[経団連] [意見書] [ 目 次 ]

次期WTO交渉への期待と今後のわが国通商政策の課題

〔補論7〕

紛争処理手続の強化


UR交渉の結果、紛争処理(DS)手続に関し、紛争解決機関の意思決定方法の改善、手続期限の明確化、上級委員会の設置などの点において改善が実現し、従来の紛争処理手続に比べて紛争処理機能が大きく改善されたことを評価する。
しかしながら、発効後4年余りを経て、被害を受けた企業の救済が不十分であるなどの問題点が浮かび上がっている。
紛争処理機能はWTO協定の実効性を確保する重要な機能である。案件が増え、内容が複雑化するなか、紛争を可能なかぎり政治問題化させることなく、また短期間で解決できるよう、DSの体制と機能の更なる強化を求める。このような、DS体制の強化は、加盟国による保護主義的な貿易措置の発動に対する抑止力となることも期待される。

  1. 救済措置の導入の検討
  2. 被申立国によるDS審査期間中の貿易措置が、申立国の企業に損害を及ぼす場合があっても、現在の規定ではその損害に対する救済を求めることができない。例えば、他国がわが国との間の貿易紛争を理由に関税引上げなどの一方的措置を講じた場合、DSの審査期間中、わが国企業による輸出が大きく被害を受けることになる。そこで、パネル設置要求がなされてからDSB(紛争解決機関)により採択された勧告が履行されるまでの間に申立国企業が被った損害について、救済措置を求め得る制度の導入につき、実現に向けた検討に着手すべきである。
    救済措置としては、パネル・上級委員会の報告が採択された後に、事後的に損害を賠償する(損害賠償)、あるいは問題となっている被申立国の措置がとられなかった場合の状態に戻す(原状回復)もの、すなわち事後的救済措置と、案件がWTOに申し立てられた段階、あるいはパネル設置の段階で当該措置を暫定的に差し止める(仮保全措置)もの、すなわち暫定的救済措置とが考えられる。
    こうした救済制度の導入により、各国の保護主義的な措置の安易な発動を未然に防ぐという効果も期待できる。また、被申立国が紛争処理期間を短縮するうえでのインセンティブともなろう。

  3. 「審査基準(standard of review)」の撤廃
  4. アンチ・ダンピング(AD)協定に係わる案件について「審査基準(standard of review)」が導入されたが、DS手続に訴える可能性を大きく狭めることとなるので問題である。各国によるAD措置の保護主義的な運用が後を絶たないなか、AD協定の審査基準の廃止を求める。また、かつて一部加盟国から同様の審査基準を他の協定に拡大して適用すべきであるとの議論があったが、これに対しては、紛争処理機能の信頼性および実効性を著しく損なうものであり強く反対する。

  5. 組織の拡充
  6. 今後、紛争案件の件数の増加と内容の複雑化が見込まれることから、上級委員・パネリストの増員及び常勤化、事務局における法務スタッフの増員が図られるべきである。
    また、紛争要因が専門化しており、パネルの専門性の強化、パネルに対して専門的観点から助言を行なう「専門家検討部会」の設置(紛争処理了解第13条2項)等についても前向きに検討されるべきである。


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