第4次出入国管理基本計画(案)に対する意見

2010年3月5日
(社)日本経済団体連合会
産業問題委員会
外国人材受入問題に関するWG

はじめに

新興国の台頭による国際競争の激化や少子化・高齢化の進展など、わが国経済社会をとりまく環境が激変しているなかで、わが国企業がより付加価値の高い競争力のある財・サービスを創出していくためには、研究・開発から生産・販売の現場を通じて広義のイノベーションを起こしうる人材が不可欠である。

このため日本経団連では、「競争力人材の育成と確保に向けて」(2009年4月14日)において、かかる人材を国籍にとらわれることなく育成・確保すべく、とりわけ、わが国の経済社会に多様な価値観や経験・ノウハウ、斬新な発想を取り入れていくために、専門的・技術的分野をはじめとする幅広い外国人材を積極的に受入れていくべきことを提言した。

今般、法務省が、第4次出入国管理基本計画(案)(以下「計画(案)」)に関する意見を募集していることから、これまでの外国人材受入れに関する経団連の考えを改めて整理し「計画(案)」に対する意見を取りまとめた。法務省はじめ政府関係方面において、新たな基本計画をはじめとする今後の政策展開において、本意見に基づく実効ある施策が講じられることを強く期待する。

1.第4次出入国管理基本計画の策定に当たって

わが国経済社会のダイバーシティを推進していく上で、わが国と地理的に近接し緊密な関係を有するとともに、成長著しいアジア地域との連携を深め、交流を拡大して行くことが重要である。このことは、わが国経済社会の活性化のみならず、アジア全体の繁栄にも寄与する。

今回、出入国管理行政上の取り組みの基本方針の一つとして、「本格的な人口減少時代が到来する中,我が国の社会が活力を維持しつつ,持続的に発展するとともに,アジア地域の活力を取り込んでいくとの観点から,積極的な外国人の受入れ施策を推進していく」(「計画(案)」2頁)旨が盛り込まれたことを高く評価する。今後は、同方針に沿って、また、「新成長戦略(基本方針)」(2009年12月30日閣議決定)(以下「新成長戦略」)でのアジア経済戦略の一環として、「阻害要因となっている規制を大胆に見直すなど、日本としても重点的な国内改革を積極的に進める」(「新成長戦略」)ことが重要である。

2.出入国管理行政の主要な課題と今後の対応

(1) 高度人材に対するポイント制を活用した優遇制度の導入

政府の高度人材受入推進会議による報告書「外国高度人材受入政策の本格的展開を」(2009年5月29日)(以下「高度人材受入推進会議報告書」)の基本認識において、「我が国が持続的成長を遂げるためには、外国高度人材の発想や能力・経験を活用しイノベーションを引き起こすことが重要である。政府は、外国高度人材の受入推進を成長戦略の重要な一翼として位置付け、国民的コンセンサスを得た上で中長期的観点から高度人材の受入れを進めていく必要がある」と示されている通り、高度人材の受け入れにより、わが国でイノベーションを生み出して行くことが極めて重要な課題となっている。

一方、世界的な人材獲得競争が激化する中で、外国高度人材の受入れを促進していくためには、我が国が就業し生活する上で魅力的な場所として選ばれるよう、必要な環境整備に国全体で取り組んでいかねばならない。

その一環として、「計画(案)」において、「高度人材の受入れを促進するための措置として,ポイント制を活用した高度人材に出入国管理上の優遇措置を講ずる制度の導入を検討していく」(「計画(案)」6頁)との方針が新たに示されたことを歓迎する。「我が国への円滑な入国や安定的な在留を保障する様々な出入国管理上の優遇措置」(同6頁)には、同居家族を含めた外国人材に対する短期間での永住権の付与をはじめ出入国管理に関する基準の緩和や手続きの簡素化・迅速化等が考えられる。これらを計画に明記した上でポイント制度の検討を急ぎ、受入れを促進すべき外国人材にとって魅力ある措置が極力早期に導入されることを期待する。なお、高度人材の生活環境の魅力向上という点では、現在、外交、投資・経営、法律・会計の在留資格をもって在留する外国人に同行する形で在留が認められている家事使用人について、一定の条件の下、人文知識・国際業務や技術等の在留資格を有する経営幹部の高度人材に対しても認めていくべきである。

