経団連訪欧ミッション団長所見

2011年7月8日
経団連会長
訪欧ミッション団長
米倉弘昌

I.ミッションの背景と概要

  1. わが国と世界最大の単一市場EUは、互いに重要な経済パートナーとして貿易・投資の促進を通じて緊密な関係を構築している。東日本大震災という未曽有の国難に遭遇したわが国は現在、経済、社会の復興と再生に向けて全力で取り組んでおり、日本経済の再生を着実に遂行するために、主要な国・地域、就中、EUとの貿易・投資の一層の拡大・強化をこれまで以上に推進する必要がある。
  2. 5月末の日EU定期首脳協議において、経団連が予てより積極的に推進してきた日・EU経済統合協定(EIA)の交渉のためのプロセス開始に両首脳が合意したことは、EIA実現に向けた一歩前進と評価できる。他方、震災により発生した福島第一原子力発電所の事故とその影響を踏まえ、欧州各国は気候変動に対処しながら経済成長を達成するために、エネルギー・環境政策の見直しと再構築を行おうとしている。
  3. そうした中、経団連ミッションは、フランス、ドイツ、英国、ブラッセルを訪問し、各国政府首脳ならびに主要経済団体との意見交換を通じ、震災復興と日本経済の再生に向けた経済界の取り組み、ならびに震災により発生した原子力発電所事故への対応について説明した。また、原発事故を受けた欧州のエネルギー政策の転換について説明を受けた。
日程2011年7月3日(日)〜7月9日(土)
訪問先フランス:バロワン経済・財政・産業相、
フランス経団連(MEDEF)、パリ商工会議所、アレバ社幹部
ドイツ:メルケル首相、レスラー副首相兼経済技術相、
レラー首相補佐官、ドイツ産業連盟(BDI)
英国:キャメロン首相、
ケーブル ビジネス・イノベーション・技能相、
英国産業連盟(CBI)
ブラッセル:ファン=ロンパイ欧州理事会常任議長、
ビジネスヨーロッパ
構成団長米倉経団連会長
団員渡評議員会議長、渡辺副会長、小島副会長、大塚副会長、
斎藤副会長、宮原副会長、中村副会長・事務総長

II.主な論点と成果

1.原子力を含む訪問各国のエネルギー・環境政策の展望

  1. 当方から、資源に乏しいわが国における原子力の利用については、安全性の確保を大前提として、エネルギーのベストミックスの中で位置づけていく必要があることを説明し、理解を得た。
  2. フランスでは、バロワン経済・財政・産業相より、国家戦略の根幹である原子力の重要性を国民は理解しており、今後も調査に基づく安全性強化のための投資を拡大しながら推進すると同時に、多様な再生可能エネルギーの導入拡大を目指すとの発言があった。
  3. また、世界的原子力企業アレバ社幹部は、エネルギー自立と温室効果ガス削減、雇用創出と経済性の観点から原子力の重要性を強調し、今後も安全性や透明性を確保しながら取り組みつつ、並行して再生可能エネルギー開発を進めるとした。
  4. ドイツでは、レスラー副首相兼経済技術相から、エネルギー集約型産業の世界市場での競争力確保にも留意しつつ、脱原発、自然エネルギー導入を推進していくとの説明があった。
  5. ドイツ産業連盟(BDI)との懇談では、ドイツの急速な脱原発への転換の背景には、国民の大多数(80%)の反対ならびに原発政策をめぐる国内政治が深く関係しているとの指摘があった。今後は、不足分を再生可能エネルギーや火力発電で補う必要があり、温室効果ガスの削減などの課題の達成や、電力価格の一層の上昇による産業競争力の低下に懸念が示された。ビジネスヨーロッパも同様の懸念を示しており、将来原子力の再評価が行われる可能性があるとの見解が披露された。
  6. そうした状況下、日独産業界は、双方が強みを持つ省エネルギー技術開発分野において協力の可能性が大きいという認識を共有することができた。
  7. 英国産業連盟(CBI)との懇談において、化石燃料による発電のみに依存することは困難であり、透明性を確保し安全措置を取った上で、原子力に対する投資を継続していく必要があるとの点で一致した。
  8. ファン=ロンパイ欧州理事会常任議長からは、福島第一原子力発電所の事故は欧州の世論に大きなインパクトを与えたが、ドイツ、イタリア以外の国では原発を継続する意向の国も多く、反応は様々である。エネルギーミックスのあり方については各加盟国の権限であるが、EUとしては、加盟国のほぼ半分の国において各国の国民に安心感を与えるべく厳しいストレステストを行うこととなっているとの説明があった。
  9. 一連の議論を通じ、各国のエネルギー政策における位置づけは異なるものの、とりわけ資源小国において、原子力エネルギーは一定の役割を果たすことを再確認することができた。また、双方の企業が、原子力はもとより再生可能エネルギーの開発やエネルギー効率の向上などの分野で、技術開発協力の重要性について共通認識を得たことは、大きな収穫であった。

