アジア経済の再活性化に向けて

1998年7月21日
(社)経済団体連合会


昨年7月のタイ・バーツ切下げに端を発するアジア通貨・金融危機が発生してから1年が経った。危機に見舞われた国々にとっては、IMFを中心とする緊急支援により危機は乗り越えたものの、支援の前提でもある構造改革が正に正念場を迎えている。
経団連としては、危機の発生以来、海外要人の来訪あるいは会員企業からのヒアリングなど、あらゆる機会を通じて情報収集や意見交換に努め、本年2月からはアジア大洋州地域委員会の下に「アジア通貨・金融危機に関する特別検討会」(座長 立石オムロン会長)を設け、検討を重ねてきた。その成果は、適宜資料にまとめ、「アジア隣人会議」(4月)などの機会に、関係者との意見交換に生かしてきた。(検討会で出された意見・要望については添付資料参照)
そうした機会にも再三指摘されているように、今次のアジア経済危機を克服する上で、わが国への期待は強く、その責務は重い。円安が更に進むような事になれば、克服どころか危機が深刻化する事も懸念されている。
そこで、改めてアジア経済の再活性化に向けてのわが国の責務を示し、決意を新たにする。

  1. 日本の景気回復
  2. アジア経済危機の克服に関し、わが国が果たすべき最も基本的な役割は、一刻も早い国内景気の回復である。政府・自民党は、昨年10月以降、数次にわたる緊急経済対策を打ち出し、さらに4月24日にも公共投資や追加減税などを柱とする総額16兆円規模の「総合経済対策」をまとめたところであり、今年度後半にはこうした対策の効果が出てくるものと期待している。今後この効果を永続的なものとするために、不良債権の処理を含む金融システムの安定化や税制の抜本改革に筋道をつけ、日本経済への信認を回復させねばならない。経済界としても、金融、流通などの生産性向上や企業経営の効率化に鋭意取り組み、再び日本経済を活力あるものにするために全力を尽くす。

  3. アジア諸国における構造改革への協力
  4. 現在、アジア経済危機に見舞われた国々は、景気の悪化による失業の増大、金融システム改革過程での信用収縮などに直面しており、構造改革が正念場を迎えている。アジアの経済危機に対して、わが国は既に420億ドル規模の支援策を打ち出してきたが、それらが今後とも着実に実施に移されていくことを望む。また、今後も必要に応じて、社会的弱者を救済するための協力ならびに円借款や輸銀融資の拡大等を通じて、経済活動の維持に協力していくべきである。経済界としても、各企業が、事業の継続を通じて粘り強く協力していくことを求めるとともに、中長期的視点から人材育成や裾野産業の育成など、政府と連携を取りつつ協力していく。

  5. 自由化推進路線の堅持と通貨の安定
  6. わが国経済界としては、アジア諸国の潜在的成長力は依然として高く、今回の危機を克服すれば未来は明るいと確信している。それゆえに、現下の危機ばかりに目を奪われることなく、アジア諸国の、将来的発展のため、APEC等で進められてきた貿易・投資の自由化路線を堅持することが重要と考える。ASEAN諸国は、結束を強化し、AICO(ASEAN産業協力計画)の拡大やAFTA(ASEAN自由貿易地域)の実現に引き続き取組む必要がある。こうした動きを促す意味でも、わが国自らが率先して自由化の遅れている分野の市場開放に取り組むべきである。また、ASEAN域内における自由化推進の前提として、通貨の安定が重要である。これに関連して、円の更なる国際化への期待が内外で高まっており、短期金融市場の整備を通じて円の国際化に向けての環境整備を図る必要がある。経済界としても、可能なところから、企業活動における円の利用促進に努める。

以 上



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