[目次] [第I章] [第I章/要旨] [第II章] [第III章]

税制改正に関する提言

I. 税制改正に関する基本的考え方

(第I章の要旨はこちら

  1. 税制改正に対する視点
    1. 税制改革の必要性
    2. 21世紀に向けた日本の経済構造改革を進める上で、税制改革は避けて通れない重大な課題である。その背景には、超高齢化社会の到来への対応と世界規模の大競争時代への対応という二つの問題がある。

      1. 高齢化社会の到来への対応
        わが国は急速に高齢化社会に向かっており、すでに生産年齢人口は95年をピークに下降局面に入っている。高齢化の進行への適切な対処を怠れば、公的負担の増大により経済成長力の低下が懸念される。目先の財政事情が厳しいことのみに目を奪われ、企業や国民に重い税負担を強い続けることにより経済の活力が失われるならば、豊かな高齢社会を実現する前提さえも崩れ去ってしまう。一方、経済が活性化すれば、国民福祉への余力は増大し、また税収の増加によって財政事情も好転することが期待される。その意味で、企業や個人がその活力をいかんなく発揮できるような環境を整備するとともに、世代間の負担の公平を図るという観点から税制改革を行なう必要がある。

      2. 大競争時代への対応
        大競争時代、ボーダーレス経済の進行の中で、企業が各国の経済情勢・制度を比較しながら、最適な活動環境を求めて国を選ぶ時代に入った。こうした潮流のなか、EU諸国をはじめとする先進諸国では、成熟社会を担う安定した税体系として付加価値税を税制の根幹として位置づけるとともに、企業・個人の活力を維持、促進するために法人税、所得税の減税を進めている。また、アジア諸国では、極めて低い法人税率と、海外からの投資を呼び込むための様々な税制上のインセンティブを競って提供している。
        これらのいずれにも共通していることは、企業を経済活力の源泉として重視し、自国の国際競争力を維持、強化していくために税制を積極的に活用していこうという姿勢である。このような世界の潮流から日本が取り残されるならば、高賃金をはじめとする高コスト構造の下において、企業の立地環境は著しく悪化し、国内企業の海外移転、外国企業の日本忌避により産業空洞化が進行し、雇用情勢の悪化は避けられない。税制の国際的な整合性に留意し、特に企業の税負担のイコールフッティングを実現しなければならない。

    3. 税制改革の前提
    4. 税制改革にあたっては、歳出と歳入両面からの総合的な検討が不可欠であ る。現在240兆円を超える国債残高を有するうえに、毎年大量の国債発行を余儀なくされている歳出構造を放置しておくことは、民間経済のクラウディング・アウト、国民負担率の上昇を通じて、個人、企業の活力を減殺し、日本経済を危機的な状況に陥れる危険性が大きい。社会保障、公共事業、経済協力、防衛、国・地方関係など従来聖域視されてきた分野も含めて、官民の役割分担の見直し等の観点から制度の根本に立ち返って見直し、今こそ抜本的な歳出構造改革に取り組む必要がある。そのためにも、まず国・地方を通じた徹底的な行政改革の断行が求められる。
      特に、急速な高齢化の進行に伴い、医療、年金等の社会保障給付費はさらに増加することが予想される。他方、企業の公的負担(租税負担+社会保障負担)が今以上に上昇すれば、産業空洞化はますます進行するおそれがある。
      このような事態を回避するためには、医療、年金、福祉等の社会保障制度を一体として改革すべきである。その場合、社会的入院の是正など制度を合理化し、制度間の調整を図るとともに、老人保健における定率自己負担の導入、医療供給体制や年金支給水準の見直し等を通じて思い切った費用の増嵩抑制策を講じる必要がある。

    5. 税制改革の方向
    6. 超高齢化社会において活力ある経済社会を維持するとともに、負担の公平を図るためには、個人ならびに法人の所得に対する直接税に偏った税体系を是正する必要がある。基本的方向として、消費に対する課税の比重を高めつつ、個人ならびに法人に対する所得課税の軽減を図っていくべきである。その際、簡素・中立・公平の視点を忘れてはならないことは言うまでもない。
      当面、来年度における消費税率引き上げを着実に実施すべきである。所得税・住民税の特別減税の継続に関しては、財政状況を踏まえつつ、景気動向を十分勘案しながら判断することが肝要である。なお、消費税率引き上げに伴い、個別間接税(石油諸税、自動車取得税等)については消費税との調整を進めていく必要がある。

