提言「わが国の持続的成長につながる大胆な都市戦略を望む」

2010年3月16日
(社)日本経済団体連合会

わが国の持続的成長につながる大胆な都市戦略を望む
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1.はじめに

東京、大阪、名古屋に代表されるわが国の大都市は、高度成長の過程で世界を代表する都市として一定の競争力を有してきたが、バブル経済の崩壊を経て日本市場自体が縮小するなか、激しさを増すアジアの都市間競争への対応にも出遅れ、世界のトップランナーとしての魅力や活力を失いつつある。地方都市についてもモータリゼーションの進展などによって、かつて都市の中心部に位置していた商業、公共施設等が郊外へと移転し、中心市街地が賑わいを失うなど衰退が続いている。加えて、人口減少・少子高齢化、地球環境問題、地方財政の悪化といった課題も都市のあり方に大きな変化を迫っている。すでに政府や地方自治体は都市や地域の再生に様々な対策を講じているが、必ずしも十分な成果が上がっているとはいえず、抜本的な対応が求められている。

こうしたなか政府は、2009年12月の「新成長戦略(基本方針)」において、大都市や地方都市の再生を戦略課題の一つとして取り上げた。わが国が持続的成長を目指す上では、民間の活力や創意工夫を十分に活用しつつ、大都市と地方都市がともに発展し、国全体の成長・拡大を牽引することが不可欠である。

政府の成長戦略の具体化に向けた動きに対応して、今後、わが国の成長基盤となるための都市のあり方と、それを実現するための方策について、以下提言する。

2.今後の都市を考える上での基本的視点

(1) グローバル化への対応

グローバル化の進展に伴い、国境を超えたヒト・モノ・カネの動きが拡大を続けるなか、それを魅きつける都市の役割はますます増大している。特に、商業、工業、金融、行政等の各種機能が集中する大都市は、国全体の成長エンジンということができる。こうした観点から、上海、シンガポールといった世界の大都市は、国家戦略の下、先端産業の集積、高度人材の獲得、観光客の誘致に熾烈な競争を繰り広げている。他方、東京、大阪、名古屋といったわが国の大都市は、国際ビジネス拠点としての競争力を失いつつある。

今後、わが国の大都市は魅力と活力にあふれたグローバルシティへと進化し、世界中の先端企業、人材、投資や観光客を集め、国全体の経済成長を牽引する役割を担わなければならない。そのためには、世界中の人々が働きたい、住みたい、訪れたいと思う魅力ある都市へと競争力を高めることが急務である。

グローバル化は単に東京、大阪、名古屋といった大都市だけの課題ではない。札幌、仙台、広島、福岡などの地方の中枢都市についても、環境、医療、観光、農業など強みとなる産業を集中的に強化し、国際競争にも通用する都市づくりを目指す必要がある。

(2) 地域の特色を活かした地域主体の都市経営

こうした喫緊の課題である大都市の国際競争力を強化し、国全体の経済成長を牽引するとともに、中長期的な視点に立って地方都市が活性化を果たすことによって、わが国全体としての持続的な発展が可能となる。

各地域には、四季折々の自然、風情ある街並み、細やかな人情やコミュニティ、歴史に裏打ちされた独特の文化や伝統、新鮮な食材や郷土料理、きらりと光る地場産業など、大都市にはない素晴らしい魅力に溢れている。地方都市においては、その土地に根付く豊かな地域資源に磨きをかけ、国内外へ発信することで活力を生み、自立していくことが大切である。

中央政府が全国一律の都市政策を主導した場合、各地に似たような都市ができ、個性が発揮されにくくなってしまうおそれがある。各地域が自立して、そこに住む人々が愛着や誇りを持ち、また人々が訪れたいと思う魅力溢れる都市の構築に向け、自らの考えと責任により都市経営を行うことが重要である。そのためには、国から地方への権限、財源の大胆な移譲、人材交流等を通じたノウハウの移転が不可欠である。

また、国民、企業の生活圏、経済圏が一都市の枠を超えて広がるなか、産学連携を核とした産業集積、内外からの企業誘致、観光振興、道路・港湾等のインフラ整備、その他様々な行政機能において、より広域的な対応が求められている。人口減少や財政制約のなかで、一つの都市のみでフルラインアップの都市機能を抱え、競争力を高めていくことも難しくなっている。今後は地域内の中核都市、中小都市、周辺市町村などが広域で連携し、地域経営を行っていくことが重要となる。そのために当面は広域連合や定住自立圏構想などの制度を活用しつつ、将来的には道州制の導入を目指すべきである。

(3) 環境への配慮

わが国のCO2排出量は年々増加を続けている。特に、大都市では都市活動に起因する運輸部門、業務・家庭部門の排出量が増大している。地方都市においても、都市機能の拡散によって人口密度が低下し、エネルギー効率が悪化するとともに、都市周辺部の開発による自然環境への負荷も大きくなっている。

