税制改正に関する提言

(別紙・税制改正の重点項目

1995年10月11日

社団法人 経済団体連合会


  1. 税制改正に対する視点、望ましい租税構造の姿
    1. 急激な円高、産業、金融・証券市場の空洞化、雇用状況の悪化が進行し、わが国経済の回復は遅々として進まず、海外でも日本経済を不安視する声が日ごとに強まってきている。
      このような閉塞状況を脱し、活力ある経済社会を取り戻すためには、抜本的な経済構造改革が不可欠である。税制改正については、わが国が直面している諸課題を解決するための経済構造改革の一環として、位置づけるべきである。
      わが国税制について中長期的改革を進める際には、以下の視点を踏まえ、望ましい租税構造への積極的取組みが望まれる。

      1. 所得課税、消費課税、資産課税のバランス

        わが国経済を活性化させ、安定的成長軌道に乗せ、さらには豊かで活力ある高齢化社会を実現するためには、所得、消費、資産の税制全般にわたる抜本的見直しが不可欠である。とりわけ、所得税、法人税等の直接税に偏った税体系を改め、直間比率の是正を進める必要があり、消費に対する課税の比重を高めていくことは避けられないと考える。
        また、所得課税については、納税者番号制の導入とあわせて、総合課税への移行を検討すべきである。

      2. 税制の国際的整合性

        それぞれの税制を考えるにあたっては、常に国際的整合性に力点を置くべきであり、とりわけ、企業の実質的な税負担の国際的イコールフッティングが重要である。

      3. 産業の国際競争力の維持

        わが国産業、なかんずく製造業の国際競争力を維持していくことを念頭においた税制の構築が不可欠である。すでに米国、ドイツをはじめとする先進諸外国では、企業の国際競争力の強化に向けた総合的な対策を進めている。一方、日本の国際競争力は、「国際競争力レポート」(WORLD ECONOMIC FORUM) によると、総合順位では93年まで守った首位の座から第4位に転落し、企業の税負担の面でも、国際的に極めて重い状況にあることが示されている。

    2. わが国経済は92年以降3年間もほぼゼロ成長という未曾有の事態に陥っており、しかも資産デフレ問題、不良債権問題が未解決のままであり、先行き経済が回復軌道に向かう目処はたっていない。
      また、長引く景気低迷で、企業の体力が急速に低下する中、雇用維持の努力も限界に近づいている。まさに雇用情勢は最悪の状態にあり、これを放置すれば、深刻な社会不安を招くおそれがある。
      このように、極めて深刻な状況に置かれたわが国経済の現状を考えれば、税制改革の中で、国際的にみて著しく高い法人の税負担の軽減、土地保有税負担の軽減といった当面の景気対策につながるものは、96年度改正において前倒しして実施すべきである。

  2. 今後の財政運営のあり方
    1. 税制改正を行うにあたっては、歳入と歳出の両面から総合的に検討する必要があり、まず、思い切った経費の節減をはじめ、行財政改革の具体的な推進に取り組むべきである。企業が懸命にリストラを行いコストの削減に努める中で、地方を含め政府にも同様の努力が求められる。今後の消費税率の引上げにおいても、行財政改革の推進が不可欠である。
      いずれにしても、国、地方を通じて行財政改革を断行し、小さな政府を実現するとともに、21世紀に向けた国づくり、地域社会づくりのビジョンに沿った予算の重点配分を図ることが最も重要である。

    2. こうした政府の努力を前提に、必要な場合には、当面、赤字公債の発行を躊躇すべきではないと考える。高齢化の進展とともに貯蓄率の低下は不可避であるが、高い貯蓄水準にある今こそ、その資金を有効に活用し、将来の備えを十分に行う必要がある。

  3. 法人課税について
    1. 豊かな高齢化社会を実現するためには、日本経済が活力を取り戻し、安定成長の軌道に乗せることが大前提となる。その鍵は、経済活力の源泉である企業と勤労者の活力をいかに引き出すかにかかっている。しかも、企業が積極的に対外進出するメガ・コンペティションの時代の中で、国際的にみて過重となっている法人税負担水準をこのまま放置すれば、国内企業の海外移転、外国企業の日本回避を招き、産業の空洞化、雇用情勢の悪化につながるおそれがある。
      企業の実質的な税負担を、少なくとも、米国なみの約4割とする必要がある。また、連結納税、欠損金の取扱い等についても、諸外国の制度と比較しつつ検討する必要がある。

    2. 企業の税負担の国際水準への引下げを図る上で、法人税とともに、法人事業税をはじめとする地方税負担の大幅な見直しが不可欠である。地方においても、行財政改革の断行、行政経費の削減を図り、地方税負担の軽減に努めるべきである。なお、地方税における超過課税は直ちに撤廃すべきである。
      事業税については、外形標準課税への移行の議論もあるが、企業の税負担軽減にならず、むしろ外形化の方法によっては、過大な負担を負わせるおそれがあり、外形標準課税は容認できない。
      高齢化社会に向けた地域福祉の充実、地方分権の推進の観点から、安定的な地方財源の確保が必要であり、そのためには昨年創設されることとなった地方消費税の担う役割が大きいと考える。

