[経団連] [意見書] [ 目次 ]

平成12年度税制改正提言
「21世紀を展望した税制改革を求める」

第2部 平成12年度税制改正の課題


平成12年度税制改正における最重要の課題は、わが国企業の国際的競争力の維持・強化に向けた取り組みを支える企業税制の構築にある。
政府は、さる6月11日に「緊急雇用対策及び産業競争力強化対策について」を公表し、この中で特に緊急を要する措置について、税制措置を含め産業活力再生特別措置法として先の通常国会において成立したが、あくまでも時限的な特例であり、国際的なイコール・フッティングに向けて本格的な制度改革が行われるまでの過渡的な対応と位置づけられるものである。
わが国経済を長期にわたる低迷から脱却させ、安定的な回復軌道にのせるためには、企業の国際競争力の基盤強化に向けた抜本的な税制改革が必要であり、以下の通り提言する。

  1. 事業再構築と法人税制の改革
    1. 会社分割法制の導入と非課税組織再編
    2. わが国に立地する企業(外資を含め)が、経営の効率性を追求し、国際競争力を維持・強化していくためには、経済環境や構造変化に迅速に対応し、企業組織を柔軟に改編することが必要である。それが、結果として、雇用の創出・確保や、わが国経済の再生・活性化につながる。
      わが国の会社法制においては、こうした状況を踏まえ、平成9年に手続の簡素化を中心とする合併法制の改正、本年には持株会社創設等を容易にする株式交換・株式移転制度の創設が行われた。そして、現在、法制審議会商法部会において、会社分割法制創設について、次期通常国会での商法改正を目指した検討が、前例を見ないスピードで進められており、次期通常国会において必ず法改正が実現されることを強く期待している。
      このような会社法制と一体をなす税制面では、現行制度のもと、合併、特定現物出資(変態現物出資も含む)、産業活力再生特別措置法に係る共同現物出資について、資産譲渡益の課税繰延べ、あるいは、株式交換・株式移転における株式譲渡益課税の繰延べの措置が存在する。
      しかし、米国では、広く、株式取得や営業の譲り受けも含め、企業再編に係る取引き一般について、内国歳入法第368条の定義する組織変更(reorganization)に該当する場合、資産の移転・株式の移転に関して、取得原価を引き継ぎ、企業レベル、株主レベルともに損益を認識しない。この制度の背景には、株主の立場からは、投資対象である企業は組織形態を変更しても、この企業に対する持ち分には実質的に何ら変更がない以上、課税は行わないという考え方がある。また、ドイツにおいても、1995年に組織変更税法が施行され、会社分割等における課税繰延べが規定されている。
      この点、わが国税制の企業の組織再編に対する取扱いは非常に限定的と言わざるをえない。わが国においても、企業の組織再編全般(相互会社の株式会社化も含む)にわたる税制上の制度の整備を行なう必要がある。

      [1]会社分割法制の創設に伴う税制措置(所得課税)
      この7月に法務省が公表した商法改正要綱中間試案においては、会社の資産・負債を二つ以上の会社に分割した上で、新設会社にそれを承継させる方法(新設分割)と、分割した資産・負債を他の会社に承継させる方法(吸収分割)とが取上げられている。その上で、それぞれの方法において、承継する会社の株式を分割する会社の株主に分配する場合(分割型)と、全く分配しない場合(分社型)とが想定されている。 この制度に沿った会社分割を行った場合、資産の移転・株式の移転に関して、取得原価を引き継ぎ、企業レベル、株主レベルともに損益を認識しないとの原則に立って、最低限、以下の税制上の手当てを行う必要がある。