環境と経済の両立には都市の環境対応が大きな鍵を握っており、エネルギー供給のあり方、都市交通の形態、住宅・建築物の環境性能といった「川上」から、生活者の環境意識などの「川下」までの一体的な取組みにより、低炭素社会のショーケースとして抜本的な対策を講じていくべきである。また、都市の環境対応には、低炭素化のみならず、自然との共生や資源循環型システムの構築といった視点も欠かせない。

(4) 都市機能の効率化、高度化

わが国財政が年々厳しさを増し、歳出抑制の圧力が強まる一方、少子高齢化の進展により医療や福祉に係る経費は増大している。こうしたなか都市基盤など公共投資への支出には選択と集中が不可避となっている。また、高度成長期に整備された都市基盤の老朽化が進んでおり、とりわけ財政制約の厳しい地方都市では、維持管理費用の増大とともにその更新が深刻な課題となっている。安全・安心の確保、高齢化対応といった社会的要請に加え、国民の価値観の多様化にも対応した都市機能の整備・再編が求められている。

こうしたなか今後は、質的向上、利用者重視、ソフト重視を意識しつつ、より効率的に都市機能の高度化を図ることが重要である。

3.わが国の競争力強化につながる都市の構築に向けた政策課題

(1) 都市機能の高度化に資する都市インフラの整備

今後、人口減少や厳しい財政状況などの諸制約のなか、都市機能の高度化を実現していくためには、国家戦略上、成長の基盤として不可欠なものに選択と集中を進め、官民の適切な役割分担・連携の下、重点的、効率的に整備していかなければならない。

中長期的なわが国産業の国際競争力の強化、社会的要請への対応などに鑑み、とりわけ重要性の高い、(1)利便性の高い交通・物流インフラ、(2)高水準の業務・生活基盤、(3)環境と人に優しい都市構造、(4)内外の人々を引きつける観光インフラについて、早急に整備していく必要がある。

  1. 利便性の高い交通・物流インフラの構築
    わが国の国際競争力を左右する大都市部の交通・物流インフラについては、国家戦略として重点的な対応が求められる。とりわけ、三大都市圏においてボトルネックとなっている道路、空港、鉄道、港湾インフラを、適正な需要予測に基づく中長期的な戦略の下、一体的に整備することが急務である。
    具体的には、大都市部の慢性的な渋滞を解消し、快適なモビリティを実現するため、首都圏三環状道路を早急に完成させるとともに、新名神高速道路、大阪都市再生環状道路(大和川線、淀川左岸線)、大阪湾岸道路西伸部、名神湾岸連絡線、東海環状自動車道、名古屋環状2号線についても整備を急ぐべきである。さらに、鉄道の相互直通運転など、既存ストックを有効活用した都市鉄道ネットワークのさらなる拡充により、ラッシュ時の混雑緩和や所要時間の短縮を図るべきである。
    また、空港の国際競争が激化するなか、わが国の拠点空港のハブ機能の強化や空港アクセスの改善が求められている。そのため、成田空港と羽田空港を中心とした首都圏空港の一体的な運用、成田・羽田空港間及び両空港と都心間、関西国際空港と大阪都心部間などの鉄道アクセスの改善、CIQ体制の整備などを通じた空港利用者の利便性向上を図る必要がある。
    加えて、わが国港湾のハブ機能を強化する観点から、国際中枢港湾を絞り込み、重点的な整備を行う必要がある。また、国家的視点、広域的視点から適切な港湾管理運営が実現できる体制(ポートオーソリティ化)の実現が急がれる。
    一方、地方都市においては、地域の実情や産業活動の実態を踏まえつつ、各地域の中長期的な成長に真に必要なインフラを自ら厳格に選別して整備することが必要である。その際、広域的な視点を踏まえたインフラ相互の連携や、高い経済効果が見込まれるミッシングリンクの解消を図り、ネットワークとして総合的に整備していくことが重要である。

  2. 高水準の業務・生活基盤の構築
    都市で人々が快適に働き、豊かな生活を送るためには、高水準の業務・生活基盤の構築が必要となる。
    とりわけ、大都市においては、世界中から企業や人材を引きつけるための基盤整備も重要である。そのため、高水準で環境にも配慮したオフィス機能、グローバルなビジネス人材にふさわしい住宅・住環境、都市生活を充実させる多様なエンターテインメント、大学等を中心とする国際的な研究開発拠点、外国語対応の医療施設や外国人子弟に対する教育環境など、グローバル化に対応した業務・生活基盤の構築が不可欠となる。
    また、地方都市においては、人々が一定程度中心部に集まって住み、そこに医療・福祉機能、都市機能、公共サービス等を効率的に集中させるコンパクトシティ化を目指すことが一つのモデルとなる。また、ICT化の推進により、行政手続や遠隔医療等の生活利便性の向上を図ることも重要である。

