経団連環境アピール

−21世紀の環境保全に向けた経済界の自主行動宣言−

1996年7月16日
(社)経済団体連合会


経団連地球環境憲章の制定以来5年が経過し、われわれは環境問題への関心を一層深め、内外において積極的な取り組みを展開してきた。しかしながら、特に地球温暖化問題をはじめ、環境問題への取り組みの重要性は近年ますます高まっている。
例えば、気候変動枠組み条約の下で先進諸国は2000年のCO2 排出総量を1990年レベルに抑制するとされているが、わが国のCO2 排出総量はむしろ増加傾向がみられる。また、廃棄物対策についても、容器包装リサイクル法の成立等、循環型経済社会に向けての取り組みが始まっているが、かかる社会の実現には、“廃棄物”ではなく“資源”あるいは“副産物”と位置づける発想の根本的な転換が必要である。他方、環境管理・監査については、民間の自主的国際規格であるISO14000シリーズが今秋発効する予定であり、国際的気運が高まりつつある。
21世紀を間近に控え、環境保全とその恵沢の次世代への継承は国民すべての願いであり、われわれは資源の浪費につながる「使い捨て文明」を見直し、将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく現在の世代のニーズを満たす「持続可能な発展」を実現しなければならない。
その際のキーワードとして、われわれは、
  1. 個人や組織の有り様としての「環境倫理」の再確認、
  2. 技術力の向上等、経済性の改善を通じて環境負荷の低減を図る「エコ・エフィシェンシー(環境効率性)」の実現、
  3. 「自主的取り組み」の強化、
の3つが重要と考える。
こうした考え方に立ち、われわれはここに、“環境問題への取り組みが企業の存在と活動に必須の要件である”との経団連地球環境憲章の精神に則り、当面する環境分野の重要課題に対し、下記の通り、自主的かつ積極的な責任ある取り組みをさらに進める旨宣言する。
もとより、これらの問題に取り組むにあたっては、企業、消費者・市民・NGO、政府のパートナーシップが不可欠である。国民一人一人が「地球市民」であることを自覚する必要があるが、企業も同様に「地球企業市民」としての意識を持ち、政府や消費者・市民・NGOとの連携を図り、行動する必要がある。また、こうした国民の自覚を促すためにも、企業としても環境教育を支援し、社内外における環境啓発活動に積極的に取り組むことが有効である。
なお、「地球企業市民」として、政府や消費者・市民・NGOと共に考え共に行動するとの観点から、本アピールはインターネット等を通じて広く外部の意見を仰ぎ、地球環境保全に向けた産業毎の自主的行動計画作成をはじめとする今後の取り組みに反映していきたい。

  1. 地球温暖化対策
  2. 使い捨て経済の見直しとリサイクル社会の構築、エネルギー効率・炭素利用効率の改善等を基本方針とし、世界最高の技術レベルを維持するとともに、利用可能な技術を途上国に移転することによって地球規模のエネルギー利用効率の改善を目指す。

    具体的取り組み:

    1. エネルギー効率の改善等の具体的な目標と方策を織り込んだ産業毎の自主的行動計画の作成と、その進捗状況の定期的レビュー
    2. 都市・産業排熱の回収利用、自然エネルギーのコストダウン、コジェネレーション・複合発電等による化石燃料の利用効率の改善、原子力の安全かつ効率的利用の促進
    3. LCA(ライフ・サイクル・アセスメント)の視点に立った業際間連携によるエネルギー効率の改善
    4. 輸送効率の改善
    5. 省エネ型製品の開発等を通じた民生部門における温暖化対策への協力
    6. 政府との緊密な連携の下、途上国への技術移転のための「共同実施活動」への積極的な参加
    7. 企業自ら、あるいは経団連自然保護基金等を通じた内外における森林保護や植林の推進、等

  3. 循環型経済社会の構築
  4. 資源の浪費につながる使い捨て型経済社会を見直し、循環型に転換すべく、製品の設計から廃棄までのすべての段階で最適な効率を実現する「クリーナー・プロダクション」に努めるとともに、旧来の“ゴミ”の概念をあらため、個別産業の枠を超えて廃棄物を貴重な資源として位置づける。リサイクルを企業経営上の重要課題とし、計画的に廃棄物削減・リサイクルに取り組む。

    具体的取り組み:

    1. LCAの視点に立った、廃棄物の発生抑制・再利用やリサイクルの促進・処理の容易性等を念頭に置いた製品開発(モデルチェンジ頻度の再検討等)
    2. 廃棄物の適正処理
    3. 廃製品の回収・処理システムの構築
    4. 業際間連携による廃棄物処理技術の開発等による廃棄物の原料化
    5. 包装の簡素化とリサイクルの推進
    6. 環境負荷の少ない製品やリサイクル製品の積極購入、等

  5. 環境管理システムの構築と環境監査
  6. 環境問題に対する自主的な取り組みと継続的な改善を担保するものとして、環境管理システムを構築し、これを着実に運用するため内部監査を行う。さらに、今秋制定されるISOの環境管理・監査規格は、その策定にあたって日本の経済界が積極的に貢献してきたものであり、製造業・非製造業問わず、有力な手段としてその活用を図る。

    具体的取り組み:

    1. 社内体制未整備企業における環境管理・監査体制の速やかな導入
      (環境問題担当役員任命、環境担当部門設置、内部監査の実施等)
    2. ISO規格に沿った環境管理・監査の実施、もしくはそれに準じた取り組み
    3. ISOにおける環境ラベル、環境パフォーマンス評価、LCAの国際規格作りへの積極的参画、等

  7. 海外事業展開にあたっての環境配慮
  8. 海外生産・開発輸入をはじめ、わが国企業の事業活動の国際的展開は、製造業のみならず金融・物流・サービス等に至るまで、急速に拡大している。経団連地球環境憲章に盛り込まれた「海外事業展開における10の環境配慮事項」遵守はもちろんのこと、海外における事業活動の多様化・増大等に応じた環境配慮に一段と積極的に取り組む。

最後に、産業人一人一人も「地球市民」であることの重要性と緊要性を再確認し、一市民としても「持続可能な発展」実現に向けてライフスタイルを転換していく決意を表明する。

以 上


日本語のホームページへ