財政民主主義の確立と納税に値する国家を目指して
―財政構造改革に向けた提言―

補論1.

財政構造改革の目標(公的部門支出総額対GDP比率等)について


  1. 財政構造改革の目標とすべき指標
  2. 政府の分類と範囲
  3. 公的部門支出総額対GDP比率の推移と今後の目標水準
    1. 公的部門支出総額対GDP比率の推移(国民経済計算等より計算)
    2. 公的部門支出総額対GDP比率の今後の動向とその目標水準に関する試算
  4. 財政構造改革目標の関係について
(参考)
公的部門貯蓄投資差額対GDP比率の推移

  1. 財政構造改革の目標とすべき指標
    1. 本文で指摘した通り、財政構造改革の目標としては一般政府とこれに公的企業をあわせた公的部門の「支出総額の対GDP比率」と「財政赤字や債務残高の対GDP比率(*)」という複数の指標を用いていくことが適切である。

    2. しかしながら、現在、わが国の「国民経済計算」では公的企業の支出総額及び貯蓄投資差額(=公的企業の財政収支)を推計・公表しておらず、このため公的部門の「支出総額の対GDP比率」及び「財政赤字や債務残高の対GDP比率(*)」は現在どの程度の水準であるのか、正確に把握することは出来ない。
      政府には現在検討中のSNA体系を早期に見直し、これら統計指標を早急に整備していくことを強く望むが、とりあえずの目安を示すため、3〜5頁では「国民経済計算」等を基に「公的部門支出総額の対GDP比率」を計算した。更に6〜9頁では、「公的部門支出総額の対GDP比率」は最近(7年程度)の伸び率を維持した場合、どの程度になるのか、或いは、45%或いは50%といった具体的な数値目標を掲げた場合、どの程度の財政構造改革を行う必要があるのか、等について、今後の課題を示した。
      また、10頁では本文4頁に財政構造改革目標を複数取り上げたことから、それら目標の相互関係を示すため、2006年度までに公的部門の支出総額対GDP比率を45%程度、とりわけ一般政府支出対GDP比率を39.4%に抑制し、国民負担率を45%程度に抑制した場合の一般政府の財政赤字対GDP比率の水準を計算した。
      一方、「公的部門の貯蓄投資差額(=財政収支)」については、経済企画庁「季刊国民経済計算No. 108」において仮推計を行っていることから、11頁以降に、参考資料において最近の推移を紹介することとした。
      なお、政府の範囲と分類については、2頁に示した。

    (*)社会保障基金を除く

  2. 政府の分類と範囲
  3. 政府の分類と範囲
    (出典)「図説 日本の財政(平成8年度版)」

  4. 公的部門支出総額対GDP比率の推移と今後の目標水準
    1. 公的部門支出総額対GDP比率の推移(国民経済計算等より計算)
    2. (図1)公的部門支出総額対GDP比率の最近の動き
      公的部門(一般政府+公的企業)の支出総額の対GDP比率は景気調整局面入りした91年度に39.2%の底をつけた後、急激に上昇し、94年度時点で45.7%に達する。

      公的部門支出総額対GDP比率

      (表1)公的部門支出総額対GDP比率の最近の動き
      支出総額対GDPの変化率(91年度→94年度)をみると、公的部門が+16.6%となる中で、公的企業が+30.2%と大幅に伸びている。

      年度一般政府
      (A)
      公的企業
      (B)
      公的部門
      (A+B)
      8732.010.542.5
      8831.1 9.941.0
      8931.0 9.340.3
      9030.7 8.939.6
      9130.6 8.639.2
      9232.310.242.5
      9333.911.044.8
      9434.511.245.7
      91→94の
      変化率
      +12.7+30.2+16.6
      (出典)国民経済計算年報よりデータを加工して作成

