[
目次
] [
序論
] [総論] [
各論
] [
補論
]
国際投資環境のあり方とわが国の対外・対内投資
〜多国間投資協定(MAI)交渉に望む〜
〔総論〕
MAIの全体的枠組み
MAI交渉開始の背景 これまでの投資に関する国際ルールは、(1) 投資の促進・保護等を目的とした各国の二国間投資協定、(2) 拘束力に限界があるOECDの「資本移動自由化コード」や「内国民待遇インストゥルメント」、(3) 紛争処理に関する多国間条約、 (4) GATTウルグアイ・ラウンドの成果である貿易関連投資措置(TRIMs)、(5) EU、NAFTA、APEC、メルコスルなど地域経済枠組みに基づく投資ルール等による重層的な構造となっている。
国際経済における投資の役割が重要性を増していることに伴い、これらのルールを踏まえた上で、新たに包括的で拘束力を持つ国際投資ルールを策定する必要性が高まっていたことから、OECDは91年から本件に係る検討を開始し、95年5月の閣僚理事会によって向こう2年間にわたるMAI策定交渉を行うことが決定された。
MAIの内容 MAIは、(1) 投資自由化に関するルール、(2) 投資保護に関するルール、(3) 投資に関する紛争処理メカニズムの構築、の3本柱からなる。
投資自由化に関するルールは、(1)内国民待遇、最恵国待遇、透明性原則などの基本原則、(2)一般例外、留保、一時的な免除等の取り扱い、(3)スタンドスティル、ロールバック等の自由化メカニズム、(4)民営化、キーパーソネル、パフォーマンス要求、投資インセンティブ、地域経済統合の扱い等の新たな分野等からなる。
投資保護に関するルールは、収用時の補償、有事の保護、送金の自由、知的所有権の保護等を内容とする。
投資に関する紛争処理メカニズムについては、国家対国家に加え、投資家対国家の紛争解決をも想定しており、(1)既存の紛争処理メカニズム(投資紛争解決国際センター等)の利用もしくは常設の紛争処理機関の新設、(2)適用範囲(設立前の投資に係る紛争の扱い)、(3)国内司法手続きとの調整等の問題を含んでいる。
また、協定の内容全体の前提となる投資および投資家の定義(ポートフォリオ投資も含めるべきか否か、第三国に設立された加盟国の投資主体をどのように扱うべきか等)、協定の適用範囲(排他的経済水域、大陸棚の扱い等)を巡る討議が行われている。さらに、非加盟国の参加の重要性、加盟実現のための課題、他の国際協定との関係等の問題もある。
(参考)MAI交渉の主な内容
投資の自由化
基本原則 内国民待遇、最恵国待遇、透明性 等
一般例外、留保、一時的義務免除 等
自由化メカニズム スタンドスティル、ロールバック 等
新たな自由化義務 キーパーソネル、パフォーマンス要求 等
投資保護
一般的措置
送金
収用と補償
知的所有権の保護 等
紛争処理メカニズム
調停
国対国
投資家対国
既存のメカニズムとの関係、適用範囲、国内司法手続きとの関係等
交渉の経緯 95年9月より交渉が開始され、以来6週間に1回2〜3日間の交渉が行われるとともに、ドラフティング・グループ、専門家会合などの下部組織で作業が行われている。第1回交渉の場で議長・副議長の選任と交渉日程の大枠で合意に至り、第2回から第6回の交渉では、主要項目についての討議が行われた。
現在、投資保護、キーパーソネル、地理的適用範囲等の各項目でドラフトないし議長ノートの作成がなされている。また、税制に関する扱いについて専門家会合による検討が行われている(96年4月より)。
多岐に渡る内容を包括する交渉であるが、関係各国の努力もありOECD加盟国内での交渉自体は当初の予定どおりのペースで進んでいるものと見られる。ただし、OECD非加盟国(特にアジア諸国)の中にはMAIの策定そのものに対する強い懸念があること、また、交渉の後半、各国国内の調整が必要となる段階では交渉当事国による厳しいやり取りが展開されるとみられることから、今後より一層、協定の意義の周知と関係各方面の理解が必要となろう。
