経団連はかねてより、政府開発援助(ODA)の企画立案・実施体制の一元化ならびに官民連携による効率的・効果的な経済協力の推進について提言してきた。
昨年成立した中央省庁等改革基本法に基き、2001年1月より新たな省庁体制の下でODAの企画立案が行われる。
他方、特殊法人の整理・合理化に伴い、経済協力の実施機関として海外経済協力基金(OECF)と日本輸出入銀行が統合され、本年10月1日に国際協力銀行が発足する。同行は融資規模において世界銀行に匹敵するのみならず、開発途上国のプロジェクト形成・実現のために必要とされる全ての投融資機能を備えた、世界に希な組織となる。
この機会を捉え、われわれは、今後のODAのあり方について改めて以下の通り提言を行うとともに、国際協力銀行に対する経済界の要望を明らかにするものである。
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第2次世界大戦後、国際社会からの援助によって経済復興を遂げ、今日世界有数の技術・ノウハウをもつに至ったわが国にとって、経済協力を通じて開発途上国の経済発展に貢献することは国際的な責務である。
その責務の遂行に当っては、わが国民間セクターが蓄積してきた経験・技術を最大限に生かし、それを途上国に移転していくことが肝要であり、かかる方針を援助政策の基本にすえることによって日本の顔が見えるのみならず、国益にも十分資する援助の実現につながるものと考える。
OECD開発援助委員会報告(1997年)によると、途上国に対する資金フローの約75%が民間資金であり、途上国の開発に果たす民間セクターの役割はますます重要性を増している。経団連でもかねてより援助の企画・立案段階から官民が協力していくことが不可欠である旨強調してきた。世界銀行も、民間の知見を積極的に活用し協力して開発に向うべく、本年1月に「包括的な開発フレームワーク」を打ち出している。
この度発表された「政府開発援助に関する中期政策」は経済協力における民間部門の役割の重要性を認識し、連携強化のための包括的取り組みの必要性について言及しており評価に値する。しかし、同中期政策作成に際して必ずしも情報公開や民間セクターの関与が十分でなかったごとく、官民連携のあり方については改善の余地がある。
今後「国別援助計画」の作成、また次期中期政策作成に際しては官民のさらなる連携を推進するとともに、前広な情報公開によって透明性を確保するよう望む。
現在、日本企業が一次契約者となる「アジア諸国等の経済構造改革のための特別円借款」が実施されているが、わが国民間セクターの蓄積したノウハウの有効かつ確実な活用という観点から高く評価できる。かかる国際的に認められる日本調達タイドの援助を整備・拡充し、今後の円借款の一つの柱として恒常的に実施するよう望む。
また、タイムリーな着工によって被援助国のスムーズな経済発展に寄与するという観点から、今次特別円借款のみならず今後の円借款全般について手続の迅速化を図るべきである。例えば、開発調査の期間、円借款要請からプレッジまでの期間ならびにプレッジから交換公文までの期間を短縮すべきである。また現行では、借款契約締結後に途上国政府による入札が行われるが、円借款供与の意図表明から借款契約締結まで長期間を要することに鑑み、プロジェクトの緊急性に応じて、意図表明が行われれば入札を認めることも必要な措置と考える。加えて、今般のアジア経済危機等状況の激変に対応し、既に着手されている案件に対しても、真に相手国にとって緊要と認められる場合は円借款の供与を検討すべきであろう。
後発開発途上国(LLDC)向け贈与(無償資金協力、技術協力)については、アンタイド化の動きが見られるが、贈与はその特性に鑑み、あくまでわが国民間の有する技術やノウハウを十分活かすことを前提とすべきである。
かねてより経団連では、各種援助形態(無償資金協力、有償資金協力、技術協力)の有機的な連携について提言してきているが、その一環としてプロジェクトの立案、建設に止まらず、その後の操業、メインテナンスまで含めた援助のパッケージ化を求めたい。
例えば、プロジェクト建設については円借款で、また操業およびメインテナンスについては技術協力、リハビリ無償等で対応するといったスキームが考えられる。これにより、わが国企業が請負った案件に対して、必要に応じて操業、メインテナンスについても資金と人材をパッケージとして提供することになり、単に途上国の自律的経済発展を助成するのみならず、顔の見える援助につながる。
