アジア太平洋地域協力における日本の役割
− 1995年APEC大阪会議に向けての提言 −

1995年6月20日
社団法人 経済団体連合会

  1. 提言の目的
  2. わが国は、APEC大阪会議の議長国としてアジア太平洋地域の協力に積極的なイニシアティブを発揮することが期待されている。
    経団連では、昨年11月、「アジア太平洋地域の域内協力のあり方に関する基本的考え」を公表し、この地域の経済成長の原動力である民間の経済活動を促進すべく、政府が貿易・投資の自由化、環境整備に取り組むべきことを提唱した。 さらに、経団連ミッションが今年前半アセアン6ヵ国とベトナムを訪問した際、各国の政府、経済界首脳より、日本の投資を通じた技術移転、人材育成、中小企業の振興、インフラ整備などについて強い期待が寄せられた。
    こうした議論を踏まえ、APEC大阪会議を主宰する日本が何をすべきかについて、経済界の考えを明らかにする。

  3. 基本的な考え方
  4. (1) APECの多様性に配慮し自主的な自由化計画の策定を求めること
    APEC大阪会議では、貿易・投資自由化の行動指針を示すよう求められているが、アジア太平洋地域は、文化的背景や経済の発展段階などの面で多様な国が集まっている。従って、一律ではなく、各国の多様性に配慮し、自主的な自由化計画が尊重されるべきである。もとより、貿易・投資の自由化を積極的に進め、経済活性化を図ることは、さらなる経済発展に大きく貢献するものである。

    (2) 日本が自由化の先導役になること
    まず先進国、なかんずく日本が率先して、自らの市場の自由化に取り組むべきである。その中でも、輸入拡大に資する規制緩和を断行する必要がある。

    (3) GATT/WTOとの整合性を確保すること
    APECは、GATT/WTOを補完、強化すべきものであり、APECの自由化を無条件で域外適用すべきである。

  5. APEC大阪会議へ向けた日本のとるべき行動
  6. (1) 外国からの投資・輸入を拡大するための規制緩和の断行と関税率の引下げ
    世界第2位の経済規模を持つわが国は、外国からの投資・輸入の拡大に一層努力し、アジア太平洋地域における透明で開放的な市場の形成の先導役となるべきである。
    とくに自由化推進の先導役を果たすためには、率先して規制緩和を断行することが重要である。「原則自由、例外規制」の基本方針に照らし、3年間に短縮された規制緩和推進計画のさらなる前倒しを行うとともに、今回の計画に盛り込まれなかった事項についても規制緩和に取り組むべきである。
    関税面では、GATTウルグァイ・ラウンドでコミットした事項の前倒しを含め、関税率の一層の引き下げを図るべきである。

    (2) 開発協力の推進
    1. 日本のODAがこれまでアジア太平洋地域の途上国の経済発展に大きな役割を果してきたことを踏まえて、今後とも、わが国は途上国へのODAをさらに拡充すべきであり、また、APECの場においても、貿易・投資の自由化ならびに円滑化と並んで、開発協力にも重点が置かれるよう積極的に働きかけていかねばならない。
      援助にあたっては、先進国間の協調をより一層強化するとともに、韓国、台湾、シンガポールなど、新たに援助供与国としての役割が増すことが期待される国々との連携も密にする必要がある。
      さらに、各国の産業構造の高度化につながる技術・ノウハウの移転、技能工、エンジニア、経営管理者の育成、サポーティング・インダストリーの育成・振興、産業インフラの整備などの面で支援を強化する必要がある。また、各国の環境保全や社会開発に資する協力も積極的に推進すべきである。

    2. 日本政府は、各省庁やその関連機関が行っている技術協力、研修、中小企業育成のためのプログラムについて、利用者、協力者である内外の民間の意見を聞き、また、その知見を生かし、縦割り行政の弊害を是正して、柔軟かつ総合的なプログラムを大阪会議で提示すべきである。

    3. 電力、輸送、通信など従来、公的部門で整備してきたインフラ部門に外資を呼び込むべく、途上国で行われるBOT(Build, Operate & Transfer)やBOO(Build, Own & Operate) など新たな民活型プロジェクトへの協力要請が増している。そうした民間主導のプロジェクトのリスク軽減を図るためには、海外経済協力基金の出資機能、日本輸出入銀行の出資ならびに保証機能や貿易・投資保険制度等の一層の活用がなされねばならない。

    4. 国境の枠を越えた技術協力プログラムやインフラ協力プロジェクトは、APEC参加各国・地域の政府が、国際的なビジネスに携わっている民間のアイデアを尊重し、計画、履行すべく官民協力体制を整備すべきである。なお、併せて、APEC傘下の既存の作業グループについて、重複、欠落を避けるべく改編すべきである。そして、インターネット等の手段をできるだけ有効に活用し、各作業グループの活動成果を民間に広く開示するよう努めることが大切である。

    (3) 貿易・投資の円滑化
    貿易・投資円滑化措置(行政制度・規則の透明化、税関手続きの簡素化、関税コードの共通化、ビザ取得制限の緩和、基準・認証の共通化と相互認証、知的財産権の保護、紛争処理制度の創設など)の早期実現に努めるべきである。日本政府は、途上国の円滑化に関する諸努力を促すため、行政、法制面からも支援、助言すべきである。

  7. APECへの民間の参画
  8. アジア太平洋地域の経済発展の源泉である民間の意見をAPECの議論に反映させるべく、常設の民間諮問機関を置くべきである。当該諮問機関は、APECと一定の独立性を保ち、APECの自由化計画の着実な履行状況を監視する機能を有すべきである。
    また、諮問機関の各国・地域の委員は、出身地の主要経済団体との連携を強化するとともに、民間の意見の総意を汲み上げ、APEC諮問機関へ提言する機能を保持すべきである。


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