぞれ担うべき役割について、具体的な提案を行う。

日本経団連は、本年11月からのASEANミッション、来年3月に東京で開催予定のアジア・ビジネス・サミット等において、アジアの民間経済界の間で本提言を踏まえた共通の認識の醸成に努める。また、来年のG8、APEC首脳会議等において、世界経済危機の克服とアジアの持続的成長に向け、アクション・プランで示したような具体的な共同イニシアティブが推進されることを求めていきたい。

【アクション・プラン1】地域経済統合による経済活動の円滑化

アジアの経済成長は、域内のヒト、モノ、カネ、サービス、情報の自由な移動を確保することによって高まる。こうした地域経済統合を推進するため、各国政府は、物品貿易に加え、サービス貿易、投資、人の移動を含む包括的なEPA、自由貿易協定(以下FTA)の集積からなる経済ネットワークの面的拡大と質的向上を目指す。

1.面的拡大

  1. (1)域内各国政府(以下、各国政府)はASEAN+6、さらには米国を含むAPEC規模のFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏構想)の実現を目指す。当面は空白を埋めるべく、現在交渉中の日韓、日インド、日豪の各EPAを早急に実現する。

  2. (2)日中韓の政府は、これまでの三カ国民間研究機関の研究の積み重ねを踏まえ、産官学によるFTAの共同研究を通じて、政府間交渉を着実に推進する。また、日中両国は、FTAの着手を検討する。

  3. (3)各国政府は域外に開かれた地域経済統合を進める。日本政府は、EU等のアジア・太平洋域外とのEPAの締結も推進する。

  4. (4)以上を実現すべく、日本政府は、交渉に携わる専門的な人材の拡充を図る。

2.質的拡充

  1. (1)物品貿易

    1. 関税引き下げ
      各国政府は、一部の高関税品目の自由化、関税の段階的削減・撤廃スケジュールの前倒しを検討する。また、一部の品目で生じているEPAの特恵税率とWTOの最恵国待遇実行税率の逆転現象を解消する。

    2. 原産地規則
      各国政府は、自己証明制度(日スイス経済連携協定において採用されている方式)の導入等、特定原産地証明書発給手続の簡素化を図る。また、原産地判定に際しては、関税分類変更基準を基本としつつも、付加価値基準の選択を認めることとする。

    3. 貿易関連手続
      各国政府は、AEO(Authorized Economic Operators:認定優良物流事業者)のアジア域内での相互承認、輸出入・港湾手続のペーパーレス化及び電子化を推進する。例えば、アセアン・シングル・ウィンドウ(ASW)の構築を実現する。また、日本政府は、各国税関職員のキャパシティ・ビルディングのため、わが国の制度・手続をベースとした技術協力を推進する。

    4. EPA、FTAに関するデータベースの整備
      各国政府は連携し、域内で締結されているEPA及びFTAの現状や活用するための要件等に関する総合的なデータベースを整備する。

  2. (2)サービス貿易・投資

    1. 各国政府は、サービス貿易と投資に関し、特に、アジア域内市場での拡大が期待される流通、金融、建設、情報通信、保守サービス等の分野における外資の出資制限や送金規制等を緩和・撤廃する。また、事業免許の取得や土地取得等に関する障害を解消する。このほか、新形態のビジネス(例えば、情報通信を活用したグローバルに対応可能なコールセンターやソフトウェア開発等)を創出すべく、国内規制の緩和ならびに柔軟な運用を推進する。

    2. 各国政府は、EPAの見直し交渉、WTOサービス貿易自由化交渉、日アセアン包括的経済連携協定(AJCEP)に基づき設置された「サービス貿易小委員会」等を通じて継続的に障害を解消する。その際、経済界は、事業活動を展開する上での具体的な障害事例を報告し、改善の材料を提供する。

    3. EPAの見直しやWTO交渉と並行して、人の移動や物の流通を促進し、経済効果を高める観点から、各国政府は、航空の自由化、いわゆるオープンスカイ政策を進める。

  3. (3)人の移動

    1. 現地に拠点を置く外国企業がサービスの提供等を円滑に行うことができるよう、各国政府は企業内転勤に係る人数制限や役員の国籍要件等の障害を可能な限り撤廃する。障害の解消は、サービス貿易の場合同様、各EPAの見直し交渉、あるいは、WTOサービス貿易自由化交渉の中で行い、経済界は、具体的な障害事例を報告し、交渉の材料を提供する。

