ところが、現在、日本では、景気回復がなかなか本格化せず、高齢化社会の到来が目前にせまる中、財政赤字が拡大し、先行きの不透明感が広がっている。また、不必要な規制に縛られ、経済の活力が阻害されている。
今こそ日本は、経済の高コスト構造を是正するため、行政改革、財政構造改革をはじめとする一連の改革を断行し、規制の撤廃・緩和やより一層の市場開放に速やかに取り組まねばならない。これまで、日本の規制緩和、市場開放は、米国などからの「外圧」に対処する形で進められてきた面が多い。日本はこれからの改革を、あくまでも自らの課題として、主体的に取り組むことが重要である。そのためには、政治の強いリーダーシップの下、国民各層が改革の実現に向け、それぞれの役割を着実に果たす必要がある。経済界としても、改革に伴う痛みを自ら受け入れ、その早期実現に努力する覚悟である。
この地域が、市場原理に基づいて発展することは、日米にとって大きな「機会」である。日米両国は、共に関心のあるアジアの問題について、政府レベルや民間レベルで率直な対話を重ね、立場の違いを乗り越えて、協調関係の強化をはかるべきである。経済界としても、両国の関係者の間でアジアをテーマにした意見交換を活発に展開し、相互理解の促進に努めていく所存である。
さらに、APECは、日米とこの地域が対話を深め、貿易・投資の自由化を共に促進する多国間のフォーラムであり、日米両国はAPECを通じた対話の推進に努めなければならない。経済界としてもビジネス諮問委員会等を通じ、民間の意見をAPECに反映させていく。
また、この地域の持続的な発展のためには、日米両国の協力が不可欠である。なかでも中国との関係において、日米が中国と調和的な関係を維持、発展させることがアジアの安定につながる。
特に、政治・安全保障面では米国のプレゼンスが必要である。米国のコミットメントを確実にするためにも日米安全保障体制が果たすべき役割が大きい。今後は、1996年4月の「日米共同宣言」を基礎に、アジア情勢との関係で、日米はどのような貢献ができるのかといった視点から、双方の国民レベルで率直な議論を展開するべきである。経済界としても、安全保障問題の重要性を認識し、議論に積極的に参加していく所存である。
こうした新たな状況にあって、世界市場が健全な発展を遂げ、ビジネスが円滑になされるためには、貿易や投資などビジネスに関わる制度・ルールのハーモナイゼーションや、新たな共通のルール作りが、経済界の意向を十分反映した形で推進されることが不可欠である。日本は米国とともに、国際的なルール作りにおいて、イニシアティブを発揮することが肝要である。なお、その際、国ごとの多様性に配慮することも必要である。
なかでも、1995年に発足を見たWTOは、今後の世界貿易における最も重要な国際機関である。日米がWTOの実効性を高めるよう協力し、WTOの場で貿易投資のルールをさらに整備しなければならない。二国間交渉で解決の困難な問題が生じた時は、WTOの紛争解決制度を活用し、裁定を遵守することで、WTOの権威を高めることが大切である。
中国のWTOへの加盟は、中国が世界経済運営の重要な一員となることを意味する。日本は、米国と緊密な連携を取りながら、中国のWTO早期加盟実現に向け中国が加入条件の整備に努めるよう働きかけ、かつ協力すべきである。
また、日本は、近く予定される多国間投資協定(MAI)の締結を機に、投資に関する法律・制度を洗い直し、日本市場を世界市場と整合性のとれたものにすべく環境整備に努めることが必要である。
世界市場の健全な発展のためには、貿易・投資ルールの確立と並んで、国際通貨体制の安定が必要である。このため、日本は、「日本版ビッグバン」の前倒し実施など、東京金融・資本市場の大胆な自由化を早急に行い、円の国際化を推進すべきである。
たとえば、発展途上国が世界市場経済の一翼を担う存在となるべく、途上国の経済発展に資する産業インフラの整備、法制度の確立、人材の育成や貧困問題の解決に日米の官民が連携して当たるべきである。
また、世界の急速な工業化に伴い、地球環境の破壊、エネルギーや食糧の不足が懸念される。このような地球規模の課題に対処するため、日米が共同で、先端的な科学技術や環境保全技術あるいはクリーン・エネルギーの開発を進めたり、食糧の増産に取り組むことが重要である。こうした分野での日米協力は、コモン・アジェンダとして日米包括協議の1つの柱として位置付けられており、なお一層推進すべきである。
経済界としても、民間の有する技術・ノウハウを積極的に提供し、経済協力やコモン・アジェンダの推進に協力する所存である。
日米間の相互依存が増してきたとはいえ、貿易、投資、居住者、旅行者、留学生などの流れは、日本から米国に向かうものが圧倒的に多い。また、米国のメディアに載る日本の情報は、日本のメディアに載る米国の情報に比べ、非常に少ない。多くの米国民が日本の情報を正確に理解することは、両国がより健全な関係を築く上で不可欠である。
米国人の日本への理解の増進のためには、日本社会の透明性を高めるとともに、日本の社会を外から見て真に魅力あるものに変えることが必要であるが、あわせて、将来に向け知日家を増やす努力を日本側で進めるべきである。たとえば、21世紀のリーダーとなる米国の若手政治家や実業家を対象にした招聘プログラムや、フルブライト計画に匹敵する留学生支援プログラムなどを日本の政府と民間が協力して用意し、日本に関心を持つ米国人に、そのための機会を拡大すべきである。また、民間レベルでの相互交流を促進すべく、政府は、税制上のインセンティブの充実およびビザの発給条件の緩和等、環境整備に努めるべきである。
経団連では、今後とも、全米の各種経済団体、シンクタンク、NGOとの交流ネットワークの強化を通じて、日米間の相互信頼関係の増進に努めていく覚悟である。また、経済広報センターやCBCC(海外事業活動関連協議会)と協力して、対米広報活動の強化や、在米日系企業の草の根レベルの社会貢献や文化交流活動への支援を拡充していきたい。
以 上