      1. 承継する会社における資産の受入価額が、分割する会社における簿価以下の場合には、分割する会社において資産の譲渡益を認識しないこと。複数の会社が共同して行う会社分割の場合も同様である。
      2. 分割型の会社分割を行う場合、分割する会社において承継する会社の株式の譲渡益を認識しないこと。
      3. 分割型の会社分割を行う場合、株式が分配された株主(分割する会社の株主)に対する(みなし)配当課税や贈与所得課税を行わないこと。
      4. 分割する会社における引当金、準備金等は、分割される資産・負債に応じて、承継する会社に無税で承継すること。
      5. 承継する減価償却資産については、分割する会社における取得価額での引き継ぎを認めること。
      6. 各種税制措置に関する所有期間の引き継ぎ(利子配当等の所得税額控除に関する公社債等、受取配当の益金不算入に関する特定株式等、土地等の交換・収用・特定資産の買換に関する土地)を認めること。

      [2]現行制度を活用した会社分割にかかる税制措置(所得課税)
      新設される会社分割法制に伴う税制措置のみならず、現行制度を活用した会社分割についても、企業組織再編に対する税制の中立性の観点から、同様に課税繰延べが必要である。
      まず、子会社株式を親会社株主に交付して、親会社の株式の有償消却を行う場合(アメリカにおけるスプリット・オフと同様の方式)、親会社における子会社株式の譲渡益を認識しないこととともに、親会社株主に対するみなし配当課税を行わないことが不可欠である。
      また、子会社株式を親会社株主に現物配当する場合(アメリカにおけるスピン・オフと同様の方式)、親会社における子会社株式の譲渡益課税の繰延べとともに、親会社の株主が受け取る現物配当に対する非課税措置が欠かせない。

      [3]企業組織再編にかかるその他の税制措置(登録免許税、不動産取得税等)
      企業の組織再編に伴い、さまざまな資産の移転が行われるが、なかでも、不動産の移転に関しては、登録免許税、不動産取得税が課税されている。また、組織再編により、新たな会社が生まれた場合や、増資が行われた場合にも登録免許税が課税される。これらの税負担は相当な額に上っており、組織再編の円滑な実施の阻害要因となっている。
      企業組織再編の中で、合併については、登録免許税の軽減措置や非課税措置がなされているが、その他の組織再編については、産業活力再生特別措置法を除き、ほとんど手当てがなされていない。企業組織再編に対する税制の中立性の観点から、合併以外の組織再編について、合併同様の軽減措置を講じるべきである。
      まず、会社分割、現物出資、グループ内営業譲受に際しての不動産移転に関する登録免許税については、合併と同様にする(1000分の50→1000分の6)。
      また、会社分割、現物出資、株式移転・株式交換にかかる設立登記・資本増加登記の登録免許税は、合併と同様(1000分の7→1000分の1.5)にする。
      不動産取得税については、合併または一定の要件を充たす会社分割・分社化による不動産の取得の場合は、非課税とされているが、組織再編に対する課税の中立性の観点から、会社分割、現物出資、グループ内営業譲受についても非課税とする。自動車取得税・特別土地保有税も同様である。
      なお、中小企業等の再建に資する新しい倒産法制として、「民事再生手続」が次期臨時国会で法制化され、現行和議法が廃止される予定であるが、これに併せて、関連税制についての整備が必要である。

    3. 連結納税制度の2001年度における確実な導入
    4. 企業は、経済環境や需要構造の変化に迅速に対応し、法制度の改正も踏まえ、その組織を柔軟に改編しようとしている。特に、経営資源の集中や新規事業展開を行なうために、戦略的分社化や企業グループ全体を括り直す動きが進みつつあり、さらに持株会社の解禁によって、本格的なグループ経営の時代を迎えつつある。
      一方、すでに企業会計制度においては、従来の単体重視から連結重視へと方向転換がなされており、税制面でも、グループ経営の進展に対応するために、企業グループを一体とした中立的な納税の仕組みである連結納税制度を早期に整備する必要がある。
      連結納税制度の導入により、グループ経営のメリットを活かした新規事業分野への展開や既存事業の再構築を行うに際しての、キャッシュフロー上のマイナスを取り除き、税制を企業経営に対してより中立的なものに改めることで事業組織形態選択の自由度を拡げ、結果として企業活力の強化を通じて経済の活性化につながる。国際的にも、先進諸外国の大部分が、何らかの形で企業グループを一体として納税する方法を採用している。
      昨年末の自民党税制改正大綱において、「日本経済を支える企業の国際競争力を諸外国と同等の条件とし、日本経済の活性化を促すため」「2001年を目途に連結納税制度の導入を目指すこと」が明記された通り、わが国においても、連結納税制度の導入は、これ以上先送りすることのできない課題である。
      政府としても、2001年度からの連結納税制度の施行を明示し、政府税制調査会における具体的な検討を着実に進め、連結納税制度を2001年度に確実に導入することを求める。