    2. 日本政府は、国内活性化の観点から、アジア諸国の人材に活躍の場を提供する。例えば、専門的・技術的分野の範囲を見直し、一定の資格や技能を有する人材をより幅広く受け入れる。

    3. 日本政府は、インドネシアやフィリピンとのEPAに基づく看護師、介護福祉士の受入れに関し、現行制度を見直す。例えば、就労・研修の後、日本人と同じ国家試験を日本語で受験し、合格しない限り帰国しなければならい点等は、研修生にとって大きな負担であり、優良な人材を確保する観点から制度改善が必要である。

    4. 日本政府は、人的交流を促進し、各国間の相互理解に貢献する観光(国際会議等を含む)の振興のため、観光ビザの発給要件の緩和や相互免除対象国の拡大等を検討する。

【アクション・プラン2】安定した中長期資金の供給

  1. 通貨の安定は、外国企業がアジア諸国で事業展開を円滑に進める上での前提条件である。各国は、金融危機の再発を防止し、通貨の安定化を図る。
  2. アジアで広域インフラ事業等を展開するには、大規模かつ中長期の現地通貨での資金調達が必要となる。一方、アジア域内には膨大な民間貯蓄があり、これが投資資金として循環することで、資金調達ニーズに応えることができる。そこで各国は、域内の債券・証券の発行・流通市場を整備し、市場における発行体及び投資家の育成・拡大を図る。

1.金融危機の再発防止と通貨の安定化

  1. (1)各国政府は、二国間通貨スワップ取極のネットワークであるチェンマイ・イニシアティブのマルチ化が合意されたことを踏まえ、対象国の拡大、活用の柔軟化(IMFリンクの引き下げ)等を検討する。また各国は、チェンマイ・イニシアティブで進められている各国経済の相互監視のための域内サーベイランス・ユニットの早期設立に向けて協力する。

  2. (2)各国政府はドルの安定化を前提としつつ、アジア共通通貨をも視野に入れ、域内諸国の通貨バスケットであるアジア通貨単位(ACU)を通貨監督のための指標として導入することを検討する。また、通貨バスケット建て債券の発行についても検討する。

  3. (3)各国政府は、域内の安定した為替レートを維持するための為替協調政策について検討する。

  4. (4)各国政府は、リスクの高い金融商品の取引状況を把握、決済することで、デフォルトリスクを削減する。

  5. (5)各国政府は、国際収支擁護のためのセーフガードの濫用を防止する。具体的には、短期資金の流出により十分な資金準備の維持が困難となった場合に限り、(1)無差別であること、(2)他国の経済上の利益に不必要な損害を与えないこと、(3)必要最低限の措置とすること、(4)状況が改善するに伴い漸進的に廃止することを条件に発動する。

2.域内資金需要への対応

  1. (1)資本市場の整備

    1. 各国政府は、投資家のリスクを軽減すべく、債券保有者保護の枠組や債権回収手続に関する法制度を整備する。

    2. 各国政府は、短期資金の過剰流動性に注意しつつ、資本取引に関する規制緩和を進め、スムーズなクロスボーダー取引を実現する。

    3. 各国政府は、アジア債券市場イニシアティブ(Asian Bond Market Initiative:ABMI)を活用しつつ、社債・証券市場の制度を拡充し、証券取引所の公正な売買の維持、取引及び企業情報等の透明性確保、投資ニーズに応える上場商品の供給などに関する機能を強化する。また、ASEAN5カ国間で進められている株式取引システムの相互接続等による統一市場構想を積極的に推進するとともに、参加国の拡大を検討する。

    4. 日本政府は、各国の法整備支援を進めるとともに、官民の専門家を派遣し技術支援を行う。

  2. (2)発行体および投資家の拡大支援

    1. 各国政府は、インフラに関わる国営企業の民営化・上場を進め、民間資金を活用した資金調達への道を拓く。同時に、インフラ整備のためのファンドの組成を促進すべく、優遇策を提供する。

    2. 各国政府は、中小企業の自己資金調達の途を拓く。その一環として、信用保証機関を設立し、中小企業による起債を保証することで投資家による債券投資を促す。

    3. 各国政府は、国内の格付け機関を整備し、アジア格付け機関連合(Association of Credit Rating Agencies in Asia:ACCRA)を活用しながら域内の統一的な信用格付け情報を提供する。

