エネルギー基本計画見直しについての意見

2010年4月7日
(社)日本経済団体連合会

1. 基本的視点

  1. (1)今後の資源エネルギー政策の策定にあたっては、エネルギー政策基本法の趣旨に則り、安定供給の確保、環境への適合、市場原理の活用という「3E」の適切なバランスを図っていくべきである。

  2. (2)温室効果ガス削減に関するわが国の中期目標については、「すべての主要国による公平かつ実効性のある国際枠組の構築及び意欲的な目標の合意」という前提条件があることにも留意しつつ、国際的公平性、実現可能性、国民負担レベルの妥当性、を踏まえた現実的な検討を行うべきである。

  3. (3)以上のような中期目標に関する検討を行うためには、2020年および2030年段階におけるCO2削減量や具体的な削減技術、それを促すための政策、コスト、経済全体や雇用等に与える影響を定量的に示すことが必要である。

2. エネルギー需要構造のあり方

  1. (1)今後のエネルギー需要の分析にあたっては、業務・家庭・運輸・産業の各部門における技術的な可能性、技術の普及の速度、国民負担を十分踏まえ、実現可能な施策を積み上げることが不可欠である。

  2. (2)また、具体的な数字を明記する際には、財源も含め、そのための政策的裏付けを明らかにするとともに、実現可能性について関連する産業と十分な意見調整をすべきである。

3. エネルギー供給構造のあり方

  1. (1)将来的に世界的なエネルギー需給の逼迫が予想される中で、わが国のエネルギー安全保障を確立していくためには、原子力、石油、天然ガス、石炭等のそれぞれの特性を踏まえたエネルギー源の多様化と供給源の多角化を図り、供給途絶リスクや価格変動リスクに柔軟に対応できるベストミックスを目指していくことが重要である。

  2. (2)とりわけ原子力はわが国のエネルギー戦略上、基幹となるエネルギー源。安全性の確保を大前提として、着実な推進を図ることが必要である。

  3. (3)再生可能エネルギーや化石エネルギーの位置付けについては、エネルギー安全保障の観点に加え、国民負担、経済性、技術可能性を十分踏まえ、客観的・合理的な検討を行うべきである。

  4. (4)エネルギー源のベストミックスを図るためには、資源の安定的な確保が前提となる。こうした観点から、戦略的な資源外交の展開、機動的なリスクマネー供給体制の確保、メタンハイドレート等の資源の実用化・商業化の推進に取り組むことが重要である。

4. エネルギー産業の国際展開

  1. (1)わが国の優れた環境・エネルギー技術を活かし、経済成長と国際貢献を同時に達成するため、高成長を続けるアジアをはじめ海外市場を開拓していくことが重要である。

  2. (2)そのため、(1)海外市場の開拓への官民の一体化・連携した戦略的取組みの推進(EPA・FTAやODA・OOFなどの仕組みの活用、政府首脳級によるトップセールスも含めた総合的な民間ビジネスの後押し)、(2)海外での温室効果ガス削減への新たなインセンティブの導入などを進めるべきである(詳細については、別添の提言「グリーン・イノベーションによる成長の実現を目指して」抜粋 I.を参照されたい)。

5. エネルギー技術開発

長期的なエネルギー・環境問題の解決を図るためには、水素還元製鉄等の製造プロセスや次世代軽水炉等の原子力分野、洋上風力等の再生可能エネルギー分野をはじめ、各分野での革新的技術の開発が不可欠である。そこで、政府はまず、国家的な議論の下にわが国が目指すべき中長期的な低炭素・循環型社会のビジョンとロードマップを描き、産学官で共有することが重要である。その上で、イノベーションの種(技術シーズ)の創出、育成、実現(市場化)といった、一連の流れを産学官の適切な役割分担と連携の下に円滑化していく必要がある(詳細については、別添の提言「グリーン・イノベーションによる成長の実現を目指して」抜粋 II.を参照されたい)。

6. エネルギー政策手法のあり方

  1. (1)国内排出量取引制度、地球温暖化対策税、再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度の検討にあたっては、これらの政策全体の効果や国民・企業への影響等を十分に分析し国民に提示し、透明性を確保しながら、産業界、労働組合、消費者など幅広い国民の声を直接反映するためのプロセスを丁寧に積み重ねることが不可欠である。

  2. (2)その上で、国際競争力の確保や雇用への影響などに十分配慮し、制度導入の是非も含めて、極めて慎重な検討が必要である。

  3. (3)また、「今後の資源エネルギー政策の基本的方向について」にある通り、政策の実施に伴う受益と負担の関係が国民に分かりやすい透明な形で示される仕組みの確保、新たなエネルギー技術等の普及の障害となっている規制の見直しも極めて重要な視点である。

以上

グリーン・イノベーションによる成長の実現を目指して
−環境分野における新成長戦略等への提言−

(2010年3月16日公表)抜粋

抜粋 I.