(2) 経済社会状況の変化に対応した専門的・技術的分野の外国人受入れの推進

外国人材の受入れニーズは幅広く存在する。従って、「我が国の経済社会状況の変化等に伴い,専門的・技術的分野の人材の新たな受入れニーズが発生した際には,当該ニーズを的確に把握し,現行の在留資格や上陸許可基準に該当しないものでも,専門的・技術的分野と評価できるものについては,我が国の労働市場や産業,国民生活に与える影響等を勘案しつつ,在留資格や上陸許可基準の見直し等を行い,受入れを進めていく」(「計画(案)」6頁)ことは極めて重要である。

その際には、「企業における専門的・技術的分野の外国人社員の活動を幅広く認めるための在留資格上の措置」(同6頁)としての所謂「総合職」に適した在留資格や、「専門性,技術性が担保される場合には,実務経験等の要件を緩和する」(同6頁)ための専門性、技術性を客観的に評価する枠組みの構築などの検討を急ぐべきである。

併せて、「在留資格認定証明書交付申請その他諸申請における提出書類の簡素化,審査の迅速化措置についても,これを一層徹底していく」(同6頁)との方針が各地の入管事務所に浸透し、こうした簡素化・迅速化措置の実効性が向上するよう期待している。

(3) 我が国の国家資格を有する医療・介護分野の外国人の受入れ

医療・介護分野の外国人材の受入れに関しては、我が国の国際化や少子・高齢社会の進展等に対応すべく、看護師の国家資格取得者に対する「7年以内の研修としての就労」との制限を撤廃するとともに、介護士についても日本の資格取得を条件に我が国での就労を認めるべきである(「計画(案)」では「検討」とされている)。

また、当面の緊急課題は、インドネシア及びフィリピンとの二国間経済連携協定(EPA)に基づき受入れた看護師及び介護福祉士の候補者の問題である。これら両国との連携・協力関係を維持・強化するとともに、アジア地域における人材の交流を促進する観点からも、第5次出入国管理政策懇談会報告書「今後の出入国管理行政の在り方」(2010年1月)(以下「報告書」)で指摘する通り、「政府は、これら候補生たちが所期の目的を達成し、日本で看護師、介護福祉士として就労できるよう、その受入れについて、万全を期す必要がある」。その旨を計画に明記した上で、候補者の国家資格取得に関し、「試験の実施回数の増加や問題の内容が理解できるような工夫」(「報告書」)などの配慮を行うべきである。

(4) 留学生の適正な受入れの推進

留学生の適正な受入れを推進するとともに、国内の大学等で学んだ海外の優秀な人材の我が国企業での就職を促進することは、国籍を問わず優秀な産業人材を育成・確保する上でも、また、人材育成の場としての大学の国際化や活性化を図る上でも極めて重要である。

このため、「計画(案)」で指摘する通り、「我が国での就職を希望する留学生については,我が国の経済活動を担う人材としての意義も有するものであり,その在留資格の変更手続の一層の円滑化を図っていく」(「計画(案)」10頁)ことが重要である。とりわけ大学等の専攻分野と企業の活動内容の関連性につき柔軟に取り扱う措置の一層の周知・徹底を図るべきであり、また、社員一人一人が幅広い業務を行うような中小企業に就職する留学生の在留資格変更を柔軟に認めることなどを検討すべきである。

(5) 研修・技能実習制度の適正化への取り組み

外国人研修・技能実習制度は、わが国や発展途上国において普及・定着するとともに、わが国産業および地域経済の維持ならびに途上国の経済発展に貢献するものとなっている。一方で、研修・技能実習生の増加などに伴い問題も生じており、同制度を安定的に運用していくためには、送出し機関・受入れ機関の適正化や不正行為機関への罰則の強化などの規制強化措置を講じると同時に、優良な受入れ機関や技能実習生に対する優遇措置を講じることにより、制度運用の適正化に向けたインセンティブを高めていくことが不可欠である。