  2. 個人所得税について
    1. 直間比率の是正の見地から、個人に対する所得課税の軽減を着実に進めていく必要がある。特に、わが国の経済社会を支えるサラリーマンの重税感を緩和し、勤労意欲がわくような税体系とすることが重要である。そのためには中堅所得者層における一層の累進緩和を図るとともに、所得税・個人住民税を合わせた最高税率を93年11月の政府税調答申で示された50%程度まで引き下げるべきである。併せて、総合課税への移行に向けて積極的に検討を進めることが求められる。

       

    2. 超高齢化社会に備えるため、国民の自助努力を支援し、国民負担率の増加を抑制する必要がある。そのためには、生命保険料控除制度ならびに損害保険料控除制度をさらに拡充するとともに、個人年金商品にかかる控除制度の整備を図る必要がある。

    3. 国民の資産形成を促進するとともに、景気の牽引役として期待される住宅投資を拡大する観点からは、住宅取得促進税制の拡充(控除期間の延長、所得制限の撤廃等)、居住用資産の買換特例の拡充(所有期間・居住期間の短縮等)を図るべきである。また、居住用財産の売却に伴い譲渡損失が生じた場合には、翌年以降3年間の所得金額から損失を繰り越して控除できるようにすべきである。

  3. 法人所得税について
    1. 法人税減税の必要性
    2. わが国では企業に対し過重な税負担と社会保障負担を強いつづけていることから、企業活力を十分に発揮することが困難となっている。この結果、わが国の企業を取り巻く環境は事業活動の展開にとって著しく魅力の乏しいものとなっている。
      本年7月に経団連が行った企業の公的負担に関するアンケート調査によれば、法人所得に係わる実質的な税負担率は95年度ベースで58.3%と実効税率を大きく上回っている。これは、企業にとって本来の利益である税引前当期利益よりも課税所得の方がかなり上回っているためである。
      また、税負担に加え、社会保障負担も企業の負担感を高めている。全体としての国民負担率は37.2%(96年度)であるのに対し、企業の公的負担率は7割を超えており、わが国企業の国際競争力の維持にとって大きな足かせとなっている。
      とりわけ、社会保障負担は急速な高齢化の進行に伴い、今後さらに増加することが予想される。過重な公的負担は国際競争力を損ない、国内企業の海外移転、外国企業の日本回避を招き、産業の空洞化、ひいては、税収の空洞化にもつながる。しかも、税負担と社会保障負担の中心的な担い手である企業が減少すれば社会保障制度自体が破綻をきたし、超高齢化社会への対応はおぼつかなくなる。
      これまで毎年、法人税減税については先送りされてきており、この間に、企業の海外への移転は急速に増加している。法人税負担の実質的軽減とともに、社会保障制度の改革を早急に進め、企業の公的負担全体にわたる見直しを行うことが不可欠である。

    3. 実効税率の引き下げ
    4. 法人税負担の実質的軽減を進めていくにあたっては、何よりも恒久的な減税効果を有する税率の引き下げが最重要である。先進諸外国ではこの10年ほどの間に、経済活力を高めるという観点から、相次いで法人税率が大幅に引き下げられており、その結果、日本の法人税負担は、先進諸国の中で最も重いものとなっている。現在約5割のわが国の法人実効税率を少なくとも米国なみの約4割まで引き下げていく必要がある。
      実効税率の引き下げにあたっては、国税である法人税率を極力引き下げるとともに、地方税とりわけ法人事業税の軽減が不可欠である。諸外国に比べて、GDPに対するわが国の法人税負担の割合が大きいのは地方税の重さによるところが大きい。法人事業税は、外形標準課税とするのではなく、地方の安定的な財源として地方消費税を拡充しつつ、縮小、廃止していくべきである。また、法人住民税、法人事業税の超過税率は直ちに廃止すべきである。