    4. 各国政府は、ABMIにおいて進められている「域内信用保証メカニズム」の早期設立を推進し、円滑な早期運用開始のために協力する。

    5. アジアにおける資本市場の成熟には、高度な需要を有する機関投資家の成長が重要であり、わが国を含む各国の民間及び政府によるソフト面での技術協力を推進する。

  3. (3)金融人材の育成

    1. 日本政府は、各国の金融当局関係者、市場参加者、学識経験者のスキルや知識の向上を図るため、援助機関と連携し、金融専門家を活用した人材育成を進める。

    2. 民間企業は、上記人材育成における専門家の派遣に積極的に協力する。

【アクション・プラン3】広域インフラ開発の推進

アジアが成長する上でのボトルネックとして、国内や域内における交通・物流・情報通信ネットワークの不足が挙げられる。各国は、国際生産ネットワークを展開すべく、広域物流インフラを整備し、トランザクション・コストの低減、製造業の水平分業による後発国への産業立地を推進し、ひいては域内格差の解消を実現する。

1.マスタープランの共有

  1. (1)各国政府は、ERIA、ADB等が進める広域インフラ・プロジェクトのマスタープラン策定に積極的に協力する。マスタープランは、交通、電力、情報通信、水資源関連インフラ等の民間投資の呼び水となる基幹インフラ、都市インフラの整備を主眼とする。併せて、食糧安全保障の観点から、農業インフラの整備に関するマスタープランを策定する。

  2. (2)ERIA、ADBをはじめとする域内の国際機関は政策協議を行い、各国政府と連携の上で、メコン‐インド間の産業大動脈構想、メコン地域の南北経済回廊、東西経済回廊、南部経済回廊等をベースに全体的なマスタープランを取りまとめる。日本政府は、JICA等が中心となって、ERIA等の国際機関と共にマスタープランを実現すべく、具体的なプロジェクトの事前調査(Feasibility Study:FS)等を積極的に支援する。

2.官民連携の推進

  1. (1)広域インフラ整備に際しては、各国の政府資金やODA等の公的な資金を活用して基礎インフラ部分を整備し、商業ベースで運用できる部分は民間が担うパッケージを構築する。

  2. (2)ホスト国政府は、ODAの要請と、民間によるPPP (Public Private Partnership)の事業権取得の申請を結びつける制度を確立する。

  3. (3)ホスト国政府は、PPPの推進に際して、民間の創意工夫を最大限活用するため、価格のみならず、技術や品質に対する評価を重視する競争制度等の整備や不正防止対策を行う。

  4. (4)援助国政府は、PPPを推進すべく、無償資金協力等でプロジェクトのFSに協力する。

  5. (5)援助国政府は、電力、水道等のプロジェクトにおいて利用料金が政策的に低く設定される場合、当該公共インフラ投資に民間資金を導入できるよう、VGF(バイアビリティ・ギャップ・ファンディング)を創設する。

  6. (6)日本政府は、ODAの他に日本貿易保険(以下NEXI)、国際協力機構(以下JICA)や日本政策金融公庫・国際協力銀行(以下JBIC)の投融資機能なども含め、あらゆる開発金融手段を総動員して協力する。

【アクション・プラン4】ソフト・インフラ整備の推進

  1. 民間投資の誘致、技術移転、PPPプロジェクトの円滑な実施・推進をはかるべく、各国は法制度等を整備する。
  2. アジア地域が、生産・消費に加え、研究・開発の拠点として成長するよう、各国はイノベーションによって、付加価値の高い製品や新しいビジネス・モデルを世界に対して発信し得る環境を整備する。

1.法整備等の推進

  1. (1)各国政府は、主に民事基本法をはじめとする法制度(税法、会社法、競争法、労働関係法)の整備とハーモナイゼーション、知的財産権保護の枠組、物流・通関手続、基準・認証等の各種制度の整備・執行体制の確立など、ソフト・インフラの整備を行う。特に、各国政府は二重課税防止の観点から、透明性と予見性の高い移転価格税制の構築と運用、租税条約の締結と国内法制度の整備による事前確認制度(Advance Pricing Arrangement:APA)の導入を進め、ロイヤリティ送金規制の是正等を行う。