    5. 事業再構築税制の恒久化
    6. 企業が経済環境、需要構造の変化に対応しつつ、その活力を維持し、雇用に対する責任を果たしていくためには、経営資源を絶えず効率性の高い分野へとシフトし、戦略的な事業の再構築を図っていくことが不可欠である。
      これは、企業自らの決断と責任の下でのみ行われるべきことであるが、わが国産業全体の構造改革を進め、国際競争力を維持・向上していくために、国としても企業が事業再構築を推進していくための環境整備を行なうことが求められる。
      先に成立した産業活力再生特別措置法は、目下、10月1日の施行を目指して、事業再構築計画の認定要件等が詰められているところであるが、この法律が、企業の自主的な事業再構築への取り組みを広く支援するものとなるよう、関連する税制措置を含めて、幅広く適用されるものとなることが必要である。
      しかし、企業の事業再構築は直ちに着手し、短期間に具体化すべき課題であるとしても、それはまた、わが国企業が国際競争力を維持・強化し続けていくために、絶えず取り組んで行かなければならない課題でもある。そのために必要な税制措置は、主務官庁の認定を必要とする時限的な特例措置にとどめることなく、恒久的な制度として拡充、一般化すべきであり、同法の施行期間中に一般的な税制改正として結実させることが重要である。

    7. その他
    8. [1]研究開発税制
      研究開発は、企業が将来に向かって成長していくために不可欠な要素であり、ひいてはわが国全体の産業競争力を左右するものである。
      しかし、近年、商品サイクルの短期化、新規技術の開発期間の短縮および研究開発の広範化・高度化等により、本来、必要な研究開発費は増大しているにもかかわらず、不況の中で企業の研究開発支出実績は減少している。
      平成11年度税制改正における増加試験研究費税額控除制度の拡充は、研究開発に関する支出を再び増加させる端緒となることが期待されているが、これに加えて、企業会計制度の変更に合わせた税制改正が必要である。
      すなわち、企業会計制度では、研究開発に関する支出は、将来収益との対応が不確実な上、実務上客観的に判断可能な資産計上要件を定めることが困難であるため、すべて発生時に費用処理すると改正されたが、これに合わせて、税制においても、現在、繰延資産として5年均等償却を要する外部委託開発による研究用ソフトウエア、ならびに、一定の研究開発用固定資産の取得費用について一括損金算入を認めるべきである。

      [2]ストック・オプション制度の拡充
      会社の業績と取締役・使用人の報酬を連動させるストック・オプション制度は、株主重視の経営を促し、企業の活性化をもたらすものとして、多くの企業に普及しつつあり、これを一層、使い易いものとする必要がある。
      特に持株会社による事業の再構築を念頭においた場合、産業活力再生特別措置法において、子会社の取締役・使用人についてもストック・オプションを付与できることとされたが、税制上の課税繰延べ措置を併せて講ずる必要がある。
      また、税制上の優遇を受けられる権利行使額(現行:年間1000万円)を拡充する必要がある。

      [3]土地をはじめとする資産流動化のための税制措置
      土地をはじめとする資産の流動化は、経済再生のための重要な課題であり、税制面からも十分な手当が必要である。具体的には、譲渡益課税についての一層の軽減とともに、登記制度の運営費をはるかに上回る課税となっている登録免許税や、税負担が過重となっている不動産取得税など関係諸税について、非課税を含めた負担軽減が必要である。
      とりわけ、企業の事業再構築の結果生じた工場跡地など遊休不動産の有効活用およびその流動化を進めることが喫緊の課題であり、土地所有者自らが積極的に開発プランを推進していくためには、PFI手法やプロジェクトファイナンスの活用、不動産ならびに債権の証券化など多様な資金調達手段の活用が必要であり、具体的には、以下のSPC等に係る税制措置を求める。

