アラブ諸国との経済関係の強化に向けた考え方

2009年12月7日
(社)日本経済団体連合会
中東・北アフリカ地域委員会
アラブ諸国との経済関係の強化に向けた考え方【概要】 <PDF>

わが国は、長年に亘り、アラブ諸国と良好な関係を構築している。特に、産油国との間では、わが国が石油資源を輸入し、自動車、機械、鉄鋼等を輸出するという相互補完の経済関係が確立している。もっとも、アラブは多様である。オイルマネーにほとんど依存することなく、物流の拠点として、あるいは、観光立国を推進することで成功している国も多い。また、産油国においても、近年は若年者雇用や環境配慮等の観点から、産業の多角化を図っている。

今後の持続的な経済発展にあたり、日本とアラブ諸国は相互に協力を強化していく必要性が高まっている。アラブ諸国がこれらの施策を強化するにあたり、わが国が、その経験をもとにアラブ諸国を支援し、経済的な補完関係を一層発展させる余地は大いに拡大している。わが国企業は、自らの強みを活かし、相手国のニーズに合致した協力を継続して実施していくことにより、貿易の拡大、雇用の創出、技術の移転、関連サービスへの波及などをアラブ側にもたらすことができる。こうした観点から、わが国経済界としても、アラブ諸国の多様性を十分に踏まえつつ、ますます関係を強化していく所存である。

かかる中、日アラブ双方の官民が一堂に会する、「第1回日本アラブ経済フォーラム」が開催されることとなった。日本アラブ経済フォーラムは、日本とアラブ諸国の対話を促進し、相互理解を深めるうえで極めて有意義な枠組みであり、今後の戦略的かつ多層的なパートナーシップ関係の構築への道筋を示す上で、重要な役割を果たすことが期待される。長年の懸案事項として、在京のアラブ連盟加盟国の大使と練り上げられてきた構想の実現を歓迎する。

日本アラブ経済フォーラムにおいて、将来を見据えた関係の強化に向けた意見交換が行われるにあたり、産業振興、貿易・投資の推進、雇用創出、環境をはじめとする地球規模課題等の重要な論点に係る日アラブ間の今後の協力のあり方について、経済界の考え方を以下の通り示す。

1.産業の振興と雇用拡大への協力

近年、アラブ諸国は総じて堅調な成長を続けている。特に天然資源をもつ国において高い成長が見られるが、そうした国々であっても歳入の大部分を天然資源に依存する状況が依然として続いており、雇用吸収力の高い産業は限定的である。他方、出生率は軒並み高く、急速な人口増加と多子・若齢化が進行しているため、産油国、非産油国を問わず、若年層の増大とそれに伴う失業率の上昇という構造的課題に直面している。若年層の失業問題は、中長期的な経済発展を阻害するおそれがあることから、各国は政治社会面の改革に取り組み、労働力の能力向上、産業構造の多角化・高度化による若年層の雇用機会創出を重要課題としている。

実際に中東諸国では、脱石油に向けた経済多角化の動きが加速している。例えば、ドバイ首長国は、中枢港湾を整備することで中継貿易のハブとしての地位を確立している。また、この中枢港湾に経済特区を隣接させ、外資制限の撤廃等のインセンティブを提供することで、外国企業を誘致し、加工貿易の拠点としても成功をおさめ、結果として石油輸出にほとんど依存しない経済を構築している。このほか、石油・ガスの上流から精製、石油化学への展開、豊富で安価なガスや電力を生かしたアルミ精製や直接還元製鉄などの素材産業を育成し、これを中核として周辺プラスチック、金属加工製品などへ産業の裾野を広げ、雇用拡大につなげる戦略をとる例がGCC諸国を中心に多数見られる。

そこで、わが国経済界としては、先端技術分野などにおける直接投資や技術移転を通じて、エネルギー分野に止まらない幅広い産業分野において戦略的パートナーシップを確立し、アラブ諸国の経済の多角化と高度化ならびに雇用の創出に協力していく。既に、「日本・サウジアラビア産業協力タスクフォース」の支援の下で日本企業による投資が実現するなどの具体的な成果も挙がっており、こうした例をベスト・プラクティスとして、横展開していくことが重要である。

産業の多角化・高度化を支えるのは人材である。各国政府には、教育への投資の拡大が求められる。わが国としても、投資環境整備の基盤として、官民連携によって教育や職業訓練を通じた人材開発に協力していく。

2.観光振興

経済の多角化を担う産業の一つとして、観光業が有望である。観光は単に旅行業のみならず、輸送業、外食産業、製造業、エンターテイメント・コンテンツ産業等、広汎な分野の産業と密接な関連があるため、その振興は経済成長と雇用の促進に直結する。世界遺産に登録されている歴史的建造物をはじめとする豊富な観光資源を誇るエジプト、シリア、ヨルダン、モロッコ、チュニジア、イエメン等はもとより、近年は都市型の観光立国に成功している事例もある。例えば、ドバイ首長国は、空港インフラや滞在型のリゾート施設を整備した上で、エンターテイメント・レジャー産業の振興、ヘルス・ツーリズムによる集客、スポーツ・イベントの企画、国際会議の誘致等に力を入れており、波及効果も合わせるとGDPの33%程度が観光関連産業に由来している。