2.日・EU経済統合協定(EIA)

  1. 当方からは、日EU EIAによって経済交流の拡大と多様化が一層促進されることを強調し、早期のEIA交渉開始を強く要請した。
  2. これに対して、フランスのバロワン経済・財政・産業大臣は、非関税障壁(NTB)ならびに政府調達に関する日本政府のコミットメントが交渉開始の前提条件との認識を示すとともに、EIAにより双方の経済は大きく発展するとの期待を表明した。
  3. フランス経団連(MEDEF)との懇談では、数年前は反対が多かったが、現在は日本進出を視野に賛成する企業も増加していることが紹介され、同国の経済界のEIAに対する立場の変化を確認することができた。
  4. ドイツのレスラー副首相兼経済技術相からは、独経済界には批判的な意見もあるが、NTBの撤廃につき日本政府・経済界が早期に明確なシグナルを発信すれば、ドイツ政府としてEUへの働きかけを強化することは可能との認識が示された。
  5. NTB問題に関連し、メルケル首相に対し、産業界同士の対話が問題解決に向けて有効ではないかと提案したところ、「素晴らしいアイデアである」との賛意を得ることができた。
  6. レラー首相補佐官からも、日本政府の「国を開き、高いレベルの経済連携を推進する」との閣議決定を歓迎し、ドイツ政府としても産業界による対話の進行を睨みつつ、時機を計って交渉開始をEUに働きかけるとの発言を得たことに意を強くした。
  7. ドイツ産業連盟(BDI)との懇談では、かつては日EU EIAに反対であったが、具体的な市場開放の要求と貿易障壁を明確化することを条件に、交渉開始を容認する方針に転換したとの発言を得た。
  8. 英国では、キャメロン首相より英国はEU内において推進役として最前線にあるが、他のEU加盟国を説得するためにも、日本にはNTBについて対応してほしいとの発言があった。
  9. ファン=ロンパイ欧州理事会常任議長からは、スコーピング作業が終了すれば交渉に入る用意があるが、今やボールは日本側にあると認識している。EU側は、(1)スコーピングの開始、(2)交渉開始に必要なEU内部の準備の開始の2つについて決定したとの説明があった。また、ビジネスヨーロッパとの懇談では、スコーピングの成功裏の終了を前提としながらも、EIA交渉開始を支持するとの見解が初めて示された。
  10. 総じて、EU側とEIAの重要性について認識を共有することができたことは大きな収穫であった。いずれの国からもNTBへの日本の取り組みについて繰り返し要請がなされたものの、スコーピングの中で条件が整えば日本とのEIA交渉開始を容認する流れにあることが確認できた。
  11. 今後はスコーピング作業を速やかに終え、早期に交渉が開始されるよう、関係方面に引き続き働きかける所存である。
以上

日本語のトップページへ