とりわけ、グローバル化の急速な進展と技術や業務運営の革新・複雑化に伴い、外国人材がより高度な技能を身につけるために長期間わが国国内で実務研修を行う必要性が生じている。また、近年、わが国企業のアジア諸国をはじめとする国際展開の活発化に伴い、現地で雇用した技能者の技能向上のため、外国人技能実習制度を活用する事例が増えている。

このため、「研修・技能実習制度の適正化に向けた取組を進めていく」(「計画(案)」10頁)一環として、技能実習期間が修了し、一定レベル以上の技能を身につけた技能実習生が、より高度な技能もしくは多能工として必要な関連技能を身につけることができるよう、再技能実習制度の導入に向けた検討を進めるべきである。このことは、アジア全体での交流の促進と人材の底上げによる成長機会の拡大等を通じて、「計画(案)」の基本方針である「アジア地域の活力を取り込んでいく」ことや、「新成長戦略」での「アジア経済戦略」の推進にも寄与するものである。

(6) 外国人の受入れについての国民的議論の活性化

グローバルな競争が激化するとともに労働力人口の減少が本格化するなかで、わが国の経済社会に外国人材の有する多様な価値観や経験・ノウハウ、斬新な発想を取り入れ、経済社会の活力と産業競争力の維持・強化等を図っていくためには、本意見「2.出入国管理行政の主要な課題と今後の対応」で指摘した措置を講じることにより、現在、専門的・技術的分野と見做されている人材を積極的に受入れていくべきである。同時に、これらの人材に加え、一定の資格や技能を有する人材を中心とするより幅広い外国人材の受入れも進めていかねばならない。

この点につき「計画(案)」では、「人口減少時代への対応については,出生率の向上に取り組むほか,生産性の向上,若者,女性や高齢者など潜在的な労働力の活用等の施策に取り組むことが重要である。他方で,これらの取組によっても対応が困難,不十分な部分がある場合に,それに対処する外国人の受入れはどのようにあるべきか,我が国のあるべき将来像と併せ,幅広く検討・議論していく必要がある」(同11頁)としているが、少子化対策が効果を発揮したとしても、生産年齢人口の増加につながるまでには、なお十数年の時間を要する。また、国民各層の労働力率の向上が達成できたとしても、それ以上に生産年齢人口の減少幅が大きければ、労働市場への参入数には自ずと限界が生じることとなる。このため、人口減少社会のおける外国人材の受入れの在り方の検討を早急に開始すべきであり、政府全体としてのそのための場を設けるなど、迅速かつ積極的に推進すべきである。

3.外国人との共生社会の実現に向けた取り組み

専門的・技術分野の高度人材とともに、一定の技能・資格を有する外国人材を幅広く受入れていくためには、多様な価値観や文化的背景を持つ外国人が社会に根付いていくための環境整備を進めることで、外国人の持つ多様性を適切かつ効果的に日本社会の中に取り入れ、経済・社会の活性化に繋げていく「多文化共生社会」の形成に向けた取り組みが必要となる。また、そのためにも、「関係各省の施策の統括・調整を行う統一的な政策立案・遂行を担う「推進組織」をつくるなど体制整備が必要である」(「高度人材受入推進会議報告書」)。

この点に関し、「計画(案)」では、「外国人と共生できる社会作りのためには、多方面にわたる行政分野の連携や総合的な施策の実施が不可欠であり、このような観点から、関係府省庁、さらには地方公共団体が一体となり、施策を実施していくことが重要である」とし、「報告書」では更に「共生社会実現のための大きな制度的枠組みの構築等も、必要に応じ検討すべきである」と指摘している。

経団連としては、わが国全体として外国人受け入れの一体的、総合的な体制を整備するためにも、「多文化共生社会推進基本法」を制定し、総理を本部長、外国人施策の担当大臣を本部長代理、全閣僚を本部員とする「多文化共生社会推進本部」を内閣に設置するとともに、内閣府にその事務を担当する部局等を置き、多文化共生社会を実現するための関連法令の一括整備をはじめ関係省庁が一体となって施策に取り組む体制を整えるべきであると考えている。

当面は、「多文化共生社会推進基本法」を政治主導で検討する場を設け、前述の人口減少社会のおける外国人材の受入れの在り方の検討を含め、こうした体制の構築に向けた議論を進めていくべきである。

以上

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