      1. 配当要件の緩和(90%超)
        現行SPC法は、配当可能利益の90%超を配当した場合にのみ、その支払配当が損金算入されるが、不確定要素が高い不動産事業の性格に鑑み、SPCの経営を安定化させるため、配当要件を緩和すべきである。
      2. 登録免許税・不動産取得税の免除
        現在、2年間の暫定措置として、SPCや不動産特定共同事業が不動産を取得する場合の登録免許税、不動産取得税は軽減されているが、収益率の向上のために、これを免除すべきである。


      なお、SPC法については、原資産保有者の資産譲渡に係る課税の繰延べ、優先出資の増減資制限の緩和、借入制限の緩和等についても検討が必要であり、住宅ローン債権を証券化した場合、住宅取得者が引き続き住宅ローン控除の適用を受けられることとすべきである。
      また、土地の流動化を促進するため、個人の不動産所得に係る損失のうち、土地を取得するために要した借入金の利子相当額を損益通算の対象から除外する措置を廃止する必要がある。

  2. 地方税の抜本改革
    1. 固定資産税の抜本改革
    2. 地価の下落にもかかわらず、土地に対する固定資産税は増大傾向にあり、非住宅地の固定資産税の実効税率(税額/土地資産総額)は、地価安定期であった昭和50年代の実効税率の0.4%をかなり上回っている。また、企業収益や国民所得、さらには、市町村税収と比べてみても、土地に対する固定資産税の負担は、バブル崩壊以後、増大傾向にある。しかも、今回の評価替えで、前回(平成9年度)と同様な方法で均衡化が行われるならば、ほとんどの都道府県で、税負担の増える土地が税負担の減る土地を上回り、増大した税負担の引下げにはつながらないおそれが強い。
      土地に係る固定資産税の負担が、地価の下落にもかかわらず、実効税率0.4%を超えて増大することは、納税者としては納得できない。また、大都市部の商業地、工場用地は、税負担が平均の実効税率を大きく超えているものも少なくなく、景気の低迷により収益力が悪化している中で、税負担が重くのしかかっており、競争力にマイナスの影響を与えている。
      平成12年度の評価替えにおいては、均衡化の目指すべき水準を納税者の納得感の得られるレベルに設定し、特にバブル崩壊以後に増大した税負担を適正化させる必要がある。かかる観点から、適正化・均衡化に向けて、実効税率が0.4%を超え、税負担が過重になっている土地について、その引下げを行いつつ、土地に係る固定資産税について、実効税率0.4%程度を基本に税負担の収斂を目指すべきである。
      また、実効税率の引下げとあわせて、大規模工場用地の規模格差補正率の見直しや工場緑地の評価の軽減を行い、土地に対する固定資産税の軽減を行なうべきである。
      さらに、法人税の耐用年数との整合性を図る観点からの家屋に対する課税標準の見直し、償却資産に係る課税のあり方の見直しなど、固定資産税・都市計画税の改革が求められる。
      なお、土地政策目標が土地取引の活性化、有効利用の促進へと転換された今日、土地の有利性縮減という目的で政策的に導入された地価税は、すでに存在理由を失っており、課税停止となっている同税を完全に廃止すべきである。

