新たな少子化社会対策大綱「子ども・子育てビジョン(仮称)」に対する意見

2009年11月24日
(社)日本経済団体連合会
副会長 森田富治郎
少子化対策委員会
共同委員長 斎藤勝利
共同委員長 前田新造
企画部会長 高尾剛正

新たな少子化社会対策大綱「子ども・子育てビジョン(仮称)」に対する意見について(概要) <PDF>

少子化問題への対策は、将来の国民の生活と社会基盤の維持に直結する緊急課題である。政府は、社会全体で子育てを支えていくとの理念の下、子ども手当の創設などの意欲的な政策を打ち出している。かかる政策の効果を上げていくためにも、新たな少子化社会対策大綱「子ども・子育てビジョン(仮称)」の策定にあたっては、下記に掲げる事項を反映するよう求めたい。

我が国の人口構成上、足もとの数年間が少子化対策の効果が期待できる最後のタイミングとも言える。政府は、これを国の最重要課題として位置づけ、重点的に施策を実施していただきたい。

1.今後の少子化対策の基本的視点

(1) 政策目標の設定とフォローアップ

新たな少子化対策大綱の策定にあたり、わが国の少子化対策の政策目標を明確に設定すべきである。例えば、国民の結婚・出産に対する希望が実現した場合の合計特殊出生率(1.75)を目安として、子育て環境の改善を実感できる環境整備の進捗状況を点検・評価する仕組みを設けるなど、PDCAサイクルを確立することが求められる。

(2) 施策の重点化と集中的展開

少子化対策は多様な施策が関連するが、出産・子育てに伴う様々な不安、閉塞感の解消や負担軽減に効果の高い施策に特に重点的に取り組むことが必要である。次期大綱では、網羅的な施策の羅列に止まることなく、重点的に対応すべき施策を明確化すべきである。

具体的には、(1)仕事と子育ての両立を支える施策(待機児童の解消、多様な就労形態に対応した保育サービスの充実など)、(2)子育ての負担感解消のための施策(一時預かりや子育て世代への経済的支援など)に特に注力すべきである。

(3) 地域の創意工夫を促進

国と地方の役割分担を明確化し、子ども手当など全国統一的に実施する子育て支援の方針と財源の手当ては国が、地域の子育て環境整備は地方がそれぞれ担う形で少子化対策を進めることが肝要である。子育て環境の整備にあたり、住民ニーズや地域の実情を踏まえ、保育の質の確保にも留意しつつ、地方自治体が一定の裁量をもって、柔軟に施策を展開できるよう取り組むべきである。

(4) 少子化問題への国民理解の醸成

わが国が他に類例のないレベルで少子高齢化社会へと突き進んでいる点や、少子化が、経済成長の停滞や社会保障の持続可能性の喪失といった深刻な影響をもたらす点などを広く伝え、少子化対策の重要性に対する国民の理解を高める必要がある。特に、わが国の人口構成上、ここ数年が少子化対策の効果が期待できる最後のタイミングとも言うべきところにあり、待ったなしの状況であることを広く世論に訴えるべきである。

子どもはわが国の将来を支える「社会の宝」であるとの認識の下、社会全体で子育てを支えていく雰囲気の醸成を図ることも重要である。

2.重点的に取り組むべき施策

(1) 仕事と子育ての両立を支える施策

増加を続ける待機児童の解消に向け、保育所など保育サービスの量的拡大が不可欠である。「保育に欠ける要件」を見直し、必要とする人が必要に応じて安心して子どもを預けることができるよう、保育制度の抜本的改革を早急に進める必要がある。

その際、利用者の多様なニーズに対応し、多様なサービス提供者が参入できるよう、参入規制を改める必要がある。また、認定こども園をはじめ、同年代の子どもの教育と保育に関する一体的な制度設計と事業の推進を図ることも重要である。待機児童対策は早急に対応を求められる課題であり、制度改革に向けた議論に費やす時間は限られている。関係者の合意形成を急ぐべきである。

(2) 子育ての負担感解消のための施策

子育てや教育の経済的負担感の解消に向け、子育て世代への経済的支援の拡充を図るべきである。子ども手当や給付付き税額控除など、歳出・歳入のバランスを図りつつ、一般財源の緊急かつ重点的な充当を求めたい。

(3) 子育ての大切さへの理解を高める施策

上述のような社会インフラの整備とともに、社会全体で子育てを温かく見守り、支えていく雰囲気を醸成することも重要である。その一環として、政府は「家族・地域のきずなを再生する国民運動」を展開していることから、経団連でも、会員企業に対して協力を呼び掛け、具体的な活動を進めている。

このような国民運動を展開するにあたり、政府は活動の効果があがっているかをきちんと検証し、広報活動を改善していくなど、PDCAサイクルを活用すべきである。

また、学校教育などを通じて子育ての意義を伝え、若者が子育てを素晴らしいことと思えるような取り組みを進めることを併せて期待する。

3.少子化対策の推進体制

(1) 少子化施策のフォローアップ体制

大綱に掲げた政策目標の達成に向け、具体的な実施計画に落とし込んでいく際には、5年後程度の目標を見据えた工程表を設けるとともに、特に重点的に取り組む課題については、前倒しで短期集中的に手がけるよう求めたい。

また、その達成状況を不断に点検・評価し、フォローアップしていく仕組みを設け、保育所設置数などの量的な達成度合いを確認するにとどまらず、子育て世代が子育て環境の充実を実感できているか、利用者視点で施策の進捗状況を点検することが必要である。

(2) 省庁間連携、執行機関の一元化

これらの施策を着実に推進していくためには、関係する省庁間で連携を取りつつ対策を進めることが不可欠である。特に、教育・保育の一体的推進を図る観点からも、内閣府主導のもと、子どもや家庭に係る政策の企画立案、執行機関の一元化の実現を期待する。

4.ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた企業の取組み

少子化対策を推進していくうえで、ワーク・ライフ・バランスの実現を図ることは非常に重要である。ワーク・ライフ・バランスの推進は、企業の実情に応じて効率的かつ柔軟な働き方を推進するなど、労使協調のもとでの自主的な取組みが基本となる。経団連では、10項目にわたる企業の行動指針を策定し、各社取組みの展開を推進している。現在、育児期の女性従業員を対象とする施策に限定せず、男性が育児に積極的に参加できる環境を整備するとともに、業務プロセスの抜本的な改善を通じ、全従業員のワーク・ライフ・バランスを目指している。子育てに優しい社会づくりに向けて、経済界も自らの課題としてさらなる取組みを進め、ワーク・ライフ・バランス施策に関する情報交換を通じ、取り組みの発展・普及を進める考えである。

このほか、事業所内保育施設や地域開放型の保育施設の設置・運営など、従業員ニーズや地域の事情を踏まえながら、子育て環境の整備に取り組むこととしている。政府には、規制的手法によるのではなく、企業の自主的取り組みを促すような施策を期待する。

5.財源確保の重要性

次期大綱に盛り込んでいただきたい基本的視点および重点施策は以上のとおりであるが、各般の対策を実効あるものとするためには、財政的な裏付けを明確化することが重要である。必要となる財政投入規模とその効果、財政投入を欠いた場合の社会的デメリットなどを示し、負担を国民一人ひとりが広く分かち合うことへの国民的合意を得て、重点的に公費投入を行うことが必要である。

少子化対策を途切れなく実施するためには安定財源の確保が欠かせない。将来的には、消費税率の引き上げにより少子化対策の財源を確保すべきである。

以上

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