      (注)
      1. 一般政府とは上の参考資料にある中央政府、地方政府、社会保障基金のこと
      2. 公的企業とは上の参考資料にある公団、公庫、一部事業団等のこと
      3. 一般政府支出は「国民経済計算」を基に次式により計算
        一般政府支出
        =政府最終消費支出+一般政府総固定資本形成 +社会保障移転+財産所得(利払費)+土地購入〔純〕 +補助金+損害保険純保険料+海外に対するその他の経常移転 +他部門に対するその他の経常移転−他の一般部門からの資本移転(純) −その他の資本移転(純)
      4. 公的企業支出は「国民経済計算」等を基に次式により計算
        公的企業支出
        =支払−貯蓄+公的資本形成(住宅+企業設備)+土地購入〔純〕 −公的企業固定資本減耗
      5. 公的部門支出総額は上の式で求めた一般政府と公的企業の支出を加えたものであるが、データの制約により一般政府と公的企業の間でのやり取りを完全に除去できない。

      (表2)一般政府支出対GDP比率の内訳
      一般政府の支出対GDPの変化率(91年度→94年度)+12.7%よりも伸び率が高いのは、総固定資本形成(所謂公共投資)の+23.1%と社会保障移転(医療、年金等)の+14.7%である。

      年度対GDP比率
      一般政府最終消費支出
      (主に人件費)
      総固定資本形成
      (所謂公共投資)
      社会保障移転
      (医療、年金等)
      その他
      8732.09.35.211.56.0
      8831.19.14.911.25.9
      8931.09.05.011.15.9
      9030.79.05.010.85.9
      9130.69.05.210.95.6
      9232.39.25.911.45.7
      9333.99.56.512.05.9
      9434.59.76.412.55.9
      91→94の
      変化率
      +12.7+7.8+23.1+14.7+5.4

      (表3)公的企業支出対GDP比率の内訳  
      年度対GDP比率
      公的企業支出経常支出純資本支出
      (公共投資等)
      8710.59.21.3
      88 9.98.71.1
      89 9.38.21.1
      90 8.97.81.1
      91 8.68.40.2
      9210.28.91.3
      9311.09.51.5
      9411.29.61.6

    3. 公的部門支出総額対GDP比率の今後の動向とその目標水準に関する試算
    4. ○試算の狙い
      財政構造改革の目標の一つとして公的部門支出総額対GDP比率を掲げているが、具体的にどの程度の水準を目指していくべきか。(アクション・プログラムとの関連で、第一段階、第二段階、第三段階のそれぞれの期の最終年時の目標水準はどの程度とするか。)

      1. 標準モデルの設定とその結果
        1. 名目GDP成長率は補論1の機械的試算の中成長ケースを採用した。
          具体的には、96年度:2.7%(政府見通し)、97〜2006年度:3.0%

        2. 一般政府支出、公的企業支出並びにそれらの合計である公的部門支出総額については最近7年間(88→94年度)の平均伸び率+5.4%で1995年度以降も推移することと仮定した。
          なお、伸び率を最近7年間の平均としたのは、バブル崩壊以降の景気要因をある程度除去し、長期的な趨勢をみるためである。

        3. 標準モデルの試算結果
          公的部門の支出総額は2006年度には410.9兆円に達し、公的部門支出総額対GDP比率は94年度45.7%から2006年度62.2%に拡大する。

        (A表.支出、単位 兆円)
        一般政府支出
        (A)
        公的企業支出
        (B)
        公的部門支出総額
        (A+B)
        88年度(実績)118.237.4155.7
        94年度(実績)164.953.7218.6
        1999年度(予測)214.569.9284.4
        2002年度(予測)251.281.8333.0
        2006年度(予測)310.0101.0410.9
        伸び率(%)5.45.45.4

        (B表.支出対GDP比率、単位 %)
        一般政府支出
        (A)
        公的企業支出
        (B)
        公的部門支出総額
        (A+B)
        88年度(実績)31.19.941.0
        94年度(実績)34.511.245.7
        1999年度(予測)39.913.052.9
        2002年度(予測)42.813.956.7
        2006年度(予測)46.915.362.2