    3. 事業税の外形標準課税問題
    4. 政府税制調査会は、さる7月9日「地方法人課税小委員会報告」として、法人事業税への外形標準課税の導入について具体的な4類型を提示した。
      しかし、法人事業税への外形標準課税の導入による税負担の固定化は、企業の固定的費用を増大させ、経済の活性化を妨げるものであり、経団連は、このような外形標準課税論に対して、重大な疑問を呈するものである。
      企業は、固定的な税負担として、既に、土地・建物に対する固定資産税、フランスの外形課税と類似の償却資産に対する固定資産税、事業所税、住民税均等割などを負担しており、その負担は増大傾向にある。固定化された公的負担としては、これらに加えて、拡大傾向にあり、かつ、介護保険の導入を含め、今後とも上昇が予想される社会保険料を負担している。これらの固定化された公的負担は、国境税調整がきかず、国際競争上、日本に立地する企業を不利な立場に置くとともに、産業の空洞化を招きかねない。さらには、外形課税は、外国税額控除の対象とならないことから二重課税を引き起こし、海外からの投資にも悪影響を与えるおそれがある。
      特に、給与総額を外形基準の要素とした場合、労務費負担圧力となって、雇用に悪影響を与えるとともに、ようやく上向きつつある個人消費の足を再び引っ張る可能性もある。
      また、新たな外形基準による税の執行には、困難が大きく、納税・徴税実務において過大なコスト負担を要するおそれがある。
      さらには、海外で、既に同様の税を実施してきたドイツ、フランスは、外形課税の廃止、縮小が行われており、国際的にも一般的な税制とは言い難い。
      地方法人課税のあり方を考えるに際しては、議論を法人事業税に限定するのではなく、他の地方法人課税も対象にするとともに、地方税全体の改革も視野に入れるべきである。地方法人課税については、事業に対する課税である事業税と、法人に対する課税である法人住民税の二つが存在するが、両者の性格の違いは明らかでなく、二つの課税は先進諸外国でも例がない。簡素化の観点から、法人事業税を廃止し、法人住民税に一本化することが求められる。その中で、税収中立を前提としつつ、小規模な範囲で所得課税を均等割に振り替えることは検討に値しよう。また、税収の安定化のためには、法人事業税の外形標準課税ではなく、むしろ、地方消費税の拡充を行なうことが基本的方向である。

  3. 企業年金に係る税制の整備
    1. 確定拠出型年金制度の導入と税制措置
    2. [1]確定拠出型年金制度の必要性
      国民の老後の生活の安定のためには、公的年金だけでなく、自助努力による私的年金を組み合わせて、退職後所得を確保することが必要不可欠となっている。また、国民のライフスタイルの多様化、雇用形態の多様化・流動化、企業の組織形態変更、あるいは賃金体系の変化などが進んでいる。
      さらに、退職一時金を含めた既存の退職給付制度は、近年の運用環境の悪化、1998年度からの退職給与引当金の段階的縮減、そして2000年度からの新会計基準の導入を背景に、大幅な見直しが迫られており、企業、従業員双方にとって不安定な制度となっている。
      そこで、退職給付制度の新たな枠組み、選択肢の一つとして確定拠出型年金制度の導入が急がれている。

      [2]確定拠出型年金制度に係る税制措置
      確定拠出型年金制度準備会議が、今年7月27日に自民党私的年金等に関する小委員会に示した「確定拠出型年金制度の具体的な仕組み」について、基本的に賛成する。この枠組みに沿って、2000年度導入の実現へ向けて、以下の通り税制上の措置を特に要望する。

      1. 既存の制度からの移行
        既存の制度(退職一時金、企業年金)から、確定拠出型年金に移行する場合、現在、既に認められている措置と同様の措置を認め、課税が生じないようにする。
      2. 拠出限度額
        確定拠出型年金の拠出限度額は、既存の制度への拠出の実態を踏まえ、老後の所得確保に十分なものとなるよう、設定する。
      3. 税 制
        確定拠出型年金に係る税制措置は、拠出時・運用時非課税、受給時課税とする基本方針に賛成である。受給時課税の原則を実現する観点から、公的年金等控除は縮減するとともに、運用段階では運用益だけでなく年金資産に対しても非課税とし、特別法人税は撤廃する。

    3. 企業年金に係る税制
    4. [1]特別法人税の撤廃
      企業年金積立金にかかる特別法人税(1.173%)は、平成11年度税制改正で2年間の課税停止措置が取られているが、企業年金の充実、拠出時・運用時非課税、給付時課税への一本化の観点から、即時廃止を求める。

