日本産業の中期展望と今後の課題

〔第二部〕
個別業界の中期展望と課題

7.鉄鋼


  1. 現状
  2. 鉄の普通鋼鋼材の内需の5割は土木・建築が占めているため、バブル景気当時の建設ブームが去った後、全体的な国内消費が落ち込んでおり、普通鋼鋼材の消費は、1990年度の8,100万トンから94年度の6,532万トンに激減した。また円高に伴う内外価格差による国内ユーザーからの価格引下げ圧力と、空洞化による需要の減少に直面し、苦しい経営を迫られている。
    国内価格は大幅に下がっているものの、円高のためドル換算ではほとんど価格が横ばいである。また鋼材コストのうち、ドルベースで調達する鉱石・石炭などの原料調達コストが2割、現在は大部分が国内から調達されており今後国際競争にさらされる分野である生産財購入コストが2割、国内でしか調達できず国際競争にさらされていない分野の購入コスト(労務費、用役費、輸送費等)が6割を占める。このうちの生産財については、いかに国際価格で調達していくか、残り6割のコストについては生産性をいかに上げていくかが課題である。1982年から鋼材価格が3割下げる一方、労務費が4割程度上昇したというのが現状である。かつては、為替レートと輸出物価指数が開いており、輸出産業、輸出生産財が非常に強かった中での円高であったが、現在それが、むしろ逆に振れ、購買力平価との乖離が非常に大きく、大きな重圧となっている。国際競争にさらされていない非生産財分野の生産性の向上対策が急務である。

  3. 課題
    1. コストの削減
    2. 鉄鋼事業の国際競争力の回復に向け、固定費の削減を進め、コスト競争力を再構築する必要がある。具体的には、人員削減を含めた管理・間接コストの削減、操業コストの改善、外部調達コストの圧縮等、があげられる。

    3. 管理部門のスリム化
    4. 管理部門のスリム化を進め、事業部門や製鉄所・営業部門等の現場第一線への権限の委譲を進め、「小さな本社」を実現する。

    5. 品種別アプローチ
    6. 品種別の管理体制を構築し、品種別・市場別にアプローチを図る。また技術・生産・販売の一体化を進め、品種毎の事業部的運営を図る。

    7. 海外展開
    8. 急速に需要が拡大している東南アジア・中国等では、技術移転に留まらず、海外生産拠点を構築していく必要がある。

  4. 中期展望
  5. 今後の展望としては、6,400万トンを底とし、2000年に向けて6,800万トンレベルの普通鋼鋼材の需要を見込んでいる。これに特殊鋼鋼材の内需見込み(約1,200万トン程度)を加え、8,000万トン程度の鋼材ベース(粗鋼換算で約8,500万トン)の内需が見込まれる。輸入と輸出の差引を1,000万トン〜1,500万トン程度と見ると、粗鋼内需は少なくとも9,500万トン以上は期待できる。

  6. 政策への提言・要望
    1. 産業基盤の構築
    2. 長期的に日本経済の生産性を上げるため、情報通信基盤の整備、税の適正化、土地対策等を通じて産業基盤の構築が肝要である。

    3. 為替レートの安定
    4. 為替レートは110円程度が望ましい。為替がオーバーシュートしたまま2〜3年も続くと産業構造をも破壊しかねない。黒字を減らす方向で為替対策を真剣に検討すべきである。

    5. 規制緩和によるコストの削減
    6. 生産性が低い分野を効率化するため規制緩和を一層推進すべきである。

    7. 雇用対策
    8. 雇用問題に対応し、再教育プログラム等適切な雇用流動化政策を実施するよう要望する。


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