新食糧法の運用に望む

1995年10月2日

社団法人 経済団体連合会
農政問題委員会


11月1日から、「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」(以下「新食糧法」と略)が施行される。本法律は、生産者の自主性を活かした稲作生産の体質強化、市場原理の導入や規制緩和を通じた流通の合理化を図るものであり、その運用に当たっては改革の趣旨を徹底する必要がある。そのような観点から、経団連としては、新食糧法関連の政省令の策定につき下記の事項の実現を要望したい。
言うまでもなく、新食糧法による米穀の全量管理から部分管理への移行は、戦後農政の大きな転換であり、生産調整や備蓄・調整保管等の実態を踏まえ、必要に応じ今後も見直しを行っていく必要がある。とりわけ、ガット・ウルグアイ・ラウンド農業合意に基づく関税化猶予の特例措置は2000年までに限定されていることを考えると、今後、さらなる国際化の展望に立った、新たな農業・農政の枠組みづくりに取り組む必要があり、経団連としても検討を続け、提言を行って参りたい。
なお、農業分野における規制緩和要望については、ここに要望するもの以外に、飼料生産や食品工業の原料調達関連等の規制緩和要望を加え、農業以外の分野の規制緩和要望とともに来月にも政府に建議することにしている。

【記】

  1. 生産者の自主的判断が尊重される選択的減反制度の実現
  2. 〔提言〕

    稲作生産構造の改革と生産者の経営マインドの向上を図るとともに、国際競争にも耐え得る農業の確立と農村の活性化を実現するため、平成7年11月より施行される新食糧法の下で、生産者が市場で形成される価格指標やコスト条件などを考慮して、自らの主体的判断によって、生産調整策に参加するか否かを選択できる仕組み(選択的減反制度)を確立すべきである。

    〔説明〕

    新食糧法によると、政府は予め生産調整に関する指針等を公表し、これをもとに生産者が生産調整に参加するか否かを決定する仕組みになっている。しかしながら、従来どおり農協等出荷取扱業者に対し、生産調整業務への協力を呼びかけるとしており、現場での運用いかんによっては、稲作の担い手として期待されながら数としては少ない大規模生産者の意向が尊重されないおそれがある。規模拡大により効率的な生産を目指す生産者の意向が本当の意味で尊重される制度とするには、大規模生産者等を原則として生産調整の対象から除外する等、画一的な生産調整面積の配分が行われることのないようにすべきである。

  3. 米穀流通に係る規制緩和の徹底
  4. 〔提言〕

    新食糧法の施行に伴い、新たに実施される米穀流通制度において、生活者・消費者のニーズに対応した米穀流通ルートの多様化と競争促進を図る観点から、計画流通米の出荷取扱業者、卸売業者、小売業者の登録要件を緩和し、登録手続を簡素化すべきである。また計画流通米の基準数量変更に係わる承認要件を最小限のものにするとともに、計画外流通米の数量届出手続の簡素化を図るべきである。なお第1回の登録業務を可及的速やかに行い、新規参入の促進を図るべきである。

    〔説明〕

    1. 平成7年11月に施行予定の新食糧法では、出荷取扱業者(従来の指定制の集荷業者)や販売業者(従来の許可制)は登録制に移行するが、資力信用要件の他、第一種出荷取扱業には一定数以上の生産者との出荷契約の締結、登録卸売業者には一定数量以上の年間販売数量等、それぞれ一定の要件を満たすことが求められる。さらに、登録出荷取扱業者には、農協と同様に、指導、確認等の生産調整関連業務を担わせるとのことであり、これらの運用次第で実際の新規参入が制限されかねない。

    2. 従って、米穀流通の川上から川下を通じた規制緩和を徹底するため、新規参入する登録出荷取扱業者については生産調整関連業務を免除する等、意欲ある事業者が自らの経営判断で自由に参入できるよう、これらの要件を緩和すべきある。

    3. 新食糧法施行に伴う経過措置として、第1回の登録受付は平成8年6月とされており、それまでは旧食管法における販売業者を登録販売業者とみなすことになっているが、消費者ニーズに対応して流通の活性化を促進する観点から、登録を可及的速やかに実施し、新規参入の促進を図るべきである。
      また登録卸売業者は都道府県ごとに登録する必要があるが、登録卸売業者については、従来どおり近隣都府県への販売を認めるとともに、追加登録要件を極力緩和すべきである。また登録小売業者については、新規出店を簡易な手続により随時受け付けるべきである。

    4. また、計画外流通米制度についても、計画出荷米の基準数量変更に係る農林水産大臣の承認を得るか、あるいは計画出荷基準外米穀として事前に農林水産大臣に届出を行えば、自由に販売できるとのことであるが、承認要件が厳格で、しかも承認申請手続が煩瑣なものとなった場合、米穀の自由な販売が阻害されることが懸念される。したがって、承認要件や諸手続を最小限のものとし、米穀取引に市場実勢を反映させていくことにより、米穀生産および流通の活性化を図るべきである。