2.最先端の技術の普及促進に向けた政策

(4)国際貢献・海外市場開拓に向けた取組み

わが国の優れた環境・エネルギー技術を活かし、経済成長と国際貢献を同時に達成するため、高成長を続けるアジアをはじめ海外市場の開拓に向け、以下の取組みが重要である。

  1. 海外での温室効果ガス削減への新たなインセンティブの検討
    新成長戦略の基本方針では、「日本の民間ベースの技術を活かした世界の温室効果ガス削減量を13億トン以上とすること」が目標として掲げられている。
    わが国のクリーンな技術、製品、インフラなどの海外展開を促進するため、現在様々な問題点が指摘されているCDM(クリーン開発メカニズム)を補完する制度として、わが国の技術による海外での温室効果ガス削減分を、わが国の貢献分として評価できる独自の制度を新たに構築することを検討すべきである。具体的には、二国間協定などに基づき、一定の要件を満たした温室効果ガス削減プロジェクトの実施や、省エネ機器・設備などの輸出等について、削減分を定量的に把握し、わが国企業の貢献としてカウントできる仕組みを創設することが考えられる。その際、温室効果ガス削減プロジェクトの可能性調査(フィージビリティ・スタディ)のODA(政府開発援助)による実施、案件形成・実施への円借款充当も検討すべきである。

  2. 官民の一体化・連携の戦略的推進

    1. (イ)日本の優れた技術の普及を図る観点からは、明確な役割分担の下、官民が一体化・連携しつつ、EPA(経済連携協定)・FTA(自由貿易協定)やODA、OOF(その他政府資金)などの仕組みを戦略的に活用していくことが重要である。具体的には、円借款・無償資金協力はもとより、国際協力機構(JICA)による投融資、国際協力銀行(JBIC)による投資金融、日本貿易保険(NEXI)による貿易保険などの手段を有機的に組み合わせることが求められる。
      わが国のODAは要請主義を基本としているが、環境分野については、アジア諸国を中心に、ODAに関する二国間の政策対話を積極的に申し入れながら、相手国が低炭素・循環型社会を形成するためのビジョンや相手国の抱える課題に対するソリューションを一緒になって作り上げていくことが重要である。鉄鋼、電力、セメントなどの業界がアジア太平洋パートナーシップ(APP)で培った経験はこうした支援に役立つものと期待される。また、現地の実情に合わせ、複数のプロジェクト(水、エネルギー、農業、廃棄物・リサイクルなど)を柔軟に組み合わせ、取り組むことも検討すべきである。
      その上で、例えば円借款については、可能な限りSTEP(本邦技術活用条件)により実施すべきである。また、プロジェクト受注競争が激化する中、機動的な対応を可能とするため、実行の速い無償資金協力の枠を時限的に大幅に拡大するとともに、1件当たりの供与限度額を数十億円規模に増額することが重要である。さらに、JICAの海外投融資を再開し、例えばPPPの上下分離方式における民間投資部分に活用することなどが求められる。現地での事業促進に向け、財政負担の少ないJBICの活用も期待される。例えば、民間金融機関だけでは対応できない案件について、JBICの投融資資金を機動的に活用できるよう、制度を整備することも求められる。
      一般的に、途上国は、常に最先端の技術を求めているわけではない。しかし、最先端の技術を備えていない機器や設備がひとたび導入されれば、更新までの間、より多くのCO2が排出され続けるという問題が生じる。そこで、例えば超々臨界圧型石炭火力など、新型の高効率エネルギー設備を海外に設置する場合など、従来製品との価格差程度を公的機関が融資し、燃料費節約やCO2クレジットなどで返済を得る仕組みも検討すべきである。
      インフラや関連施設などの導入が遅れている途上国の場合、官民が連携して、低環境負荷型の都市整備、関連産業の育成、人材養成(日本での学習・研修も含む)などを支援していくことが有効である。また、省エネルギー、エネルギー安定供給、廃棄物処理・リサイクル、公害防止など、わが国の知見や経験を活用して、途上国における環境・エネルギー対策に関する法制度整備、事業企画などを支援することも重要である。
      なお、クリーンコール等の低炭素化技術、石炭やバイオマスの多角的利用、安全性の高い原子力発電の着実な新増設や高稼働率の実現、核燃料サイクル等の実績を国内で着実に積んでいくことが、国内の環境負荷低下のみならず、海外展開の大きな力となることにも留意する必要がある。

    2. (ロ)他方、「世界省エネルギー等ビジネス推進協議会」をはじめ、民間ベースでもビジネス・マッチングなどに積極的に取り組んでいるが、海外での展示、現地政府関係者とのコミュニケーションなどについて、政府の支援が期待される。とりわけ在外公館やJETRO(日本貿易振興機構)などにおいて各国の事情に関する情報収集・提供等の支援機能を一層充実することが望まれる。

    3. (ハ)こうした取組みの一環として、総理大臣をはじめとする政府首脳級が、政治的主導の下、トップセールスも含め総合的に民間ビジネスを後押しすることが期待される。

    4. (ニ)以上のような取組みが望まれる分野としては、石炭火力関連技術、原子力関連技術、水ビジネスなどが考えられる。

抜粋 II.

