消費者志向型の流通システムの確立に向けて

5.政策要望と民間事業者自らの課題


現在進行中の流通構造変革は、民間事業者の価格・品質・サービスをめぐる公正かつ自由な競争を通じ、市場メカニズムの機能が一層発揮され、多様な消費者ニーズの充足度が高まるとともに、国際的により開放された市場が形成される構造転換として評価できる。この変革を加速するとともに、中小企業問題をはじめとする過渡的な摩擦を軽減する観点から、政府と民間事業者は相互に協力して次のような課題に取り組む必要がある。

〔政府が果たすべき役割〕

  1. 規制緩和の推進

    流通構造変革は、何よりも民間事業者の自己革新により推進されるものであり、政府は規制緩和を施策の基本とすべきである。そのような観点から、「規制緩和推進計画」(95年3月)を着実かつ前倒しで実行するとともに、毎年度の計画改定において計画内容の拡充を図るべきである。
    国のみならず地方においても規制緩和を推進すべきであり、地方公共団体は大店法等の趣旨を超えた上乗せ・横出し規制は厳に慎むとともに、「規制緩和推進計画」の趣旨を踏まえ、独自の規制についても抜本的に見直す必要がある。また、地方公共団体の行政運営における公正の確保と透明性の向上を図るため、行政手続法の趣旨に沿って、行政手続条例を早期に制定することが求められる。 規制緩和すべき事項の詳細は、物流等関連分野とともに改めて政府に建議するが、主だった項目は以下の通りである。

    1. 大店法の段階的廃止
      「規制緩和推進計画」では、99年度を目途に見直しを行うこととされ、その後、「緊急円高・経済対策」(95年4月)において、5か年計画を3か年計画に前倒しすることが決定された。これを踏まえ、大店法の段階的廃止に向けた検討を早急に開始する。

    2. 参入規制、価格規制の緩和・廃止等
      • 需給調整の観点からの参入規制の廃止
        未成年者の飲酒・喫煙防止について十分配慮しつつ、販売の意欲と能力を持つ小売業に対しては、一般酒類小売業免許、たばこの小売販売許可を全て与える。

      • 資格制度に伴う事実上の参入規制の緩和
        販売する医薬品を限定した場合には、管理薬剤師の配置を不要とする等医薬品の一般販売業の許可基準を緩和する。

      • 価格規制の廃止等
        • 革靴等の関税制度を見直すとともに農水産物等の高率関税を引き下げる。
        • 製造たばこの小売価格を自由化する。

      • その他の規制緩和
        • 特定計量器の定期検査および販売に係る手続を簡素化する。
        • 豆腐製造業等の実態に即し、女子の深夜労働規制の適用除外業務を拡大する。
        • 各種基準・認証・表示の国際的整合化を図るとともに、外国データの受入れ、相互認証制度の導入、自己確認品目への移行を推進する。また植物検疫を迅速化する。

  2. 新たな中小流通政策の展開

    価格競争の激化、後継者難等により中小流通業の経営環境が悪化しているが、中小事業者の中には、構造変革をビジネスチャンスと捉え、開発輸入や地場産業等の製造業との連携による新企画商品の開発、新規分野・新業態の開拓、地域密着性・専門性・顧客相談機能の発揮等の事業革新に主体的に取り組む動きがみられる。政府としては、このような意欲ある中小事業者の対応を積極的に支援する観点に立ち、中小流通業政策を展開すべきである。その際、三公庫一事業団となっている政府系中小企業金融機関の役割も見直し、中小企業政策の効率的一元的展開を検討すべきである。
    中小卸売業については、小売支援・商品企画・海外調達等の卸売機能に加え、物流機能、情報機能を強化するため、集約化を含め異業種卸売業との水平的連携や製造業・小売業との垂直的連携の強化が不可欠となっている。このため具体的には、
    1. 共同輸入、開発輸入等
    2. 共同配送、共同物流センターの構築等
    3. EDI化、各種コードの開発・普及等
    に焦点を絞った助成措置の強化が望まれる。とりわけ、中小卸売業の事業革新の要となるのは、既存の業種、企業の枠を超えた国際化、物流効率化、情報化の必要性を理解し、その担い手となる人材の確保であり、このような人材の育成に行政、民間事業者が連携して取り組む必要がある。
    中小小売業については、従来の商店街整備を軸とした支援策は、商店数の減少、空店舗比率の高い商店街の発生等に示されるように、地域住民のニーズに対応した商業集積づくりに必ずしも効果的でなかった。したがって、今後は地域社会に密着した魅力ある商業集積・まちづくりを図る観点から、特定商業集積整備法や中小小売商業振興法等を活用するとともに、意欲と能力のある個店の事業革新に重点を置いた選択的な支援策を強化すべきである。具体的には、製造業における独立ベンチャー企業育成と同様の観点から、人材の育成・確保、起業資金融資等、起業化支援措置を充実するとともに、専門性、個性を活かした、大規模小売業との共存共栄等の取り組みに対する助成措置を拡充すべきである。