    5. さらに登録販売業者については帳簿への記帳を義務づけるとしているが、事業者負担の軽減を図る観点から、記載項目を在庫数量確認のために必要最小限のものに限定し、帳簿に代えてフロッピーディスク等の電子媒体による記録を認めるべきである。

  5. 事業者の自主検査に基づく精米表示の実現
  6. 〔提言〕

    新食糧法施行に伴う精米表示制度の改革において、計画外流通米についても事業者の自主検査に基づく表示を認めることにより、食味、価格、品質面で消費者ニーズに対応した精米の販売を実現すべきである。

    〔説明〕

    新食糧法施行に向けて、現在、政府において精米表示のあり方に関する検討が行われている。既に農産物検査法の改正により、計画外流通米については国による検査を義務づけないこととされているが、消費者の信頼を得るため、事業者は自主的に品質や食味を検査し、表示することが考えられる。
    したがって、計画外流通米のみで販売する場合や、計画流通米とのブレンドで販売する際に、計画外流通米について「未検査米」等の表示によらず、事業者の自主的検査の結果を表示することを認めるべきである。これにより、消費者の選択肢の拡大を図り、競争促進による米穀流通の活性化を促すべきである。

  7. 米穀の政府買入価格、政府売渡価格の段階的引下げ
  8. 〔提言〕

    稲作生産構造の改革を促進するとともに、内外価格差の縮小を実現する観点から、米穀の政府買入価格および売渡価格を段階的に引き下げるべきである。

    〔説明〕

    1. 新食糧法下の米穀の政府買入価格は、需給実勢や物価動向等を参酌するとともに、「米穀の再生産を確保することを旨として定める」とあるため、結果として零細な生産構造を温存する価格決定が行われる可能性がある。したがって、価格の持つ需給調整機能を十分に発揮させ、稲作生産構造の高度化を促進するとともに、内外価格差の縮小を図るために、米穀の政府買入価格及び売渡価格を目標を定め段階的に引き下げる必要がある。

    2. またミニマム・アクセスの実施に当たっては、品質や価格の面で実需者や消費者のニーズを十分に反映させることが重要である。したがって、政府は民間事業者に対する情報提供やニーズの把握に努めるとともに、SBS数量を拡大するなど民間事業者の意向が反映されやすい手法に改善すべきである。また、売却に当たっては国内の米価水準を押し上げるのではなく、需給実勢を反映した価格で売り渡すべきである。
      さらに備蓄米の売渡価格についても、需給実勢や品質条件を十分反映した弾力的な価格決定を行えるようにすべきである。

  9. 自主流通米価格形成センターにおける公正な価格決定・取引方式の確立
  10. 〔提言〕

    米穀流通の大宗を占める自主流通米の価格決定に当たって、市場条件を的確に反映させるため、自主流通米価格形成センターにおける入札取引において、上場数量の拡大や入札回数の増加、値幅制限の緩和・撤廃、売り手・買い手の多様化等を進めるとともに、取引参加者間の公正な競争条件の整備、および大口需要者等第三者による運営の監視体制を強化すべきである。

    〔説明〕

    1. 現在の自主流通米の入札取引は、平成7年産の通年米では、上場数量は産地品種銘柄毎の集荷数量の25%、入札回数は年8回(延べ12回)に限定されており、値幅制限(年間±7%)も行われている。さらに売り手は二次集荷業者および指定法人(販売シェア25%以内)、買い手は卸売業者及び卸売業者の県団体に限定されている。

    2. 新食糧法において、自主流通米価格形成機構は自主流通米価格形成センターに衣替えされ、これに伴い運営方法等を法制度上明確にするとされるとともに、入札取引の透明性確保、需給実勢の的確な反映を図ることになっており、入札取引の抜本的な改善を図る必要がある。

    3. 特に、上場数量の大幅拡大や入札回数の増加(最低限、「入札取引に関わる業務規程」の通り月1回とする)、売り手・買い手の多様化(大規模生産者による上場や一定の要件を満たす登録小売業者や大口需要者等による入札を認める等)などにより、米穀取引を公正・透明で且つ、市場実勢、市場ニーズを反映したものとすべきである。また、現行の値幅制限の結果、十分に需給を反映した価格となっていない面があることから、値幅制限について廃止も含め、大幅に緩和していくことが求められる(最低限、「入札取引に関わる業務規程」の本則通り±10%とし順次拡大する)。

    4. 入札取引のみならず、相対取引においても、生産者や出荷取扱業者から卸売、小売業者、並びに大口需要者等への直接販売を認めるべきである。
      また、国民・消費者の信頼を得るためには業務運営の公平・透明性確保が不可欠であり、このため、第三者を主体とする監視体制を組織化するとともに、公取による独占禁止法の厳正な適用が求められる。
      なお、農協系卸売業者の自県産米入札の問題に関しては、平成6年度通年米より自己上場への入札を自粛しており、今後とも、その徹底を図る必要がある。


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