  3. 環境と人に優しい都市構造の構築
    環境に優しい都市構造の構築に向け、太陽電池、蓄電池、熱利用、さらにこうした技術をICTの活用により総合的にコントロールするスマートグリッド等の先端技術を組み込むとともに、水や各種資源の3Rを徹底した循環型システムの構築、水辺や緑を確保した潤いのある都市空間づくりを進めるなど、低炭素型で環境と共生する持続可能な都市モデルの開発を進めていく必要がある。前述のコンパクトシティ化も、必要な移動を抑制し、LRT(次世代型軌道交通システム)といった公共交通機関を導入するなど、自動車に過度に依存しないため、低炭素型の都市構造を構築する有効な手段である。
    また、少子化・高齢化に対応した都市構造の整備も重要である。都市施設・住宅等のバリアフリー化、高齢者向け住宅・福祉施設の整備、保育・教育施設の整備等によって、高齢者にとっても住みやすい、また子育てに優しい生活環境を構築していく必要がある。
    さらに、誰もが快適で安全・安心な生活ができるよう、建物の耐震化・不燃化の推進、木造密集市街地の整備、広域防災拠点や避難路・輸送路の確保等を進めるとともに、老朽化した社会資本ストックの更新や適切な維持・管理が求められる。
    以上の課題に対応する上で、技術立国日本の特性を活かした経済性や快適性、知的生産性の向上、健康志向等の取組みが結果として低炭素社会の実現につながる持続可能な都市の実現を目指すべきである。

  4. 内外の人々を引きつける観光インフラの構築
    観光はわが国の中長期的な成長の一翼を担うべき産業であり、国家戦略としてその振興に取り組む必要がある。シンガポール、パリ、ニューヨークなど世界の大都市は、住む人にとって魅力的なだけでなく、国内外から多くの観光客を引きつける名だたる観光都市でもある。わが国の大都市も海外に対するゲートウェイとして、都市の魅力を高め、世界中から人々を引きつける観光都市を目指すべきである。
    また、地方都市においても、観光は地域振興の基盤である。自然、歴史、文化、商業、特産物といった地域が持つ豊かな観光資源を磨くとともに、情報発信力を高め、国内外から観光客を引きつけていく必要がある。

(2) 民間活力の発揮

これまで民間事業者は地域の特性を活かしたまちづくりやインフラ整備に携わり、数々の成功事例を生みだしてきた。今後、財政負担を極力抑えつつ、都市機能の高度化を効率的に進める上で、こうした民間にある知恵やノウハウを最大限発揮させることが不可欠である。

現在、公共庁舎、道路、空港、港湾、環境、上下水道、交通、福祉、防災をはじめとする公共インフラの建設、維持管理、運営については、公共が中心的な役割を果たしている。今後、こうした公共インフラの計画、施工、管理、運営からサービスの提供に至るまで、積極的に民間の資金やアイデアを活用するとともに、インフラを含む面的なまちづくりを公共と民間が一体となって進めていく取組みが重要となる。こうした民間活力の活用にあたっては、単に行政コスト削減の観点だけではなく、民間にとってもインセンティブがある仕組みづくりが欠かせない。

そのための手段として、PFI(Private Finance Initiative)、さらにはPPP(Public Private Partnership)の積極的な活用が必要である。PFI、PPPの利用拡大に向け、地方自治体に対する実務支援体制の整備、運営重視型や新たな分野への活用拡大、税制面でのインセンティブの付与、公有地・公有資産の有効利用等を早期に措置すべきである。また、使い勝手のよい制度とするために、案件の性質に応じた多段階選抜・競争的対話方式の本格的な導入等を、PFI法をはじめとする関連法制の改正により実現すべきである。

加えて、民間や地域住民による投資を積極的に活用することも重要である。証券化手法等を通じた民間資金の活用、優良な民間都市開発事業を誘導するための公的資金による金融支援の強化、地域に必要な公共施設を整備するためのミニ公募債の発行などを積極的に実施していくべきである。

(3) 都市開発を巡る法制度・運用の見直し

  1. 民間の創意を活かした都市再生のための法制の整備
    都市再生特別措置法の枠組みは、都市計画の特例や金融・税制支援等の措置によって、多くの民間投資、経済波及効果を生んできた。
    特に制度の弾力的運用や規制の思い切った緩和は民間の創意工夫や意欲を引き出す上で不可欠であり、また、事業スケジュールの予見可能性や許認可の透明性向上は事業者のみならず内外の投資家の資金を導入する上で極めて有効である。今後とも民間の資金やノウハウを活用しつつ、必要な都市開発プロジェクトを重点的に推進するため、都市再生特別措置法について、民間事業者の意見を踏まえ、必要な改善を講じた上で、延長・恒久化を行うべきである。