    5. 連結納税制度の導入
    6. わが国経済の構造改革に向けて、企業は、その活動の一層の効率化、活性化を目指し、懸命にリストラを進めている。分社化経営は、企業経営の再構築を図る上で重要な選択肢である。このような企業経営の新たなトレンドを踏まえ、先進諸外国では一般的である企業グループ間での損益の通算制度(いわゆる連結納税制度)を早期に導入すべきである。分社化経営が不利となるような現行の税制は、企業の経営形態の選択に対して中立性を欠いており、企業に不当な税負担を強いるものである。3月に示した経団連モデル(実質100%子会社に限定、連結前の欠損金の連結グループ内での利用は認めない)であれば、税収への影響は軽微である。

    7. 法人税制の適正化
    8. 法人税法は昭和40年以来、本質的な改正はなく、この30年間における経済社会状況の変化に対応すべく、政府税調では、法人課税小委員会を設けて法人税制の適正化について検討が進められている。
      法人税制の抜本的改正の検討にあたっては、わが国の経済活力の維持・強化の観点から、税制の国際的調和を図りつつ、わが国の会計風土として定着している確定決算主義を尊重し、企業会計制度との整合性に十分配慮する必要がある。本来、企業の意思表示が株主に対する場合と税務当局に対する場合とで異なっていることは不合理である。また、確定した計算書類をもとに申告書を作成することは、納税手続の簡素・簡明の観点からも重要である。

      1. 欠損金の繰越・繰戻制度の拡充
        欠損金の繰越はイギリス、ドイツでは無期限であり、米国でも15年間認められており、日本の5年という期間は非常に短い。特に新規産業の育成にあたっては、繰越期間の延長は非常に有効である。また繰戻還付の停止措置を直ちにとりやめるとともに、アメリカ、イギリス同様3年の繰戻期間を認めるべきである。

      2. 引当金の維持・拡充
        引当金は、費用収益対応の原則に基づき、企業会計上、引当てが義務付けられているものであって、企業優遇税制ではない。現在認められている引当金を税収目的のために廃止することは、企業の期間損益と課税所得との乖離を招き、企業活動の成果に対応しない税負担を生じさせ、企業の活動を阻害するおそれがある。

        1. 退職給与引当金
          退職給与は、わが国の労使関係の中で定着した日本独自の制度であり、後払い給与たる性格のものである。したがって退職給与引当金は従業員への支払いを確保するための制度であって、企業に対する優遇税制ではない。大企業の積立て額が大きいのは、それだけ大きな雇用を確保していることの現れである。その縮減は認められない。

        2. 賞与引当金
          賞与引当金は、会計上は未払費用の性格が強く、税務上、単に賞与引当金を廃止すると未払費用として計上する企業が増加し、債務確定に関する認定問題が生ずるおそれがある。

        3. 貸倒引当金
          最近では貸倒れが急増しており、縮減は認められない。一方、貸倒損失の認定の弾力化が求められる。

        4. 製品保証等引当金、特別修繕引当金、返品調整引当金
          企業会計上、引当てが義務づけられており、利用業種の偏在をもって制度の見直しを主張することは適当でない。

      3. 租税特別措置の見直し
        租税特別措置は、これまでわが国の産業政策の中で重要な役割を果たしてきており、先進諸外国においても、多くの政策税制が存在している。租税特別措置については、目的・内容にかかわらず一律に縮減するのではなく、その役割と効果の面から原点に立ち戻った検討を行なうべきである。
        検討の視点としては、(1)社会的規制への企業の対応の促進、(2)経済構造改革の推進、(3)科学技術立国の実現が挙げられる。また、恒久的な減税効果を考えるならば、税額控除制度ならびに所得控除制度を重視すべきである。

    9. 企業年金制度の見直し
    10. 高齢化が急速に進行していく中で、公的年金を補完する企業年金制度の役割が重要になっているが、バブル崩壊以降の運用利回りの低下などの環境変化の中で、企業年金制度は、発足以来最大の危機に直面している。そこで、確定給付型年金制度の下、5.5%という非現実的な水準に固定されている予定利率の弾力化、運用規制の撤廃、年金給付設計の弾力化といった制度改革が喫緊の課題である。さらには、米国の401Kプランのような確定拠出型の年金制度の導入を早急に検討すべきである。
      また、超高齢化社会の到来に向けて年金資産の一層の充実とその運用収益の向上が年金財政の改善に不可欠であるにもかかわらず、適格年金にかかる特別法人税は、財政改善の大きな妨げとなっている。特に、バブル崩壊以降の運用利回りの低下の中、特別法人税は極めて重い負担となっている。このような状況を踏まえ、特別法人税の撤廃が不可欠である。

