経団連訪中ミッション団長所見

2010年5月13日
日本経団連会長 御手洗冨士夫

1.訪中の背景、目的、総括

経団連会長としての4年間、私は日中経済関係の深化、発展に心を砕いてきた。この間、中国経済は党・政府指導者の卓越した指導力の下で、めざましい発展を遂げ、また、今般の経済危機においても的確な経済運営により、いち早く成長路線への復帰を果たしている。中国は世界の「工場」から「市場」へと変貌し、アジアひいては世界経済の牽引役としての期待を集めており、その動向はわが国のみならず世界から注視されている。こうした状況下で、日中経済関係は、政治と経済を車の両輪とし、戦略的互恵関係をベースとする経済貿易関係において、相互依存関係を高め、緊密の度合いを増してきている。また、信頼関係に裏打ちされた各界での日中間の人的交流の拡大と深化がこれを実質的に支えてきた。

人的交流については、私自身も、2007年に、日中国交回復35周年記念の日中文化・スポーツ交流年実行委員会の実行委員長をお引き受けし、交流イベントの実現を通じて、一般国民レベルでの交流の促進に努めてきた。また、2008年からは、四川大地震の被災地復興のため、震災復興面での日中の専門家間の経験交流の促進を目的に日中政府のイニシアティブで始められた日中中堅幹部交流の実行委員長を務めてきた。

これらの活動を通じて、温家宝総理との信頼関係を築くことができた。会見が今回で9度目となる温家宝総理からは、「経団連ミッションとは、訪中のたびに必ずお会いするようにしている。それは、日本の経済界との交流の良い機会と考えているからである」との言葉を頂いた。このように、特段の課題がなくとも互いに頻繁に会うことのできる関係を温家宝総理との間に築くことができたことは、中国政府のわが国経済界に対する期待の高さと信頼の証左であり、われわれ経済界の財産である。

私が経団連会長に就任直後の最初の対中交流は政冷経熱といわれた日中関係の打開の端緒となる温家宝総理との会談であり、これを端緒として、日中経済関係は大きく展開した。経団連会長の4年の任期を全うするにあたり、対中活動の総仕上げとして、12名の議長、副会長、副議長とともに今回の訪中を実現できたことは、大きな喜びとするところである。

2.具体的成果

  1. (1) 今回の訪中では、滞在中に、温家宝総理、李源潮中国共産党中央組織部長、楊潔チ外交部長、陳徳銘商務部長、王毅国務委員台湾事務弁公室主任、解振華国家発展改革委員会副主任、唐家セン中日友好協会名誉顧問、王忠寓中国企業連合会会長、崔天凱外交部副部長をはじめ中国の幅広い要路との会見を行うことができた。

    一連の会見を通じて、経団連と中国官民の良好な関係を改めて確認するとともに、今後協力を進めて行くべき分野について、予定の時刻を大幅に超過して踏み込んだ意見交換を行ない、協力関係強化の方策を探ることができた。

  2. (2) 第一に、中国の新興産業に位置付けられている環境、省エネ、省資源、新エネにおける政策やビジネスなどのテーマをめぐり、具体的で有意義な意見交換を行うことができた。国家発展改革委員会や商務部との間では、2兆8,000億元の生産規模が見込まれ、また、経済発展パターンの転換を図る上で重要となる環境・省エネ分野での協力について踏み込んで話し合うことができた。特に、リサイクルの技術・制度、原子力発電、高効率の石炭火力発電、高効率の送電設備、スマート・グリッドなどをめぐり意見交換を行ない、わが国の環境関連の最先端技術や経験の活用、協力について高い期待が寄せられた。この分野での協力は、今後の日中関係の中心の一つとなることが考えられ、一層の強化を図っていくことが必要である。

    また、この関連で、中央政府と唐山市が協力して進めている循環型経済モデル都市である曹妃甸(そうひでん)工業区建設については、温家宝総理をはじめ会見した首脳の多くより中国政府が重視する国家プロジェクトであることが紹介された。同地の訪問視察(予定)には、唐家セン中日友好協会名誉顧問が同行される予定であり、今後の環境・省エネ分野での両国協力の発展の可能性を展望する上で、極めて示唆に富むものになると期待している。

    さらに、経団連が来年、北京で「グリーン・プロダクツ展」を開催する計画については、温家宝総理をはじめ中国政府首脳の賛意を得ることができた。目下、世界の「工場」から「市場」へと変貌する中国でいかにビジネスを広げていくかについて世界各国が大きな関心を寄せる中で、日本企業の環境技術や製品の良さを積極的にアピールして、両国の協力やビジネスの起爆剤にしたいと考える。

  3. (3) 第二に、東アジアにおける経済統合推進や第三国での日中協力の推進について、陳徳銘商務部長との間で多面的な意見交換を行なうことができた。アジアの発展は世界経済の原動力であり、日中がアジアの発展に貢献するインフラ整備で協力していくことについては、多くの中国側の首脳と意見の一致をみることができた。今後、両国間でこの分野での協力の具体化について検討を深めていくことが期待される。

    また、東アジアの経済統合が重要であるとの考えに基づき、その中核としての日中韓FTA締結推進の重要性について、双方の認識が一致したことは成果であった。特に、温家宝総理は、日中韓首脳会議を通じて、3国間FTAの締結のプロセスの迅速化を図ることの重要性を指摘され、月末の韓国済州島での首脳会議での進展が期待されるところである。

  4. (4) 一連の会見で話し合った三つ目の重要課題は、日中間の人的交流、文化交流の促進である。李源潮中国共産党中央組織部長は、「両国関係の未来は、両国の若者の交流にかかっており、若者の心に協力と友好の種を蒔かねばならない」と述べられた。また、温家宝総理は、「日中の友好関係の基礎は民間交流にあり、相互理解を進める上で、両国の文化交流が何よりも大切である」と述べられた。お二人の指摘に賛同するものであり、経済界は、引き続き両国間の若手幹部や文化面の交流を重点的に促進していきたい。

    また、日中経済関係の一層の発展を促す上で、日中間の重層的な交流促進が重要であるとの認識から、中日友好協会と交流取り決めを締結した。この取り決めに基づき、引き続き、経団連は今回の訪中と同様の中国との政策対話の推進に努めていくこととしたい。

  5. (5) 首脳との一連の会合を通じて、温家宝総理を含む中国要路との人的ネットワークや交流インフラを財産として次の世代に引き継ぐことができたことは大きな成果であった。また、米倉次期会長の紹介に際して、温家宝総理は、「継往開来(前人の事業を受け継ぎ、将来の発展に道を開く)」、「発揚光大(伝統、精神などを大いに発揚する)」との言葉を我々に示され、経団連と中国の将来の関係の発展に期待を表明されたことに感銘を受けた。これは我々の励みであり、心強く感じた。

    最後に、今回の訪中は、短時日ながら幅広い政府要路と精力的に会見することができた。これもひとえに中日友好協会の周到な受け入れ態勢と準備の御蔭であり、唐家セン中日友好協会名誉顧問、井頓泉同副会長はじめ関係者の皆さんに改めて深謝するものである。

以上

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