    3. 企業経営の効率化の観点から、最近、分社化・子会社化が進んでおり、こうした企業経営形態の多様化に応じた税制が求められる。すでに先進諸外国においては連結納税制度が一般的となっており、税制の国際的整合性の観点からも、連結納税制度の導入を急ぐべきである。

    4. 法人税率の引下げにあたっては租税特別措置の整理による課税ベースの拡大を同時に行うべきであるとの意見があるが、わが国の法人関係租税特別措置は、ここ数年縮減、整理され、現存する租税特別措置は、研究開発や環境保全、中小企業関係の必要最小限のものと言っても過言ではない。むしろ、わが国経済が、空洞化を回避し、21世紀に向けて経済構造の改革を通じて、新天地を切りひらいていくために、環境保全に係る措置等に加えて、研究開発を促進するための増加試験研究費の税額控除制度等の拡充、新たな市場・雇用を生み出す新事業・新産業の発展を促すための税制措置の創設など、前向きの政策が求められている。諸外国においても、研究開発、環境保全等に関して手厚い政策税制がとられている。
      すでに役割を終えたものを廃止する等の見直しは常に必要であるが、政策手段としての意義を無視して、財源捻出のために整理することは適当でない。

    5. 一部に、退職給与引当金や賞与引当金は大企業優遇との誤った認識があるが、引当金は本来、商法、企業会計原則によって計上が義務づけられたものであり、引当金残高に占める大企業のウエイトが高いのは、それだけ多くの雇用を吸収し、また従業員の福祉充実に努力している現れである。企業が従業員への確実な給付のために行っている退職給与引当金制度、賞与引当金制度は、維持・拡充が必要である。加えて、公的年金を補完する企業年金について、年金財政上の負担軽減を図るため、国際的にも例のない特別法人税を撤廃すべきである。
      また、金融機関を中心に今後貸倒れが増える懸念があり、貸倒引当金の拡充も重要な課題である。

  4. 土地税制の抜本的見直しについて
  5. 固定資産税と地価税をあわせた土地保有税負担は、企業収益を大きく圧迫し、また土地譲渡益重課は企業のリストラを阻害しており、土地税制の抜本的見直しを緊急に行うべきである。

    1. 地価税

      地価税は、固定資産税との二重課税となっている上、生産手段として有効に活用されている土地にも課税されている。また、地価税による負担は特定業種、特定地域において過重となっている。土地の有効活用を図るという政策目的にそぐわない不公平・不合理な税であり、撤廃すべきである。

    2. 固定資産税

      94年度の評価替えに伴って、負担は年々、最低でも5%ずつ増加している。このような毎年の大幅な負担増加は、行政サービスに応じて負担するとされる固定資産税の本来の性格からいって受け入れられるものではない。
      96年度改正において、少なくとも現在の負担水準に据え置くべきであり、さらに次回(97年度)の評価替えに際しては、税率の引下げ、評価のあり方の見直し(地価公示価格の7割評価の見直し)等の抜本的改正を行うべきである。

    3. 長期土地譲渡益課税等

      企業がリストラを進める上で、長期保有土地の譲渡益に対する重課制度の廃止が不可欠である。また、大規模かつ優良な都市・住宅開発を促進する観点から、個人の長期土地譲渡益課税についてもバブル前の水準に軽減すべきである。
      土地を取得する側においても、土地の登録免許税、不動産取得税が固定資産税評価額の大幅な引き上げに伴い過大な負担になっていることから、これらの税の軽減が必要と考える。

     

  6. 証券税制等の見直しについて
    1. 経済の心臓部ともいうべき証券市場が不振を極めていることは、わが国経済全体にとって重大な問題である。証券市場の活性化は、当面の経済の活性化策として早急に行う必要がある。証券取引コストを増大させ、証券市場空洞化の一因となっている有価証券取引税は、多くの先進諸外国においてすでに廃止あるいは軽減の方向にあり、証券市場の活性化、税制の国際的整合性の観点から、撤廃すべきである。

    2. また、配当に係る二重課税の排除についても早急に進める必要がある。

  7. 所得税について
    1. 当面の経済対策として来年度においても、所得税・住民税の特別減税を継続すべきである。

    2. 経済を活性化し、勤労者の働く意欲を削ぐことを避けるためには、中堅所得者層の痛税感をさらに緩和する必要があり、所得税体系のあり方について引き続き検討する必要がある。

    3. あわせて、国民一人ひとりが老後の生活等に備えて行う自助努力に対しても、生命保険料控除・損害保険料控除の拡充、個人年金に係る所得控除制度の整備、などの支援を行う必要がある。

    4. 加えて、国民の資産形成を促進するとともに、景気回復の牽引役として期待される住宅投資を拡大する観点から、住宅取得促進税制、居住用資産の買換特例の拡充を図るべきである。

以上の基本的考え方から、特に改正が求められる項目は別紙の通りである。


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