議論が分かれている経済界の関心事項についての考え方 以上の交渉内容と進捗状況から、現状においては国際投資環境を著しく損なう、あるいはわが国経済界の利益を損うような議論は行われていない。しかしながら、投資の定義、税制については交渉上、議論が分かれている。また、OECD非加盟国の取り扱いおよびMAI加入方法等については議論が開始されていない。そこでまず、これら3点についてわが国経済界としての基本的な考え方を以下のとおり示す。
投資および投資家の定義 投資については、実体に即して直接投資全体をカバーするために、ポートフォリオ投資も包括する広い定義を採用すべきである。投資家の海外資産を有効に保護するためには現行の企業支配基準(OECD資本移動自由化コード等)により定義される直接投資のみを対象としたのでは不足である。直接投資と間接投資とが不可分となっている現状を踏まえ、直接投資と明らかに無関係な金融取引を除く投資全体を扱うこととすべきである。仮にこうした広義の定義を採用することによって個別条項で問題が発生する場合には、必要に応じてポートフォリオ投資を除外する等の例外条項を設けることで解決できると考える(但し、定量的基準の導入可能性について検討すべき)。
なお、投資の高度化に伴い、知的所有権の重要性が増大している。MAIにおける投資財産の定義には知的所有権を含めるべきである。
投資家の定義については、非締約国である第三国において設立され、締約国の投資家の支配を受けている会社も対象とすべきである。子会社、孫会社などの国籍を巡り多様なケースが想定されるが、できる限り明確な定義(例えば、株式所有50%超といった定量的基準)を示すべきである。
税制 税制は、二国間租税条約が存在するとともに、OECD租税委員会で検討が行われている。これらの蓄積は当然尊重すべきだが、MAIを国際投資の包括的な条約とするためには、条文中で税制に関して何らかの形で規律対象とすべきである。具体的には、OECD移転価格ガイドラインを取り込んで拘束力を付与することが必要である。
さらに、既存の二国間条約にある二重課税の回避および脱税の防止について、マルチのルールの中で確認する好機と捉えるべきである。
OECD非加盟国 国際的な直接投資の自由化と世界の経済発展を考える上で、MAI交渉についてもOECD非加盟国を考慮することが不可欠である。MAIはOECDの場で交渉がなされており、ハイスタンダードなものとなることが予想されるものの、非加盟国にも開かれた条約とすることを意図している。協定のレベルを維持しつつ非加盟国がMAIに加入できるよう、段階的な措置を講じておく必要がある。また、非加盟国のMAIに対する理解と共感を得る必要があり、この面でアジア唯一の交渉当事国であるわが国政府が担うべき役割は大きい。
焦点となる項目 国際投資に係る多様な問題の中で、わが国経済界の視点から事業活動を行う上で重要であり、改善が望まれる項目が、MAI交渉において適切に扱われることが望ましい。新たな自由化ルールの中の (1)人の移動に係るキーパーソネル、(2) ローカルコンテンツなどパフォーマンス要求、(3) 投資インセンティブが重要である。自由化の実現を確保する上では (4) 一般例外と留保、(5) 地域経済協定の取り扱い、(6) 米国、カナダなど州政府等の扱いが重要である。また、(7)税制については既述の基本的な考え方とともに、移転価格税制、ロイヤルティ等の経費処理基準等個別の問題点を考慮する必要がある。(8)紛争処理、(9)送金の安定・収用と補償についても投資家の立場から見た課題がある。他方、(10)民間慣行についてはMAIで扱うべきではない。これら10項目を中心に、以下
〔各論〕
で詳述する。
日本語のホームページへ