〔政府と民間事業者が相協力して取り組むべき課題〕

  1. 競争政策の適切な運用と商慣行の是正

    規制緩和の実効を上げるには、政府と民間事業者がそれぞれの立場から自由・透明・公正な市場経済の実現に努める必要がある。
    政府は、事前相談制度等を通じ、「不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」(84年11月)、「不当な返品に関する独占禁止法上の考え方」(87年4月)、「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(91年7月)等の趣旨を徹底すべきである。とりわけ、大規模小売業のバイイングパワーの増大に伴い、納入価格の交渉、返品、従業員等の派遣・協賛金等の負担・多頻度小口配送等の要請等の面で優越的地位の濫用があるとの指摘も製造業、卸売業からあり、こうした点にも十分配慮し、競争政策の適正な運営に当たることが望まれる。
    民間事業者においても、「経団連企業行動憲章」(91年9月)、「わが国の商慣行の現状と今後の課題」(93年7月)に沿って、企業行動の点検に努め、押し付け販売、不当な買いたたき、PB商品の返品等の優越的地位の濫用や不当廉売等の惧れがある行為については是正を進めるとともに、商慣行の透明化に努める必要がある。

  2. 環境・廃棄物対策

    流通委員会報告「循環型流通システムの構築に向けて」(94年4月)で指摘した通り、製造業、流通業、消費者、再生資源業が相互に協力し、行政とも連携して、熱源としての利用も含め、廃棄物の回収・リサイクル(いわゆる「静脈流通」)を視野に入れた循環型の流通システムを構築することが求められている。
    このため、民間事業者は、リサイクルを前提とした商品開発の推進、簡易包装化等はもちろんのこと、「容器包装リサイクル法」の成立も受け、資源ごみのリサイクルの推進に積極的に取り組む必要がある。また、環境負荷軽減のため、発注の計画化、共同配送等による配送回数の削減、クリーンエネルギー車の導入等の一層の推進も求められる。
    行政としては、一般廃棄物の回収・リサイクルのシステムを構築する観点から、特定の自治体または市町村連合をモデル自治体として指定し、国の強力な支援の下に、全国展開可能なシステムを実験的に開発することも検討すべきである。同時に、リサイクルに関する消費者の責任意識を涵養し、ごみの減量を図る観点から、ごみ回収の有料化を推進すべきである。

〔民間事業者が主体的に取り組むべき課題〕

  1. 情報化の推進

    近年、QR、ECRという情報化を基礎とした流通効率化手法が出現しているが、この普及を図り、各分野における流通業、製造業、物流業さらには金融業を含め、流通システム全体として効率化を推進する必要がある。このため、POSやEDI等の情報システムの導入・普及とともに、商品コード・物流コード等の各種コード、各種ビジネスプロトコルの標準化やデータベースの構築に関連業界が連携して取り組むことが求められる。
    また、女性の社会進出や高齢化の進展等を踏まえ、マルチメディア等の新しい情報技術を活用した販売方法の開発と必要な条件整備に努める必要がある。
    政府においても、情報通信基盤整備を推進すべきである。併せて、「行政情報化推進計画」(94年12月)、「規制緩和推進計画」を着実に実施し、各種法律により保存が義務づけられている帳簿等の電子データによる保存を認めるとともに、申請・届出手続の電子化、ペーパーレス化等を推進すべきである。

  2. 消費者対応の充実

    規制緩和の進展や商品選択肢の幅の拡大に伴い、消費者が、価格、品質に関する正確な商品知識、権利・義務に関する正しい認識等を踏まえて、使用目的や嗜好に応じた選択を自らの責任で行うことが求められている。
    民間事業者としては、情報化等に対応した新しい消費者保護の仕組みの整備に自発的に取り組むとともに、消費者に対し、各種商品情報や適正な使用方法を積極的に提示する必要がある。とりわけ、指摘されることが多い食品の鮮度や見映えを過度に重視する傾向は、配送、包装、廃棄等の面で環境負荷を増大させるとともに価格上昇を招き、さらには輸入品に対する合理性を欠く障壁の一つとなっており、加工食品の日付表示や成分表示等を含め、消費者の正しい理解を促す必要がある。
    また、95年7月から製造物責任法(PL法)が施行されたが、流通事業者としても、その社会的な使命を果たすため、直接的な責任主体となるPB商品や直接輸入商品の販売のみならず、NB商品の販売に関しても、製造事業者と相協力して、顧客への正確な商品情報の提供、商品に対する安全性チェックの強化、店頭における品質管理や安全性確保の一層の徹底、消費者苦情等を処理する紛争処理体制の整備等、適切な対策を講ずる必要がある。


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