広域ポートオーソリティに関する提案

2010年9月21日
(社)日本経済団体連合会
運輸・流通委員会
物流部会

I.基本的考え方

輸送・物流分野は、わが国の産業競争力の屋台骨を支える要の分野である。その強化なくしては、国際競争でわが国企業が勝ち残っていくことは不可能であり、同時に、アジアをはじめとする成長著しい諸外国との連携を図ることも重要である。そこで、ゲートウェイである港を中心に、産業の競争力を支える重要基盤としての港湾の国際競争力強化をはじめ、国内外の生産・消費拠点を効率的に結ぶ物流ネットワークを早急に整備すべきである。

現在、政府では、選択と集中の考え方に基づき、国際戦略港湾の選定と整備を進めている。また、保税搬入原則の見直しなど輸出入通関手続きの改革が大きな進展を見せており、港湾の競争力強化が、ハード・ソフト両面にわたって図られていることも事実である。

しかし、港を経営するリーダーの不在、港湾・海運及び空港・航空の広域的な連携の不足、利便性の悪さやコストの高止まりなどの問題のほか、輸出入通関手続きにおいてもCIQ(Customs:税関、Immigration:出入国管理、Quarantine:検疫)等に改善の余地が残っている。また、港湾の運営全般に関して、省庁や関係企業による縦割りが依然として残されていることから、わが国の港湾は、世界に大きく後れを取っているのが現状 #1 である。加えて、わが国全体の港湾戦略に関するグランドデザインを描くことなく、釜山とのフィーダーを目的とする港湾整備などにまで散発的に財政投入が進められているという問題もある。

そこで、こうした問題を解消し、国際物流ネットワークにおけるわが国の地位を強化するためには、企業のグローバル展開やアジアへの生産拠点の移転などの国内産業構造の転換といった環境変化を踏まえて、港湾(将来的には空港も)を戦略的にとらえ、国家的視野からの総合的な経営を行っていくことのできる主体としての「広域ポートオーソリティ」の創設が急務である。特に、その取り組みに当たっては、周辺地域の開発やアクセスの改善などを含めた、全体最適を図る視点が不可欠となる。

そのため、国際戦略港湾を国際戦略総合特区として指定し、港湾(空港)を一元的に経営する「広域ポートオーソリティ」を創設すべきである。これにより、民間企業の参画や国からの税財政金融上の支援と国・自治体の主体的な取り組みを合わせて、国家戦略を自ら立案・実行することを含め、競争力強化に向けて一体的な港湾の整備を進めなければならない。その際、広域ポートオーソリティによる下記の取り組みが可能となるよう、地方自治体毎に権限が分断されている港湾の連携を強化するための法改正など、国の主導による法制度的な手当てが必要である。

#1 1980年の神戸港、横浜港、東京港は、いずれもコンテナの取扱量で世界の20位以内にランクされるなど、わが国は、かつて海洋国家として国際的に確固たる地位を築いていた。しかし、アジア近隣諸国主要港との競争が激化する中、わが国港湾の国際的地位の下落は著しく、2008年には、日本で最もコンテナ取扱量の多い東京港が24位、当時世界4位にあった神戸港が44位に位置している。また、空港でも成田は貨物取扱量で香港、仁川の後塵を拝しているのが現状である。
こうした順位の変化には、様々な背景がある。第一に、グローバル化に伴って、中国を中心とするアジアに生産拠点が移ったことが挙げられる。第二に、アジア諸国の経済成長に伴い、アジアと欧米間の荷動きが急増していることがある。第三に、コンテナや船舶の大型化も進められている。そして第四に、荷動きの増加や大型化の動きと並行して、上海や釜山を中心とするハブ港の整備が行われ、コストやサービス面での競争が生じた結果、世界中の荷物がハブ港に集中するようになったと考えられる。

II.広域ポートオーソリティの機能と主な取り組み

1.コンテナターミナル等の効率的運営

コンテナバース、ヤード、サイロ等の運用効率化による利便性や安全対策の向上など、効率的かつ迅速な物流基盤の整備を実現する。

2.高品質サービスの提供とコスト削減

国際ハブ港としての地位を確立している釜山港等との競争を前提にすると、釜山港並みのコスト低減を実現することが内航海運や港湾に対して求められる。そのため、スピードの短縮、きめ細かいサービスの充実、積荷の正確性や輸送の安全性といった品質の確保とともに、水先案内や接岸料を含め港に関わる利用料金の引き下げが必要となる。

3.国際物流の需要獲得

ポートセールスの拡大による集荷営業、国際旅客貨物の効率的な管理などを実現し、国際物流の需要獲得を狙うとともに、需要の喚起を促す。

4.周辺地域の開発と企業誘致

コンテナバース、ヤードの相互運用や整備統合により発生する余剰地を活用し、港への輸送インフラに対する投資や後背地域の開発(工場誘致・産業集積等)も同時に実施する。これにより、産業構造の変化に対応した国内生産への回帰を促す。

III.実施主体のあり方

  1. (1)民間企業、国・自治体が参画して、独立性、公共性、企業性(独立採算)、正確性、意思決定の迅速性等を備えた主体を設立し、国家戦略の立案・実行を前提に、ハード・ソフトの一体的な経営を行う(将来的には、空港の経営を含むことも考えられる)。
  2. (2)具体的には、公設民営(埠頭公社を民営化)の「港湾経営主体」が隣接港湾(例えば、東京湾にある4つの特定重要港湾と2つの重要港湾)も統合した上で、資金面・人材面での拠出やノウハウの提供、権限の委譲等を行い、ポートセールスや周辺地域の開発まで含めた国際競争力ある経営を行う。
  3. (3)組織の構成員としては、国、都道府県、市町村、公社、金融機関、民間企業、試験研究機関、弁護士、公認会計士、その他構成員が必要と認める者を含めることが考えられる。

IV.必要な措置

広域ポートオーソリティの設立にあたり、総合特区制度を活用しつつ、下記の措置を講ずることで、国際競争力ある実施主体が港湾経営を行うことが可能になると考えられる。

1.規制の特例措置

2.税制上の支援措置

3.財政上の支援措置

以上

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