  2. (2)日本政府は、ODA並びに民間の技術協力を活用し、わが国の法制度とのハーモナイゼーションの観点から、キャパシティ・ビルディングのための人材育成や法制度整備支援を推進する。このほか、EPAにおけるビジネス環境整備小委員会や、日越共同イニシアティブなど投資環境整備の枠組を活用して、ソフト・インフラにおけるキャパシティ・ビルディングを推進する。

  3. (3)わが国経済界は、経済の実態に即した法制度整備に貢献する。例えば、企業運営等の実務家の視点に立ち、会社法をはじめとする民事基本法を整備・導入すべく、企業実務家が有する知見を提供する。

  4. (4)各国政府は、企業活動を支える自由かつ安全な情報流通を推進すべきである。情報通信インフラの整備のみならず、情報漏洩や窃盗に対する情報セキュリティに関する環境整備、情報セキュリティ対策に対するインセンティブの導入、ソフトウェア等の知的財産権の保護、安全な情報流通を担保する暗号技術等の利用、個人情報保護制度の整備等を推進する。

2.人材育成を核とするイノベーション促進

  1. (1)各国政府は、国籍を問わず優秀な人材が域内で自由に交流できる環境の整備、研究開発や域内での人材育成に重点的な資源配分を行う。

  2. (2)日本政府は、留学生、研究者受入れ拡大のための制度を充実させる。

  3. (3)各国政府は連携して、共同研究等のコンソーシアムからアジア共通の先端産業分野での標準化を推進すべく、アジア諸国が協業できる枠組を整備する。

【アクション・プラン5】アジア内需の拡大

アジア諸国では、急速な経済成長に伴い富裕層や中間所得層が急増しているほか、最近の景気刺激策によって国内需要も拡大しており、最終消費市場としての役割が高まっている。内需主導型の経済発展を達成すべく、アジア内需を拡大する。

1.アジア消費市場の拡大に向けた社会保障制度等の充実

  1. (1)各国政府は、社会保障制度を充実させることで、過大な貯蓄を消費に回すインセンティブづくりをする。具体的には、失業保険の拡充、年金制度の構築(ポータビリティの高い確定拠出型年金の導入とこれを支える金融商品に関する制度整備)が挙げられる。

  2. (2)各国政府は、国民の教育水準の引き上げや職業訓練等により、中間所得層の拡大を図るべく必要な支援を行う。

2.BOPに関する取組

  1. (1)アジアの持続的な発展を着実に図るべく、各国政府は、下層所得層(BOP:Base of Pyramid)への教育の普及、所得の底上げにより、民生を向上させる。特に、消費によって、生活の質を向上させるべく、BOPの顕在化していない需要の掘り起こし、教育、衛生、医療など健全な生活を保障するための消費活動に関する啓発活動、現地のニーズにあった商品の開発と提供、マイクロ・ファイナンスや社会企業家との協業のあり方等を検討する。

  2. (2)日本政府は、官民連携の下で、企業に対する情報提供やビジネス・モデルの形成支援などを進め、同時に、アジア各国に対しODAによってマイクロ・ファイナンスを資金支援する。

3.商品・サービスの提供

  1. (1)企業が自ら現地の消費を喚起していくには、金融、広告、流通、小売等のサービス産業が充実していなければならない。各国政府は、域内外からの良質なサービスの移転を推進すべく、外資規制をはじめ各種の規制の緩和を推進する。

  2. (2)わが国を含む各国の企業は、マーケティングを通じて、アジア諸国のニーズに適合した商品を提供することで消費を喚起していく。特に、ローンや損害保険等の金融商品・サービスを充実させることで、自動車等、今後アジア諸国での需要が見込まれる製品の購入を支援する。

【アクション・プラン6】環境と経済成長の両立

  1. 各国は、省エネの推進等を通じて、経済成長と両立する形で地球温暖化問題をはじめとする環境問題に対処する。
  2. 各国は、省エネの推進や環境にやさしい製品の普及に向け、積極的に取り組む。

1.地球温暖化問題への対応

  1. (1)持続可能な成長の達成のためには、地球温暖化問題において、すべての主要排出国が責任ある参加を行う公平で実効ある国際枠組が欠かせない。各国政府は、本年末の第15回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP15)をはじめ、ポスト京都議定書の国際枠組に関する議論に主体的に参加し、「共通だが差異ある責任の原則」に基づき、温暖化防止に応分の責任を果たす。特に、排出量世界第1位の中国、同第4位のインドをはじめとする新興国政府は、総量や原単位での数値目標を国際約束し、この達成に向けて省エネ等に取組む。

