純粋持株会社の解禁についての考え方

1995年12月8日
社団法人 経済団体連合会
競争政策委員長
弓 倉 礼 一


  1. 経済的規制の撤廃、緩和が進められるならば、消費者の利益を守り、市場における公正な競争を確保する上で、独占禁止法、競争政策が果たすべき役割はますます重要なものとなる。その一方で、独占禁止法についても過剰・不要な規制を思い切って整理すべきである。

  2. 独占禁止法第9条〔純粋持株会社の禁止〕は、独占の弊害を強調するあまり、実際の競争阻害性の有無に関わらず外形的な規制を行うものである。
    企業が産業構造の変化に対応しつつ、リストラクチャリングを進め、事業の再編、多角化、提携あるいは新規事業を積極的に展開していくためには、経営戦略を専ら司る本社機能の下に、各事業会社を配置し、その間で人材をはじめとする経営資源の最適配分を図り、グループ全体として柔軟な運営を進めていく仕組みが求められている。純粋持株会社は、このために最も効率的な組織形態である。
    自ら事業を行いつつ子会社を持つ事業持株会社では、親会社に残された事業部門と子会社に移された事業部門との間で、人材、資金などの資源配分等の優先度に差異が生じ、また子会社の自立性が損なわれるなど、本当に柔軟な経営戦略をとることができない。さらに、親会社と子会社との間では従業員の士気にも影響が生じる等の問題がある。そもそも、事業持株会社であれば競争政策上問題はなく、純粋持株会社では問題が生じるとする根拠はない。

  3. それぞれの企業にとっての最良の組織形態は、その企業が属する産業の構造、業態、企業の成り立ち等によって異なるものであり、どのような組織形態を選択するかは、それぞれの企業に任されることが自由経済のあるべき姿である。
    既に多くの企業から持株会社の解禁が主張されているが、持株会社のニーズは個々の企業によって異なる。
    さらに、持株会社が解禁されたならば、企業は創意工夫を発揮し、現在、予期し得ない経営組織が現れることになるであろう。競争政策上の弊害が生じない限り、いかなる組織形態をとるとしても自由であり、持株会社について狭い類型を定めて例外的な解禁を行うのではなく、幅広い活用に道を開くべきである。

  4. 加えて、金融システムの安定化が喫緊の課題となっている中、金融制度改革を有効・円滑に進める上からも金融持株会社の必要性が高まっている。

     

  5. 持株会社が解禁されても、戦前の財閥のような事業支配力の強大な集中が実現することはあり得ない。そもそも、事業支配力の過度の集中とは、いかなることを示すのか、何を基準としてどの程度の集中が生じれば弊害が生じるのかは明らかではない。
    グループ間取引、株式の相互持ち合いなどの「系列」関係は、現在の経済状況においてはその経済的合理性を失いつつある。公正取引委員会の調査結果をみても確実に解消される方向にあるが、今、余りにも部分的な持株会社の解禁をした場合には、非効率な系列取引や株式持ち合い、その他姑息な対応手段がとられるおそれがあり、海外から見た場合、系列その他理解の得にくい仕組みの残っていることを印象づけることにもなりかねない。

  6. 純粋持株会社の一律禁止は、欧米には例がなく、わが国の他には韓国のみに見られる国際的に極めて特異な規制であり、競争政策の国際的整合性の上からも問題である。わが国のみが持株会社を禁止していることは、海外からの市場参入、直接投資を妨げており、海外企業からも問題を指摘されている。また、多くの日本企業が、海外展開にあたって現地で持株会社を活用している。

  7. 持株会社の解禁により競争政策上の問題は生じないと考えるが、もし、弊害があり得るとするならば、それがどのようなものであるかを明確にした上で、それを有効に規制すれば足りるのであり、単に競争制限的な効果が生じるおそれがあるという可能性のみを理由に、企業の自由に任されるべき組織形態の選択を一律に禁止することは許されない。
    本来、独占禁止法第9条を全て削除すべきであるが、弊害規制のために何らかのチェックを行う必要があるとしても、事前届出ではなく、株式保有の事後報告制度に準じたものとすべきである。徒に、事前届出・審査を求めることは、公正取引委員会による過剰な介入を招き、規制緩和の趣旨にも反する。

  8. 持株会社の解禁と併せて、独占禁止法第9条の2〔大規模会社の株式保有総額規制〕についても見直しを進めるべきである。
    大規模会社の株式保有総額規制は、競争上の弊害の有無を問わず、資本金額あるいは純資産額が一定規模以上の企業の株式保有を外形的に規制するものであり、事業多角化のための子会社の設立・育成あるいは合併・取得等などの国内における事業展開を不当に制約するものである。競争制限的な株式保有に対しては独占禁止法第10条を有効に活用して対応することが可能であり、独占禁止法第9条の見直しと併せて、第9条の2を削除すべきである。
    また、独占禁止法第11条〔金融会社の株式保有規制〕についても、併せて抜本的見直しを進める必要がある。

  9. 以上のような独占禁止法の改正に加えて、持株会社の活用を有効に進めるため、法人税法における連結納税制度の導入を急ぎ、引き続き政府として、必要に応じて商法、証券取引法等の関連法制の見直しを進めるべきである。


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