      2. 財政構造改革の目標水準の設定
      3. 2006年度における財政構造改革の目標水準として公的部門支出総額対GDP比率を3ケース設定した。

        1. ケース1:40%
        2. ケース2:45%
        3. ケース3:50%

        *因みに、一部の欧州諸国では一般政府部門の支出の対GDP比率を目標として採用している。英国が40%以下、ドイツが約46%(東西統一前の水準)である。

      4. 試算の手順
        1. 公的部門支出総額のうち公的企業支出は対GDP比率で94年度時点で11.2%であるが、ケース1〜3いずれにおいても2006年度にはこれを半減させることとした。

        2. 上記の(2)において設定された2006年度の公的部門支出総額対GDP比率(40、45、50%)及び既に算出した公的企業支出の対GDP比率から2006年度の一般政府支出対GDP比率を逆算する。

        3. 各部門の支出は1995年度以降、2006年度まで一定のペースで増減することと仮定し、各部門の支出を算出する。

      5. ケース1〜3の試算結果
        1. ケース1(40%)
        2. 2006年度に公的部門支出総額対GDP比率を40%とし、公的企業支出対GDP比率を94年度に比べ半減させると、2006年度の一般政府支出対GDP比率(34.4%)は概ね現状と同じになる(34.5%)(B表)。この場合、一般政府支出の伸び率は2.7%となるが、これは最近7年間の平均(5.4%)に比べ、ほぼ半分の伸び率である(A表)。

          (A表.支出、単位 兆円)
          一般政府支出
          (A)
          公的企業支出
          (B)
          公的部門支出総額
          (A+B)
          94年度(実績)164.953.7218.6
          1999年度(予測)188.446.1234.5
          2002年度(予測)204.142.1246.2
          2006年度(予測)227.037.3264.2
          伸び率(%)2.7−3.01.6

          (B表.支出対GDP比率、単位 %)
          一般政府支出
          (A)
          公的企業支出
          (B)
          公的部門支出総額
          (A+B)
          94年度(実績)34.511.245.7
          1999年度(予測)35.18.643.7
          2002年度(予測)34.87.241.9
          2006年度(予測)34.45.640.0

        3. ケース2(45%)
        4. 2006年度に公的部門支出総額対GDP比率をほぼ現状維持の45%とし、公的企業支出対GDP比率を94年度に比べ半減させると、2006年度の一般政府支出対GDP比率は39.4%となり、現状より拡大する(B表)。この場合、一般政府支出の伸び率は3.9%である(A表)。

          (A表.支出額、単位 兆円)
          一般政府支出
          (A)
          公的企業支出
          (B)
          公的部門支出総額
          (A+B)
          94年度(実績)164.953.7218.6
          1999年度(予測)199.746.1245.8
          2002年度(予測)223.942.1266.0
          2006年度(予測)260.037.3297.2
          伸び率(%)3.9−3.02.6

          (B表.支出額対GDP比率、単位 %)
          一般政府支出
          (A)
          公的企業支出
          (B)
          公的部門支出総額
          (A+B)
          94年度(実績)34.511.245.7
          1999年度(予測)37.28.645.8
          2002年度(予測)38.27.245.3
          2006年度(予測)39.45.645.0

        5. ケース3(50%)
        6. 2006年度の公的部門支出総額対GDP比率を50%までの上昇に止め、公的企業支出対GDP比率を現状に比べ半減させると、2006年度の一般政府支出対GDP比率は44.4%となる(B表)。この場合、一般政府支出の伸び率は4.9%である(A表)。