  2. (2)わが国は官民連携の下、「クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ」(APP)の枠組等を活用し、セクター毎に、(1)ベストプラクティスや技術普及の状況に関する情報の共有、(2)省エネ・排出削減ポテンシャルの分析等を行い、これらを踏まえた技術支援の具体的なあり方を検討する。

  3. (3)日本政府は、ODAの「協力準備調査」による具体的な省エネ等地球温暖化対策プロジェクトの発掘・形成を実施する。

2.環境分野での技術・ノウハウによる協力の推進

  1. (1)わが国は官民連携の下、省エネやリサイクル等の環境対策に志をもって取り組むアジア諸国に対して、知的財産権が適切に保護されることを前提に、ODAも活用しつつ、引き続き、日本の優れた技術・ノウハウによる協力を推進する。その一環として、日本政府は、「有償勘定技術支援費」を利用し、省エネ、リサイクル、再生可能エネルギーに関する具体的なプロジェクトの立案を推進する。また、日本政府は、わが国民間企業が手がける環境関連のプロジェクトにJBICの投資金融を活用できるよう、制度改革を行う。

  2. (2)各国政府は、省エネ製品をはじめとする環境にやさしい製品の普及に向け、現在WTOにおいて検討が行われている環境物品に対する関税引き下げの議論に積極的に参加し、その実現を図る。また、各国政府は、エコ製品の購入に対するインセンティブや環境基準の導入を進める。

3.生物多様性への取組み

  1. (1)各国政府は、事業活動と生物多様性との調和のとれた経済発展を図る観点から、自然資源の持続可能な利用、3R(Reduce, Reuse, Recycle)、省資源・省エネを含め、生物多様性に配慮した事業活動や自然に学ぶ技術開発を推進する。

  2. (2)2010年が国際生物多様性年であることに鑑み、また、アジアで第10回生物多様性条約締約国会議(COP10)が開催されることから、各国政府は、アジアにおける生物多様性条約の目的(生物多様性の保全と持続可能な利用、遺伝資源に係る適正なアクセスと公正な利益分配)の達成を目指す。

【アクション・プラン7】わが国ODAならびにその他公的資金改革の推進

上記のアクション・プランを円滑に実現すべく、わが国はODAの質と量、その他公的資金(OOF)のあり方、官民連携の枠組等を抜本的に改革する。

1.ODAの量的拡充

ODAの量に関しては、国連目標である国民総所得比の0.7%を踏まえ、増額を目指す。当面は、1997年をピークに、その後続いているODAの当初一般会計予算の減少に歯止めをかける。また、国際貢献を明確にするため、毎年、供与額の具体的な目標を掲げる。

2.円借款のあり方の見直し

円借款は、アジア諸国の卒業、迅速さの欠如等、時代の要請に十分応えられなくなっている。既に、政府ではその迅速化について、取り組みを進めているが、例えば、「有償勘定技術支援費」を活用しコンサルタントの詳細設計業務をJICAの技術協力として実施することで、コンサルタントの選定手続を大幅に短縮することが可能となる。今後はJICAがマスタープラン・FSの策定から建設・運転指導までを切れ目無く進めるなど、手続の効率化を進めることが必要である。

3.無償資金協力の拡充

また、広域インフラ整備に向けた緊急ニーズに対しては、足の速い大規模な無償資金が投入できるよう、わが国のODAの一層の活性化を図る。なお、大規模な案件に関しては、完工リスクを民間がすべて負うことのないよう予備費を導入する。

4.海外投融資の有効活用

日本政府は、JICAの海外投融資について、民間企業にとって使い勝手のよい制度設計を行う。

  1. (1)インフラ開発に対して、国側も相応のリスクを取ることで民間資金を呼び込むという観点から、融資に際し、原則として民間企業に担保や保証を求めない。

  2. (2)資金需要に柔軟に対応する観点から、融資を優先しつつも、出資と融資を同時に利用することを妨げないこととする。

5.OOFの有効活用

  1. (1)JBICはわが国企業が推進する事業に対して現地通貨建ての資金を供給する。また、NEXIは、各国の貿易保険制度と協調し、例えば、相互に再保険を行うスキーム等の拡充を図る。

  2. (2)JICAとJBICの相互補完によるプロジェクトのパッケージ化等の具体的な連携の強化を図る。

以上

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