  2. 良質な建築ストック形成に向けた思い切った規制緩和
    大都市、地方都市ともに、マンションなどの建物の老朽化が進むなか、建替えや改修が思うように進まず、良質な街並みや生活環境の形成、住民の安全・安心の確保、低炭素化の推進の面から大きな社会問題となっている。
    都市の住宅やオフィスの良質な建築ストックへの建替えを推進していくため、借地借家法上の正当事由、区分所有法やマンション建替え円滑化法上の各種決議要件等を緩和すべきである。あわせて、建替えのインセンティブとなるよう、環境性能や耐震性などに優れた良質な建築物については、容積率、建ぺい率、道路斜線制限等の各種の建築規制の緩和を図るべきである。
    また、都市の中心部では虫食い的な低未利用地や細分化された複雑な権利関係が需要の高い大型建築物の建築や土地の有効活用を妨げ、都市の再生を大きく阻害している。土地の高度利用に向け、こうした細分化された土地を集約、整形し、一体的な敷地として有効に活用していくことが重要である。
    そのためには、地方公共団体と地域が協働してまちづくりのグランドデザインを策定するとともに、多数の権利者調整の事業コストに見合うインセンティブの付与(容積率緩和、容積率移転など)、都市再開発の円滑化に資する法制度等の環境整備(用地取得の円滑化、道路付け替えの柔軟化、立体道路制度の拡充など)を行う必要がある。

  3. 簡素で分かりやすい法制度・運用の整備・充実
    現在の都市計画、建築規制、開発規制は細部に至るまで複雑で多数の例外規定もあり、非常に難解である。国家戦略として大都市の再生を官民連携により進める上でも、地域の開発を地域自らの考えにより実施する上でも、現行の都市開発に係る法制を総点検し、不要なものは見直すなど、民間事業者、さらには広く国民にとって分かりやすい簡素な制度体系とする必要がある。
    都市開発に係る各種の行政手続についても、行政機関毎に個別の対応が必要とされ、事業者に多大なコストを課しているのが現状である。そのコストは最終的に国民に転嫁されることになる。電子化等の手段も用いつつ、各種手続の整理・統合や短縮、ワンストップ化を進め、事業者ひいては国民にとって負担の少ないものとすべく、国が主導して改革を推進すべきである。

(4) モデルプロジェクトの実施及び展開

都市開発には大規模かつ長期的な投資が必要であるが、限られた予算で確実な成果を生みだすには、先進的なモデルプロジェクトとなる事業、エリアを先行事例として選定した上で、前例や規制にとらわれない大胆な施策を施す必要がある。

モデルプロジェクトは、民間の提案に基づき、官民や業界、行政区域の枠を超えて、各々が有する先端技術、ノウハウを活用することによって、まちづくりをパッケージとして産業化するための実験場としての役割を果たすべきである。その下支えとして、例えば「成長戦略特区」のような地区を指定し、特区制度等を活用した規制緩和策、省庁別・制度別の関連支援措置を統合した一括的な予算・税制・金融措置、PFI・PPPなど各種施策をパッケージ化した上で、集中的に投入すべきである。

具体例として、例えば、低炭素・環境共生型モデル、エコ・コンパクトシティモデル、スマートグリッド導入モデル、子育て支援・福祉・医療の先進拠点モデル、新都市交通システム導入モデル、燃料電池自動車・水素供給インフラ整備普及モデルなどが考えられる。

これらのモデルプロジェクトにおいて施策を十分に検証し、一定の効果が示された施策については、広く各地域に対して施策の展開を図るべきである。

4.おわりに

以上に述べたような、大都市が国際競争力を高めて国の成長エンジンになるとともに、地方都市がそれぞれの個性あふれる魅力を発揮して活性化するという青写真が現実のものとなるかどうかが、わが国経済の持続的な発展の鍵を握っている。本提言が示した施策が政治主導により着実に実行され、一日も早くその道筋が見えてくることを期待したい。

その結果は国内のみにとどまらない。環境対応や高齢化対応、民間活力の発揮など課題解決型の都市モデルを構築し、その運営・管理のノウハウ、技術をパッケージとしてアジア諸国に提供することができれば、相手国の都市の質の向上に資するとともに、成長著しいアジアの需要を取り込み、「まちづくり」をわが国の新たな成長産業として発展させることもできる。そのために必要な「チームジャパン」体制の構築に、政府が民間と連携して役割を果たすことを求める。

以上

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