    11. 国際租税の適正化
    12. 現行の外国税額控除制度は、欧米諸国に比して未だ不十分である。現地統括会社の設立の増加等の実態を踏まえ、控除対象のひ孫会社までへの拡大、持株比率要件の緩和など制度の改善を行なうべきである。
      移転価格税制については、各国ともOECDガイドラインに沿って、適正に運用すべきである。

  4. 土地税制の抜本的見直し
    1. 現行土地税制の問題
    2. 現行の土地税制は、バブル時に地価税の創設、固定資産税の引き上げ、譲渡益に対する重課などが行われ、非常に歪んだものとなっている。土地に関する税負担は、バブル崩壊後の景気の低迷、資産デフレの中、国民の負担能力を越えるものとなっており、早急な改正が必要である。本来、地価対策としては、土地利用・建築関連規制の合理化等を通じた土地の有効・高度利用を図ることが肝要であり、税制に偏ったものであってはならない。

    3. 地価税の廃止
    4. 地価税は、バブル時の地価高騰を沈静化させることを主眼に創設されたものであるが、既に地価は正常化し、特に商業地については依然として大きな低落が続いている中でその存在意義は失われている。地価税は、生産手段として有効に活用されている土地にも課税され、しかも、特定業種、特定地域に過重な負担を負わせている。土地の有効活用を図るという政策目的にそぐわない不公平・不合理な税である。したがって、地価税は廃止すべきである。

    5. 固定資産税・都市計画税の軽減
    6. 固定資産税は、94年度の評価替え(公示地価の7割程度に引き上げ)に伴って大幅に増大している。97年度評価替えによって、ある程度地価の下落を反映した評価額になったとしても、公示地価の7割を目途とする評価のもとでは、多くの土地に関しては課税標準は、さらに上昇することが予想される。その結果、固定資産税負担は、地価の下落にもかかわらず今後も年々増大することになる。
      本来、固定資産税は、行政サービスに応じて、土地から得られる収益の中から負担するものであるが、企業収益が低迷する一方、地方自治体の行政サービスが向上しているとは言えず、固定資産税負担のみ増大する根拠は全くない。また、地価の下落が続く中での固定資産税負担の増加は国民的な理解を得ることは到底できない。固定資産税については、税率の引下げ、評価のあり方の抜本的見直しが必要であるが、97年度改正においても、負担が軽減されるように手当てすべきである。
      都市計画税は本来、都市計画事業、土地区画整理事業に要する費用を賄うための目的税であるにも拘らず、事実上一般財源化され、固定資産税の付加税として安易な課税が行われている。各々の自治体における課税と事業の関連性を明確にし、不必要な課税が行われることのないよう見直すべきである。

    7. 長期土地譲渡益課税の撤廃
    8. 不良債権問題の深刻化がわが国経済を一層厳しい状況に陥らせているが、不良債権処理を促進する上で土地の流動化が不可欠である。それには、バブル対策として創設された長期保有土地の譲渡益に対する重課制度を廃止することが必要である。

    9. 登録免許税、不動産取得税の軽減
    10. 譲渡益課税とともに、不動産取引にかかる登録免許税、不動産取得税の一層の軽減が不可欠である。

  5. 金融・証券税制について
  6. 金融・資本市場の空洞化に歯止めをかけ、これを蘇生させていくためには、国際的調和の見地からの見直しが緊急の課題であり、有価証券取引税ならびに取引所税を撤廃するとともに、非居住者が受ける国内公社債の利子等については非課税にするべきである。また、自己株式の消却に係るみなし配当課税の停止措置は恒久化すべきである。加えて、個人株主育成の観点からも、配当にかかる法人税と所得税の二重課税を排除すべきである。


日本語のホームページへ