わが国経済界は、観光資源の周辺インフラ整備、現地における関連サービスの提供等の面で貢献していく。また、外国人観光客を誘致するためのマーケティング戦略等、アラブ諸国の成功事例から多くを学び、わが国の観光立国の実現のために活かしたいと考えている。

3.貿易投資の推進

アラブ諸国は、人口約3億3000万人の巨大市場を形成し、経済発展などを背景に購買力が高まっており、消費市場として存在感をもつようになってきている。こうしたなか、双方の経済厚生を拡大していくためには、関税・非関税障壁を撤廃し、わが国とアラブ諸国との間の物品の往来を自由化することが不可欠である。

グローバル化の進展する世界経済において、貿易投資の一層の自由化・円滑化はわが国とアラブ諸国双方の利益に直結する。政府間において、経済連携協定、自由貿易協定、投資協定、租税条約等、法的基盤を確立することが重要である。とりわけ、現在交渉が行われている日GCC自由貿易協定については、早期の締結が求められる。なお、日GCC自由貿易協定がWTO協定と整合的であるためには、わが国のGCC向け輸出の半分以上を占める自動車、自動車部品、トラックなどの輸送機器を含む、実質上すべての貿易における関税撤廃が必要である点に留意する必要がある。

日本からアラブ諸国への直接投資は、従来あまり活発とはいえなかったが、最近では、特にGCC諸国において、エネルギー、発電、化学プラント等への大型投資が続き、大きな伸びを示し始めている。また、北アフリカ地域諸国は、中東やサブサハラ地域との経済関係強化に加え、EUとの自由貿易圏形成を視野に入れ、製品の輸出基地を志向しており、製造業の育成に関心を示している。このため、自動車道、港湾、発電所などのインフラ整備計画を各国で打ち出しており、事業機会が拡大している。このほか、人口が急増する地域では、食料、住宅、医療、教育関連の需要の増加も見込まれ、こうした分野での協力の可能性も広がっている。

そこで、サービス貿易、投資の一層の自由化を推進し、わが国を含む外国の企業が現地に拠点を設置して活動を行うことを容易にすることが、産業構造の多角化・高度化ならびに若年層の雇用機会の創出につながる。アラブ諸国には、上記の分野を中心に、外資制限等の市場アクセスに係る障害を撤廃・緩和すると共に、土地保有制限等の外国人投資家の活動を妨げる国内規制を改めることが求められる。

なお、サービス貿易、投資について自由化を約束した分野については、併せて、外国人に対する就労ビザ・滞在許可証の発給制限を緩和するなど、企業内転勤者や契約ベースで業務を行う外国人材が自由に活動できる環境の整備が重要である。

既に経済特区を設置して関税の撤廃や外資の参入ならびに人の移動の自由を認める事例が存在しているが、産業の多角化と雇用のさらなる創出の観点から、将来的には経済特区域外においても貿易投資の自由化が進展することを期待する。

他方、互恵的な関係の強化という観点から、高付加価値のアラブ諸国産の製品の対日輸出や、主に石油輸出資金を原資とする対日投資の拡大も重要であり、こうした面での発展がパートナーシップ強化につながる。

4.環境・省エネ等の地球規模課題への取り組み

近年、アラブ諸国においては、人口増加や各種インフラの整備に伴い、電力をはじめとするエネルギー需要が急増している。これに対処する上では、まず、製品・生産工程におけるエネルギー効率の向上が重要である。省エネの推進は、限られた資源を有効に活用することであり、エネルギー安全保障やコスト削減に直結する。また、再生可能エネルギーの開発も有効である。この点に関しては、既に具体的な取り組みが行われている。例えば、アブダビ首長国では気象条件を利用した太陽光発電に力を入れるほか、「国際再生可能エネルギー機構」(IRENA)の本部を誘致するなど、リーダーシップを発揮している。また、多くのアラブ諸国では風力発電を導入しており、エジプト等で大規模な推進計画がみられる。さらに、原子力エネルギーの推進に力を入れるアラブ諸国も少なくない。省エネの推進、再生可能エネルギーの開発は、地球温暖化の防止にも貢献するため、引き続き各国の積極的な取り組みが求められる。

わが国としては、官民連携の下、環境・省エネといった地球規模の課題に志をもって取り組むアラブ諸国に対して、優れた技術・ノウハウを移転していく。なお、その際は知的財産権に対する適切な保護が与えられることが前提となる。また、省エネ製品の普及にも努めていく所存であり、この点に関しては、現在WTOで行われている環境物品に対する関税の撤廃・引下げの議論にアラブ諸国が積極的に対応するよう期待する。

このほか、アラブ諸国、特に中東地域では、厳しい気候条件に人口の増加や都市化の進展が加わり、水への需要が急速に高まっているほか、地下水の汚染の進展が懸念されている。淡水化・汚水処理技術やごみ処理技術など各種新技術の分野においても、官民連携の下、具体的な貢献策を検討していく。

以上

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