3.グリーン・イノベーションの促進に向けた戦略的取組み

イノベーションの実現には、中長期的な視点が欠かせない。政府はまず、国家的な議論の下にわが国が目指すべき中長期的な低炭素・循環型社会のビジョンとロードマップを描き、産学官で共有することが重要である。
その上で、イノベーションの種(技術シーズ)の創出、育成、実現(市場化)といった、一連の流れを産学官の適切な役割分担と連携の下に円滑化していく必要がある。

(1)イノベーションの種の創出

イノベーションの萌芽の研究段階においては、大学や公的研究機関が担い手として大きな役割を果たすことが期待される。
主要国が科学技術予算を拡充する中、わが国全体の研究開発投資における政府負担割合は、諸外国に比べ見劣りしており、対GDP(国内総生産)比1%の水準を安定的に確保する必要がある。
さらに、わが国が目指す低炭素・循環型社会などのビジョンを実現するために克服すべき課題と、課題解決に必要な研究開発のポートフォリオを産学官で議論し、明確化した上で、公的資金を重点的かつ戦略的に投入する必要がある。その際、基礎研究を実用化に結び付けていく過程における、いわゆる「死の谷」を克服するための研究開発分野への支援がとりわけ重要である。
また、こうした研究を進める上で、国内の研究拠点に海外から優秀な人材を誘致するため、外国人研究者の在留資格要件などの緩和、生活環境の整備など、受け入れ体制の整備に努めることが求められる。さらに、基盤的な分野においては、国際的な共同研究を推進していくことも重要である。

(2)イノベーションの育成段階

イノベーションの育成段階に対応する政策として、産学官連携の強化が重要である。そこで、EU(欧州連合)におけるテクノロジー・プラットフォームなども参考にしながら、低炭素社会などを実現する上で必要となる基礎研究、技術、国際標準化などに係る戦略を産学官で共有する場(グリーン・テクノロジー・プラットフォーム)を構築し、研究開発上の課題を共有していく必要がある。政府はこうしたプラットフォームの形成を促すとともに、ここから生まれた産学官連携による研究開発プロジェクトを資金面などで政策的に支援すべきである。
同時に、民間企業による実用化を視野に入れた研究を推進するため、研究開発促進税制の拡充・恒久化を図るとともに、ハイリスク研究などを支援することが求められる。

(3)イノベーションの実用化・製品化段階

  1. イノベーションの実用化・製品化を加速するため、ナショナルプロジェクトやモデル実証実験を政府などの主導で行うことが求められる。それらの成果を技術のショーケースとして海外に示すことは、国際的な低環境負荷への取組みを促すことになる。

  2. 同時に、現行のエネルギー需給構造改革推進投資促進税制(エネ革税制)の拡充、グリーンIT(省エネ型IT機器、環境ITソリューション)に着目したIT投資減税の創設、産業活力再生特別措置法(産活法)に基づく特例の拡充など、企業による投資を支援する必要がある。また、金融上の支援策として、今国会に提出されている低炭素投資促進法案の早期成立を図るべきである。さらに、CO2活用技術の革新を促す観点から、原料等として利用したCO2をCO2削減量としてカウントできるようにする措置も、今後検討すべきである。

  3. 国際市場における製品・サービスの優位性を高め、効果的に展開していく上で、戦略的な国際標準の推進も重要である。特に産学官の連携による標準化注力分野の明確化や、政府による環境・エネルギー分野の標準化人材の育成、ODAも活用したアジアとの共同研究開発・実証実験や連携強化、民間の国際標準化活動への支援などを推進すべきである。
    具体的に標準化に取り組むべき分野として、日本版スマートグリッド、建築物の環境性能評価手法(わが国におけるCASBEE:建築物総合環境性能評価システム)、省エネの測定方法、エネルギーマネジメントシステム、低炭素型製品の環境に対する貢献量の算定方法などが考えられる。

  4. また、環境負荷の小さい製品を製造する上での資源の確保も重要である。例えばレアメタルは、次世代自動車のモーター等の製造に欠かせない材料であるが、レアメタル権益の取得は、事業が長期・多額であり、リスクも大きい。従って、ODA資金やJOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)、JBICなども戦略的に活用し、多面的な資源ソースの確保に努めるべきである。他方、中国については、EL(輸出業者認定)制度により輸出数量制限や輸出税の賦課などを行っていることから、見直しを求めていく必要がある。併せて、民間企業が行うリサイクルやレアメタル代替技術への研究開発に対する支援を行うことが期待される。

以上

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