      [2]企業年金制度の規制改革に伴う税制措置
      企業年金は私的年金である以上、労使合意に基づく自由な制度設計を認めるべきである。また、企業の組織再編に伴って、企業年金制度の変更も必要となってくるが、現在では税制適格年金から厚生年金基金への移行しか認められておらず、組織再編の阻害要因となっている。
      そこで、厚生年金基金の代行部分の返上、厚生年金基金から税制適格年金への移行を認め、現行制度上、税制適格年金から厚生年金基金への移行時に認められているものと同様の非課税措置を講ずる。
      さらに、確定給付型年金制度(厚生年金基金、税制適格年金)の制度設計を弾力化する観点から、確定給付型と確定拠出型の要素を併せ持つハイブリッド・プラン(例えば、米国のキャッシュバランス・プラン)の導入を求める。

      [3]事業主拠出の損金算入枠弾力化
      企業にとって、賃金、退職後所得をどのように従業員に支払っていくかは、経営戦略上の重要な課題である。そのための積立金確保は経営者が果たすべき役割であり、この経営者の積立努力を促す税制措置は不可欠と考える。また、これらの税制措置を講じることにより、企業業績が悪化した場合でも、積立不足に陥ることを回避し、従業員の受給権を確実にすることが可能となる。具体的には、以下の措置を講ずる必要がある。

      1. 確定給付型年金制度(厚生年金基金、税制適格年金)にコントリビューション・ホリデー制度(一定の範囲内で積立基準を超過する資産の積立ができる損金算入枠を認める制度)を導入する。そのために、税制適格年金における剰余金返還規定は撤廃する。
      2. 過去勤務債務の償却方法を弾力化する。
      3. 税制適格年金に特例掛金制度を導入する。

  4. 起業・中小企業税制
    1. 新産業・新事業の創出と税制
    2. わが国全体としての経済活力を持続させ、新しい雇用を生み出していくためには、新産業・新事業の創出は不可欠な課題であり、税制面からも、創業者ならびにベンチャーを大胆に支援していくべきである。具体的には、以下の税制措置の早期導入を求める。

      [1]欠損金の繰越期間の延長
      新規創業の後5年間に生じた欠損金について、無期限の繰越し控除を、全ての企業に適用する。

      [2]エンジェル税制の拡充
      現行エンジェル税制(個人がベンチャー企業に対して行なった株式投資により損失が生じた場合、翌期以降3年間の株式譲渡益との損益通算を認める)に加えて、当該年度における他所得との通算、および株式譲渡益との損益通算期間の延長を行なう。

      [3]ベンチャー・キャピタル税制の導入
      ベンチャー企業の資本調達を円滑化する観点から、ベンチャー・キャピタルが起業時や創設後間もない企業に対して行なう出資の額の一定割合について所得控除を認める。

      [4]有限責任事業組合(仮称)の導入
      米国には、複数の企業が共同して、リスクの高い新規事業に進出するため、あるいは事業の再構築を進めるための手段として、各州法においてLLC(リミテッド・ライアビリティ・カンパニー)、LLP(リミテッド・ライアビリティ・パートナーシップ)という事業形態が認められている。
      これは、全ての出資者の有限責任と、税制上の導管としての仕組み(事業体の段階では所得課税を行なわず、その損益を出資者の損益と通算)を備えていることを特徴としている。
      わが国においても、これと同種の事業形態を、有限責任事業組合契約として、速やかに創設することが求められる。
      昨年、「中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律」が施行されたが、これは、事業執行をする無限責任組合員とそれ以外の有限責任組合員から構成される組合契約の一種であり、有限責任組合員について、基本的に組合員段階のみの課税が行われることが国税庁通達によって確認されており、有限責任事業組合契約においても同様の解釈がなされるべきである。
      なお、有限責任事業組合に対する出資は、金銭その他の財産とし、現物出資の場合においては、他の会社分割・分社化と同様、資産の移転時においては譲渡益課税を繰延べ、後日、当該資産が、売却された場合に、現物出資を行った構成員が自分の資産を売却したものとみなして、譲渡益課税を行うことが求められる。