なおこれに関連して、わが国民間セクターの培った経験・ノウハウを移転する観点から、人材派遣については国際協力事業団(JICA)の「民間セクターアドバイザー専門家派遣」スキームを拡充し、積極的に活用すべきである。
アジア支援策の一環として現在推進されている「新宮沢構想」が日本企業の現地法人をも含む民間セクターへの融資・保証をも内容とし、流動性確保の面で一定の成果を挙げていることを高く評価する。但し、援助の目的が途上国の自立的発展を促すことにある以上、当該国の実体経済の活性化を図るべく企業そのものに対し、直接投資を通じた支援を積極的に推進することが重要である。
今後は、途上国の基幹産業発展に貢献するプロジェクトを推進する観点から、国際機関と連携をとりつつ、わが国企業の現地法人を含む途上国民間セクター、民活プロジェクトにエクイティの形で直接公的資金を活用していくべきである。
なお、公的資金による出資を推進するに当っては、官民協力のもとに設立された(株)日本国際協力機構(JAIDO)を具体的手段の一つとして最大限活用するよう求める。
2001年1月に実施される中央省庁再編を機に、JICAの開発協力事業のための投融資(試験的事業、周辺インフラへの投融資)を国際協力銀行に移管するとともに、各省庁が所管する経済協力実施のための機関を整理・統合することで、無償資金協力・技術協力をJICAに、また経済協力目的の公的金融を国際協力銀行にそれぞれ一元化すべきである。
経団連では、かねてよりOECFと輸銀の統合に当っては、その重複業務を省き、効率化を一層図ることで統合の効果を最大限生かすべき旨訴えてきている。この点、新生国際協力銀行では、審査機能ならびに調査・研究部門の一元化が図られるのみならず、OECFの海外投融資担当部門と輸銀の投資金融担当部門とが企業金融部として統合し、一括して民活案件を担当する旨規定されており評価に値する。
今後とも業務の合理化による統合の効果を実現し、一層の機動性、柔軟性を発揮することを期待する。
統合の効果が発揮されるためには海外経済協力業務(ODA)と国際金融等業務(非ODA)の連携が肝要である。両業務の勘定は明確に区分されるが、ODA担当部門と非ODA担当部門とが密接な情報交換を行い、業務を有機的に連携させ、日本企業が関与するプロジェクトに総合的に対応するよう求めたい。
例えば、アジア等での民活インフラプロジェクトでは、一つの案件の中でも、経済協力性の高い部分(工業団地案件における上下水道、送配電網、アクセスロード等の基礎インフラ)については円借款を、また商業性を有する部分(工業団地建設)については輸出金融、投資金融等を供与し、プロジェクトの実施可能性を高めることが望まれる。
併せて、途上国が必要とする民活プロジェクトを支援する観点から、国際協力銀行が積極的にプロジェクトファイナンスに取り組んでいくよう求めたい。
輸銀、OECFが蓄積してきたノウハウを相互に活用し、また各種FS支援制度を利用することによって、円借款案件、投融資案件の審査・手続の一層の迅速化が図られることを期待する。例えば、円借款やプロジェクトファイナンス等の審査・ファイナンス組成期間をそれぞれ大幅に短縮するのみならず、標準審査期間を含め、審査プロセスをマニュアル化した上で公表し、被援助国政府や関係企業が対応し易いスキームを構築すべきである。
なお、案件の審査・手続に際しては、複数の監督官庁が係わることで迅速性が失われないよう十分配慮されたい。
円借款案件の詳細設計作成にJICAの開発調査のスキームを活用するなど、従来からOECF・JICA間の連携が行われているが、必ずしも十分ではない。今後は、国際協力銀行がJICAと連携を強化することで、開発調査の結果が具体的な経済協力の実現に結びつくよう、システムの構築が必要である。
具体的には、プロジェクト形成調査等JICAの開発調査と国際協力銀行の案件形成促進調査との連携を推進し、効率的な案件発掘が推進されるよう望む。
わが国民間企業の多くは、長期にわたる事業活動を通じ、途上国のニーズに関し現場に密着した知見を有する。国際協力銀行の発足を契機として、同行、JICAおよび民間経済界との定期的な意見交換の場を設け、民間の経験をも踏まえたFS、プロジェクト形成、ODA、その他公的資金(OOF)の効果的かつ円滑な実施を目指すよう提言する。