          (A表.支出額、単位 兆円)
          一般政府支出
          (A)
          公的企業支出
          (B)
          公的部門支出総額
          (A+B)
          94年度(実績)164.953.7218.6
          1999年度(予測)209.546.1255.6
          2002年度(予測)241.842.1283.9
          2006年度(予測)293.037.3330.3
          伸び率(%)4.9−3.03.4

          (B表.支出額対GDP比率、単位 %)
          一般政府支出
          (A)
          公的企業支出
          (B)
          公的部門支出総額
          (A+B)
          94年度(実績)34.511.245.7
          1999年度(予測)39.08.647.6
          2002年度(予測)41.27.248.4
          2006年度(予測)44.45.650.0

      6. 今後の課題
        1. 本試算は現段階ではあくまで機械的な試算に過ぎない。今後、財政制度委員会財政改革専門部会では、公共事業、国と地方の関係、財政投融資等の各論について検討を進め、本試算結果をより現実的なものとしていかねばならない。

        2. 一般政府及び公的部門の支出総額の対GDP比率は財政構造改革の最大の目標であるが、経済活性化をより確実なものとするためには、同時に、国民負担率も重視していかねばならない。今後は、受益に対する適正な負担という観点から国民負担率のあり方を十分検討した上で、一般政府及び公的部門の支出総額の対GDP比率との関係をより明確にしていく必要がある。

  5. 財政構造改革目標の関係について
  6. 2006年度までに公的部門支出総額対GDP比率を45%程度、とりわけ一般政府支出対GDP比率を39.4%程度に抑制し、国民負担率の上昇を45%程度に止めることができれば、一般政府の財政赤字対GDP比率を3%程度に引下げることが可能となる。

    目標→公的部門支出総額対GDP比率(45%)

    (内 訳)
      一般政府支出対GDP比率→39.4%程度とする
      公的企業支出対GDP比率→5.6%程度とする
     (*補論1より)
        

    補完的目標→国民負担率(45%)

    (支 出)一般政府支出対GDP比率39.4%…………………………(1)
    (負 担)国民負担率は(租税負担+社会保障負担)/国民所得である。
         これを支出と比較するため対GDP比率(*)に直すと、45%の
         国民負担率はGDP比率で36.0%…………………………(2)
    支出(1)−負担(2)=3.4%(=一般政府財政赤字対GDP比率)……(3)
    
    (*)国民所得を国内総支出の8割と仮定した。
        

    目標→財政赤字対GDP比率

    (3)をもとに一般政府財政赤字対GDP比率の目標として
    3%程度とすることができる
        

(参考)
 公的部門貯蓄投資差額対GDP比率の推移

(「季刊国民経済計算No. 108」より)

(図2)公的部門貯蓄投資差額の推移

公的部門(一般政府+公的企業)の貯蓄投資差額(=財政収支)は87年度以降の方向で推移し、90年度にはほぼ収支均衡となったが、その後不況に伴い赤字幅は拡大し94年度にはついに7.2%の赤字を記録している。

公的部門貯蓄投資差額(=財政収支)

(表4)公的部門貯蓄投資差額(=公的部門の財政収支)対GDP比率

90年代はじめからの累次にわたる経済対策と税収と落ち込みにより一般政府のみならず、公的企業の赤字が追い討ちをかけ、公的部門全体では実に対GDP比の7.2%(94年度)まで赤字幅が拡大している。

年度一般政府(A)公的企業(B)公的部門(A+B)
87−2.1−0.7−2.8
88−1.0−0.8−1.8
89−0.6−0.0−0.6
90−0.0−0.1−0.1
91−0.3 0.3−0.0
92−3.3−1.1−4.3
93−4.5−1.5−6.0
94−5.5−1.6−7.2

(注)ここでいう一般政府は中央政府と地方政府の合計であり、社会保障基金は含まない。
(出典)経済企画庁経済研究所 渡邊、向田「公的企業の所得支出勘定及び資本調達勘定の考え方及び資本調達勘定の仮推計」『季刊国民経済計算No. 108』


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