      【有限責任事業組合契約法(仮称)創設の提案】

      1. 有限責任事業組合は、商号中に「有限責任事業組合」であることを明示しなければならない。
      2. 有限責任事業組合の設立には、少なくとも2名以上、50名未満の構成員(出資者)が定款を作成し、その主たる事務所の所在地において登記することを要する。株式会社その他の法人は構成員となることができる。
      3. 構成員の責任は、その出資の額を限度とする。
      4. 構成員が損益の分配に際して定めを置かない場合には、損益の分配は各構成員の出資の額に応じて行なうものとする。
      5. 構成員は定款の定めまたは構成員総会の決議により金銭その他の資産の分配を受けることができる。ただし、貸借対照表上の純資産額を超えて分配することはできない。
      6. 構成員総会は、本法および定款に従い、有限責任事業組合の全ての事項に関し決議をすることができる。議決権は、各構成員の出資の額による。
      7. 有限責任事業組合は、業務執行のために1人以上の理事(仮称)および代表理事(仮称)を置くことができる。理事の選任は構成員総会において行なう。
      8. 構成員の地位は、定款に別段の定めがある場合、または、構成員総会において3分の2以上の同意を得た場合を除き、譲渡できないものとする。
      9. 構成員の脱退は、定款に別段の定めがないときは、構成員総会において3分の2以上の同意を得て行なう。
      10. 有限責任事業組合は、各事業年度毎の計算書類を官報または定款に定める一般日刊紙において公告する。
      11. その他、有限責任事業組合の組織・業務等について必要な事項を定める。

      【有限責任事業組合契約法(仮称)創設に係る税制措置の提案】

      1. 有限責任事業組合については、所得課税を行なうことなく、全ての損益を各出資者の持ち分に応じて当該年度の出資者の所得と通算することとする。ただし、それぞれの出資額を超える損失は、それぞれの組合員の損金とはならない。
      2. 有限責任事業組合の創設に際して、現物出資を行なう場合に課税の繰延べを認める。また、資産の移転に係る登録免許税・不動産取得税の課税の特例に係る措置を講ずる。

    3. 中小・ベンチャー企業等の活性化のための税制
    4. わが国経済の基盤を支え、自助の気概を持って事業活動を行っている中小・ベンチャー企業等は、経済活力の重要な源泉である。
      これら企業の投資負担等を軽減するため、中小企業基本法で規定する中小企業の定義の見直しに対応して、税制措置を講じている他の中小企業立法に定義拡大の効果を反映させる必要がある。
      その際、現在、中小法人でありながら、大法人の子会社には適用されていない各種税制措置を、これらにも適用すべきである。
      また、同族会社の留保金課税によって、中小・ベンチャー企業等は、利益を内部留保として蓄積し、新たな研究開発や新製品開発に対する投資を行うことが制約され、その発展を阻害されている。これら企業の成長を促進する観点から、留保金課税を廃止する必要がある。

    5. 事業継続と相続税・贈与税
    6. 経済活性化にあたって、わが国経済の基盤を支えている個人事業、中小企業の果たす役割は大変大きい。これらの企業が意欲をもって事業に励み、将来にわたって活力を維持するために、事業承継の円滑化の観点から、相続税について、国際的に見て過重となっている税率構造を含めた見直しが急務である。
      平成11年度改正において、小規模宅地等の相続税の課税価格の計算の特例が拡充されたが、さらに平成12年度改正においては、相続税の基本的な仕組みである税率について、欧米に比べ最も高い70%という最高税率を50%まで引き下げるとともに、その適用金額(20億円超)を相当程度引き上げるなど累進構造を緩和し、併せて基礎控除額の引き上げを図る必要がある。また、取引相場のない株式の評価方法についても、類似業種比準方式と純資産価額方式の選択適用を全ての規模の会社に認める等の改善も必要である。
      併せて、相続税の補完税としての役割を持つ贈与税の税率についても同様の見直しを行うとともに、昭和50年以来据え置かれている基礎控除額を引き上げる。

以 上

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