アジア・ビジネス・サミット共同声明

〜アジアの持続的成長により世界の繁栄を築く〜

2010年3月15日

現下の厳しい経済状況を克服し、世界経済の回復を図る上で、潜在的な成長力を有するアジアのダイナミックな成長と発展を持続的なものとし、アジア内需が世界経済を牽引していく新たな成長モデルへの期待が高まっている。他方、アジアがその成長力を十分に発揮するためには、一層の地域経済統合の推進や広域インフラ整備等に向け、協力して取り組む必要がある。

このような状況下で、民間の活力による、豊かなアジア経済の形成に向けて、アジアの経済界が相互の連携強化を通じて主導的な役割を果たすべきとの認識から、2010年3月15日、日本経団連主催の下、アジア11のエコノミーから13の経済団体の代表者が東京において一堂に会し、アジア・ビジネス・サミットを開催した。同サミットでは、経済連携の推進、広域インフラの整備、環境問題等のアジア共通課題について活発に意見交換を行い、以下の共同声明をとりまとめた。我々経済界は、この提案を達成すべく、先進国首脳会議やAPEC首脳会議に働きかけるとともに、自らの役割を果たしていく。

1.厳しい経済状況の克服と成長への道筋の確保

  1. (1) 2008年9月に欧米で発生した金融危機を端緒に、世界経済は依然として厳しい状況に直面しているが、このような中、アジア経済は、各エコノミーの景気刺激策が奏効したことを背景に、既に新興国を中心に着実に回復基調にある。
  2. (2) アジアが世界経済の成長エンジンとしての機能を果たす上では、これまでの「世界の工場」としての役割のみならず、消費を拡大することで、需要を喚起していくことが不可欠である。
  3. (3) 我々は、アジア内需の拡大に向け、開かれた消費市場の提供、ソフト・ハードの広域インフラ整備、各種規制の撤廃、緩和等に係る取組を強化する。また、自由貿易を堅持すべく、保護主義的な措置に断固反対する。
  4. (4) 我々は、イノベーションの推進、消費者のニーズにあった商品の開発・提供等を通じて、アジア経済の成長に貢献していく。

2.地域経済統合による貿易・投資の自由化推進

  1. (1) 我々は、地域経済統合の面的拡大を推進すべく、各エコノミーに発展的なアプローチを働きかける。ASEANを中心とする地域経済統合を確たるものとすると共に、空白を解消することがその第一歩である。そうすることで将来的に、FTAAP(Free Trade Area of the Asia-Pacific)規模の広がりをもつ経済統合の実現に貢献し得る。なお、アジアの地域経済統合は開放性、透明性、包含性、機能性を原則とする。
  2. (2) 既存の経済連携協定・自由貿易協定の質的拡充を図ることで、地域統合を深化させることが重要である。例えば、外資制限や不透明な国内規制等の障害の解消に向けた努力は、サービス貿易と投資の自由化に貢献する。また、人の移動のさらなる自由化についても、積極的な対応を推進すべきである。
  3. (3) 地域経済統合と多国間の貿易投資自由化は車の両輪である。我々は、WTOドーハ・ラウンド交渉が早期に妥結することを強く要望する。

3.ビジネス環境の整備

  1. (1) 企業がシームレスに活動し、投資や技術移転を円滑に実施する上では、法制度、知的財産権保護の枠組の整備のほか、物流・通関手続、基準・認証等の各種制度のハーモナイゼーション、執行体制の連携が不可欠である。この点に関しては、APEC、東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)のルールメーキング機能のほか、経済連携協定に基づいて設置されたビジネス環境整備小委員会等を活用した積極的な対応が求められる。我々は、これらのソフト・インフラの整備に向け、民間が保有する知見を共有し、最大限活用する。
  2. (2) アジア地域は、生産・消費のみならず、研究・開発の拠点としての役割を果たすことが重要である。イノベーションによって、付加価値の高い製品や新しいビジネス・モデルを世界に対して発信し得る環境を整備すべく、知的財産権の保護を徹底すると共に、国籍を問わず優秀な人材や技術が域内で自由に交流できる体制の構築、研究開発や域内での人材育成への重点的な資源配分を求める。また、我々は、アジアにおける人的資源に対する将来的な需要に応えるべく職能訓練、高等教育の推進に向け、政府と共に取り組む。

4.広域インフラ開発の推進

  1. (1) アジアの持続的な成長を実現する上では、東南アジアならびに南アジアにおける広域インフラ整備することで、物流コストの低減や製造業の水平分業による後発国への産業立地を図り、域内格差を解消していく必要がある。各エコノミーには、ASEAN事務局、ERIA、アジア開発銀行等が進める「アジア総合開発計画」に積極的に参画することが求められる。
  2. (2) 広域インフラ整備にあたっては、民間投資の呼び水となる、交通、電力、情報通信、水資源関連の基幹インフラや都市インフラを優先的に整備することが不可欠であり、我々は民間の立場からこれに協力する。
  3. (3) 広域インフラの整備には莫大な資金を要するため、公的資金だけでは到底賄えない。したがって、基礎インフラ部分を公的資金で整備し、商業ベースで運用できる部分は民間が担うパッケージを構築することが求められる。我々はこれまでのアジアにおける経験を活かしつつ、官民連携(PPP)によるインフラ整備に民間セクターの立場から積極的に参画する。また、必要な資金調達のために、アジアの資本市場整備に向けた協力を推進する。

5.地域通貨金融協力の推進

  1. (1) 通貨の安定は、アジアでビジネスを円滑に進める上での前提条件である。我々は、二国間通貨スワップ取極のネットワークである「チェンマイ・イニシアティブ」について、昨年5月のマルチ化合意をふまえ、今後は、対象国の拡大、活用の柔軟化等を求める。
  2. (2) アジア域内における民間の貯蓄が投資資金として循環するよう、域内での債券・株式の発行・流通市場を整備することが急務であり、我々は、決済システム、保証機関、格付機関、関連法制度等の必要なインフラ整備のあり方を研究する。我々は、機関投資家の育成や商品設計等の面で、民間セクターの知見を提供し、アジア債券・株式市場の整備と市場参加者の拡大に貢献していく。

6.環境エネルギー問題への対応

  1. (1) 急速な経済発展が見込まれるアジア地域では、エネルギー安全保障、地球温暖化防止、省エネ、廃棄物リサイクル、生物多様性の保全等の域内共通の課題に協調的に取り組む必要がある。
  2. (2) 我々は、技術を軸にこれらに対処すべく、ビジネスベースでの連携を強化・拡大する。例えば、「クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ」(APP)のような、セクター別に利用可能でコスト的に賄える最良の技術を特定し、その普及を促進する仕組みが有効であり、我々は、各エコノミーの官民が協働するための体制を確立すべく、取組を強化する。
  3. (3) 各エコノミーは、経済の発展段階に応じ、低炭素・循環型社会の形成に向けた応分の責任を果たすべく、官民連携で省エネを推進すべきである。省エネ・創エネ、省資源、リサイクルの推進は、コストの削減、域内全体の資源・エネルギー安全保障体制の強化に繋がる。
  4. (4) 地球温暖化防止に関しては、「共通だが差異ある責任」の原則の下、先進国のみならず、途上国も排出削減につながる取組を強化する必要がある。取組に際して、途上国については、技術支援、キャパシティ・ビルディング、ならびに資金援助が必要とされる。
  5. (5) 我々は、本年の国際生物多様性年を契機として、生物多様性に配慮した事業活動を各々の能力に応じて主体的に推進する。
以上

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